え、何この能力 作:闇次元の解放
「ありがとう」
ルーシィは短くそれだけ言うと、決意を秘めた瞳ですぐにボラへと向き直った。
やっぱり彼女も魔導士だ。鍵さえあれば十分戦える。原作で初期の彼女が弱く見えたのは、周りのナツたちが最初から規格外すぎたせいなんだと、間近で見て痛感する。
「小僧と小娘が……いい気になるなよ! プロミネンス・ファイア!」
手下を全滅させられてプライドを粉々に砕かれたボラが、ブチギレて汚い紫色の炎を解き放ってきた。
俺は即座にルーシィの前に躍り出ると、ベエルゼの腕でその炎を大雑把に払い除ける。
バァンッ!! と派手な爆発音が響き、炎が霧散した。
うん、やっぱりダメージは皆無。この『ベエルゼモード』の防御力、マジでイカれてるな。攻撃力3000以下の攻撃なんて温風と同じだ。
「なっ……! ならこれを喰らえ! パープル・ファイア! デス・ファイア!」
焦ったボラが矢継ぎ早に異色の炎を連発してくる。
ドカン! バカン! ズドン!
何度も俺の身体に直撃して爆風が巻き起こるが、俺は一歩も退かない。煙の中から無傷の俺がぬっと姿を現すと、ボラはついに顔をひきつらせて後ずさった。
「ち、ちくしょう……吹き飛ばしてやる!!」
そう叫ぶと、ボラは危険な気配を放つ丸い物体を手に取った。
「まずいわ! 『魔導爆弾』よ!!」
ルーシィの悲鳴が甲板に響く。
やばい! 俺一人なら爆発に巻き込まれても無傷で済むが、ルーシィや船内に囚われている女性たちが巻き込まれたら命がない!
けど…
考えるより先に、俺はルーシィの細い腰をガシッと力任せに抱き寄せた。
「キャッ!? な、何!?」
「飛ぶぞ!!」
ベエルゼの圧倒的な脚力で甲板を強く蹴りつけ、ルーシィを抱えたまま夜の暗い海に向かってダイブした。
直後——
ズガアァァァァンッッ!!!!
背後で耳を狂わせるほどの大爆発が巻き起こった。
凄まじい爆風と熱線が海面まで届き、船の一部が派手に吹き飛ぶ音が響く。
ドボンッ! と勢いよく冷たい海へ飛び込み、パニックになりかけるルーシィを連れて一気に海面へと上がった。
「ぷはっ! けほっ……! 大丈夫かルーシィ!?」
「た、助かった……けど、しまったわ! 船の女性たちを助けないと……!」
見上げると、爆風の勢いで船がぐんぐんと沖へ流されてしまっている。しまった、泳いで追いつくには離れすぎた……! 俺が焦りを見せたその時、ルーシィの目がキリッと鋭くなった。
「任せて、船ごと港まで押し流してあげるわ!」
ルーシィは濡れた髪を払い、手にした『鍵』を夜の海面へと勢いよく突き刺した。
「——開け! 宝瓶宮の扉! アクエリアス!!」
ゴオォォォッ! と海面が眩い青い光に包まれる。
水の中から現れたのは、流れるような美しい長い青髪と魚の尾ヒレを持つ星霊——アクエリアスだった。
「アクエリアス! あの船を港まで押し流して!」
「……チッ」
「おい、今あからさまに舌打ちしたろ!!?」
原作通りの理不尽なやり取りだなと、俺は心の中でちょっと感動していた。まあ、ぶっちゃけ今はそれどころじゃないんだけど!
「おらあああああッ!!」
アクエリアスが手にした巨大な水瓶を掲げると、海が狂ったように波立ち、巨大なうず潮が発生した。
「ぎゃあぁぁぁぁっ!? あたしまで巻き添えぇぇぇええ!?」
「ルーシィ、手を離すなよ!!」
俺は叫びながら、猛烈な水流の中でルーシィの手をガッチリと握りしめた。ベエルゼの超握力で絶対にはなさない。
大波はボラの船を丸ごと飲み込み、超スピードで俺たちもろとも港に向かって押し流していく!
ドガシャアァァァンッ!!
ボラの船が港の桟橋に豪快に乗り上げ、激しい水飛沫とともに陸地へ打ち上げられた。俺とルーシィも、そのまま波に乗って砂浜へと勢いよく打ち上げられる。
「ぶはっ! げほっ! な、何するのよアクエリアス! あたしまで巻き込むことないでしょ!?」
頭から海水をかぶったルーシィが速攻で抗議の声をあげる。
「チッ……へっ、しまった。船『まで』流しちまったか」
「あたしを狙ったんかい!!」
水から顔を出したアクエリアスは、心底ウザそうにルーシィを見下ろすと、鼻で笑ってそっぽを向いた。
「次は1週間後だ。あたしはこれから男とデートなんだよ、しばらく呼び出すんじゃねえぞ」
それだけ言い捨てると、アクエリアスは青い光となって星霊界へ帰っていった。
「はぁ……はぁ……なんとか、港まで戻ってこれたな……」
俺はびしょ濡れの服を絞りながら、大きく息を吐き出した。
船の方を見ると、睡眠薬の酔いが醒めた様子の女性たちが続々と立ち上がり、呆然と周囲を見回していた。これで彼女たちはもう大丈夫だろう。
問題があるとすれば——
「くっ……なんだったんだ、さっきのうず潮は……!」
瓦礫を押しのけて、ボラが立ち上がってしまったことだ。タフだな〜、おい!
「くそっ……不味いな、爆音を聞きつけて軍隊が来やがった! 捕まってたまるか……『プロミネンス・ファイア』!!」
焦ったボラが、邪魔な俺たちを排除しようと激しい炎を放ってきた。
あ……やべ。
ふと自分の手元を見ると、いつの間にか暗黒の瘴気が消え、禍々しいベエルゼの腕が素の状態の腕に戻っている。
転生した時の体格通り、筋肉の密度はある肉体……とはいえ、今は素の状態だ。ベエルゼモードのような『圧倒的防御力』はない。直撃すれば、100%ダイレクトな激痛が全身を襲うのは目に見えている!
「くっ……身体で受けるしかないか……!」
俺は恐怖で足がすくみそうになるのを必死で耐え、立ち上がるとルーシィの前に躍り出た。
迫り来る炎の熱気が視界を焼き尽くそうとする。頑張れ俺! 耐えろ俺の身体! 痛覚100%だけど我慢しろ!!
覚悟を決めて目をギュッと瞑った——その時。
「よう、昼間ぶりだな」
風を切り裂く声と共に、視界の端で鮮やかな桜色の髪がチラついた。
次の瞬間、誰かの背中が俺と迫り来る炎の間に割り込んできた。
ゴオオオオオオッッ!!
凄まじい吸引音。
なんと、その人影は俺たちに向かって放たれた激しい炎を、まるで空気を吸い込むかのように口からバリバリと豪快に喰らい始めたのだ!
「あ……」
口を開ぐぐぐと開けて固まる俺たちの前で、炎は一粒残らずその男の胃袋の中へと消えていった。
「これがお前の炎か? ……こんな不味い炎、初めて喰ったぞ」
煙の中から現れたのは、白い鱗模様のマフラーを巻いた桜髪の少年。
「あんた、昼間の……!?」
ルーシィが驚愕の声をあげる。
「ナツったら、やっぱり気になって引き返してきちゃったんだよ〜」
頭上から翼を生やした青い猫——ハッピーがパタパタと飛びながら追いついてきた。
俺は目の前の光景に圧倒されながら視線を戻し、俺を庇うように立ち塞がる彼の背中……そして、袖から覗く右肩に刻まれた赤の紋章をじっと見つめた。
この絶妙すぎるタイミングで乱入してくるなんて。
原作主人公、ナツ・ドラグニル!
「いっくぞ!!」
そう叫ぶと同時に、ナツの全身から爆発的な炎が噴き出した。
その熱量は、さっきまでボラが放っていた温い炎とは比べ物にならない。圧倒的な熱気とプレッシャーが、一瞬で周囲の空気を歪ませていく。
「これが本物の、火の魔法だ!!」
ドォォォォンッッ!!!!
重低音の爆音が港全体に響き渡った。
ナツは激しい爆炎を拳に纏い、ボラの顔面に向かって一直線に叩き込んだ。
『火竜の鉄拳』——!
「ぶっはぁぁぁああっ!?」
ボラの身体がまるで砲弾のような勢いで吹き飛び、船の残骸を突き破っていく。だが、ナツのラッシュはそれだけでは終わらない。
息を深く吸い込んだナツが、胸を大きく膨らませた。
「火竜の……『咆哮』!!」
ゴオォォォォォォッッ!!!!
口から放たれたのは、巨大な火柱そのものだった。
激しい炎の濁流が一直線に伸び、ボラを完全に呑み込みながら後方の街並みまで豪快に薙ぎ払っていく。爆風と熱波が俺の頬を激しく打った。
(本物の……滅竜魔法……! これが、ドラゴンスレイヤーの力か……!)
圧倒的な光景を前に、俺は思わず息を呑んで呟いていた。
ベエルゼの力で一方的に敵を殴り倒した俺の戦いとは、根本的に違う。純粋な魔力と鍛え上げられた圧倒的な破壊力。本物の「強さ」がそこにはあった。
激しい爆炎が収まった時、ボラは完全に白目を剥いて倒れていた。そして、その背後では港街の建物や桟橋が文字通り豪快に粉砕されていた。
「う、動くなーッ! 犯罪者どもめ、捕まえろーッ!」
大騒ぎを聞きつけた王国の軍兵たちが、槍や剣を構えてゾロゾロと集まってくる。
「やべ、軍隊だ!」
ナツは悪びれる様子もなくヘラッと笑うと、瞬時に俺とルーシィの手を力強く掴み取った。
「逃げるぞ!」
「な、なんであたし達まで逃げなきゃいけないのよ〜っ!?」
急に引っ張られて悲鳴をあげるルーシィ。
そんな彼女に向かって、走り出しながらナツがニッと眩しい笑顔で振り返った。
「だって入りたいんだろ? 魔道士ギルドに」
「え……?」
「来いよ! 俺たちのギルド——『フェアリーテイル』にさ!」
その言葉を聞いた瞬間、ルーシィの足がピタリと一瞬止まり、次の瞬間にはその顔がパーッと咲くような笑顔へと変わった。
「……うんっ!!」
軍隊からの追手から逃げるため、俺たちは朝焼けに染まる港街を駆け抜けていく。
勢いよく隣を走るルーシィの嬉しそうな横顔と、前を力強く引っ張っていくナツの背中を見つめながら、俺は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
そうか。ここから始まるんだ。
これが、彼らの……そして『FAIRY TAIL』の、本当の物語の始まりだ!