湾岸署の前にアイツらがやって来たら?

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踊る大忘年会!?

東京・お台場。

潮風が吹き抜ける近代的なビルの立ち並ぶその一角に、突如として「非日常」が顕現した。

「……え? ここ、どこだ?」

空間が歪み、ポンッと弾け飛ぶような感覚と共にアスファルトの上に降り立ったのは、ごく普通(?)の日本人青年、ムコーダであった。

だが、彼の足元や周囲にいる存在は、到底現代日本にそぐわないものばかりだ。

『おい、従魔。ここはどこだ? 魔物の気配は全くないが、鉄の箱が高速で走っておるぞ』

「あるじー、ここ、地面がカチカチで不思議な匂いがするねー!」

『なんだなんだ!? 見たことねぇ高い塔ばっかりじゃねぇか!』

神獣フェンリルのフェル、特殊個体スライムのスイ、そしてピクシードラゴンのドラちゃん。

異世界を旅するムコーダ御一行が、何の手違いか、元の世界――それも現代日本の『新湾岸署』の真正面にワープしてしまったのである。

「うわああああっ!? じ、自動車!? 信号機!? いや、ここ日本じゃん! っていうか目の前のデカい警察署、『新湾岸署』って書いてあるぅぅぅ!?」

パニックに陥るムコーダ。しかし、事態は彼が頭を抱える暇すら与えてくれなかった。

巨大な銀狼(フェル)と空飛ぶ小型ドラゴン(ドラちゃん)、そして蠢くスライム(スイ)の出現に、新湾岸署のエントランスは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていたのだ。

「事件発生! 事件発生! 署の前に巨大な……犬!? いや、オオカミ!? とにかく未確認生物が出現!」

「機動隊の出動を要請しろ! いや、その前にSATか!?」

わらわらと署内から飛び出してくる制服警官たち。

その先頭に立ち、お馴染みのカーキ色のモッズコート(M-51)を翻しながら駆け寄ってきたのは、あの男だった。

「お前ら、下がってろ! ……おいあんた! そのデカい犬と、浮いてる爬虫類はなんだ!? 銃砲刀剣類所持等取締法違反……いや、動物愛護法違反か!? とにかく動くな!」

青島俊作であった。

その後ろからは、すっかり偉くなったはずの真下正義が拡声器を持ってオロオロと叫んでいる。

「あ、青島先輩! 刺激しないでください! もしそれが新種のバイオテロ兵器だったらどうするんですか! ああっ、スライムみたいなのがこっち見てる!」

完全に包囲されたムコーダ。

周囲には何十人もの警察官。手には警棒やさすまたが握られ、ただならぬ緊張感が漂っている。

『グルルル……我らに武器を向けるとは、愚かな人間どもめ。我が結界で弾き飛ばしてやろうか』

「ああっ、フェル! ダメダメダメ! 絶対に魔法なんか使っちゃダメだからね!? ここは俺のいた世界なんだから!」

警察を相手にフェルが暴れたら、間違いなく国際問題(どころか人類滅亡の危機)に発展してしまう。

胃痛で死にそうになりながら、ムコーダは咄嗟に自らの固有スキル『ネットスーパー』を起動した。

(落ち着け、落ち着け俺! こういう時は、とりあえず美味しいもので場を和ませるんだ!)

半透明のウィンドウを猛スピードで操作し、警察官といえばこれ、という偏見(と張り込みの定番)から、急いで総菜パンのコーナーへアクセスする。

カートに入れたのは、昭和初期から愛される伝統の味――『東陽軒のカレーパン』だ。

精算を済ませると、ドロップボックスからふんわりと温かい、香ばしいカレーの匂いを漂わせた紙袋が出現した。

「あ、あの! 怪しい者じゃありません! これ、差し入れです! 東陽軒のカレーパンです! 皆さんでどうぞ!」

ムコーダは震える手で、ホカホカのカレーパンを青島たちに差し出した。

「……は? カレーパン?」

拍子抜けした顔になる青島。しかし、鼻腔をくすぐるスパイシーで奥深いカレーの香りに、彼のお腹が「ぐきゅるるる」と盛大に鳴った。

徹夜の捜査明けだったのだ。

「……毒、入ってないだろうな」

「絶対に入ってません! 保証します!」

青島は恐る恐るカレーパンを受け取り、一口齧る。

サクッ。

薄く揚げられたパン生地の心地よい食感と共に、中からトロリと溢れ出す、野菜の甘みと牛肉の旨味が溶け込んだスパイシーなカレー。

「……美味い」

青島の目がカッと見開かれた。

「なんだこれ!? 俺がいつも張り込みで食ってるパサパサのパンとは次元が違うぞ! 真下、お前も食ってみろ!」

「え? あ、はい。……っ!? なんですかこのコク! まるで高級洋食店のような味わい……!」

周囲の警察官たちにもカレーパンが配られ、先程までの殺伐とした空気は嘘のように消え去った。

フェルたちも「我らにも食わせろ」と念話で騒ぎ出したため、ムコーダは追加でネットスーパーから大量の肉料理やパンを取り寄せ、その不可思議な光景に湾岸署の面々も「手品か?」「超能力?」とすっかり興味津々になってしまった。

そんな、和気藹々(?)とした空気になりつつあったその時。

背後に黒い公用車が静かに停まり、重厚なドアが開いた。

「……何をやっている、青島」

眉間に深いシワを刻み、鋭い眼光で現場を見据える男。

警察庁長官官房審議官(※現在の階級設定はさておき、その威圧感は健在)、室井慎次である。

「む、室井さん! いや、これはですね……」

「報告は受けている。未確認生物が現れたとな」

室井の視線が、満足げに口の周りをカレーまみれにしているフェルや、空を飛び回るドラちゃんに向く。しかし、彼の目はそれ以上に、ムコーダが何もない空間から次々と食品を取り出す現象に釘付けになっていた。

「君が……その空間から物を取り出しているのか?」

「は、はい。僕の固有スキル『ネットスーパー』でして……お金を払えば、色々なものが買えるんです」

「……」

室井は顎に手を当て、何かを深く思案する素振りを見せた。

そして、ゆっくりとムコーダの前に歩み寄り、思いもよらない提案を投げかけたのだ。

「実は……来週、新湾岸署の全職員を集めた大規模な『大忘年会』が予定されている。だが、毎年頼んでいるケータリングの、ありきたりな料理に署員たちはすっかり飽きてしまっていてな」

「は、はあ。忘年会、ですか」

「士気の低下は、捜査の質に関わる。君のその『ネットスーパー』とやらで……新湾岸署の忘年会の料理を、手配してはくれないだろうか」

まさかの室井からの業務委託。

青島も真下も「ええええっ!?」と声を上げる。

「室井さん! いくらなんでも民間人に、しかも今現れたばかりの謎の青年に忘年会の幹事(料理担当)を丸投げするなんて!」

「青島。事件は会議室で起きてるんじゃない。現場の胃袋で起きてるんだ」

「名言っぽく言ってますけど違いますよね!?」

だが、ムコーダは少しホッとしていた。

(なんだ、料理の提供なら異世界でフェルたちの相手をするよりずっと楽だぞ。それに、人数が多いなら……ちょうどいい!)

ムコーダは少し自信ありげに、しかしワクワクした表情で口を開いた。

「実は……最近レベルが上がって、僕のネットスーパーに新しいテナントがオープンしたんです。そこなら、大人数のパーティー料理なんてお手の物ですよ」

「ほう。その店とは?」

室井が身を乗り出す。青島たちも固唾を呑んで見守る。

ムコーダは、空間に浮かぶウィンドウの、ひときわ輝く赤いロゴを指差して宣言した。

「――『ロピア』コーナーが、オープンしたんです!」

その瞬間。

新湾岸署の前を、凄まじい衝撃波が駆け抜けた。

「ロ、ロピアだとぉぉぉっ!?」

最初に叫んだのは、家庭を持つ中堅刑事たちだった。

「あの、肉のメガ盛りで有名な!?」「ピザがデカくて安くて美味い、あの日本のコストコとも呼ばれる最強スーパーの!?」

「幻の『みなもと牛』が買えるっていうのか!?」

ざわめきは波のように広がり、青島の目もキラキラと輝き始める。

「おいおいおい! ロピアの惣菜が食い放題の忘年会!? そりゃあテンション爆上がりだぞ! 室井さん! これは絶対に採用するべきです!」

「ああ……。私の故郷、秋田にはまだロピアがないからな……。ぜひ、その実力を見てみたい」

室井までもが、眉間のシワを少し緩ませてゴクリと喉を鳴らした。

『おい、ムコーダ。その「ろぴあ」とやらには、我の満足する美味い肉があるのだろうな?』

「あるじー! スイもろぴあのご飯たべたいー!」

「任せろフェル、スイ! ロピアの肉の品揃えとコスパは異常だからな! 今日は湾岸署の皆さんと一緒に、メガ盛りパーティーだ!」

突如として決まった、新湾岸署×異世界放浪メシの合同忘年会。

機動隊の盾をテーブル代わりに並べ、ムコーダのネットスーパーから次々と取り出される、ロピア名物「モンスターバーガー」「ほぼ海鮮巻き」「メガ盛りプルコギ」「巨大ピザ」、そして極上の和牛の数々。

果たして、食いしん坊のフェルたちは湾岸署の面々と無事に宴会を乗り切ることができるのか!?

そして、ロピアの脅威の惣菜力は、室井慎次の強張った表情を完全に崩すことができるのか!?

 

 

新湾岸署の巨大なエントランス前広場は、かつてない熱気に包まれていた。

機動隊のジュラルミン盾を並べて即席のテーブルとし、そこに並べられたのは『ネットスーパー』で召喚された「ロピア」のメガ盛り惣菜の数々。

巨大なピザ、山盛りのプルコギ、モンスター級のハンバーガーに、湾岸署の面々は歓声を上げて群がっていた。

しかし、その傍らで不満げに鼻を鳴らす巨大な影があった。

『おい、ムコーダ。この世界の肉も悪くはないが……やはり我には物足りぬ。先日我が仕留めた獲物を出せ』

「あるじー、スイももっとお肉たべたいー!」

『俺も俺も! あのデカい肉、ガッツリ焼いてくれよ!』

フェル、スイ、ドラちゃんの従魔トリオからの熱烈な催促である。

ロピアの惣菜は確かに美味しいが、彼らの底なしの胃袋と「異世界の魔物肉」への渇望を満たすには至らなかったのだ。

「わ、わかったよ! ちょうど皆さんもロピアの惣菜だけじゃつまみとして物足りなくなってきた頃合いだしな……よし、とっておきのやつ、出すか!」

ムコーダがアイテムボックスから取り出したのは、地球の常識を遥かに超える巨大な肉の塊だった。

### アース・ドラゴンの炭火焼きステーキ ~ほりにしのスパイスに溺れて~

「な、なんだあの巨大な肉塊は!? 象か!? 恐竜か!?」

青島が目を剥いて叫ぶ。ムコーダが取り出したのは、赤身と脂身が絶妙な霜降りになった**アース・ドラゴンの肉**である。

「いえ、ドラゴンです。つい先日、フェルが仕留めまして」

「ど、どらごん……?」

真下が白目を剥いて気絶しかける中、ムコーダは手際よく特注のバーベキューコンロ(黒曜石製)に炭を並べ、ドラちゃんに火起こしを頼む。

分厚く切り分けたドラゴンの肉を網に乗せると、ジュワァァァッ! という爆音と共に、信じられないほど暴力的な肉の香りがお台場の夜空に立ち昇った。

味付けは、キャンパーの必需品にして万能の魔法の粉、**アウトドアスパイス『ほりにし』**である。

滴る脂にスパイスが焦げる香ばしい匂いが、満腹になりかけていた刑事たちの胃袋を再び強制的に叩き起こした。

「さあ、焼けましたよ! 豪快にかぶりついてください!」

青島が火傷しそうになりながら一口齧る。

「……っ!? な、なんだこれぇぇっ!? 噛まなくてもとろける! なのに肉の旨味がガツンと脳天を突き抜ける! このスパイシーな味付けが、肉の甘みを限界まで引き出してるぞ!」

「室井さん、これも事件です! 舌の上で前代未聞の美味のテロが起きてます!」

青島と真下の絶叫に、周囲の署員たちも次々とドラゴンステーキに群がり、一瞬にして平らげてしまった。

### コカトリスの北京ダック風丸ごと炭火焼き

『次だ、次を出せ!』

フェルの催促に応え、ムコーダが次に取り出したのは、ダチョウほどの大きさがある鳥の丸焼きだった。**コカトリス**である。

「これはコカトリスっていう魔物なんですが、今日はロピアで買ったトルティーヤ生地と、甘味噌を使って北京ダック風にしてみました」

パリパリに香ばしく焼き上げられたコカトリスの皮。それをムコーダが包丁で見事に削ぎ切りにし、シャキシャキの白髪ネギやキュウリと共に生地で巻き、特製の甘味噌ダレを添える。

「鳥の魔物……だと?」

眉間のシワを深くした室井が、恐る恐るその包みを口に運んだ。

パリッ。ジュワッ。

その瞬間、室井の表情がピタッと止まった。

「……室井さん?」

青島が心配そうに覗き込む。

「……美味い」

室井の強面が、ふにゃりと崩れた。

「皮の香ばしさと、弾力のある肉質。そこにこの甘味噌のコクが見事に調和している。まるで超高級中華料理店の主賓になったかのようだ……おかわりを頼む」

「室井さんが……笑った!?」

湾岸署の面々がどよめく中、室井は無言で二つ目のコカトリス巻きに手を伸ばした。

### オークジェネラルのテキサス風スペアリブ

宴の熱狂はさらに加速する。

続いて網の上に乗せられたのは、丸太のような骨付き肉――**オークジェネラルのスペアリブ**だ。

「ここからはガッツリいきますよ! ネットスーパーで買った特製BBQソースをたっぷり塗って、テキサス風に焼き上げます!」

濃厚なトマトとニンニク、そしてスモーキーな香りを放つBBQソースが、オークジェネラルの野性味あふれる肉に絡みつき、照り照りに輝き出す。

『うむ、この濃い味がたまらぬのだ!』

「お肉あまーい! スイ、これだいすきー!」

フェルやスイが骨ごとバリバリと噛み砕く横で、若手刑事たちも顔をソースだらけにしながら肉に食らいつく。

「ビール! 誰かビール持ってきて! この肉、ビール泥棒すぎる!」

「青島先輩、仕事中(?)ですよ!」

「バカヤロウ! これは捜査の一環だ! 異文化交流という名のな!」

### クラーケンの大阪風イカ焼き

肉の応酬が続いたところで、ムコーダは海鮮の隠し玉を投入した。

アイテムボックスから現れたのは、大人の背丈ほどもある巨大な吸盤のついた触手――**クラーケン**の足である。

「ひぃぃっ! ば、化け物!?」

「大丈夫です、美味しいイカですよ。これを細かく刻んで……」

ムコーダは鉄板を用意し、ロピアの小麦粉と出汁で作った生地に大量のクラーケンのぶつ切りを混ぜ込み、プレス機で一気に押し焼きにする。

ジューッ! という音と共に、ソースとマヨネーズが焦げる関西特有のジャンクな香りが漂った。**大阪風イカ焼き(クラーケンver.)**の完成である。

「これは……たまらんな」

関西出身の署員たちが涙を流しながら食らいつく。

「普通のイカより歯ごたえが段違いや! 噛めば噛むほど濃厚な海鮮の旨味が出てきよる! クラーケン、恐ろしい子……!」

### ブラッディホーンブルのビーフカレーと牛すじ煮込み

そして、宴もたけなわ。

ムコーダが大鍋の蓋を開けると、スパイスの複雑な香りと、醤油ベースの甘辛い匂いが同時に広がり、署員たちの胃袋を最後にもう一度鷲掴みにした。

「締めはやっぱりこれでしょう。**ブラッディホーンブルのビーフカレー**と、**牛すじ煮込み**です!」

真っ赤な角を持つ凶悪な牛の魔物、ブラッディホーンブル。その肉は、煮込めば煮込むほどとろける極上の食材だ。

ゴロゴロと巨大な肉塊が入った漆黒のビーフカレー。そして、ロピアのコンニャクやネギと共にトロトロになるまで煮込まれた牛すじ煮込み。

「カレーパンも最高だったが、本物のカレーはもっとヤバいな……!」

青島はカレーをスプーンで口に運ぶなり、天を仰いだ。

「肉が……溶けた。スパイスの奥から、牛の旨味が怒涛のように押し寄せてくる。俺が今まで食べてきたカレーは一体何だったんだ……!」

一方、室井は牛すじ煮込みの小鉢を両手で持ち、静かに目を閉じていた。

「……秋田の、雪降る夜を思い出す。この深く、優しい味わい。異世界の牛だと言ったな……。君の料理は、冷え切った警察組織(ここ)の心まで温めてくれるようだ」

室井の言葉に、青島も、真下も、そして湾岸署のすべての署員たちが深く頷いた。

『ふむ、今日のところはこれくらいで満足してやろう』

フェルも満腹になり、その場にごろんと横たわって心地よさそうに目を閉じている。スイもドラちゃんも、すっかり満腹で眠りについてしまった。

お台場の夜空の下、異世界と湾岸署の奇跡のコラボ忘年会は、全員の腹がはち切れんばかりの大満足の中で幕を閉じたのである。

「ムコーダくん。君のその手腕、ぜひ警視庁の食堂でも活かしてくれないか?」

「えっ!? い、いや、僕たちは早く元の世界に帰らないといけないので……!」

室井からのまさかのヘッドハンティングを丁重に断りつつ、ムコーダは夜風に吹かれながらホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

 


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