どう考えてもお荷物の俺を、最強パーティの幼馴染たちが追放してくれない 作:ひじき次郎
翌日。
俺たちは冒険者ギルドに来ていた。
昨日こそ転職先探しを一軒も回れなかったが、今日は違う。
今日は――
「依頼です」
「知ってるよ!」
隣ではアルトが依頼書を読んでいる。
セレナとフィアも覗き込んでいた。
「場所は?」
アルトが聞く。
「王都から北東へ二日ほどです。街道沿いの村から、周辺に魔物が増えているとの報告が来ています」
「種類は?」
「灰牙狼が中心ですね」
灰牙狼。
狼型の魔物だ。
群れで動くので一般人には十分危険だが、こいつら三人からすれば大した相手ではない。
「数は?」
「確認されているだけで二十前後。ただ、森の奥に巣がある可能性があります」
アルトが頷く。
「受ける」
「待て」
俺は止めた。
「俺は行かない」
「そうか」
アルトはそういって依頼書に目を落とした。
「受け流すんじゃねえよ!」
受付嬢が苦笑する。
「今回はそれほど危険な依頼ではありませんよ」
「魔物二十匹出てる時点で普通に危険だろ!」
「《黎明の鐘》にとっては、ですが」
「俺を《黎明の鐘》基準に入れるな!」
そこが毎回おかしい。
アルトたち三人にとって簡単でも、俺まで簡単になるわけではない。
「3人で行けよ」
「嫌」
セレナ。
「なんでだよ」
「長いでしょ」
「片道2日だぞ」
「だからよ」
「答えになってねえ!」
フィアが依頼書を見る。
「村で1泊するなら、4日か5日ほどでしょうか」
「そうですね」
受付嬢が頷く。
「天候次第ではもう1日ほど」
「ほら!」
俺は指を立てた。
「5日もある! 俺は王都で待ってる!」
「何するの?」
「仕事探す!」
「また誰かに捕まるんじゃない?」
「昨日の話はするな!」
今回はちゃんとやる。
絶対にやる。
誰に声をかけられても無視する。
財布を落としたと言われた時だけ止まる。
「食料は?」
アルトが聞いた。
「買え!」
「宿は?」
「取れ!」
「野営は?」
「しろ!」
「飯」
「自分で作れ!」
「嫌だ」
「5歳児かお前は!」
受付嬢が口元を押さえている。
「笑うな!」
「すみません」
「絶対笑ってるだろ!」
その時だった。
「おっ!」
後ろから、聞き覚えのある声がした。
「レオンの旦那!」
「おう」
振り返る。
いつか酒場で俺をお荷物扱いしていた、あの冒険者だった。
今日は仲間を1人連れている。
「何してんだ?」
「見りゃ分かるだろ。依頼押しつけられてんだよ」
「また辞める話してんのか?」
「そうだよ」
「相変わらずだなあ、旦那!」
男が笑いながら俺の背中を叩く。
「痛えよ!」
「悪い悪い!」
「つーか昨日言った店、行ったか?」
「行った行った。あそこ安いな!」
「だろ? でも店主が勧めてくる酒は2杯目から別の頼め。あれ3杯飲むと朝残るぞ」
「先に言ってくれよ!」
そこで。
「……ちょっと待って」
セレナの声がした。
「何?」
振り返る。
セレナが俺と男を交互に見ている。
フィアも目をぱちぱちさせていた。
アルトだけはいつも通りである。
「……いつの間に仲良くなってんのよ」
「ん?」
「この人よ!」
「ああ」
男を見る。
「この前また会った」
「飲んだ」
「飲んだな」
「朝まで」
「お前途中で寝てただろ」
「寝てねえ!」
「寝てたよ!」
「……」
セレナが額を押さえた。
「なんで?」
「何が?」
「この前あんたのこと散々お荷物って言ってた人でしょ?」
「昔の話だろ」
「数日前よ!」
フィアも不思議そうに男を見る。
「それで……そうなったんですか?」
「おう」
男が胸を張る。
「旦那には世話になってるからな」
「いつ!?」
「この前飲んだ時」
「何の世話よ!」
「店教えてもらったり、勘定安くしてもらったり」
「値切っただけだ」
「あと女房への土産選んでもらった」
「お前が変な飾り買おうとするからだろ!」
「あれ買ってたら怒られてたな」
「だから止めたんだよ!」
セレナが俺を見る。
「……何してんのよ」
「酒飲んでただけだよ!」
男が俺の肩を組んだ。
「旦那とは話が合うからな!」
「そうそう。こいつ結構分かってんだよ」
「何を?」
「冒険者なんて長くやるもんじゃねえって」
「おい」
男が急に真顔になった。
「俺はそこまでは言ってねえぞ」
「裏切るな!」
「俺、冒険者好きだもん!」
「じゃあなんで話合ったんだよ!」
「酒と金の話!」
「そこだけかよ!」
「あと女!」
「それは言うな!」
フィアがにこりと笑った。
「レオンさん?」
「違うぞ」
「何がですか?」
「違うからな!」
「まだ何も聞いてませんよ?」
「……」
危ない。
話を戻そう。
「それより依頼だ」
「お、何行くんだ?」
男が依頼書を覗き込む。
「灰牙狼?」
「らしい」
「なら楽勝じゃねえか」
「こいつらにはな」
「旦那は?」
「行かない」
「行く」
アルト。
「行かねえ」
「行くわよ」
セレナ。
「行きましょうね」
フィア。
「なんで俺が駄々こねてるみたいになってんだ!」
男が笑う。
「旦那、愛されてんなあ!」
「どこがだ!」
「いいじゃねえか。灰牙狼くらい」
「お前もそっち側か!」
「俺らなら喜んで受けるぞ」
「お前らの感覚もおかしいんだよ!」
俺は依頼書を指差す。
「狼が20匹だぞ!」
「20匹だろ?」
「その『だろ?』が分からねえんだよ!」
本当に冒険者という連中は感覚がおかしい。
「じゃあ旦那」
男が俺の肩を叩く。
「生きて帰ってこいよ!」
「縁起でもねえこと言うな!」
「土産よろしく!」
「買わねえよ!」
「酒でいい!」
「自分で買え!」
男は笑いながら去っていった。
俺はその背中を見送る。
「まったく」
「……本当に仲良くなってる」
セレナがまだ納得していない。
「いいだろ別に」
「別にいいけど」
「じゃあ言うなよ」
「なんか腹立つ」
「理不尽!」
受付嬢が依頼書を差し出してきた。
「それでは、受注ということで?」
「3人でお願いします」
「4人」
アルトが言う。
「3人!」
「4人ね」
セレナ。
「4名でお願いします」
フィアまで。
受付嬢が俺を見る。
「……4名でよろしいですか?」
「なんで俺に聞くんだよ!」
「一応」
「よくねえ!」
「では4名で」
「聞いた意味!」
受付嬢が受注印を押した。
終わった。
俺の意思とは関係なく。
次の冒険が決まった。
◇
「で、出発いつだ」
諦めて聞く。
「明日の朝」
アルト。
「早えよ!」
「今日準備する」
「誰が?」
三人が俺を見る。
「……」
「レオン」
「ふざけんな」
「食料」
「買ってこい!」
「何を?」
「そこから俺に聞くな!」
セレナが言う。
「5日分くらい?」
「非常食込みで6日分だ! 帰り遅れたらどうすんだ!」
「ほら」
「何がほらだ!」
フィアが微笑む。
「では、お願いしますね」
「頼むな!」
結局。
ギルドを出たその足で、市場へ向かうことになった。
干し肉。
燻製肉。
硬いパン。
豆。
野菜。
塩。
調味料。
薬草。
予備の水袋。
その他諸々。
必要な物を買いながら、俺はふと足を止めた。
「なあ」
「何?」
セレナが振り返る。
「お前らさ」
「何よ」
「俺が本当に辞めたらどうすんの?」
3人が俺を見る。
「こういう準備」
俺は荷物を持ち上げる。
「食料何日分いるとか、どこで何買うとか、何持ってくとか」
「……」
「宿だって取らなきゃならねえし、馬車もいる時あるし」
3人が黙っている。
「できんの?」
「無理だ」
アルトが即答した。
「即答すんな!」
「私も無理ね」
「お前まで!」
「私も……おそらく難しいです」
「全滅じゃねえか!」
3人とも、妙に素直だった。
「じゃあ俺が辞めたらどうすんだよ!」
「困る」
アルト。
「だから辞めるなって話になるでしょ」
セレナ。
「そうですね」
フィアまで頷いた。
「開き直るな!」
こいつら。
俺を引き止める前に、少しは自立する努力をしろ。
「今日から覚えろ!」
「嫌」
「なんでだよ!」
「レオンがいる」
「それじゃ俺が一生辞められねえだろうが!」
3人が黙る。
「……おい」
嫌な沈黙だった。
「まさか、それでいいとか思ってねえだろうな?」
「行くぞ」
アルトが歩き出した。
「逃げんな!」
「次、干し肉」
「分かってるよ!」
結局。
俺が先頭に立って、次の店へ向かう。
なんだか。
こいつらの将来が本気で心配になってきた。
俺は冒険者を辞めたい。
これは変わらない。
だが。
辞めた翌日に3人が遠征先で途方に暮れるのも寝覚めが悪い。
「……そのうち教えるか」
「何か言った?」
「何でもねえ!」
俺は荷物を抱え直した。
明日から5日。
灰牙狼退治。
比較的安全らしい。
比較的。
俺はその言葉をまったく信用していなかった。