スーちゃんもこの世界に居る可能性があることを知った日の朝、いつも通りに朝食を済ませ、いつも通りに朝の仕事に取り掛かったのだが、いつもの様に集中は出来なかった。
農民系の
「ボンヤリしてどうしたアレス」
「え? なんでもないよ?」
「そんなわけないだろ。体調でも悪いのか?」
しまった、父に心配をかけてしまった。
「元気だよ」
これではいけない。
スーちゃんのことが気になって仕方が無いが、それは俺の問題であって父には関係がない。
しかししっかりしなければとは思うのだが、仕事が手につかない。
「うーむ……そうだな、アレス、昼からは森に行かないか?」
「森?」
仕事もまだ残っているというのに突然どうしたのだろう?
「たまには気分転換に狩りにでも行こうじゃないか」
◇◆
そんなこんなであれよあれよと言っている間に俺は父に引っ張られ、トブの大森林へとやって来ていた。
俺と父の背中には弓、腰には矢筒とナイフが装備されている。
やけに様になっている様子と、それなりに使い込まれた感のある弓を見るに素人というわけではなさそうだ。
そういえば父のレベルを見た時に「狩人」の
「よし、じゃあ行くぞ!」
「う、うん!」
父の号令に従って森へと踏み入れる。
3年間のモンスター狩りで何度か足を踏み入れたが、夜の森と昼間の森とでは全く雰囲気が違っていた。
夜の森はなんだかおどろおどろしい雰囲気なのだが、昼間の森はなんと言うか……マイナスイオン?
なんとなく癒されるような気がしないでもない。
「この辺には少ないとはいえ森にはモンスターも生息しているから気を付けろよ」
「わ、わかった」
この森の周辺のモンスターは結構狩ったので心配はいらないだろうが、父が警戒しているのに初めて森に入るはずの俺がリラックスしていると怪しまれてしまいそうなのでとりあえず緊張してますオーラを発しておく。
「居たぞ、イノシシだ」
「イノシシ……」
この世界に来て何度か食べた肉だ。
村で狩人をしているラッチモンさんがたまに狩って来ておすそ分けしてくれるとても美味しいお肉だ。
「もう少し近付くぞ」
「うん……」
木の影に隠れながらイノシシへと接近、ある程度の距離まで詰めた所で父は背中から弓を外し、矢を番え構えた。
「ほら、アレスもやってみろ」
「え?」
そもそも弓の扱い方なんて教わってない。
なのでとりあえず父の構えを観察して見よう見まねで構えてみる。
「もっと脇を……そうそう。結構力がいるけどブレないようにしっかり構えて……」
父のアドバイス通りに構えを修正。
筋力に関しては農民系とはいえ100レベルの筋力があるのだ。申し訳ないが父の数倍はあると思う。
「よし……今だ!」
父の合図で矢を放つ。
父の放った矢は真っ直ぐイノシシへと向かって飛び、横腹に深々と突き刺さった。
対して俺の放った矢といえば……
「あれぇ?」
明後日の方角へと飛んで行った。
やはり
「首を傾げてる暇はないぞ」
そう言って父は二射目、三射目と矢を放つ。
五射目がイノシシの頭部に突き刺さると同時、イノシシは大きな音を立てて地面へと倒れた。
「ふぅ……」
「父さん凄い!」
これはお世辞では無く本心から出た言葉である。
あんなに大きなイノシシを仕留めるなんて、普段のヘラヘラしている父からは考えられないほどのカッコ良さであった。
ただ、弓の扱いも教えていない息子を連れて森に入り、いきなりイノシシ狩りをするのはどうかと思う。
「はは、ありがとう。ラッチモンならもっと少ない矢で仕留めるだろうから、そこまで凄くはないさ」
「そんな事ないよ、凄いよ!」
「わかった、わかったからそう興奮するな。しかしアレスにも出来ないことがあったんだなぁ」
「教えてもらってないことが出来るわけないじゃない」
父の言うことは当たらずも遠からずといったところか。
確かにビルドを組み直しさえすれば俺に出来ないことってほとんど無いと思う。
例えば
「それもそうか……さて、急いで血抜きを――」
父がイノシシへと近寄ろうとした瞬間、森が揺れた気がした。
「! 父さん!」
ナニカがすごい勢いで近付いてくる。
油断していた。
この周囲のモンスターは狩り尽くしたからとビルド変更を怠ったことが裏目に出た。
今更後悔してもそれこそ後の祭り。近付いてくるナニカは明確な意思を持ってこちらへと駆けてくる。
「な、なんだ!?」
「父さん、危ない!」
次の瞬間、木々の隙間から細長い蛇の頭のようなものが現れ真っ直ぐに父へと向かっていく。
「くそっ!」
全力で地面を蹴って父へと駆け寄る。
その際に地面が抉れたような気がしたが、この際無視だ。
「父さん!」
「グエッ!」
このままでは間に合わない――そう直感した俺はもう一度強く地面を蹴り、父に飛びつき押し倒す。
勢いを殺しきれなかったのでそのままゴロゴロと地面を転がり、最終的には大きな木の幹に激突してようやく止まった。
「父さん、大丈夫!?」
「アレス……父さんの首、ちゃんとついてる? もげてない?」
「何言ってるの……
「
この父、余裕だな?
今って人間的に絶体絶命の大ピンチな状況のはずなんだけど……
こう言っては悪いが、俺より遥かに弱い父がここまで落ち着いているんだ。父より強い俺が落ち着かないでどうする。
一度大きく息を吸い、吐きながら【ステータスチェック】を使用してチートビルドへと組み替える。
ワールドチャンピオン、ワールドディザスター、ワールドガーディアンの3種の
このビルドを組んだ俺は無敵である。ユグドラシル時代の俺でも勝てない。
というかウチのギルマスがギャグで全身を
ちなみにそのギルマスはノリノリで冒険に出たと思ったらレイドボスよろしく複数のギルドに狙われタコ殴りにされてせっかく集めた
この事件が無ければ俺の『乾坤袋』にはあと数個
えらく話が逸れてしまったが、そんなビルドに組み替えたことで精神的、戦闘能力的に余裕が生まれたので改めて蛇の頭が飛び出してきた方向へと視線を向ける。
しばらく警戒して見ていると、ガサガサと草を揺らしながら異形が姿を現した。
「ほう、某の初撃を躱すとは……中々やるでござるなぁ」
森の奥から現れたのは――
鞭のような長い蛇の尾を持つ白銀に輝く巨大ジャンガリアンハムスターであった。
「どうして……こんな浅い場所に……縄張りはもっと奥なはず……」
背後から父の絶望したような声が聞こえてきた。