本作品はPixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものです。
今回はこちらでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27868120
研究所には緊急用シャワーがある。これはやけどや失明、命の危険がある薬品を被ったときにとにかく早く洗い流すためのものだ。水を流すためにはチェーンを引っ張る必要がある。なぜハンドルではなくチェーンか? いざというときにまともに手が使えるとは限らないからだ。
研究所にはこういった緊急事態への対応がいくつもある。目を洗うための蛇口とか、消火器とか、防護服とか。諸々の設備と安全マニュアルのもと、事故のない安全な研究を進められる。
「ヤッチョドキドキしたいなー」
という鶴の一声で所長の目の色が変わり、真剣な顔で何かをぶつぶつつぶやきながら作業をする姿が増えた。ああやってしてるとマジでメロいんだよなぁ。顔が良い、造形が良すぎる。景観が強すぎる。はーやっぱ酒寄所長って美人だなぁ、と脳みそがびしゃびしゃになること一週間。
「うんよし、このロジックでいける」
「何をするんですか?」
説明を求めると所長はホワイトボードの前に立ち、書き込みをしながら解説を始めた。私もノートを開いて適宜メモを取る。
「まず、ドキドキすること、を定義する。人間は好意的に思っている相手と接触した際に交感神経が活発になり、脳内でドーパミンなどの神経伝達物質が分泌される。生物のドキドキは化学反応によって起こされる。ここまではいい?」
「はい。でもヤチヨの肉体は未だに機械です。化学反応で動かせますか?」
「そう、ヤチヨはまだ機械。だから、ドキドキするための仕組みを作る。触感センサーは正常に動作してるよね?」
「良好です。しっかり調整してます」
「ありがとう田中さん、助かる。それだけ精度の高いセンサーがあるならなおいいね。それで、接触をトリガーとして内部で3Dモデリングを行わせる」
「それ精度落ちませんか?」
「逆にそこを利用する。センサーからの情報と、3Dモデルからの情報に差分が生じる。その差分を、ドキドキしてる時の酔い、浮遊感と定義する」
「なるほど。モデリングは負荷がかかるので発熱しますし、よりそれっぽいですね」
「そういうこと。ロジックできてるから、実装お願いしていい?」
「承りました」
こうして月見ヤチヨをドキドキさせるための機能を実装した。よく考えると所長がたかだか一週間でこのロジックを出してくるのが怖い。やっぱ所長ってすごいな、すごいよ、変態だと思う。
実装したならテストを行わなければならない。実験室にはヤチヨとかぐやちゃん、それから所長に来てもらっている。
「かぐやちゃんは本当にこの機能入れないでいいの?」
「今日のかぐやは見学」
「ふーん。まあいいか。では実験の説明をします。今回の実験目的はヤチヨに実装した新機能が想定通りに動くかどうかの確認です。シミュレーションでは問題ありませんでしたが、実機での確認はまだなので。最も効果的、というかそもそもこの機能の主旨は所長なので、ご協力お願いします」
「わかった。何したらいい?」
「ヤチヨを抱擁してください。はいどうぞ」
「……ここで?」
「何今更照れてんですか普段もっといろいろやってんのメンテしてっから知ってんですよ。かまととぶってねーで早くしてください」
「は、はいっ」
所長、ヤチヨの前だとたまにこうやって思春期の男の子みたいな反応するんだよなぁ。これは推しを前にしたオタクか。私もこうなのかな、やだやだ。
「じゃ、じゃあ、ヤチヨ、いいいいいいいくよ」
「うん、彩葉、お願い」
ヤチヨがカチンコチンになっている所長に向かって腕を広げる。所長は、こわごわ近寄ってヤチヨの背に腕を回し、引き寄せるように抱きしめた。ヤチヨは少し目を見開いて、小さく微笑み、所長に腕を回した。
これ私見てていいのか? 甘すぎでは? 空気で虫歯になりそう。おっといかんいかん、モニターでパラメータの推移をかくに、
「うわやっべ!?」
やばい、実験停止だ。内部温度が急上昇してる。
「所長! ヤチヨ! 離れて、発火しかねない!」
「え?」
「ごめん彩葉、すごく、熱くなってきて」
「ヤチヨこっち、緊急用シャワー使うっ」
私は廊下にヤチヨを連れ出し、シャワーの下まで引きずると、思いっきりチェーンを引いた。水が降ってきてヤチヨを冷やす。かわいそうなことをした。こんなつもりじゃなかった。
「ごめん、私のミスだ」
「大丈夫。彩葉が危なくなる前に声かけてくれてありがとうねはじめちゃん」
かぐやちゃんが私のノートパソコンを抱えながら廊下に出てきた。
「はじめ、ここの処理が無限ループになってるよ」
「え? あぁ……こんな初歩的な」
「仕方ないって、失敗することもあるよ。かぐやなんて毎日失敗してるもん。つぎはうまくやろ?」
所長が心配そうに実験室から顔を出す。びしょびしょになったヤチヨを見て一瞬顔を曇らせたが、無事そうなことを確認すると安心したようにそれを緩めた。
「ごめんなさい所長」
「大丈夫、切り替えていこう。でも、ボディーはしばらく使えないかもね。ヤチヨ、どう?」
「んー、ちょっと焼けちゃった部分があるかも」
「致命的な状態になっていないか確認するために、一週間集中メンテナンスさせてください」
「わかった。お願いね。さて、しばらくヤチヨはスペアの義体に入っててもらおうか」
ん? スペア? そんなの用意してたっけ?
「所長、スペアとは?」
「こんなこともあろうかと、用意しておいたんだ。ヤチヨ、持ってくるから移動してもらっていい?」
「りょー。さてさて、どんなのかな?」
所長が倉庫から持ってきたのは、小柄で柔らかそうで、五頭身のかわいい義体。大体小学生くらいの、子どもの義体。びっくりした、ピグマリオンコンプレックスのロリコンの変態がいるのかと思った。
「酒寄所長?」
「経費削減で大きいのは作れなくて」
「こっち見て言ってください?」
「こういうこともあるかもと思って」
「本気で言ってやがりますか?」
「落ち着いて聞いて」
「黙ってくださいピグマリオンコンプレックスでロリコンの変態」
「違う違う違う、そういうんじゃなくて!」
所長の腕の中を覗き込んだかぐやちゃんが不満そうな声を出す。
「あー! ずるい! かぐやも! かぐやもこれがいい!」
「わかったわかった、かぐやの分も持ってくるから」
「なんで用意してあるんだよっ! 所長のクソバカ! 最低!」
こうして弊研究所は一週間ほど幼児を抱えることとなった。
§
パターン1: 寝かしつけ成功
所長の変態さ加減を舐めていたかもしれない。なんで入れた肉体の外観で知能レベルが変わるプラグインなんて作ってんだよ、変態すぎだろ、おまけに断りもなく入れるしさぁ、なんなのあの人は。
「ねーおやちゅー」
「はいはい、頂き物のクッキーがあるからどうぞ」
かぐやちゃんはあっちこっちうろうろしてはおやつもらったり、走り回って叱られたり。あれなんか、いつもと変わらないぞ?
「えほん、よんで」
「このメール送ったらでいいかな」
ヤチヨは普段より大人しい。ずっとこのままでいいかも。だめか? ネットミームで話さないヤチヨは物足りないけど、これくらい大人しいほうが仕事が、いやかぐやちゃんが百倍うるさくなってるから変わらないか。
「かぐやー、ヤチヨー」
所長が顔を出した。ほぼ託児所と化した実験室、もはや私の安息の地ではない。はやくこの子ら直さないとっ
「所長、作業が進まないので小さい方々を引き取ってください」
「これからお昼寝タイムだから任せて。ごめんね邪魔させて」
「いろはっ」
「いろはー」
小さいかぐやちゃんとヤチヨが所長の足元にしがみつく。うんうん、これだけ見たらかわいいのにな。
「絵本読んであげるから仮眠室でお昼寝しようか。ほら行くよ」
「いこ、いこ」
「やっちょもついてくー」
所長が子供たちを連れて行った。よし、これでやっと静かに作業ができる。
さて、ある程度作業が進んだところでそろそろ夕方。ここまで順調に進んでるから、予定通り週明けには元の体に戻れるだろう。所長に報告しよう、と思って研究所内を歩き回ってみたけれど、なかなか見つからない。もしかして、まだ仮眠室にいる?
仮眠室のドアを押し開けると、三段ベッドの下の段で折り重なって眠る三人。所長のおなかの上に頭をのせたヤチヨ、さかさまになって所長の顎を蹴っ飛ばしそうな寝相のかぐやちゃん。お、なんだかわいいな。これは私のミスによる産物だし、許されざるミスだったけど、でも、この光景は怪我の功名かなって。
そっとスマホを取り出して写真におさめた。奇跡的にかわいすぎた。
§
パターン2: 寝かしつけ失敗
作業は進み、無事に完成の目が見えた。所長も手伝ってくれて、大分疲れさせてしまった。最近眠たそうだ。
「いろはーおひるねー」
「かぐやねんねしたい」
「はいはい、今行くよ。ごめんね、この先やってもらっていい?」
「大丈夫です。てか所長も寝てきてください、後はもうできるので」
仮眠室に向かう三人を見送る。黙々と作業を続けていると、実験室のドアが控えめな音を立てて開いた。来訪者に気が付き振り向くと目の前に人はいない。おや、と思い視線を下げると、
「ねーいろはねちゃったー」
なぜか起きてきているかぐやちゃん。
「ねかして」
と、ヤチヨ。あぁ所長、あなた寝落ちてしまったんですね。仕方ない、ここは私が代打で寝かせるしか、寝かせるしか……寝るかなこいつら。
「絶対、寝てくれよ、頼むから」
無理そう。
よし、今日も投稿できたな!
コメントいただけると嬉しいです、お話するの好きなので。
ゲームブックみたいに選択肢のあるテキストを投稿したいのだけども、それはページ内リンクみたいのを使えばいいのかな?
色々調べよう。
ではまた明日!