こちはらpixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものになります。
今回はこれでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28397669#2
「あのね田中さん、ヤチヨにアルコールを分解させる機能をつけたいんだ」
「クソボケ」
「おっと冒頭Fワード」
「失礼、本音が出てしまいました、以後社会性フィルタを使います。で、なぜそんなものを」
実験室で恒例の休憩という名のコーヒータイムをしている。こういうとき、所長と話すと大体カス……失礼、
「ヤチヨもさ、大人だからそういう娯楽が欲しいかなって」
「それはいいのですが、なぜかぐやちゃんには入れないのですか?」
「かぐやって子どもで」
「
「どうしたの?」
「社会性フィルタです」
何考えてんだ……いや、まあ、生活をする、という点において飲酒は大事なものだと思う。かぐヤチコンビに対して差をつけることに目をつむれば。所長、癖が曲がっていてよ。
「そもそも、ヤチヨってお酒飲んだことあるんですか?」
「ないんだよね」
「となると、難易度が上がりますね。酩酊の定義からになります」
機械にものを教えるのは難しい。経験のないことは新たに定義をして、それがどういったものなのか学習させないといけない。ヤチヨの場合、どういった機械的な反応を酩酊と関連付けるかを考えなければならない。
「それに関してなんだけど、アルコールを分解する工程は人間に近くしようと思って」
「まぁ、それならなんとか。代謝の機能はつけてあるんで可能ではあります。分解したうえで、ここからは所長に決めていただかなければならないのですが」
「うん?」
「ヤチヨに、どんな感じに酔ってほしいのですか?」
「…………言わないとダメ?」
「
「おっと社会性フィルタ」
わかってはいるんだ、所長がわざわざ私と二人だけの時に話を振るってことはしょーもな、
「こんなことやらそうとしておいて往生際悪いですよ」
「わかってる! わかってるけど」
「けど、なんですか」
「内容がぁ……決められなくてぇ……」
「この、ク……
「あははなんだか猫みたいでかわいいね」
「うるっさいですね、酩酊するまでの仕組みは作っておくんで完成までに決めておいてください」
「ありがとう! あ、あと」
「まだなんかあるんですか!」
「お酒には弱くしといてもらえると」
「
§
お酒の分解が代謝機能で解決できるのはかなり楽だ。人間の場合、お酒を飲むと胃や小腸から血液を通して肝臓へ運ばれる。この際、血中アルコール濃度が高まることにより酔いが発生する。肝臓ではアルコールの分解が行われる。分解の過程で発生するアセトアルデヒドが悪酔いや頭痛の正体だ。YC型ボディには栄養吸収用のパーツと分解用のパーツがあるため、これらを活用すれば酩酊を模倣できる。なんでできちゃうんだろう、怖いよ。
これらの分解速度はセンサーの数値をいじることで調整することができる。反応が始まるのが早く処理速度が速ければガンガンお酒を分解するのでアルコールに強く、逆に反応が始まるのが遅くて処理速度もゆっくりならお酒をなかなか分解できないのでアルコールに弱くなる。
「……かわいそうだけど、これも所長のためだ。ゆるしてヤチヨ」
私は後から全部を所長のせいにする決心をしながらYC型ボディの数値を調整した。所長に頼まれてやってんだ、私は悪くない、悪くないよ、ごめんちょっと悪いかも、ヤチヨの権利より所長の欲望優先してるから。でもヤチヨ怒んないだろうなー、むしろかぐやちゃんが怒りそう。なんでかぐやはお酒飲んじゃダメなのーって。
「あのぉ……田中さん……」
「はいなんでしょうか」
実験室に所長が顔を出した。どういう内容なのか決まったんだろう。
「センサーの数値を入力しました。アルコール耐性は低めですが激弱にはしていません。ある程度分解用パーツにアルコールを蓄積させてから分解を開始し、分解中にパフォーマンスが低下することを酩酊と定義します。そのために、ランダムなメモリの再生、無意味な計算のループ、運動に関する命令の遅延、バランス感覚の抑制を行います。いかがですか?」
「おぉ、ばっちり。もしかして酔っ払いの相手得意?」
「学生んとき飲みサーにいたのでサンプルはたくさんいます。それで、どんな感じに酔ってほしいのか決めましたか?」
所長は目を泳がせた。水泳の世界記録保持者みたいな泳ぎ方する目だな。ここまできてまだ往生際が悪い。いい加減諦めたらどうだ。
「はっやっくっ言えや! いい加減にしてくださいよこんな
「ひーごめんなさいっこちらでお願いしますっ」
所長は四つ折りにしたメモ用紙を渡してきた。おい言わないのかい、いいですよ読んでやりますよ内容によっては音読しちゃうもんね、えーっと、
『メロメロに甘えてほしい』
「
分解中の処理の中に、距離感の低下と言語能力の低下と表面温度の上昇を追加した。
§
「やーだー、なんで今日かぐや研究所で泊まり込みなのー。何の問題もなかったじゃん」
「かぐやちゃんのためだからこれは」
「いいけどさー。その代わり朝まで夜通しモモパだからね」
「はー、ボコボコにされちゃう。ごめんね、今日は帰っちゃダメとか言って」
「いいよ。どうせ彩葉とヤチヨが二人で何かしてるんでしょ」
「まぁ、うん、そう。私も共犯です」
「そうだろうと思ったけどさ。でもいいよ。かぐやも彩葉がヤチヨを特別扱いするのはいいことだと思うし」
「怒らないんだ」
「別に後で同期してもらえばいいっしょ」
「してくれるかなぁ……ちょっと手を加えすぎたな感がある」
「で、何やったの?」
新しい機能を実装しました、とはなかなか説明できない。でもふと疑問に思った。アルコールによる酩酊はヤチヨもかぐやちゃんも未経験なため定義づけから入った。でもこの人ら、キスに対する反応に何の定義づけもせずに実装できたんだよな。
おい、きみたちやったのか?
「……
言わぬが仏だ。
今日も忘れなかった、えらい!
ということでまたあした~