アストライア王国の王都、ランドソル。
多種多様な種族が行き交い、活気にあふれるこの巨大な都市のメインストリートを、一組の奇妙な一行が歩いていた。
「おい、お主。まだ着かぬのか。我は腹が減ったぞ」
「あるじー! スイも、お腹すいたー!」
『俺もだ! 早くギルドに行って肉の解体してもらって、飯にしようぜ!』
巨大な狼の魔獣フェンリルのフェル、プルプルと跳ねる特殊個体のスライムであるスイ、そして宙を素早く飛び回るピクシードラゴンのドラちゃん。
彼らの主であり、巻き込まれ体質の平凡な青年(ただしスキルは規格外)であるムコーダは、周囲から向けられる畏怖と好奇の視線に胃を痛めながら歩みを進めていた。
「わ、分かってるって。もう少しで冒険者ギルドに着くはずだから……って、フェル! 威圧を漏らすな! 街の人たちが怯えてるだろ!」
ここはムコーダたちが普段活動している国ではない。ひょんなことから次元の歪み(?)に巻き込まれ、気づけばこの見知らぬ王国に辿り着いていたのだ。まずは情報収集と資金(こちらの通貨への換金)、そして何より**フェルたちの食料確保**のために冒険者ギルドへ向かっている最中だった。
その時である。
***「きゅるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ…………!!!」***
突如、雷鳴のような、それでいてひどく情けない轟音が路地裏から響き渡った。
フェルがピクッと耳を動かし、警戒態勢に入る。
「な、なんだ!? 魔物の咆哮か!?」
ムコーダが身構えた先、路地裏の木箱の影に、見事な装飾の鎧をまとったオレンジ髪の少女が倒れていた。
「ペコリーヌ様! しっかりなさってください、ペコリーヌ様!」
「ちょっと、あんた! こんな道のど真ん中で行き倒れるなんてバカじゃないの!? 恥ずかしいったらありゃしないわよ!」
「……(こくこく)」
倒れた少女を、小柄なエルフの少女(コッコロ)が涙目で揺さぶり、猫耳の魔法使い(キャル)が顔を真っ赤にして怒鳴り、温和そうな少年(ユウキ)がただ頷きながら見守っている。
「お腹が……空きすぎて……もう一歩も……ヤバイですね☆」
「星飛ばしてる場合じゃないでしょ!」
どうやら、ただの空腹による行き倒れのようだ。
ムコーダは思わずため息をつきつつも、見過ごすことができず声をかけた。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「はっ! 主さま、見知らぬ方が! ……もしや、ペコリーヌ様のお命を狙う刺客!?」
「いやいやいや! 違いますって! ただの通りすがりの冒険者です!」
警戒するコッコロに対し、ムコーダは慌てて両手を振る。そして、アイテムボックス(という建前の『ネットスーパー』)から、手軽にカロリーと水分を補給できそうなものを取り出した。
「これ、よかったら。冷たいタマリンドジュースと、甘い菓子パンです。疲労回復に効くと思うんで」
「えっ……い、いいんですか!?」
ペコリーヌは弾かれたように起き上がり、ムコーダが差し出した紙パックのタマリンドジュースとメロンパンをひったくるように受け取った。
ストローを刺し、一気にジュースを吸い上げる。
「——!!」
ペコリーヌの瞳孔が限界まで開いた。
「なっ……なんですかこれぇぇぇ!? 甘酸っぱくて、コクがあって、冷たくて喉越しが最高で……しかも、なんだか体中から力が湧いてきます! ヤバイですね!!」
「え、ええ? ちょっと、そんなに美味しいの? 貸しなさいよ!」
キャルが半信半疑でタマリンドジュースを一口奪い飲む。
「……っ!? な、なにこれ……! アタシ、こんな美味しいジュース飲んだことない……! 魔力まで満たされていくみたい……!」
ムコーダは冷や汗を流した。異世界の住人に対するネットスーパーの食品のバフ効果は相変わらず劇的だ。ただの美味しいジュースのつもりが、どうやらとんでもない活力を与えてしまったらしい。
「おいっすー! そこのお兄さん! その『たまりんどじゅーす』、アタシたちにも譲ってくれないかな!」
「あらあら、いい匂いがしますわね。私たちにも少し分けていただけないかしら?」
騒ぎを聞きつけたのか、あるいは匂いを嗅ぎつけたのか。路地裏に次々と武装した少女たちが集まってきた。剣士、魔法使い、獣人、エルフ……どう見ても一般人ではない、腕利きの冒険者(ギルドメンバー)たちだ。
「えっ? いや、これはその……」
「アタシが先よ! 1000ルピ出すわ!」
「私は2000ルピであります!」
「ちょっと! アタシが飲んでるんだから邪魔しないでよ!!」
あっという間に、ムコーダを取り囲むようにして各ギルドの少女たちによる大乱闘が始まりそうになる。剣が抜かれ、魔法陣が展開され、街のど真ん中で局地的な戦争が起きようとしていた。
『おい、人間。騒々しいぞ。我の飯はどうなっているのだ』
「フェル! 助けて! 囲まれてる!」
しびれを切らしたフェルが、大きく息を吸い込んだ。
***「ガァァァァァァァァァァァルッ!!!」***
王都の空気を震わせる、伝説の魔獣による特大の咆哮。
ピタリ、と少女たちの動きが止まる。本能が「これ以上は死ぬ」と告げていた。
静まり返った通りで、ムコーダは深く、深くため息をついた。
「……とりあえず、場所を変えませんか?」
騒動を起こした罰(と保護)も兼ねて、ムコーダ一行と美食殿の面々はランドソルの冒険者ギルドの奥室へと案内された。
そこには、頭を抱えるギルドマスターが座っていた。
「まったく……ウチの若い連中が迷惑をかけたな、他国の冒険者よ。それにしても、君の連れている従魔……ただ者ではないな」
「あ、ははは……(フェルの正体バレたら面倒だから黙っておこう)」
ギルドマスターは鋭い視線をムコーダに向けた後、大きなため息をついて一枚の羊皮紙をテーブルに置いた。
「実は、君のその『料理の腕』と『不思議な食材』を見込んで、折り入って頼みがある」
「頼み、ですか?」
「ああ。来月、このアストライア王国は**創立50周年記念式典**を迎える。他国からの要人も多数招かれる大規模な祝宴だ。そのメインを飾る料理の総責任者を、君にお願いできないだろうか」
「「「ええええええええっ!?」」」
ムコーダだけでなく、美食殿のキャルたちも声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでぽっと出の他国の冒険者にそんな大役を!?」
「王宮の料理長もいるのだが、先日の魔物騒動で負傷してしまってな……。それに、先ほどの騒動を見た。君の出す食事には、人を惹きつけ、そして凄まじい活力を与える力がある」
「いやいやいや! 無理ですよ! 俺はただの料理好きの冒険者で……」
ムコーダが全力で辞退しようとしたその時、ペコリーヌがガシッとムコーダの手を握った。
「お願いします、ムコーダさん!」
「ペ、ペコリーヌさん?」
「実は私……このアストライア王国の王女、ユースティアナ・フォン・アストライアなんです!」
「ええっ!? 王女様!?」
「はい! この国の大切な記念日を、最高に美味しい料理で皆に笑顔になってほしいんです。私、ムコーダさんのご飯なら、絶対にみんなを幸せにできるって確信してます! 私も全力でお手伝いしますから!」
大食漢であり、誰よりも食を愛する王女からの真っ直ぐな瞳。
そして、背後からはフェルが小声で念を押してくる。
『おい。王族の依頼なら、上等な肉が腹一杯食えるのだろうな? 断ることは許さんぞ』
『おれも! 美味い肉!』
「あるじー、スイもいっぱい食べるー!」
(……逃げ場、なし!)
ムコーダは天を仰いだ。
「……分かりました。お受けします」
宿屋の一室を与えられたムコーダは、ベッドに倒れ込んでいた。
「引き受けちゃったよ……。国を挙げての記念式典って、何百人、いや何千人規模だろ。俺のネットスーパーの食材だけで足りるのか……?」
不安に駆られながら、スキル『ネットスーパー』を起動し、いつもの見慣れたインターフェースを開く。
すると、画面の中央に見たことのないド派手なポップアップが表示された。
**【祝! レベルアップ特典! 新テナント『ロピア』がオープンしました!】**
「なっ……ロピアだと!?」
ムコーダは飛び起きた。
関東を中心に展開し、圧倒的なボリュームと鮮度、そして何より**「肉のロピア」**と呼ばれるほど肉類に絶対的な強みを持つあのスーパーが、ネットスーパーに追加されたのだ!
画面をスクロールすると、見たこともないような大容量パックがずらりと並んでいる。
『メガ盛り! 黒毛和牛切り落とし 1kg』
『ロピア名物! 自家製特大ベーコン』
『大容量! 旨だれプルコギ 2kgパック』
『モンスターバーガーセット』
「これだ……!」
ムコーダの目に希望の光が宿った。
イオンの堅実な品揃えに加え、ロピアの圧倒的な大容量とジャンクなまでの破壊力があれば、何千人規模の宴だろうと、大食漢のペコリーヌやフェルたちの胃袋だろうと満たすことができる。
「よし……やってやる! アストライア王国の連中に、日本のスーパーマーケットの底力……そして、極上の魔物肉とロピアのコラボレーションを見せつけてやる!!」
ムコーダの気合いに呼応するように、フェルが鼻を鳴らし、ドラちゃんが宙返りをし、スイが嬉しそうに飛び跳ねた。
異世界の大食い王女と、とんでもスキルを持つ巻き込まれ青年。
規格外の魔獣たちと美食殿の面々が織りなす、アストライア王国史上最大の「食の祭典」の準備が、今、幕を開けようとしていた——。
式典の夜が明ける直前、王都ランドソルの街は未明の静寂に包まれていた。
厨房兼仕込み場としてあてがわれた王城の広大な調理場では、ムコーダが一人、ロピアの大量のダンボール箱と格闘していた。周囲には、すでに下ごしらえを終えた異世界の高級肉や巨大な食材たちが山と積まれている。
その時、静かに調理場のドアが開いた。
「——まだ作業中かい、ムコーダさん」
入ってきたのは、美食殿の少年、ユウキだった。普段のどこかボーッとした、守ってあげたくなるような雰囲気が綺麗に消え失せている。その目には明晰な知性と、どこか懐かしさを覚える深い光が宿っていた。
「……ユウキ、君? なんだか、雰囲気が違うな」
ムコーダが手を止めると、ユウキは少しだけ苦笑いを浮かべ、調理場の木製椅子に腰掛けた。
「驚かせてごめん。……実は僕、日本から来た召喚者なんだ。普段は記憶が混濁していて、子供みたいになっちゃってるんだけど……不思議なことに、同郷の人間とこうして二人きりで話している間だけ、本来の記憶と理性が一時的に戻るみたいなんだよ」
「同郷……! じゃあ、君も日本からこの世界に!?」
「ああ。元の世界のこと、日本の風景、そして……自分がどうしてここにいるのか。君と話していると、霧が晴れるように思い出せる。でも、この時間が終われば、また僕は『いつもの僕』に戻ってしまう」
ユウキは自分の手を見つめた後、まっすぐにムコーダの目を見据えた。
「だから、記憶がはっきりしているうちに伝えておきたかったんだ。……僕は、ペコリーヌのパートナーだ。あいつは……ユースティアナは、王女としての重圧や、大切なものを奪われかけた過去を背負いながら、それでも笑顔でみんなを引っ張ろうとしている。あんなに大食いなのは、彼女の存在そのものが膨大なエネルギ―を消費するからでもあるんだ」
「ペコリーヌさんが……」
「あいつのあの笑顔を、お腹いっぱいの幸せを守ってあげたい。……ムコーダさん、君の力が必要だ。日本の調味料と、君の異次元のスキル、そしてこの世界の素晴らしい食材を合わせた最高の料理で、あいつを……美食殿を、そしてこの国の人々を笑顔にしてやってほしい。頼む」
ユウキは深く頭を下げた。同郷の絆と、大切なパートナーを想う強い意志。ムコーダはその言葉の重みをしっかりと受け止め、力強く頷いた。
「任せてくれ。俺の『ネットスーパー』と『ロピア』の力を舐めてもらっちゃ困る。ペコリーヌさんも、王国の客たちも、全員腰を抜かすようなフルコースを作ってみせるよ」
「ありがとう……頼んだよ、シェフ」
ユウキは微笑むと、ふっと息を吐いた。その瞬間、彼の瞳から明晰な光が消え、いつもの無邪気でポカンとした表情へと戻っていった。
「……うー? ここ、どこー?」
「はいはい、ユウキ君。もうすぐ朝だから、部屋に戻って休んでな」
背中を押して送り出しながら、ムコーダは腕まくりをした。胃の痛みは不思議と消えていた。胸に燃え上がるのは、料理人としての、そして「日本の食文化を背負う男」としての意地だった。
朝が訪れ、王都ランドソルの大広場には数千人を超える市民と、世界各国から招かれた要人、そして名だたる冒険者たちが集結していた。広場の中央には巨大な特設バーベキューグリルが何台も設置され、熱気が渦巻いている。
壇上に立ったのは、煌びやかなドレスを身にまとった王女ペコリーヌだ。
「皆様! 本日はアストライア王国創立50周年記念式典にお集まりいただき、誠にありがとうございます! 本日の祝宴は、異世界より訪れた伝説の料理人・ムコーダ様と、我が『美食殿』が手掛ける特別バーベキューフルコースです! お腹いっぱい、食べて笑っていってくださいね! それでは……いただきますっ!!」
ペコリーヌの開会宣言とともに、ムコーダたちの怒涛の試食&提供ラッシュが始まった!
最初に各テーブルへ運ばれたのは、丸くて可愛らしい黄金色の焼き物だった。
「な、なんだこれは? パンでもなければ肉でもない……」
要人たちが首を傾げる中、ペコリーヌが真っ先にパクリと噛み付いた。
「うわあああ! もちもちですっ! 中から濃厚でとろ〜りとしたチーズが溢れ出てきます!!」
北海道産の男爵いもを蒸して潰し、片栗粉を混ぜて極上のモチモチ感を出した生地。その中にロピア直輸入の濃厚カマンベールチーズを包み込み、バターと甘辛い醤油タレで香ばしく焼き上げた一品だ。アストライア王国には「じゃがいもを餅のように加工する」文化が存在しないため、一口食べた参列者たちから驚愕の声が上がった。
「う、うますぎる……! 外は甘辛く香ばしいのに、中はじゃがいもの優しい甘みとチーズのコクが溶け合っている!」
続いて運ばれてきたのは、深紅のスープにたっぷりの夏野菜が浮かぶ小鉢。
「うっ……すごいスパイシーな匂い……」
キャルが恐る恐るスープを一口啜った瞬間、顔を真っ赤にした。
「ッ〜〜〜〜〜!? か、辛い! 舌が痺れるわよこれ!! 辛すぎる!!」
「は、はひぃ……キャルちゃん、お水……お水ですうぅ……!」
コッコロも涙目になりながら喉を鳴らす。
しかし、ペコリーヌは違った。
「んん〜〜っ! この唐辛子の激辛さと、花椒(ホアジャオ)のビリビリくる痺れ……それが白湯スープのコクと合わさって、クセになります!! 汗が噴き出しますが手が止まりませんっ!」
ロピアの本格中華調味料ベースで作られたマーラータンは、ズッキーニやパプリカの甘みを引き立て、大人の参列者たちを中心に大絶賛を博した。
次なる皿は、巨大なマグロのカマ(通称ブーメラン)を豪快に炙り、特製カルパッチョソースをかけた一品。この料理には、別次元から招かれていた「シャドウバース」の面々が猛烈に反応した。
「すごい……! 表面は香ばしく炙られているのに、中は極上のレア! 醤油とオリーブオイル、ニンニクのソースが完璧にマッチしています!」(アリサ)
「これならルナも、死者のお友達もみんな大満足だよぉ!」(ルナ)
「ふむ……肉身の締まりと脂の乗り、見事な刀傷(包丁仕事)だ。酒が進むな」(ローウェン)
「ふん、まあまあじゃない。この私、アディショナルディバの美声に匹敵する味わいと認めてあげるわ!」(リーシェナ)
「ヴァンピィちゃん、このお魚だーい好き! おかわりちょうだい!」(ヴァンピィ)
ロザリアやエリカも感嘆の溜息を漏らし、異次元の英雄たちを完全に骨抜きにしていた。
こってりとした焼き物の合間に提供されたのは、ロピアの濃厚マヨネーズをたっぷりかけた半熟卵(ウフマヨ)と、香ばしい有明産のり(日本の極上海苔)を散らしたチョレギサラダだ。
「この黒い紙のようなものはなんだ……? 香ばしくて、塩気があって、野菜のシャキシャキ感と最高に合うぞ!」
「卵の黄身がトロッと溢れて、ごま油香るドレッシングと混ざり合う……口の中がリセットされるようだ!」
日本の調味料「ごま油」と「海苔」の組み合わせは、王国の貴族たちにとって完全な未知の衝撃だった。
ここからはいよいよメインの肉料理へ突入! フェルが仕留めてきたSランク魔獣「アース・ドラゴン」の極上部位を、日本の七味唐辛子と醤油、ロピアのBBQタレを混ぜ合わせた特製ダレにじっくり漬け込み、炭火で豪快に焼き上げた。
『ぬうう……! ドラゴンの肉の力強い旨味に、この『しちみ』というピリリと辛い粉が絶妙に絡む! タレの香ばしさが肉汁と共に溢れ出すぞ!』
フェルがガツガツと喰らいつき、ドラちゃんも小さな体で肉塊にかぶりつく。
「うめえええ! 炭火の香ばしさとタレの甘辛さが最高だぜ!」
危険度Aの狂暴な牛型魔獣「ブラッディーホーンブル」。その希少なタンを極厚にカットし、ロピアのヒット商品である「無限ネギンジャー(ごま油とニンニク、ネギがたっぷり入った調味料)」をどっさりと乗せて炙り焼きにした。
「歯ごたえがすごい! コリコリしているのにジューシー……そしてこのネギとニンニクのタレ! 悪魔的な美味しさです!」
ペコリーヌの目が輝く。参列した冒険者たちも「ビールを持ってこい!」と大騒ぎだ。
同じくブラッディーホーンブルの肩バラ肉(ブリスケット)を、低温の炭火で10時間以上じっくりと燻製焼きにした本格テキサスBBQ。
ほろほろと解ける肉質、フォークを刺すだけで崩れるほどの柔らかさ。
「お、お肉が……口の中で溶けてなくなります……! 燻製の芳醇な香りが鼻を抜けていく……!」
コッコロが両手を頬に当ててうっとりと呟く。
高級豚肉以上の旨味を持つ「オークジェネラル」のバラ肉を厚切りにし、鉄板でカリカリになるまで焼く。それをサンチュに包み、日本のコチュジャンとロピアのニンニク味噌を添えて提供。
「脂っこい豚肉かと思いきや、葉っぱと甘辛い味噌と一緒に食べるといくらでも入っちゃうわね! ……ちょっと、ユウキ! 黙ってアタシの分まで食べないでよ!」
キャルが文句を言いながらも、手は休まらず次のサムギョプサルを巻き続けていた。
同じくオークジェネラルのロース肉を、極厚のステーキ状にして炭火焼きに。仕上げに振りかけたのは、キャンパー御用達の万能調味料「アウトドアスパイス ほりにし」だ!
「な、なんだこのスパイスの深みは……!? ガーリック、塩、ミルポアパウダー、そして数々のハーブが絶妙なハーモニーを奏でている!」
王宮の料理人たちがその味の奥行きに膝を突いた。
鳥と蛇の魔獣「コカトリス」の皮目をパリッパリに焼き上げ、甘辛い甜麺醤(テンメンジャン)と白髪ネギと共に特製生地で包んだ一品。
「皮の香ばしさと甘辛いタレ、そしてコカトリス独特のジューシーな旨味が凝縮されています! ヤバイですね☆」
巨大鳥魔獣「ロックバード」の腿肉を回転直火焼きにし、削ぎ落とした肉をピタパンへ。そこに、爽やかな酸味と辛味が効いた特製ヨーグルトソースをかける。
「ヨーグルトを肉にかけるのか!? ……と疑ったが、うまい! 酸味が肉の脂っぽさを消して、何個でも食べられる!」
肉の嵐の中に投入されたのは、ロピアの名物「ほぼ具の海鮮巻」! 米が見えないほど限界まで詰め込まれたサーモン、まぐろ、いくら、ネギトロの極太巻きだ。
「お米が見えませんっ! どこを噛んでも新鮮な海の幸が口いっぱいに広がります!! ムコーダさん、日本の海は天国ですか!?」
ペコリーヌが涙を流しながら太巻きを頬張る。
そして、終盤に登場したのがロピアの真骨頂「モンスターバーガー」!
直径20cm以上の巨大バンズに、オークジェネラルの特大ハンバーグ3枚、ブラッディーホーンブルのベーコン、大量のチーズ、レタス、トマトが挟まれた怪物級のバーガーだ。ポテトと大容量コーラがセットになっている。
「ふふふ……これぞ私のための料理です!」
ペコリーヌは両手で巨大なバーガーを抱えると、口を大きく開けて豪快にかぶりついた!
「んんん〜〜〜〜っ!! 肉汁の滝! チーズの濁流! バンズの受け止め力! 全てがモンスター級ですっ!! 大・満・足ですっっ!!」
その圧巻の食べっぷりに、会場全体から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
締めくくりに焼き上げられたのは、ロピア特製の巨大窯焼きピザ(マルゲリータ、ウインナーマヨ、テリヤキチキン)。
カリッとした生地とトロトロのチーズが、宴の熱気を最高潮へと導いた。
宴は深夜まで続き、会場にいた誰もが腹を抱えて笑顔で倒れ込むという、アストライア王国史上前代未聞の祝宴となった。
「ふぅ……なんとか無事に終わったな……」
宴の片付けを終えたムコーダは、夜風に当たろうと王城のバルコニーへ出た。
空には二つの月が輝いている。
「ムコーダさん」
振り返ると、そこにはドレス姿のペコリーヌが立っていた。お腹をぽんぽんと叩きながら、満面の笑みを浮かべている。
「本当に、最高の料理をありがとうございました。私、生まれてから一番幸せな一日でした!」
「喜んでもらえてよかったよ。……あ、ユウキ君は?」
「あはは、ユウキちゃんはすっかりお腹いっぱいで、コッコロちゃんに抱えられてベッドでグッスリです」
どうやら、彼の記憶は再び眠りについたらしい。しかし、彼が残した想いはしっかりとムコーダの胸に届いていた。
『おい、お主』
影からフェルが姿を現した。その表情は珍しく険しい。
『気づいているか。先ほどの宴の最中……王都の外囲から、異様な気配が我々を探っていたぞ』
『うん……スイも感じたー。冷たくて、嫌な感じの気配……』
スイもムコーダの鞄から顔を出し、プルプルと震えている。
「えっ……気配……?」
「……はい」
ペコリーヌの表情からも、いつもの天真爛漫さが消え、王女としての凛とした厳しさが戻っていた。
「私の存在……そして、ムコーダさんの持つ『異世界の規格外の力』。それを狙う『覇瞳天星(レイジ・レギオン)』か、あるいは異世界の歪みを追う謎の組織が、動き出そうとしています」
「な、なんで俺まで巻き込まれそうな感じになってるの……!?」
ムコーダの胃が、再び激しく痛み始めた。
「ムコーダさん。この国に留まるのも危険かもしれません。でも……どこへ行こうと、私や美食殿、そしてフェルさんたちがついています!」
『当たり前だ。我が主を狙う不届き者など、我の雷で灰燼に帰してくれるわ。それよりお主、明日の朝飯はロピアのプルコギで頼むぞ』
『おれもー! ピザもっと食べたい!』
「スイもー! まーらーたん、またつくってー!」
「ちょっと待って! 俺の意見は!? 俺は平和に素材売って美味しいもの食べて暮らしたいだけなんだけどー!?」
夜空に響き渡るムコーダの悲鳴。
異世界の美味しい食材と、日本の最強スーパーマーケット『ロピア』の力を手に入れたムコーダ御一行の放浪旅は、新たな危機と更なる美食を求めて、次なるステージへと加速していくのだった——!