腐った連邦軍高官の娘にTS転生して、ケネス大佐の首席補佐官をやる話 作:TSペルペト
「しかし、いくらなんでも、ちょっと可哀想じゃないですか、ジャンヌ少佐。士官学校首席って聞きましたし、良いとこ出のエリートなんでしょうが、シミュレーターしか触ってないヤツにアリュゼウスは無理ですって」
「……」
「まぁ確かに、あの年で少佐の大隊長ってのはアレですけど……でも、良い子じゃないっすか。俺らの質問にも全部すっげぇ丁寧に答えてくれたし、美人だし、頭もいいんだろうし。なんとかならないもんですかねぇ、大尉?」
「……」
「大体、あの新任司令官殿も酷いや。部下が無茶振りされてんだから、庇ってやってもいいでしょうが。そりゃ優秀なんだろうけど、相当おっかねぇ男――」
一通りの話が終わった後、ブリーフィング・ルームからハンガーに移動しながら、ハシント・モリーナ大尉は口さがない部下の話を耳にしていた。
若い部下――アダム・アッカー少尉は優れた操縦技量の持ち主だが、とにかく口数が多いのが欠点だった。しかも、一士官にしては妙に情報収集に長けており、基地内の噂話に異様に詳しい。
その大半はどうでもいいネタだったが、時たま聞き捨てならない内容も含まれてくる。
「……アダム、あまり決め付け過ぎるな」
「というと……大佐に?」
「違う。チィウ少佐に、だ。無理かどうかはやってみなければわからん、判断するのはそれからでいい」
「しかし、お言葉ですが大尉……普通に考えて無理じゃありませんか?」
「ああ、そうだな。普通に考えれば……な」
そう言いながら、四十代半ばの白髪交じりの男――ハシント・モリーナの脳裏には、長年モビルスーツ乗りをやってきたが故の、とても普通ではない経験の数々が過っていた。
彼が初陣を飾ったのは、一年戦争も終わりの間際。チェンバロ作戦に伴うソロモン攻略戦において、最低限の操縦方法だけを教えられて「ボール」に詰め込まれた、戦時速成教育パイロットとしてだった。
そこで若かりしハシントは、異様な戦いを見た。ジオンのドズル・ザビが駆る化け物じみた火力の重モビルアーマー「ビグ・ザム」に対し、1機のモビルスーツと1機の航宙戦闘機が立ち向かい、勝利してみせたのだ。
奇跡だ、としか思えなかった。『普通に考えれば』そんなことは絶対に有り得ない。しかし、彼の目の前で普通ではないことが起こり、普通ではない結末を手繰り寄せた。
ハシントはこれといって信仰を持たず、神に対して思い入れも抱かなかったものの、それ以降、いわゆる戦場での奇跡やニュータイプというものの存在については、ある程度まで現実のものとして認めるようになった。
「だがな、時として普通じゃない奴らってのは居るもんだ。長年兵士をやってると、そういうのに遭遇することもある」
「んー、なるほどなぁ……まぁ確かに、話盛ってるんじゃないかって疑いたくなるようなエースってのは、実際居ますもんねぇ……」
その日から、単なる下士官だったハシントは、戦乱が相次いだ地球圏の歴史の潮流に流されるように幾つもの戦いを経験し、幸運と実力で生き延び、数多くの生と死を見続けることとなる。
デラーズ紛争における連邦軍の迎撃部隊として、グリプス戦役におけるエゥーゴの一員として。第一次ネオ・ジオン抗争の際は負傷によって後方待機となったものの、第二次ネオ・ジオン抗争とラプラス事変を通じてはロンド・ベルのMS小隊長として戦い抜いた。
故に、その経験の中には、ソロモンの時のような一種の奇跡、或いは尋常ならざる能力を持った人々の記憶も含まれている。
「つまり、大尉は少佐もそうじゃないか……と?」
「わからんがな。しかし、ケネス大佐のあの態度を見るに、彼女に対して何か期待しているのは間違いないだろう。前司令とは違うんだ」
現在の地球連邦政府は、公的にはニュータイプの存在を完全否定し、軍人の教育課程でも、繰り返し繰り返ししつこいほどに『そんなものは非現実的なオカルトの類でしかない』ことを強調している。
サイコミュ・システムなどは引き続き使用されているが、扱いとしては『一部の空間認識能力の高い者にしか扱えない特殊兵装』であり、そこにニュータイプの文言は一切現れないのだ。
だが、そんな公的な立場は、ハシントやケネス――彼もまた、シャアの反乱時にはパイロットとして前線に立っていた――のような実戦経験者には関係がない。
事実として己の目で見たものを、彼らは決して忘れなかった。だからこそ、ハシントにはケネス・スレッグが何を期待しているのか理解る気がした。
アリュゼウスという極めつけの特殊な機体。ろくに練習時間も与えられない実機訓練。ファンネルミサイルなどのサイコミュ兵装類。そして、量産型νガンダムにも限定的に使用されているという噂がある、曰く付きの技術――「サイコ・フレーム」。
ここまで揃えば、ほぼ間違いない。
ケネス・スレッグ大佐は、ジャンヌ・チィウ少佐がニュータイプではないかと考えている。そして、その能力を自分の目で確かめるために、この訓練を許可したのではないか。
実際にニュータイプならば、部隊に優秀なパイロットが加わる。仮にそうではなくとも、アダム少尉がまさに口にしているように、パイロット達からは「いきなりアリュゼウスに乗れと言われれば、まともに戦えなくとも仕方ない」という同情寄りの好意的な評価が得られる。
どちらに転んでも、部隊にとっても少佐にとっても損はない。
そこまで推察して、ハシントは、この状況で本当に試されているのはレーン・エイム中尉なのかもれない――ということに思い至った。
彼は確かにエリートと称されるに相応しい実力の持ち主だが、実戦を経験したことがない。にもかかわらず、自分の能力に強烈な自信を持っている。
彼とは正反対の叩き上げであるハシント・モリーナの目からしてみれば、テストパイロットとしてのスコアに満足するレーン・エイムの姿は、どこかしら危ういもののように見えていた。
そう考えてみると、実によく出来ている。やはり、ケネス・スレッグという上官はやり手のようだ。
ともすれば、この状況を作り出すためにレーン中尉に何か吹き込んだのではないか、とも疑いたくなるほどに。
「へへ、なんか……ワクワクしてきましたね。よし、俺は生意気レーンくんよりも可愛いジャンヌ少佐のことを応援しますよ!」
「いいんじゃないか。ただし、間違ってもそれを本人達に言うなよ」
「そりゃ当然っすよ。俺のことなんだと思ってんですか、大尉?」
「不安な奴だと思ってるよ」
「うわ、酷くないっすか!?」
いつもの軽口を叩き合いながらも、ハシント・モリーナは思う。
キンバレー時代の閉塞感から解き放たれた今、軍縮と腐敗によって穏やかに倦んでいくばかりの連邦軍にあって、この部隊は例外的な幸運を享受しているのかもしれない。
年甲斐もなく、気分だけは若かりし頃の戦士に戻ったようだった。
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/U.C.105年 04月19日 1533時/
/連邦軍南太平洋管区(東南アジア地区) ミンダナオ島南部 ダバオ/
/ダバオ連邦空軍基地 格納庫/
私が数年ぶりのノーマルスーツを着用してハンガーに向かった頃、そこは既にちょっとしたお祭り騒ぎの会場となっていた。
ブリーフィング・ルームに詰めていたパイロット達以外にも、どこからともなく野次馬が集まってきたらしく、シミュレーション映像が映し出される大型モニターの近くには、パイプ椅子やらソファやらが乱雑に設置された挙げ句、立ち見まで出る盛況ぶりだった。
あちこちから「頑張って下さいよ、少佐!」だの「負けんなレーン・エイム!」だの声が飛んでくるあたり、あいつらは確実に賭けている。軍人というやつはこれだから。
半ば呆れながら、ちょっとしかめっ面で軽く手を振り返してやると、黄色い歓声ならぬ野太い歓声が飛んできた。
「ひゃあああ、あの冷たい眼差したまんねぇ~! 俺、ジャンヌさんのファンになっちまいそうだァ……」――うるさい黙れ。
そんな感じで適度に緊張を緩めながら向かう先は、大佐に使用を指示された仮の愛機「アリュゼウス」。
元々はペーネロペー用の練習機としてエイム中尉が乗っていたというソレは、格納庫の隅の方に異形の立ち姿を見せていた。
第一印象は、凄まじい――。
鳥の足めいた四本爪に不安定そうな足回り、鋭角と直線と丸みが混在する複雑怪奇なシルエット、ゴテゴテと後付された印象のファンネルミサイル・コンテナ、リング状のプラズマリアクター、何よりも特徴的なのは、全身に搭載された大量のシェルフ・ノズル。
そんな強烈なデザインの増加装甲が、専用の改修を受けた量産型νガンダムを包み込むように鎧っているのだから、受けるイメージはまさに『実験機』だ。
しかも、よく見れば、腕が二対四本もあった。
この人型でありながら人型から外れたような印象、やはりバイアラン系によく似ている。
慌ただしくケーブルの取り付けなどを行っていた整備スタッフに聞けば、事前知識通り、やはりアリュゼウスも推力任せで強引に飛行するという性質の機体らしく、私の抱いた感覚は間違っていないようだった。
そうなると、通常のモビルスーツ操縦の常識はほぼアテにならない。私は普段のシミュレーター訓練でジェガンやグスタフ・カールばかり使用していたから、尚のことだ。
こんな厄介な機体を割り当ててくれた大佐を少しばかり恨む――が、「いきなり特殊な機体を押し付けられた」という免罪符を与えてくれたとも言えるし、結局は私自身の問題だろう。
幸い、シミュレーション戦の前に、機体整備作業終了後から30分の自由時間があるらしい。
その間に何をするかで私の結果は大きく変わる。
カタログデータは大急ぎで頭に叩き込んだものの、問題は実感。特に飛行周りだ。
アリュゼウスはあくまでペーネロペーの練習機であって、総合性能ではミノフスキー・フライト・ユニット搭載の第五世代MSには劣る。勝機があるとすれば、唯一互角と言える飛行性能――それも、運動性では敵わない以上、こちらは機動力を活かせる状況に持ち込むしかない。
つまり、速度で敵の攻撃を凌ぎながら機会を窺い、最高のタイミングに全火力を集中させて一発撃墜を狙うやり方だ。
もちろん、これは言うは易しの好例でもある。
まず第一の問題として、アリュゼウスはペーネロペーと限界速度において拮抗しているものの、決して勝っているわけでは無いこと。つまり、エイム中尉が私を全力で追跡し、ドッグファイトに集中し始めた時点で、運動性で劣っているこちらに勝ち目はなくなる。そして当然だが、私が耐え凌げなかった場合もストレートに負けるだろう。
第二の問題として、使用兵器をどうするか。アリュゼウスの主兵装は銃身選択式――高威力型と連射型――の試作型ビーム・ライフルとファンネルミサイルだが、前者は射撃技量が物を言い、後者はそもそもサイコミュ兵装だ。
一応、シミュレーター上ではハイレベルなスコアを出しているが、それがアリュゼウスにも通用するかはわからない。そして後者については、私はそもそもサイコミュを扱ったことがない。使い物になるかは全く不明だ。
そして第三の問題として、明らかな実力差がある。相手は開発段階からずっとペーネロペーを操縦してきたプロなのだから、ここで競っても仕方がない。対策もない。どうしようもないが、どうにかしなければならない。
これらを踏まえて、私は既に戦術を組み立てていた。あとは、俄仕込みが実戦で通用するかどうか。
「少佐、準備完了です! どうぞ!」
「わかりました、ありがとう」
整備スタッフ達から声が掛かる。
私は感謝を返すとタラップを上がり、アリュゼウスの前に立った。
増加装甲は既にスライドして昇降モードになっており、コアたる量産型νガンダムの外部装甲と三重の内部隔壁が開け放たれた先には、全天周囲モニターと一体化したコクピットが口を開けている。
私は深呼吸を一つすると、足を踏み入れ、シートに腰を下ろした。フィッティングはもう既に済んでいるらしい。
「……よろしくね、アリュゼウス」
それは誰に言うでもなく、独り言のように。
呟き交え、私はサイドスティック型の操縦桿に両手を置いた。
モビルスーツが自己の身体の延長線上のように思える、この感覚。久しく縁のなかった温かみと共に、軍の中央士官学校で過ごした頃の記憶が蘇ってきた。
良かった思い出も、辛かった思い出も。今は少し遠く、懐かしさを漂わせて。錯覚だろうが、ついでに実機に触れる勘も取り戻されたかのような気分になる。
「さあ、勝つぞ」
私は気合を入れ、機体のチェックを開始した。
迫りくる開始時刻に突き動かされながら。
2026/09/21追記:
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
活動報告の方にも書きましたが、ストックのない状態での毎日更新が厳しくなってしまったため、今後は不定期更新となります。
話そのものはラストまで組み上がっているため、連載ペースは落ちますが、今後ともお付き合い頂けると幸いです。