TS憑依転生強化さやかちゃん 作:愛しのマルゲリータ
「というわけで、僕は魔法少女マジカルスタイリッシュ不良スレイヤーさんの奇跡の魔法で治してもらったんだ。さやかだから特別に話すけど、他の人には内緒だよ」
「へー、そだったんだねー」
「ああ、魔法少女マジカルスタイリッシュ不良スレイヤーさん……僕、決めたよ。退院するまでの間に、この身を焦がすような彼女への想いを乗せた曲を作曲してみせる! そして、その曲を彼女のために捧げて――」
「お、おう……作曲頑張れよ」
怪我が治って元気になった上条との面会を終え、廊下に出る。
上条は、奇跡的に怪我が治ったからかテンションが狂気じみていた。
こっちは魔法研究に没頭し過ぎたせいで寝不足だから、まるでついていけんかった。
まあ、退院したら流石に少しは冷静になって元の調子に戻るでしょ。
「おかえり、さやかちゃん。上条君どうだった?」
待合室に戻ると、まどかがキュゥべえを撫でながら暇を潰して待っていた。
「あー、めっちゃ元気だったよ。退院するまでは、作曲して暇を潰すってさ」
「作曲!? 凄いね、上条君」
そんなたわいもない会話をまどかとしながら病院を出ると。
「ん? なんか近くで嫌な感じがする……」
「さ、さやかちゃん……あそこ……」
病院の外壁に、グリーフシードがダーツのように突き刺さっていた。
魔法少女になってまだ日が浅い俺は、魔女の気配感知がまだ苦手だ。
そのせいで、かなり近づくまで魔女の気配に気づけなかった。
「まずいね。もう間もなく、魔女が孵化するよ」
キュゥべえの見立てでは、魔女の孵化も時間の問題らしい。
「とりあえず、マミさんに連絡してみる!」
慌ててまどかが携帯を取り出した。
「あ、マミさん。緊急事態なんです! 病院にグリーフシードがあって、今にも魔女が孵化しそうで……」
まどかがマミさんと連絡をとっている間に、俺は魔法少女へと変身する。
「まどかはマミさんが来るまで結界の外で待ってて。私が先に突入して、魔女の居場所を見つけておくから」
「う、うん」
まどかが少し離れた位置に移動した瞬間、グリーフシードが眩い光に包まれる。
視界が白く塗りつぶされ、気づけば俺は魔女の結界の中に取り込まれていた。
お菓子の魔女シャルロッテ。
それが、このお菓子と医療器具が散乱している不気味な結界の主の名だ。
原作のアニメ第三話で、油断していたマミさんの首をぱっくんちょして殺すという衝撃展開を引き起こした犯人でもある。
マミさんとこの魔女を引き合わせると、原作通りにマミさんが
だからこそ、なるべくマミさんが来るまでに倒しておきたい相手だ。
あと、個人的にこの魔女を使って徹夜で頑張った魔法研究の成果も試してみたい。
「おっと。その前に、まずは雑魚退治しないと」
行く手を阻むように、ナースキャップを被ったネズミのような使い魔たちがわらわらと湧いてくる。
「ちょうど周りに人いないし、新技の試し切りにちょうどいいね」
剣を二十本ほど召喚し、展開。
それらに俺を中心とした円周上を旋回するように命じる。
命令に従い、まるで俺が太陽、剣が太陽系を周回している星々のように縦横斜めとイメージした円の軌道を高速で周回する剣たち。
やがて使い魔たちが間合いに入り、星系を形成している剣の周回軌道に接触した瞬間。
「
使い魔たちへと縦、横、斜め右上、斜め左下……あらゆる角度からの遠隔斬撃が殺到する。
広範囲無差別攻撃の餌食になった使い魔たちは一瞬で微塵切りにされ、消滅した。
剣の旋回速度が速すぎるせいで、傍らから見れば不可視の斬撃が使い魔たちを薙ぎ払っているようにしか見えなかった。
前世で読んでいたワールドトリガーという漫画に登場した武器、黒トリガー
その調子で向かってくる使い魔たちを一方的に微塵切りにしながら暫く結界内を進み続けると、やがて結界最深部へと繋がっていそうな扉を見つけた。
「……よし、行くか」
一度深呼吸をしてから扉を開く。
扉の先は、辺り一面ケーキで覆われた部屋だった。
部屋の中心では、ぬいぐるみのような小さな魔女が椅子に座り、使い魔たちとお茶会をしている。
お菓子の魔女シャルロッテ。その第一形態。
かつて百江なぎさという名前だった魔法少女の成れの果てがそこにいた。
サンリオキャラにいそうな可愛らしい姿をしているからといって、油断してはいけない。
何せこの魔女、倒したと思わせてから脱皮するように口から大蛇のような第二形態を吐き出す奇襲攻撃をしてくる厄介な相手なのだから。
でも、俺はその奇襲の手口を原作知識で知っているから問題なく対処でき――。
「追いついたわ、美樹さん!」
その時、背後から声がした。
「あとは師匠の私に任せて! 魔女の相手は私がするわ!」
マミさんがまどかをお姫様抱っこしながら、猛スピードでこちらに向かってきていた。
え、ちょ、まって、もう追いついてきたのマミさん!?
いくらなんでも速すぎない!?
「一気にいかせてもらうわよ!」
まどかをそっと地面に下ろしてから、マミさんは魔女に向かって突撃していく。
妙に浮き足だっている。やたらとテンションも高い。
前世で見かけたことがある。気合いが入り過ぎてつい空回りする人がおおよそあんな感じだった。
「もう何も怖くない。だって私は師匠だもの。可愛い弟子の前でかっこ悪い所を見せるわかにはいかない!」
おまけに死亡フラグのようなセリフまで……あ、アカン! これ完全にマミさんが
「ま、マミさ――」
「ティロ・フィナーレ!」
死亡フラグを防ごうと声を張り上げたが、爆音に掻き消されてマミさんには届かない。
予想通り、お菓子の魔女へと大砲を撃ち込み、勝利を確信したマミさんは完全に油断していた。
だが大砲を撃ち込まれた瞬間、魔女の胴体が急激に縮み、顔が一気に膨らむ。そして大きく開かれた口から、巨大な蛇のような怪物が吐き出された。
お菓子の魔女シャルロッテ。その第二形態。
そいつは、油断して棒立ちのままのマミさんとの距離を一気に詰め、目と鼻の先でその牙を剥き出しにした。
「え?」
ようやくマミさんが反応したがもう遅い。
回避も間に合いそうにない。
「マミさんっ!」
やらせはせん! やらせはせんぞ! うおー、マミさんも
咄嗟に俺は体の痛覚を切ってから、全速力で飛び込み――マミさんを横に突き飛ばす。
結界内に不快でおぞましい、肉を食いちぎる音が響いた。
へへ、マミさんを守れたなら安いもんだ……腕の一本ぐらい。どうせ秒で治せるし。
♪♪♪♪♪♪♪♪
巴マミは焦っていた。
まどかから病院で魔女が孵化しかけていること、そして弟子のさやかが単身結界に突入したという連絡を受けて、彼女は大急ぎで病院へと向かった。
「ここね」
「マミさん。中でさやかちゃんが……」
「大丈夫。すぐに追いつくわ」
マミは魔法少女へと変身し、結界の中へと突入する。
結界の中はやけに静かだった。おまけに使い魔の気配がまるでない。
「おそらく、美樹さんが使い魔たちを倒したのね」
マミの予想通り、結界内にいたお菓子の魔女の使い魔たちは、既にさやかの広範囲無差別攻撃で全滅していた。
「鹿目さん。少し急ぐわよ」
「え?」
そう言って、マミはまどかの体を抱き抱える。
「は、はわわ……」
「ごめんなさい、でも今は時間が惜しいの」
さやかは、マミにとって可愛くて仕方ない大切な唯一の弟子だ。
グリーフシードを手に入れるため、あるいは魔女や使い魔から人々を守るため。マミはキュゥべえと契約してからずっと戦い続けてきた。
一時は佐倉杏子という魔法少女を弟子にし、一緒に戦っていた時期もあったが、彼女と喧嘩別れしてからはずっと一人。
誰にも知られず、誰にも話せず、誰にも感謝されず魔女や使い魔たちと戦い続ける日々。
そんな孤独で寂しい時に現れた自分に憧れて魔法少女になった少女。おまけに師匠と呼んで慕ってくれたのが美樹さやかという一歳年下の少女だった。
さやかが魔法少女になってくれた時、マミはとても喜んだ。
一緒に魔女と戦ってくれる特別な仲間が。魔法少女の秘密を共有できる特別な友人がずっと欲しかったから。
(美樹さんなら、使い魔相手には苦戦しないと思うけど……)
さやかに秘められていた魔法少女の素質はかなり高い。キュゥべえが言っていた通り、契約したばかりでありながら、さやかは既にマミに匹敵、あるいは凌駕するほどの実力を持っている。
ただ、それでもまだ色々と経験不足の魔法少女であることには変わりない。
実際、さやかは魔女の気配探知などはまだ苦手としている。師匠として教えておかないと、と思うことはまだ山ほどあるのだ。
そんなまだ未熟な弟子を単身危険な魔女と戦わせるわけにはいかない。
一刻も早く、あの子のもとへ。
マミはまどかを抱き抱えたまま、猛スピードで結界内を駆け抜けた。
(どうか無事でいて……美樹さん)
この時、テレパシーを使えばさやかの現状はすぐに確認できた。
しかし、そんな当たり前のことにすら思い至らないほど、マミは焦燥感に駆られていた。
「待ちなさい。この魔女は私が……ッ!? なんで、まどかをお姫様抱っこして――」
「どきなさい! 今貴女に構っている暇はないの!」
途中で険悪な関係の魔法少女・暁美ほむらと遭遇したが、何故かこちらを見た瞬間酷く驚いて動揺し、隙を晒したので余計なちょっかいをかけられる前に魔法のリボンで拘束し放置する。
「待って、待ちなさいっ……巴マミ!」
ほむらの訴えを無視して、マミは先に進む。
さやかが使い魔たちを全滅させていたおかげで、結界の突破はスムーズに進んだ。
「追いついたわ、美樹さん!」
ようやくさやかに追いつくと、彼女はちょうど魔女と対峙していた。
(よかった。無事だったのね美樹さん)
さやかの無事な姿を確認し、マミは心の底から安堵する。
「あとは師匠の私に任せて! 魔女の相手は私がするわ!」
(魔女との戦いは、もう少し魔法少女としての経験を積ませてからにしましょう)
さやかのことを心配するあまり、マミは少しばかり過保護気味だった。
「一気にいかせてもらうわよ!」
魔女がさやかを狙う前に倒す。そう決意したマミはリボンを巨砲へ変化させ、魔女へと狙いを定める。
「もう何も怖くない。だって私は師匠だもの。可愛い弟子の前でかっこ悪い所を見せるわけにはいかない!」
そう自分に言い聞かせながら必殺技の名前を叫び、巨砲の引き金を引く。
「ティロ・フィナーレ!」
これまで多くの魔女たちを倒してきた巨砲の一撃が魔女に直撃する。
その光景を見届けて、マミは勝利を確信した。
完全に油断してしまった。
「え?」
気が付くと、目の前に迫る巨大な怪物。
その怪物と目が合う。
「死」。その一文字がマミの脳裏をよぎった。
「マミさんっ!」
刹那、さやかの悲鳴のような声が聞こえ、横合いからの強い衝撃。
そして、
「美樹……さん……?」
突き飛ばされて助かったマミの目の前で、彼女を庇ったさやかの片腕が怪物の顎に食いちぎられていた。
マミさんが食べられると思った? 残念! 食べられたのはさやかちゃんの腕でした!
次回予告
さやか「剣にこの回復魔法を込めた最強アイテムを一摘み振りかけて……よし、聖剣さやカリバー、解放!」
???「むにゃむにゃ……娑婆の空気が美味ぇのです。ケーキもっと食べたいのです」
QB「この国では、成長途中の女性のことを少女って呼ぶんだろう? だから僕たちは、やがて魔女になる君たちのことを魔法少女と呼んでいるんだ」
※次回以降に備えて『マジカル重曹チート』タグと『映画のネタバレ注意』タグを追加させていただきます。