『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』 作:パスカルDX
第27話 雷神との再会――風神と雷神、久しぶりの再会
妖精の尻尾のギルドに、いつもの喧騒が戻っていた。
昼を少し過ぎた頃。
依頼帰りの魔導士たちが次々と扉を開け、酒を注文する者、仲間と肩を組んで騒ぐ者、テーブルを囲んでカードゲームに興じる者――。
そこには、他のギルドでは決して見ることのできない、妖精の尻尾らしい光景が広がっていた。
そんな中。
一人の少年だけが、少し離れた場所で落ち着かない様子を見せていた。
淡い水色の髪。
灰色の瞳。
薄い水色を基調としたコート。
氷のように儚げな雰囲気をまとった青年――アモール・グラシエ。
つい先日まで、彼は闇ギルドに捕らえられ、その意思を奪われていた。
そして今。
彼の胸元には、妖精の尻尾の紋章が刻まれている。
まだ見慣れない紋章だった。
何度見ても、不思議な気持ちになる。
「……」
アモールは、そっと左肩に刻まれた紋章へ指を伸ばした。
その指先が、わずかに震える。
妖精の尻尾。
自分が正式な仲間として認められた場所。
それは、アモールにとってあまりにも眩しい場所だった。
「……僕が……ここにいても、本当に……いいんでしょうか……」
小さく呟く。
その言葉を聞いていたルーシィが、すぐに振り返った。
「もちろんよ!」
「……!」
突然の返事に、アモールの肩が跳ねる。
ルーシィは笑顔で彼の隣へ歩いてきた。
「あたしたち、もう仲間なんだから」
「で、でも……僕は……」
「まだそんなこと言ってるの?」
ルーシィは腰に手を当て、少し頬を膨らませた。
「アモールは妖精の尻尾の魔導士よ。昨日も今日も関係ない。ちゃんとギルドマスターから認められたんだから」
「……」
アモールは返事をしなかった。
ただ、胸の奥が少しだけ温かくなる。
そこへ、グレイがやってきた。
「ルーシィの言う通りだぜ」
「グレイさん……」
「いつまでも遠慮してると、逆に変だぞ」
「で、でも……僕……」
「だったら、そのうち慣れる」
グレイはそれだけ言うと、アモールの肩を軽く叩いた。
「ここはそういう場所だからな」
短い言葉だった。
けれど、アモールには十分だった。
「……はい」
その声には、ほんの少しだけ笑みが混じっていた。
その光景を少し離れた場所から見ていたフウマも、穏やかに微笑んでいた。
アモールが妖精の尻尾に来た当初。
彼は、とにかく周囲を警戒していた。
誰かが近づけば怯え、少しでも大きな声が聞こえれば身体を強張らせる。
そして何より――。
「捨てられる」
その恐怖を、彼は何度も口にしていた。
闇ギルドに利用された時間。
ドラゴンを探して旅をしていた孤独。
そして、唯一の心の支えだった氷竜ブリドアイとの別離。
それらが積み重なり、アモールの心には深い傷が残っている。
だからこそ。
妖精の尻尾という場所が、彼にとって本当の意味で「帰る場所」になるには、まだ時間が必要だった。
フウマはそんなアモールを急かすつもりはなかった。
ただ、いつか彼自身が笑っていられるようになればいい。
それだけを願っていた。
「……アモール」
「は、はい……?」
フウマに呼ばれ、アモールが顔を上げる。
「今日は少し顔色がいいね」
「そ、そう……ですか?」
「うん」
「……それなら……よかったです」
アモールは照れたように目を伏せた。
その時だった。
――バァンッ!!
ギルドの扉が勢いよく開いた。
「おう」
低い声が響く。
一瞬。
ギルド内の何人かが振り返った。
そして――。
「……!」
フウマの表情が変わった。
入口に立っていたのは、一人の大柄な男だった。
金色の髪。
鋭い目。
黒いコート。
そして、身体から自然と滲み出る強烈な魔力。
雷。
その男は、ゆっくりとギルド内へ足を踏み入れた。
「ラクサス!」
ルーシィが声を上げる。
ラクサス・ドレアー。
妖精の尻尾が誇る最強クラスの魔導士。
そして――。
フウマにとって、誰よりも大切な親友だった。
「……久しぶりだな」
ラクサスが口元を少しだけ上げる。
「フウマ」
「ラクサス……」
フウマは驚いたように目を見開いた。
最後に顔を合わせたのは、かなり前のことだった。
依頼。
護衛。
闇ギルド。
そして、滅竜魔導士探し。
ここ最近は、あまりにも多くの出来事が重なっていた。
そのため、ラクサスとゆっくり話す時間などなかった。
「元気そうだな」
「ああ。ラクサスも」
「見れば分かるだろ」
ラクサスは肩をすくめる。
相変わらずのぶっきらぼうな態度。
だが、フウマには分かっていた。
その目には、懐かしさが滲んでいる。
二人の間に、短い沈黙が流れた。
そして――。
「……会いたかったよ」
フウマが笑った。
ラクサスは一瞬だけ目を細めた。
「俺もだ」
その言葉は短かった。
けれど、二人にとっては、それで十分だった。
互いに歩み寄る。
そして――。
ガシッ。
二人は拳を軽くぶつけた。
「相変わらずだな、風神」
「ラクサスもね、雷神」
「その呼び方、まだ続いてんのか」
「嫌だった?」
「……別に」
ラクサスは顔を逸らした。
だが、その口元にはわずかな笑みがあった。
「おいおい!」
ナツが突然割り込んでくる。
「ラクサス帰ってきたのか!」
「うるせぇ、ナツ」
「久しぶりだな!」
「だから近いっての」
ナツがラクサスに飛びつきそうになるのを、ラクサスが鬱陶しそうに押し返す。
その様子を見て、ルーシィが笑った。
「相変わらずね……」
「そうだな」
フウマも笑う。
その横で、アモールは少し戸惑っていた。
目の前の男から感じる魔力。
それは、アモールが今まで感じたことのないほど強烈なものだった。
雷のような魔力。
けれど――。
不思議と怖くはなかった。
ラクサスがアモールの視線に気づく。
「……ん?」
「……!」
アモールが慌てて目を逸らした。
ラクサスはそんなアモールを見て、少しだけ眉を上げる。
「新入りか?」
「え?」
「ラクサス、この子はアモール」
フウマが紹介する。
「今回の依頼で助けた氷の滅竜魔導士だよ」
「……氷の……滅竜魔導士?」
ラクサスの目が鋭くなる。
アモールの身体が強張った。
その反応を見て、フウマが一瞬だけ心配そうな顔をする。
だが。
ラクサスはすぐに表情を緩めた。
「そうか」
それだけだった。
アモールが恐る恐る顔を上げる。
「……怒らないんですか?」
「何にだ?」
「僕は……」
アモールは言葉を詰まらせる。
「闇ギルドに操られて……みなさんと……戦って……」
その記憶を思い出しただけで、声が震えた。
「僕は……みなさんを傷つけました……」
「アモール」
フウマが静かに名前を呼ぶ。
だが、ラクサスはそれを遮るように口を開いた。
「お前」
「……はい」
「自分で選んでやったのか?」
「……違います」
「なら、それで終わりだ」
「……え?」
ラクサスはアモールをまっすぐ見る。
「操られていた奴に、いつまでも責任を背負わせるほど、このギルドは狭くねぇ」
アモールの目が大きく見開かれた。
「……」
「それに」
ラクサスはフウマを見る。
「こいつが連れて帰ってきたんだろ?」
「うん」
「なら、俺がどうこう言う話じゃねぇ」
ラクサスはアモールの前まで歩いた。
そして、右手を差し出した。
「よろしくな、アモール」
「……」
アモールは、その手を見つめた。
差し出された手。
拒絶するためではない。
殴るためでもない。
ただ――。
握手をするための手。
それが理解できた瞬間。
アモールの目に、じわりと涙が浮かんだ。
「……はい」
震える手を伸ばす。
そして、ラクサスの手を握った。
「よ、よろしく……お願いします……」
「おう」
ラクサスは短く答えた。
それだけだった。
なのに。
アモールの涙が、一粒だけ頬を伝った。
「……あれ?」
慌てて袖で拭う。
「す、すみません……」
「謝るなよ」
ルーシィが笑う。
「泣いたっていいじゃない」
「……でも……」
「だって嬉しいんでしょ?」
「……」
アモールは答えられなかった。
代わりに――。
ほんの少しだけ。
笑った。
「……はい」
その笑顔を見て、フウマは目を細める。
初めて出会った頃には見られなかった表情だった。
怯え。
孤独。
絶望。
それらに覆われていたアモールの顔に、確かな光が戻り始めている。
「よかったね、アモール」
フウマがそう言う。
「……はい」
アモールは小さく頷いた。
その直後。
「おい、アモール!」
ナツが大声で叫んだ。
「氷食えるんだろ!?」
「え……?」
「俺、炎食えるからさ!」
「ナツ、それは張り合うところなの?」
ルーシィが呆れる。
「いいじゃねぇか!」
ナツは笑いながらアモールの肩を叩いた。
「今度、一緒に食おうぜ!」
「炎と氷を一緒にする意味が分からないんだけど……」
グレイが呆れたように言う。
「うるせぇ!」
「うるさいのはお前だ」
「なんだとコラ!」
「やるか!?」
いつもの喧嘩が始まる。
アモールは目を丸くして、その光景を眺めていた。
「……ふふ」
小さな笑い声が漏れる。
それに気づいたルーシィが振り返る。
「今、笑った?」
「え……?」
「笑ったわよね?」
「……は、はい」
「もっと笑っていいのよ」
ルーシィが微笑む。
「ここは、そういう場所だから」
アモールは、ギルドを見渡した。
騒がしい。
うるさい。
喧嘩も起きている。
けれど――。
誰も一人ではない。
誰かが笑っている。
誰かが怒っている。
誰かが誰かを心配している。
それは、アモールが長い間失っていたものだった。
「……妖精の尻尾……」
その言葉を、アモールは噛みしめるように呟いた。
そして――。
「……ここが……僕の……帰る場所……」
「そうだよ」
フウマが答える。
「もう一人じゃない」
「……」
アモールは俯いた。
肩が小さく震える。
けれど今度は、悲しくて震えているわけではなかった。
「……ありがとうございます」
顔を上げる。
そこには――。
満面の笑顔があった。
「僕……ここで頑張ります」
フウマは、その笑顔に静かに頷いた。
「うん」
ラクサスも腕を組みながら、その様子を眺めていた。
「……いい顔になったじゃねぇか」
「ラクサス?」
「なんでもねぇ」
ラクサスはそっぽを向く。
だが、その表情は穏やかだった。
風神と雷神。
久しぶりに再会した二人。
そして新たに妖精の尻尾へ加わった氷の滅竜魔導士。
三人の間に、これまでとは違う新しい繋がりが生まれようとしていた。
しかし――。
ギルドの喧騒から少し離れた場所で。
ヴェロニカは静かにその光景を見つめていた。
アモール。
氷の滅竜魔導士。
彼女が探していた存在の一人。
そして、まだ見つかっていない滅竜魔導士たちは他にもいる。
ヴェロニカは腕を組み、静かに目を細めた。
「……一人、見つかったな」
その呟きは誰にも聞こえなかった。
だが。
彼女の視線の先には、楽しそうに笑うアモールと、その隣に立つフウマがいた。
「……まだ終わりじゃねぇ」
滅竜魔導士探し。
その旅は、まだ始まったばかりだった。
そして――。
この妖精の尻尾という場所に、新たな風が吹き始めていた。
風神。
雷神。
そして氷竜。
三つの力が交わった時、これから待ち受ける運命がどんな形になるのか。
その答えを、まだ誰も知らなかった。
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