『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

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第28話 風神VS雷神――滅竜魔法なき全力勝負

第28話 風神VS雷神――滅竜魔法なき全力勝負

 

 

妖精の尻尾のギルドに、いつもの喧騒が戻っていた。

 

アモールが正式に仲間として迎え入れられてから数日。

 

彼も少しずつではあるものの、ギルドの空気に馴染み始めていた。

 

最初の頃は、誰かが大声を出すだけで身体を強張らせていた。

 

けれど今では――。

 

「アモール! この依頼、一緒に行かねぇか!?」

 

「え……あ、はい! 僕でよければ……!」

 

ナツに誘われれば戸惑いながらも返事をし。

 

「アモール、これ食べる?」

 

「ありがとうございます、ルーシィさん……」

 

ルーシィから差し出された料理を嬉しそうに受け取り。

 

「お前、もっと胸張れよ」

 

グレイにそう言われれば、

 

「……はい」

 

と小さく頷く。

 

ほんの少しずつ。

 

本当に少しずつだった。

 

アモールの中にあった「ここにいていいのだろうか」という恐怖が薄れていく。

 

その様子を、フウマは少し離れた場所から眺めていた。

 

「……よかった」

 

穏やかな声だった。

 

隣にいたルーシィが笑う。

 

「うん」

 

そして、二人が見つめる先。

 

アモールはナツとグレイの言い争いを見ながら、困ったように笑っていた。

 

以前なら考えられない光景だった。

 

その時――。

 

「フウマ」

 

低い声が響いた。

 

フウマが振り返る。

 

そこにいたのはラクサスだった。

 

「ラクサス?」

 

「ちょっと来い」

 

「どこへ?」

 

「外だ」

 

それだけ言うと、ラクサスはギルドの扉へ向かって歩き始める。

 

フウマは少し首を傾げた。

 

「……?」

 

だが、すぐにその後を追った。

 

二人がギルドを出ていく。

 

それを見ていたルーシィが瞬きをする。

 

「何かしら?」

 

エルザが腕を組みながら答える。

 

「さあな」

 

「でも、ラクサスがフウマを呼び出すって……」

 

グレイが二人の背中を見送る。

 

「なんか嫌な予感がするな」

 

「俺もそう思う!」

 

ナツが嬉しそうに拳を握った。

 

「喧嘩なら見に行こうぜ!」

 

「お前はどうしてそういう発想になるのよ!」

 

ルーシィがナツの頭を叩く。

 

しかし――。

 

ギルドの隅で、その会話を聞いていたマカロフは小さく笑っていた。

 

「……やれやれ」

 

「マスター?」

 

エルザが振り返る。

 

マカロフは髭を撫でながら、楽しそうに目を細めた。

 

「きっと、あの二人なりの挨拶じゃろうて」

 

「挨拶?」

 

「そうじゃ」

 

マカロフは何かを察しているようだった。

 

「風神と雷神――あの二人が久しぶりに顔を合わせたんじゃ。言葉だけでは物足りんのじゃろう」

 

「……なるほど」

 

エルザが納得したように頷く。

 

「つまり――」

 

ルーシィが目を丸くする。

 

「フウマとラクサスが戦うってこと!?」

 

「たぶんな」

 

グレイが呟く。

 

その瞬間。

 

「面白そうじゃねぇか!」

 

ナツが立ち上がった。

 

「見に行くぞ!」

 

「だから待ちなさいって!」

 

結局。

 

その場にいたほとんどの者が、二人の後を追うことになった。

 

 

---

 

ギルドから少し離れた草原。

 

そこは、妖精の尻尾の魔導士たちが時々訓練に使う場所だった。

 

周囲に民家はなく、広い草原がどこまでも続いている。

 

風が吹く。

 

草が揺れる。

 

雲がゆっくりと空を流れていく。

 

その中央で、ラクサスとフウマが向かい合っていた。

 

ラクサスは腕を組んでいる。

 

フウマは銀色の長髪を風になびかせながら、静かに立っている。

 

「……それで?」

 

フウマが尋ねる。

 

「何で突然ここに?」

 

ラクサスは口元を吊り上げた。

 

「決まってんだろ」

 

拳を握る。

 

「久しぶりに会ったんだ」

 

その拳に、淡い雷光が走った。

 

「一発やろうぜ」

 

「……やっぱりそれか」

 

フウマが苦笑する。

 

「ラクサスらしいね」

 

「お前も嫌じゃねぇだろ?」

 

「うん」

 

フウマの青い瞳が細くなる。

 

その表情から、先ほどまでの穏やかさが少しだけ消えた。

 

「僕も、ちょうどラクサスと戦いたいと思ってた」

 

「なら決まりだ」

 

ラクサスが笑った。

 

そこへ――。

 

「待て!」

 

マカロフの声が響いた。

 

二人が振り返る。

 

後ろから、ギルドの仲間たちがぞろぞろとやって来ていた。

 

ナツ。

 

ルーシィ。

 

グレイ。

 

エルザ。

 

アモール。

 

ヴェロニカ。

 

その他にも多くの妖精の尻尾の魔導士たち。

 

そして最後にマカロフが歩いてくる。

 

「マスター」

 

フウマが頭を下げる。

 

「どうしてここへ?」

 

「お主らの考えそうなことくらい分かるわい」

 

マカロフはため息をついた。

 

「じゃが、一つだけ条件がある」

 

ラクサスが眉を上げる。

 

「何だ、ジジイ」

 

「ラクサス……」

 

ルーシィが苦笑する。

 

マカロフは慣れた様子でラクサスを見る。

 

「滅竜魔法は禁止じゃ」

 

「……あ?」

 

ラクサスが眉を寄せる。

 

マカロフはフウマにも視線を向ける。

 

「フウマ、お主もじゃ」

 

「分かりました」

 

フウマは素直に頷いた。

 

「滅竜魔法は使わない」

 

「それでいい」

 

マカロフは満足そうに頷く。

 

ラクサスは鼻を鳴らした。

 

「別に構わねぇ」

 

そして拳を鳴らす。

 

「雷魔法だけで十分だ」

 

フウマも微笑む。

 

「僕も風魔法だけで十分だよ」

 

「へっ」

 

ラクサスが笑う。

 

「言うようになったじゃねぇか、風神」

 

「そっちこそ」

 

二人の視線がぶつかった。

 

その瞬間。

 

周囲の空気が変わった。

 

ただの遊びではない。

 

二人とも理解している。

 

目の前にいるのは、自分と同じ領域を歩いてきた魔導士。

 

ラクサスにとってフウマは、親友であると同時に、数少ない本気で競い合える相手。

 

そしてフウマにとってラクサスは、誰よりも信頼する親友であると同時に――。

 

絶対に負けたくない相手だった。

 

「二人とも!」

 

エルザが声を張る。

 

「勝負はあくまで訓練だ。殺す気で戦うな!」

 

「分かってるよ」

 

フウマが答える。

 

ラクサスも肩をすくめる。

 

「当たり前だ」

 

マカロフが手を上げる。

 

「では――」

 

一瞬の静寂。

 

「始め!」

 

その瞬間だった。

 

バシュンッ!!

 

ラクサスの姿が消えた。

 

「――!」

 

フウマの瞳が鋭くなる。

 

直後。

 

轟ッ!!

 

雷をまとった拳が、フウマの頬へ迫った。

 

フウマは身体を捻る。

 

拳が頬を掠めた。

 

同時に、フウマの足元から風が爆発する。

 

「ウィンド・ステップ!」

 

ドンッ!!

 

身体が一気に後方へ飛ぶ。

 

ラクサスが追撃。

 

「逃がすか!」

 

雷をまとった蹴り。

 

フウマは空中で身体を回転させ、その蹴りを紙一重でかわした。

 

そして――。

 

「ウィンド・ブレード!」

 

ヒュンッ!!

 

無数の風の刃がラクサスへ飛ぶ。

 

「そんなもん――!」

 

ラクサスが腕を振る。

 

バリバリバリッ!!

 

雷が爆発し、風の刃を次々と弾き飛ばした。

 

「効くかよ!」

 

「やっぱり簡単にはいかないね」

 

フウマは地面に着地する。

 

ラクサスもゆっくりと振り返った。

 

「当然だ」

 

二人の間に、再び風が吹く。

 

観戦していたナツが目を輝かせていた。

 

「すげぇ!」

 

グレイも腕を組む。

 

「滅竜魔法なしで、あの速度かよ……」

 

エルザは真剣な表情で戦いを見つめていた。

 

「フウマは風そのものを利用している。ラクサスは雷による瞬発力……どちらも一瞬の攻防を得意としているな」

 

ルーシィは固唾を飲む。

 

「二人とも、本当にすごい……」

 

その隣で、アモールも目を離せずにいた。

 

「……これが……」

 

小さく呟く。

 

「風神と……雷神……」

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

ラクサスが地面を蹴った。

 

フウマも同時に動く。

 

二人が真正面からぶつかる。

 

拳。

 

拳。

 

蹴り。

 

肘。

 

互いに魔法を使いながら、至近距離で激しい攻防を繰り広げる。

 

バリィッ!!

 

風圧と雷撃が衝突する。

 

「フウマ!」

 

「ラクサス!」

 

互いの拳が激突した。

 

衝撃波が周囲へ広がる。

 

観戦していた者たちが思わず腕で顔を覆う。

 

「うおおおおっ!」

 

ナツが叫ぶ。

 

「もっとやれぇぇぇ!」

 

「煽るな!」

 

グレイが怒鳴った。

 

だが――。

 

二人は止まらない。

 

ラクサスが右手を突き出す。

 

「雷撃!」

 

轟ッ!!

 

巨大な雷がフウマへ迫る。

 

フウマは両手を広げた。

 

「ウィンド・ウォール!」

 

巨大な風の壁が生まれる。

 

雷と風がぶつかった。

 

バリバリバリッ!!

 

雷が風壁を突き破ろうとする。

 

フウマは歯を食いしばる。

 

「……っ!」

 

「どうした、風神!」

 

ラクサスが叫ぶ。

 

「こんなもんじゃねぇだろ!」

 

「もちろん!」

 

フウマの周囲に風が集まる。

 

風が渦巻く。

 

地面の草が一斉に舞い上がる。

 

「ウィンド・テンペスト!」

 

巨大な竜巻がラクサスを包み込んだ。

 

「――ッ!」

 

ラクサスの身体が宙へ浮く。

 

だが。

 

「甘ぇ!」

 

バリィィィィン!!

 

雷が竜巻を内側から引き裂いた。

 

ラクサスが飛び出す。

 

そのまま一直線にフウマへ向かう。

 

「雷神――」

 

拳に雷が集中する。

 

「――轟拳!!」

 

ドゴォォォン!!

 

フウマも拳を握る。

 

「風撃!」

 

ドンッ!!

 

二人の拳が真正面から激突した。

 

凄まじい衝撃。

 

地面が大きくひび割れる。

 

そして――。

 

二人の身体が同時に吹き飛んだ。

 

「うわっ!」

 

ルーシィが叫ぶ。

 

フウマは地面を転がり、数メートル先で止まった。

 

ラクサスも同じように地面を滑る。

 

二人とも立ち上がろうとする。

 

しかし――。

 

「……」

 

フウマの膝がわずかに震えた。

 

ラクサスも片膝をついている。

 

互いに顔を上げる。

 

そして。

 

「……はは」

 

フウマが笑った。

 

「……へっ」

 

ラクサスも笑う。

 

二人とも、もう一歩も動けなかった。

 

マカロフが静かに二人を見つめる。

 

「そこまでじゃ」

 

「……」

 

「……」

 

ラクサスとフウマは、しばらく黙っていた。

 

そして。

 

フウマがゆっくり立ち上がる。

 

「僕は……まだ……」

 

「俺もだ」

 

ラクサスも立ち上がろうとする。

 

だが、足に力が入らない。

 

「……くそ」

 

「僕も同じだよ」

 

二人は互いを見つめる。

 

そして――。

 

「引き分けだな」

 

ラクサスが言った。

 

フウマは笑う。

 

「うん」

 

二人は拳を前に出した。

 

コツン。

 

拳と拳が軽くぶつかる。

 

「久しぶりに、いい勝負だった」

 

「……ああ」

 

ラクサスが笑う。

 

「やっぱり、お前は強ぇな」

 

「ラクサスもね」

 

「次は勝つ」

 

「僕も」

 

その様子を見ていたルーシィが、ほっと息を吐いた。

 

「よかった……」

 

エルザも頷く。

 

「見事な勝負だった」

 

グレイは苦笑する。

 

「まったく……あれで滅竜魔法なしってんだからな」

 

ナツは悔しそうに拳を握っていた。

 

「俺も混ざりたかった!」

 

「絶対に乱入するな!」

 

エルザの拳がナツの頭に落ちた。

 

「痛ぇ!」

 

ギルドの仲間たちから笑い声が上がる。

 

その中で。

 

アモールは静かに二人を見ていた。

 

そして、ぽつりと呟く。

 

「……仲間って……いいですね」

 

その声を聞いたフウマが振り返る。

 

「うん」

 

ラクサスもアモールを見る。

 

「そうだな」

 

アモールは笑った。

 

今度は、以前のような弱々しい笑顔ではない。

 

心から嬉しそうな笑顔だった。

 

その光景を見て、マカロフは満足そうに髭を撫でる。

 

「これでよい」

 

「マスター?」

 

ルーシィが尋ねる。

 

マカロフは穏やかに笑った。

 

「強さを競い合える友がいる。そして、その勝負を見守る仲間がおる」

 

ギルドの仲間たちを見渡す。

 

「それこそが、妖精の尻尾じゃ」

 

ラクサスは鼻を鳴らした。

 

「相変わらず説教くせぇな、ジジイ」

 

「何じゃとぉ!?」

 

「はははっ!」

 

フウマが笑う。

 

ルーシィも笑う。

 

アモールも。

 

そして、ギルドの仲間たちも。

 

夕暮れの草原に、たくさんの笑い声が響いていった。

 

風が吹く。

 

その風に乗るように、雷の残滓が空へ消えていく。

 

風神と雷神。

 

久しぶりの再会は、互いの強さを確かめる激しい戦いとなった。

 

結果は――引き分け。

 

だが二人にとって、それは敗北でも勝利でもなかった。

 

互いが今も変わらず、背中を預けられる存在だと確かめられた。

 

そして妖精の尻尾にはまた一つ。

 

新しい絆が刻まれたのだった。




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