モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見守る以外には興味ありません 作:九ツ森とむ
オリジナル:ファンタジー/コメディ
タグ:ラブコメ 女主人公 オタク系女子 貴族令嬢 異世界転生? 貴族学園 乙女ゲーム転生?
このお話は、来週から始める長編連載に先立ってサイトの機能や解析の仕組みを確認するために書いたお試しの短編です。こちらの他、アルファポリスなど複数のサイトに同じ内容を掲載しています。
なお長編の方は「小説家になろう」ほかサイトで既に完結している作品で、来週からあらためて連載を始める予定です。
よろしければ、そちらもお付き合いいただけると嬉しいです。
「うわ……マジか…………」
頭を打って意識を取り戻した私が最初に口に出した言葉。侍女が涙ぐんで目の前で『お嬢様!! お目覚めになったんですね……!!』とか言ってるんだけど、その声がなんだか遠く聞こえる。
というのも、私の脳内は今とても混乱していた。だって今、とんでもないことを思い出してしまったから。
私は前世で『
私が何年か前に大好きだった、同人サークルが自主制作で販売している同人ノベルゲームがあった。
いわゆるナーロッパ世界観もの。貴族令嬢のヒロインが選択肢によって色々な攻略対象のイケメンたちと結ばれたり、結ばれなかったり……そのうち王国の秘密や世界の真理に近づいたり……という感じの、最近では割と定番になった雰囲気のストーリー。
元々前ジャンルで少年漫画の二次創作界隈にいた頃からフォローしてた神絵師が、キャラクターデザインとか立ち絵、イラストスチルを担当したってことで体験版をやってみたらめちゃくちゃよかったんだよね。
ダウンロード版もあるというのにわざわざ即売会イベントまで買いに行って神絵師の手渡しでそれを手に入れた私は、残業明けにコンビニ飯片手に、もしくは土日には朝から晩まで外出せずにパソコンに齧りついて、スチル完全コンプリートするまで全ルートをプレイした。
体験版をやるまでは正直ビジュ目当てでストーリーはあんまり期待してなかったんだけど、私はその作品の中でとあるキャラにドハマりしてしまったの。いわゆる最推しができた。
それが、プレイヤーでありヒロインであるユリアの義弟リカルド君ね。本当に健気でずっとユリアを支えていて、彼女のことを一途に想い続けていて……。
なのに彼は、ユリアが親しくなる攻略対象に嫉妬した結果道を踏み外し……自滅してしまう。
私はそれが悔しくて悔しくてほんと……なんでさあ!? あんないい子が報われないなんておかしくない!? リカルド君のルートがあってしかるべきよ!! ないんだけど!! なんで!? って泣いた。部屋で一人で。
まあそれは今の会社に入ったばかりで新人だった頃の話だから結構メンタルも追い詰められてて、涙腺緩かったってのもあると思う。
さて。改めて今の状況を整理しよう。
私の名前はヘルミーネ=ジルバー。領地なし子爵の令嬢だ。
まだ頭の中はまだ混乱しているけど、よくよく集中すれば確かに美音としての記憶と並行するようにこれまで16年間ヘルミーネとして生きてきた記憶もしっかり思い出せる。
王国の名前やひとつ上の学年に在籍するハルトムート王子殿下の名前がヘルミーネの記憶にあって、それが美音の記憶にある『あのゲーム』の設定と一致していた。
ただ困ったことに、美音としてはヘルミーネって名前に憶えがないんだよなぁ……。
ヘルミーネとしての記憶をたどれば、貴族学院で同じ教室にいるユリアの姿が思い起こされる。つまりユリアと同学年の生徒ではあるみたいなんだけどなぁ、モブか……?
だから名のある、いわゆるよくある断罪回避しなきゃいけない悪役令嬢とかではないと思う。
なんだけど……私は自分の断罪じゃなくて、リカルド君の破滅を!! 回避しないといけないんだよ!!
そしてあわよくばリカルド君がユリアへの想いを実らせるところを見たい!
推しカプが幸せになるところをこの目で見たい!!
というか思わず前世って言ってしまったけど、美音として
かといって、足元に魔法陣が現れて光った覚えもないし……だから異世界
そうなるとやっぱり異世界
それはさすがに落ち込む。
最後の記憶は、確か仕事からの帰りだったと思うんだけど……はっきりとは思い出せないなぁ……。
***
それから私はすぐに行動を開始した。
まずは目前に控えた一学期の中間試験の範囲を確実に頭に叩き込むことに集中したおかげで、なんとか学年二位の成績を取ることができた。
ちなみに一位は攻略対象の一人であり、将来天才研究者になる眼鏡イケメン。彼を抜くことはできなかったんだよ、私としてはなんなら一位をとってもいいかなってくらいの気持ちだったんだけど。
ゲーム中でヒロインとして何度答えたかわからない問題だから、もう問題文の最初の何文字かを見た時点で完璧に正答を選べる私に死角はないと思ってたのになー。最後に記述式の問題が出てくるとは聞いてなかった……一位と差が出たとしたらあそこしかないんだけどね。
もちろん私だってそれなりの点を取ったんだと思うよ、そうでなければ二位も取れなかったと思うもの。
そして私は生徒会役員への切符を手に入れた。
この学園の生徒会役員は自己推薦が可能なの。
私が美音としての記憶を取り戻す前のヘルミーネは地味でこそあれそれなりに品行方正だったおかげで、私は学年二位の成績をもって先生方や生徒会のメンバーにも生徒会の新しい役員として快く受け入れられた。
女子生徒の自己推薦は珍しいみたいで驚かれはしたけどね。ただうちは領地なし伯爵家で父が文官だから将来はそういう進路に進みたい、と抱負を述べれば納得してもらえた。
はーこれでとりあえず一安心だね。
なんでかって? リカルド君が来年には学園に入学して、そして役員として生徒会に入ってくるからだよ!
彼との接点を作るため……というかこれ以外に学年が違う彼との接点を作る方法が思いつかなかった。
彼が破滅しないように導いてあげないと!
それから1年生の間にクラスメイトのユリアとも意識的に親睦を深めた。
さすが原作のヒロイン……健気で素直で可愛い。
私は前世でゲームをプレイすることでユリアの視点で物事を見ていたわけで、彼女の好みや興味があること、起こる大体の出来事も予想がつく。だから彼女が困っているときに手を差し伸べたり彼女の喜ぶ贈り物をしたりしていたら、そのうち私とユリアは親友といえる間柄になった。
……まあ、ちょっとずるいかなぁなんて思ったりもしたけど、とはいっても友人を助けたり喜ばせているだけだもの。前世チートを自分の利益のためとか悪いことに使ってるわけじゃないもんね?
特に嬉しかったのは、彼女の家でのお茶会に呼んでもらえたこと。
そう、リカルド君に遂に会えたの……!
生リカルド君は、とにかく最高だった。可愛い少年らしさもあるのに同時にそこはかとない色気もあるんだよな……本当にどういうことなの? 本当に存在が危険です、もちろんいい意味で!
それでもってもう、彼のユリアを見る目がね……すごく優しくて。ユリアも『とても優秀で、自慢の義弟なの』と嬉しそうに言っていてものすごい幸せ空間だった。
……ああもう……二人、絶対に幸せになってほしい……!
そんなこんなで月日は流れ、早くも私たちは2年生になった。
今年入学してくるリカルド君が生徒会に入る前に……私の生徒会改革は、なんとか間に合った。うん、結構必死だった!
というのもリカルド君の破滅ルートのうち最大のものである王子殿下不正冤罪事件は、この生徒会で発生する。
生徒会役員であるリカルド君は会計処理でわざと不正を行って、生徒会長のハルトムート王子殿下にその罪をかぶせようと画策するの。逆にそれがバレて罪に問われてしまう、というのが事の顛末だ。
リカルド君を唆すのは、王子の弟であるまだ幼い第二王子殿下を担ぎ上げようとしている反第一王子派の貴族たち。
第二王子殿下の乳母の実家の公爵家が元締めで、ハルトムート王子を追い落として第二王子殿下を傀儡にして自分たちの都合のいい政治をしたいんだろうね。
原作でのリカルド君はユリアと接近する王子殿下に嫉妬して、悪い大人の甘言に乗ってしまうのだった。
そんなことが起こらないように、私は生徒会の事務の流れを徹底的に改革した。
そもそも……不正が起こるとかそれ以前に無駄が多すぎ……。現代日本OLとしての知識がある私は、何度頭を抱えて叫びそうになって我慢したことか……そりゃこれだけぐだぐだでチェック機能もスカスカなら、ミスも不正もガンガン見過ごされるわ……。
そう、事務の流れをわかりやすくしたら、意図的な不正だけじゃなくてミスも防げるんだよ。人間はわざとじゃなくてもどうしたってミスを犯すものだから。
ちなみに美音は文房具沼の住人でもあったのでついつい『あの文房具があればな……』なんてつぶやいたらそこから新しい文房具が何個も作られてしまったんだよね……。
さすがにパソコンとか表計算ソフトはないよ? でも、かなりよくなったと思うよ。
いや、地味だよ。そろばんとか付箋紙とかホチキスとか……本当にその程度のものなんだけど。
それでもいちいち生徒会長であるハルトムート王子殿下がおもしろがって、しかもその権力を使って頭のいい人たちに丸投げして開発させちゃうもんだからなぁ……。
正直私はそろばんって形しか知らなかったの。でもこういう形の道具で計算ができるはず……って簡単な図を書いただけで、国の頭のいい人たちが使い方まで考えて作ってくれたからね。
だから私もものすごく恩恵にあやかってます。
ちなみに、一番皆にほめられたのがスタンプとスタンプパッド。
いわゆるお洒落文房具のさ、シーリングワックスはあったんだよ? でも、書類に押すゴム印みたいなのがなかった。
だから私はここでも王子殿下にお願いして、少し弾力のある木を加工した木彫りのスタンプと、木箱の表面に張った綿の布に水性インクを垂らして、中に入っている綿からインクが染み出すスタンプパッドを作ってもらった。
そこで、決裁欄とか、可決・否決とか、それから書類ごとに毎度使う予算項目とか……そういうスタンプを作ってもらったらこれがすごく好評でね。逆にこの時代のこの世界にはなかったんだ……って感じで驚いたよ。
まあ、インクがなかなか乾かないから書類をすぐに重ねられないのは面倒かな。スタンプパッド上では乾きにくく押した後は乾きやすい、そういうインクとか、さらに便利にする道具も現在進行系でどんどん研究開発されてるみたい。
***
「ミーネさん、遅くなって申し訳ないわ」
私がユリアの声に気づいて振り返ると、彼女の横にはリカルド君が立っていた。
今日は食堂でユリアと昼食を共にする約束をしていたので、先に席について待っていたんだけどね。
同じクラスなのに、一緒に食堂に行かず『先に行っていて』っていうから何かと思ったらリカルド君を呼びに行ってたのか。
「改めて紹介させてもらえるかしら。今年入学した、義弟のリカルドよ。あなたとは、うちのお茶会で一度だけ面識があるとは思うのだけれど」
「ええ、リカルド様には秋頃のお茶会でご挨拶をさせていただいたわ。ユリアさんがとても優秀なお義弟さんだとその時に仰っていたのを覚えているもの」
「覚えていていただいて恐縮ですジルバー様。改めてシュテルン家の子息、リカルド=シュテルンと申します。ジルバー様には、姉のユリアがいつもよくしていただいていると聞き及んでいます。以後どうぞお見知りおきを」
うっわ~リカルド君、生リカルド君だ!! と興奮する気持ちを抑えつつ、私は令嬢らしくゆったりと微笑んで挨拶を受ける。
「ご丁寧なご挨拶、ありがとう、リカルド様。私とユリアさんの仲です、そしてあなたはその義弟ですもの。どうか私のこともミーネとお呼びになって」
「恐れ多いことですが……よろしいのですか?」
「リカルド、ミーネさんがそう言っているのだもの。あまり遠慮しても逆に失礼にあたりますよ」
「そうですね、姉さん。では、失礼でなければ……ミーネ先輩とお呼びしても?」
「ええ、ええ! もちろんですわ」
ミーネ先輩っ! 先輩呼びだ!?
えっ、どうしよう、可愛い、嬉しいー!
「それならミーネさんもリカルドのこと、様なんてつけて呼ぶのはおかしくないかしら? いっそリカルド、と呼んだらいいと思うわ」
「えっ」
思わず私はユリアを二度見してしまった。
いやいや、まさか、私がリカルド君を呼び捨て? ないないない、それは私の心臓が持たない!
「私はそれで構いませんが……」
「い、いえ。で、ではその……リカルドさん、でどうかしら」
リカルド君はその言葉に、少しはにかんでうなずいて応えてくれた。
それにしても、私が知っているゲームでのリカルド君はもう少し……冷たいというか、人を寄せ付けないクールというかダークというか、そういう雰囲気のあるキャラクターだった。
それもそのはず、彼が入学してくる時点では2年生であるユリアは、既に何かしらのルートに入っていてハルトムート王子をはじめとしたイケメン攻略対象のうち誰かとの恋愛が進展している状況なのだ。
それを祝福できないリカルド君は周りに心を閉ざし、そして悪意のある大人に心を絡めとられて破滅してしまう。
でも、私が知っている限りでは現状ユリアはまだ誰とも恋愛が進展していない。
ハルトムート王子殿下の他にも、あのいつも私とテストで学年トップを争っている天才眼鏡イケメンや、騎士志望のさわやかイケメン、それから若くて優しいイケメン教師など、何人か攻略対象が学園に存在しているのは把握している。ただユリアが彼らと接触しているのは確認できても、彼女が特定の誰かと仲を深めている様子はないんだよね……。
実際可愛くて優しいユリアは学園内での人気は結構高いみたいなんだけど、積極的に声をかけてくるような男子生徒はいない。
…………あ、もしかして。ずっと私と一緒にいるからか? イケメンたちが入る隙がないとか?
そういうこと?
とにかく、リカルド君がまだ闇落ちしてないのは確実っぽい。
今の彼は大好きな姉ユリアと同じ学園に通えることになって、しかもこうして一緒に行動して友人を紹介してもらえて、本当に心の底から嬉しいという表情だ。
……守りたい、この笑顔!
絶対にあなたを闇落ちなんかさせないからね……!!
「それでね、ミーネさん。リカルドは生徒会役員に興味があるらしいのよ。だからあなたのお話が聞きたいって言っていて……」
「あら、そうなのね。リカルドさんは、役員に自己推薦をなさるおつもりなのかしら?」
うん、まあね、知ってたけどね。
「ええ、私は将来は父の役に立ちたいのです。書類の取り扱いなど、領地経営の勉強になると……是非挑戦してみてはどうかと父に勧められたのです」
リカルド君は、ユリアと血のつながっていない義弟だ。
正確に言うと遠い繋がりというか、遠い親戚だね。具体的には、ユリアの祖父の妹の孫なので……つまりユリアの
この国では貴族家の爵位は基本的に男性が継ぐ決まりなので、ユリアとその姉の二人姉妹のシュテルン家に後継者として下位爵位の親族の中から特に優秀なリカルド君を養子として引き取ったという経緯なんだね。
だから彼が言う『父』はユリアの実父のことで、伯爵の期待に応えてユリアの役に立ちたい、と言っているわけだよね。はぁ……うん……本当に、いい子なんだよ……。
「ミーネ先輩は生徒会ではどのようなお仕事をなさっているんですか? たくさんお聞かせいただけると嬉しいです!」
「そうですわね、まず……」
思ったよりもぐいぐい来るリカルド君の新たな一面に驚きつつも、その横で嬉しそうににこにこしているユリアの笑顔にほっこりしつつ。
私はこの二人の幸せを守ることに全力を注ごうと、改めて強く決意した。
その後リカルド君は見事に生徒会役員への自己推薦が認められ、私の後輩となった。
向上心のあるリカルド君への指導は本当に楽しくて、そして度々彼の様子を見たり私に会いに来るという名目でユリアが手作りお菓子の差し入れをくれたりして、それもあってか役員の皆さんたちには『姉弟仲の本当にいい二人だね』と微笑ましい目で見守られていた。
そんな穏やかな日々の中、ある時私がぽろりとリカルド君のユリアへの気持ちに気づいていることを口にしてしまって……その時の彼の慌て様と言ったら、本当に申し訳なかったけど可愛すぎてもだえるかと思った。
「ミーネ先輩は、本当になんでもお見通しなんですね……」
「…………!」
照れ笑いした彼の表情は本当に本当に……なんでスクショ機能がないのか……この瞬間を永遠にしたい……と拝みたくなるほどの、神の作画だった……。
「覚えていてくださいませ、私は心からリカルドさんのことを応援しております。いつの日か、あなたのその想いが成就なさることを願っているんです。……もちろん、ユリアさんには内緒にするとお約束いたしますから、ご安心なさって」
「ありがとうございます、ミーネ先輩。先輩にそう言っていただけるなんて、本当に心強いです」
うーん、笑顔がまぶしい……!
ユリアやシュテルン家との関係もよく、しかも持ち前の能力から考えれば当たり前なんだけど成績優秀で、生徒会役員としての仕事にも意欲的に取り組んでいる……今のリカルド君なら、ハルトムート王子殿下を破滅させるための大人の口車なんかには絶対乗らないだろう。
といっても、油断はできない。
絶対に、そんなルートに進まないようにしなくちゃ。
そう思い至った私は、ゲームの展開を思い出しながらリカルド君を唆す黒幕について調べるため図書館でここ最近の新聞を読み漁る。
そしてその結果……なんとその第二王子を担ぎ上げた貴族家の一派が、なんかもう勝手に自滅していたという事実に行き当たった。
リーダー格の公爵がいたんだけど、そいつが不法行為で爵位を息子に譲らされて領地で隠居させられてるね……。息子は第一王子派で、第二王子派は実質空中分解してるみたい。
あまりに拍子抜けな事態で、おもわず間抜けな声が出てしまったよ。
なお公爵が罪に問われて引退させられた原因を調べていくと、どうやら決定的にお話のルートが変わった原因ぽい出来事をみつけた。
それがどうも、……私が王子殿下にお願いして作ってもらった、木彫りのスタンプが開発されたことっぽいな。
原作では問題の公爵以外にもその手下が何人かいてね、特にリカルド君の実家の寄り親であり原作でリカルド君に不正をそそのかす侯爵家があるんだけど、そこが木製スタンプの材料となる木材を産出する森林豊かな侯爵領なのよ。
どうもスタンプが開発されるまでは領地経営が厳しくて、その問題の公爵家に援助をしてもらっていたみたい。原作ではそういう弱みを握られて、計画への加担を断り切れなかったみたいでね。
それが今回はルート分岐したせいで、スタンプのおかげで領地がすごく潤っちゃってる。
だから援助をしてもらう必要もなくなって、計画に加担する必要もなくなった。
そもそも木製スタンプが国の一大事業になると睨んだハルトムート殿下が腹心を侯爵領に派遣していたんだわ。
そうと把握していなかった第二王子派の貴族が、彼の耳に入る場所で計画について話しちゃったみたいだね……そこから話が回ってしまったと。
侯爵はきっぱり断ったみたいでお咎めなし、逆に公爵が格下貴族家への脅迫強要の罪で指導からの息子への譲爵勧告、まあ実質爵位剥奪だよね。それで計画も一派も、空中分解。
……うん。知らない間に第二王子派、存在自体がなくなってたわ……。
***
季節は冬の終わり。
私やユリアは二年生の終わり頃、そして一学年上の王子殿下が卒業パーティーを迎えるその少し前に貴族学園には衝撃的なニュースが駆け巡った。ハルトムート王子殿下が、幼い頃からの婚約者と婚約解消をしたという正式な発表が国からあったのだ。
詳しい経緯などは発表されず、生徒会の活動で直接の関りがある私たちの前でも殿下はそれには特に触れず普段通りの表情だ。
周りの役員……例えばリカルド君なんかは何か気遣うような言葉を探しているようだったが、うまく言葉にできず飲み込んでいた。
まあ、私はゲームの展開で知っているんだけどね……というのも、これは王子殿下ルートに進んだ時に起こるイベントだから。
彼の婚約者は隣国の王女。国同士の友好を深めるための政略的な婚約であり、殿下も王女もそれに納得していたはずだった。
しかし、王女には自国の貴族子息に想い合う相手がいて……王子の卒業パーティーで正式な婚姻が発表される前にと、駆け落ちをして、捕まった。
その一連の事件を咎めたこちらの国が、向こうの有責で婚約を解消した、というのが真相だった。
王女の駆け落ち未遂については全く噂にならなかった。その代わり、貴族学院では別の噂で持ち切りになる。
それは『卒業パーティーまでに王子殿下が次の婚約者を探している、エスコートを申し込まれたらそのまま王太子妃確定らしい』というものだった。
当然野心のある令嬢やその家族は殿下との接触ルートを血眼になって探っていた。
実際、これまでそこまで親しくなかった令嬢に『ヘルミーネ様は生徒会役員でいらっしゃるんですわよね?』とか言われて、王子殿下とのお茶会をセッティングしろだの言われたこともある。まあそもそも私が王子殿下をお誘いするとかできないと断ったよ、なんで私がそんな面倒なことしなきゃならんのよ。
同時に、想いを寄せる令嬢がいる令息たちは皆すごく焦ったみたい。
『万が一でも王子殿下の婚約者になってしまっては困る』と、それまで行動に移していなかったけれど思い切って想い人にエスコートを申し込んでそのまま告白しちゃう令息たちが続出した。
その結果例年よりもかなりの数、それも卒業生だけでなく在校生カップルがいきなり乱立する事態になって、学園内はこれまでにない甘いムードに染まっていた。
「ミーネ先輩……。その、一つお伺いするんですけど……姉って、今度の卒業パーティーでのエスコートしてくださる相手って決まっているんでしょうか……?」
そんな折に、生徒会執務室で他のメンバーがいない間に小さな声でリカルド君に問われ、私は目を瞬かせた。
「いえ、特には聞いてはいませんけれど……」
そもそも在校生は出席もエスコート相手も必須ではない。
もちろん、出席した方が社交の練習にもなるしいい経験になるとは思うけどね。ユリアも、あまり興味を示していなかったはずだ。
ゲーム原作では、ルートによっては攻略対象にエスコートされて出席したりもするよ。
「俺、思い切って姉にエスコートを申し込もうと思っているんです。もし応じてもらえたら、その時は……自分の気持ちをちゃんと打ち明けたいなって……」
決意を称えた瞳が少し潤む。
もしかしたらユリアはリカルド君のことをただ家族と、弟と思っているだけかもしれない。告白をしたら、その関係が壊れるかもしれないんだ。
だからものすごく勇気がいることだと思う。偉い、偉いよ!
「……そのご決断、素敵ですわ。どうか、お二人が笑顔でいい結果をお聞かせくださることを、心からお祈りしております」
「…………先輩、ありがとうございます」
どうか、どうかうまくいってほしい。
私は神に祈るような気持ちで、彼の言葉にうなずいた。
その数日後、生徒会室に現れたリカルド君から少し遅れて、ユリアが入室してくる。
もう、二人の表情を見ていれば……告白の結果はわかるよ。お互いを見つめる視線が、本当に幸せそうだもの。
元々仲もよくていつも笑い合っている二人だったけれど、そこになんともいえない
手を取り合った二人は共に王子殿下の前へと歩を進め、リカルド君が両親……ユリアの両親にも、リカルド君の実の両親にも了承を得て、ユリアと婚約を決めたことを報告した。室内で執務をしていた役員たちも、仕事の手を休めてその言葉に微笑み暖かい拍手を送る。
リカルド君の傍らではにかむユリアは本当に幸せそうで、拍手を送る私と目が合うと、少しだけ照れたように微笑んだ。
「王子殿下をはじめ、生徒会役員の皆さまには本当によくしていただいたので……一番にご報告したくて」
「そうか……よかったな。リカルドおめでとう」
「ありがとうございます……!」
「ありがとうございます」
リカルド君とユリアが揃って王子殿下に礼を述べた。
その後部屋から退出するユリアを部屋の出口まで送ったリカルド君の後ろ姿、そしてユリアの本当に嬉しそうな笑顔……。私の胸に、熱いものがこみ上げてきた。
……はぁ~……私はこれを見たかったんだよ~……。
ずっとこの光景を見るためにがんばってきた。
もちろんここが二人のゴールじゃない。この後、二人の人生にはきっといろんなことが待っているとは思うけれど……それでも今こうして二人の想いが通じ合ったこと、そしてリカルド君が破滅の道を選ばずちゃんと報われたこと。それが嬉しくて嬉しくて、思わず視界がぼやける。
私はお手洗いに行くと言い残して席を立った。
その日の夕方、侍女が私あての手紙を持って来る。
その差出人は、ハルトムート王子殿下。内容は、呼び出しだった。
***
「突然呼び出してすまない、ミーネ。調子を崩したりはしていないかい? 大丈夫?」
「とんでもありません殿下」
生徒会室に呼び出された私は、執務机の向こうに座る殿下と相対していた。
今日は生徒会活動はお休みの日なので、いつもいらっしゃる殿下の護衛の方が机の横側に控えているだけで他の役員のみなさんんはいない。部屋には、私と殿下と護衛の方の3人だけだ。
それに王族からの呼び出しで一日前ならそれは全然突然じゃないよ、配慮してもらってると思う。
王子は本当になんでもそつなくこなすし完璧イケメンなんだよなぁ……仕事もできるし優しくて顔がよくて隙がない。本当にすごい。
「昨日ミーネの様子が少しおかしかったように感じたから……私の気のせいならいいんだが」
「昨日ですか……? ああ……」
そうかぁ。昨日はリカルド君とユリアの婚約報告に感動のあまり嬉し泣きからの結局お手洗いで号泣してしまって、泣き腫らした顔で席に戻れなくて……そのまま医務室に行ったんだったわ。
それで、体調を崩したと思ったのかな?
「全くなんともございませんわ。ご心配をおかけしたのでしたら、申し訳ございません」
「その…………言いにくいが、リカルドのことは…………残念だったね」
ん? 今、殿下、なんていった?
聞き間違えてなければ、残念……って言った?
「…………?」
あまりにぽかんとした顔をしていた私を見て、今度は殿下が慌てている。
おや、いつも穏やかな殿下が珍しい。
「だって、その、ミーネ、君は…………リカルドを、好いていたのではないのかい?」
「……!?」
思わず、は!? と叫びそうなところを私はすんでのところで抑えた。
偉い。令嬢としてのマナー教育が成功している!
いや、成功していたら驚かずに平静としているべき?
それは無理だったわ。だって、さすがに、…………ない。
「…………あの、殿下……。申し訳ないんですが、それは殿下の思い違いですわ。私、確かにリカルドさんのことは、役員の後輩として、そして友人ユリアさんの義弟としてとても気にかけております。大層努力家ですから仕事の教え甲斐もあり、私には勿体ない後輩ですわ。ですが…………」
「好いているわけではない、と。つまり……異性として見ているわけではないんだね」
「はい、その通りです」
「…………そうだったのか。私はてっきり…………」
あぁ~……なるほど。もし私がリカルド君を異性として好きだったらと仮定したら、そりゃ……ユリアとの婚約報告はものすごく辛いわなぁ……。
殿下は勘違いして、そんな心配をしてくれてたってこと?
勘違いされたことについては迷惑だけど、でも善意だな、これ。
「あの……ですね。私がリカルドさんやユリアさんに向ける感情は……例えるならば、歌劇の登場人物や役者を応援しているような、そういう感覚なのです。もちろん二人とも共に生きている人間ですので少し失礼な表現になるかもしれませんが、あくまでたとえ話として聞いていただけると助かります」
「ほう? ……詳しく聞かせてもらっても?」
「私は、もちろんリカルドさんには好感を持っておりますよ。好いているか嫌っているかで言えばもちろん好いております。ただ、自分が彼と婚約したいとか、ユリアさんが羨ましいとか……そういう感情は全くないんです。むしろ、恋愛ものの歌劇のラストシーンを特等席で見せていただいたような、そんな気持ちです。むしろリカルドさんは以前から私にユリアさんへの気持ちを打ち明けてくださっていて、私は密かに二人の仲を応援していたほどですから」
まさか王子殿下に『リカルド君は
私なりにだいぶ翻訳して言ったつもりなんだけど、伝わったかな……。
「では、昨日の涙は……」
「ああ、やはりお気づきになっていたんですわね、お恥ずかしいことですわ……。……ええ。ショックを受けたわけではなく、感動の嬉し涙を流しておりましたの」
「………………なるほど?」
笑顔で応えた私に、少し疲れたような笑みを返してきた殿下。
その反応の意味がわからず、私は思わず小首をかしげる。
「…………ミーネは、私とイザベラの婚約解消の話は知っているね?」
「ええ、それはもちろん……。国から正式に発表のあったことですから、存じ上げておりますわ」
発表もそうなんだけど、そもそも今貴族学院はその話で持ち切りだしねえ……。
知らない人はいないと思うよ。
「隣国の王女であるイザベラと私は、お互いが幼い頃に国同士の友好のために婚約したわけだが……彼女には、自国に想い合う相手がいるんだそうだ。そう私に打ち明けてきたときの彼女は、本当に決死の覚悟をした表情だった」
そうなのか……。私の知っているゲームでのシナリオでは、殿下の元婚約者イザベラ様は駆け落ちしちゃって捕まってそれで向こうの有責になって……という話だったはず。
この世界線の彼女は駆け落ちをするまで思いつめる前に、ちゃんと殿下に相談したんだね。そして殿下も、その真摯な気持ちをお受け入れなさったということなんだろう。
「世間で色々な憶測が流れているのは私も把握しているけれど、私も彼女もお互いに納得した上での円満な婚約解消だよ。そもそも私たちが婚約を決めた頃には不安定だった国際情勢も落ち着いているし、今更私たちが婚姻を結ぶ必要性も薄いんだ。それに今回私が彼女の意図を汲んで引き下がったことは重々向こうの王家もわかっているはずだから、かの国に大きな借りを作ることもできたしね?」
少し悪い顔で微笑んだ殿下は、一転少し表情を曇らせる。
「だが、今回の私の婚約解消によって、国内貴族の令嬢や令息たちを騒がせてしまっていることについては大変申し訳なく思う。例えばリカルドとユリア嬢のような……私の件が刺激になったことで幸せな結末を迎えたパターンもあるだろう。しかし、親が自分の娘を私と婚約させるためにもう決まっていた婚約を無理に解消させる……なんていう事態も起こっているらしくてね」
あ~……それは……。
確かに殿下は直接は悪くないけど、もし自分の娘が王太子妃になれる可能性があるのならそういう強硬手段に出る貴族もいそうだなぁ……。やな話だねえ。
「だから、ミーネ。私の妃となってはくれないかい?」
「……は?」
だめだ、取り繕えない。
思わず素が出た。
えっ。今どういう話の流れだった? 何が起こって、どうしてそういう結論になった?
だいぶ話の内容がすっ飛ばなかった?
私が、ハルトムート王子殿下の、妃?
いや、無理です。無理でしょう。
王太子妃、ゆくゆくは王妃だよ!? 身分的にも、能力的にも……!
「……ダメかな?」
「あっ、あの……わたくしには、実はもう想い合う相手がおりまして……!」
あまりに驚いて咄嗟に嘘ついてしまった……!
そんな相手、いないんだけどね!
「もしかして、クランツのことかい?」
「そ、そうです!」
クランツっていうのは、私とテストのたびに学年1位を争っているイケメン天才眼鏡だ。
まあ確かに、私の最推しはリカルド君だけど攻略対象の中ではクランツは結構好きだったんだよね……。
うん、殿下、あなたなかなかいい線行ってるよ。
「そうだね……確かに君たち二人はいつも試験の結果で切磋琢磨しているしね」
「そうなんです、それで……」
「でもおかしいな? 彼は先日ヴァルド侯爵令嬢との婚約を発表したところだけれど……」
「えっ」
え、まずい。知らないそんなの。
「これも学内では結構大きなニュースになっているよ。まあ私のような王族とは違って婚約自体が報道されたりするわけじゃないから、興味がない相手のことであれば知らないこと自体はおかしくないけれど……でも」
ええ。そうですね。想い合うくらいに自分にとって大切な相手の、そんな大きなニュースを把握してない。
それは、おかしいですよね……?
「………………」
「……私が言いたいことは伝わったようだね? この件についてはこれ以上追及する気はないから安心してほしい」
あ~嘘がバレてる~。そして見逃されてる~。
あ~カマかけられたのにひっかかっちゃったよ……。動揺していたとはいえ迂闊だった。
殿下はふう、と一つため息をついた。
「……イザベラが僕に彼への想いを打ち明けてきたときは、正直とても驚いた。それでも心から想い合う相手がいること、そしてその相手と一緒になること。それはきっと何事にも代えがたい尊いことなんだろうと、うらやましく思ったものだよ。だから私も、この際自分の気持ちに正直になってみようかな……なんて、そんな欲が出てしまった」
自分の、気持ち……。
うん、それって、どういうこと? この話の流れだと、まさか私が殿下の想い人っていう話にならない?
「…………ミーネ、君のこれまでの功績は本当に素晴らしい。見直しした事務作業や会計処理の仕組みや、君が発案した道具は今やこの生徒会のみならず国を支える文官たちになくてはならないものばかりだ。私はいつも、君のその発想力に驚かされているんだよ」
「その……恐縮です…………」
違うのよ……私は推しのリカルド君を闇落ちさせないためだけに、そのために事務作業を効率化してただけなの……! その副産物なんだよ、それも前世知識チートを使ってたわけだし……!
でも言われてみればそうだ、私の発想を拾って仕組みを採用したり、道具を作ってくださるよう手配してくださったのはいつもハルトムート殿下だったわ。
そりゃあ生徒会長だし王子だし……ってあまり深く考えずにずっとお世話になってたんだけど、もしかして……殿下って、ずっと私を特別扱いしてた……?
「はじめは、とても面白い発想をする令嬢だなと思っていた。そもそも、女子生徒が自己推薦でわざわざ生徒会の役員として入ってくる時点でかなりの変わり者だ。その上、成績はいつも学年3位以内をキープしている。そしてどんどん仕事を効率化していって、便利な道具を生み出して行って……なのに君はいつも謙虚で、自分よりも周囲の人間のことを考えて皆の仕事がやりやすいように立ち回っている。私はいつの間にか、君を目で追うようになっていたんだよ」
おっと、これはかなりストレートな口説き文句が来たな……!? でも、殿下……本当にごめんなさい……!
外見は17歳でも中身がアラサーの私は、高校生くらいの年齢のあなたに愛を囁かれても、…………正直、無理。
若い子がこんなアラサーの私に言い寄って大丈夫なのかなって心配になるし、もっと若い子と一緒になった方がいいんじゃないのかなっていう罪悪感の方が勝ってしまうんだよね……。
……ああでも……殿下ご自身が決して悪いわけじゃないし、ましてや私は中身がアラサーですなんて言えないし……これ、本当にどうしよう。
「……そして気づいたんだ。君の、リカルドを見る優しい目に……」
「あ、あぁ~……」
まあ、確かにね。優しい目というか、憧れの推しを見る目で、ある意味ではすごく特別な相手として……そういう視線を向けていたとは思う。
それに実際リカルド君も私にすごく懐いてくれていたしな……それは私が、彼が大好きなユリアの友人だからなんだけど、そんなこと知らなければわからないもんね……。
「そして私自身も、政略の相手とはいえイザベラという婚約者がいる身だっただろう? そして君がリカルドを好いているのなら……この気持ちは自分の心だけに秘めておこう。ずっとそう思っていたんだよ」
でも、今や殿下自身はご婚約が円満に解消されてフリー。
でもって私がリカルド君を好きということも勘違いだとわかった。
つまり? うん、そういうこと?
「ヘルミーネ=ジルバー殿」
椅子から立ち上がった殿下は、混乱して立ち尽くしている私の前に膝をつく。
「どうか、私の想いを受け入れてはもらえないだろうか」
殿下が私の手をとり、手の甲にキスをしようとして……そこで私の意識は、ぷつりと途絶えた。
***
「…………はっ」
頭ががくりと下がり、私の意識は浮上する。
隣に座っていたスーツの女性が少し身じろぎし、思わずそっちを見ると少し迷惑そうな表情でこちらを見ていた。
どうも私は彼女の鞄にもたれかかって寝ていたみたい……申し訳ないです。
電車の現在地は私が降りる駅の二つ前。乗り過ごしてしまうほど、長い時間寝ていたわけではないみたい。
……なんとなく、すご~く長い夢を見ていた気がするんけど、ちゃんと思い出せないな……。
気分としてはなんだか二年間くらいの生活をしてきたくらいの感覚だ。
はぁ、とため息をついてスマホのロックを解除する。
最後に開いていたSNSの画面が表示されて、私は手癖ですぐにフィードを更新する。
神絵師……昔いたジャンルの頃からフォローしっぱなしになっているんだけど、彼女の新規ポストが私の目に飛び込んできた。
「えっ」
思わず声をあげてしまい、慌てて口を押さえる。
そこに記されていたのは、昔大好きだった同人ノベルゲームに追加ルート入りのリメイク版が出るというお知らせ。
発売からもう何年も経ってるけど、ふーん、……うん、追加ルート……えっ、追加ルート!?
そこには『攻略対象キャラクターが大幅追加!(既存・新規含め)』っていう文字の下に、何人かのキャラクターのシルエットだけが並んでて…………。
あぁ~この髪型。知ってる……!! 見間違えるはずない、だって……私の最推しの彼だもんね!?
えっ、これ、夢じゃないよね……!?
一度深呼吸して心を落ち着かせてから、もう一度お知らせを読み返す。
リメイクなので続編や完全新作というわけではなく、お話の大筋自体は変わらない。
ただ既存ルートも途上のイベントが増えてシナリオもボリュームアップ、スチルや立ち絵も新規追加されて、更に攻略対象も増えて新キャラなんかも出るみたい。
……ははーん、なるほどね、理解した。これは、……あれだよ。
マジかぁ~生きる希望が生まれた~ありがてぇ~マジで生かされてるわ、私……!!
更にお知らせの続きには、予告として一部の追加新キャラクターの立ち絵が並んでいた。
興奮していた私は、その中にヒロインの友人という設定の栗色の髪の少女がいることについて気に留めることはなかった。
ーFINー