───大海原 新世界海上
船の真ん中にある船室を突き抜けるマスト。その下の船室の屋根の部分に足を放り出して座る志々雄は、ログポースを傍らに置いて指針を見ながら煙管を吹かす。
「フゥ〜〜〜」
「───あ!真実、何してるのよそんな所で」
「進路を見てる」
志々雄が天上金を強奪して数日が経過した。奪った天上金は半分が志々雄の物、残りは九蛇海賊団の物となった。というのも、莫大な量の金が船室の空き部屋に全ては収まりきらなかったのだ。しかし、奪った手前海軍に返しても豚の物になるだけで、それは志々雄の意に反する。
ならば、結果的に船長を引き抜くような形になった九蛇海賊団に餞別として、渡してやろうと思って渡したのだ。
「それより、良かったのか…?」
「?何がかしら?」
「会ったばかりの俺に着いてきた事だ。勧誘したでもなく、メリットがあった訳でもない…。まァ、お前が俺の船に乗った理由は察してはいるが……俺の野望に着いてくるなら、命の危険が五万とあるんだぜ?」
「………」
頬杖をつき、ニヤリと笑っている志々雄が上から見下ろしている。だが、問い掛ける際の目は真剣そのもの。
事実志々雄は、この問答の答え次第で本当に仲間として迎え入れるか、何処かの島で降ろすかを決めようと考えている。これは、曲がりなりにも数日を共に過ごしたグロリオーサへの、志々雄なりの情の表れだ。
世界の王を目指す志々雄がこれから歩む道は、茨の道そのものであり、引き返す事は出来なくなる。だが今ならまだ、志々雄の仲間と知れ渡っているわけでもないので、引き返すのは容易だ。そう思ったからこそ、志々雄からの最後の問い掛け。
それを志々雄の真剣な表情から如実に読み取ったグロリオーサは、暫くの沈黙の後に口を開く。
「──ふざけないで!!私の真実への愛がそんなもので揺らぐとでも!?そんな覚悟、疾うの昔に決まってるわッ!!!」
「───ッ!!……フハハハハハハハァッ──!!そうだな。悪かった、もう言わねぇよ。……その代わり、俺の隣で見届けろ!俺の征く覇道の最果てを……!!!」
「////──ええ!」
グロリオーサにとっては既に決まりきった事。それを今更聞かれて怒声を上げる。その時の気迫には、流石の志々雄も驚いた。何故なら、今のグロリオーサは間違いなく覇王色の覇気を発していたからだ。
だがすぐに面白いと、大笑いした志々雄が屋根から飛び降り、右手でグロリオーサの腰を抱いて引き寄せる。そして、自信に満ちた不適な笑みでグロリオーサの顔を覗き込む。
その表情に完全に魅入られたグロリオーサは、頬を紅く染めながら力強く頷いた。
「詫びと言っちゃあなんだが、今晩は俺の寝床に来い」
「──え?」
続けた俺の言葉に呆然とするグロリオーサ。だが、段々正気を取り戻してきたグロリオーサは、今度は動揺で言葉が出てこない。
「な…なななななっ…//////!!そ、それって──」
「フフフ、楽しみにしてろ」
「──え、えぇ////」
真っ赤に染まった顔で返事をするグロリオーサ。その顔はなんとも幸せそうで何よりだ。それを横目で見ていた俺は、次に渡そうと考えついていた物のある場所へ行こうと歩き出す。
「それから、渡そうと思ってる物がある……!お前に合うだろうと思ってな、ついてこい…!!」
「////───分かったわ、真実」
そう言って船室に入った俺に着いてきたグロリオーサを伴い、向かった部屋は刀剣収集部屋。ここには俺が今まで集めてきた刀剣があり、その内の一つを渡そうとここに赴いた訳だ。
その中で、特に位列の高いとある殺人奇剣の前に立ち、手に取った。
「殺人奇剣─薄刃乃太刀。大業物二十一工の内の一つでな、俺のコレクション最高の一太刀をお前にやる!!!」
「………これを?」
「あァ、使いこなしてみせろ……!!」
鞭のようにしなり、刀とは思えない軌道で相手を切り裂く薄刃ノ太刀。その、俺のコレクションの中でも最高の一太刀を手渡した。それを受け取る時のグロリオーサは、真剣そのものだ。
「外で振るってみるか?」
「……そうね、早く戦闘に使えるように慣れておかないといけないわ!」
試すかと聞いた俺に頷くグロリオーサ。これから先、戦闘でも使っていく以上早く扱いこなせなければならない。早速やるかと、扉を開けて外に出る。
「──よし!やるわ!」
「──あァ、だが気を付けろよ?そいつは刀ってより、切れる鞭って考えた方がいい…。中々扱いづらい暴れ馬で、結局俺も使う事はなかった……」
早く試したくてうずうずしているようで、早速振るおうとするグロリオーサに、俺は忠告する。その忠告にグロリオーサは、頷いて納得する。
「確かに刀って形じゃないものね……。分かったわ、気を付ける!」
「こっちには来ても、俺が弾いてやるからそれは気にせずやりな」
「ありがと。──ふっ!!」
俺は、間食の握り飯を食いながら見守る姿勢を取る。それに礼を言ったグロリオーサが一太刀めを振るったが、狙った方には向かわなかった。それどころか反対側の船室の方に刃が飛んでいき、壁に突き刺さる前に俺が弾く。握り飯を片手に持ちながら。
「あっ、ごめんなさい!」
「──構わねぇよ。それより集中しろ、難しいって言っただろ……」
制御を誤った事に謝るグロリオーサに、俺はそれよりもとアドバイスを送る。そして、樽の上に腰を掛けて握り飯を食った後、今朝買ってそのままにしていた新聞を手に取った。
「──ほう?流石にあれだけ派手にやったら、見出しを飾っちまうみてぇだな……」
表紙の見出しには、こう描かれていた。
──ロックスに続き二度目!!今度の天上金強奪者の名は、志々雄真実!!!
大層デカく描かれている見出しは、一発で目につく。世界経済新聞社──世経が、民衆の興味を惹くように描いているのがよく分かる表紙に、思わず感心させられた。いつもは、政府の思惑があったり世経そのものが捏造したりと、努力しているのだ。所謂情報操作であり、今回もそれがあるかと俺は思っていた。
だが、今回は真実しか載せていないようで、軍艦四隻を沈めて中将一人殺したことも記されている。どうやら、最後覇王色で気絶させただけの海兵から詳細を聞いたようだ。
「で、これが俺の手配書か……!!」
とうとう出た俺の手配書は、初頭にしては異例な程の高額な賞金が掛かっていた。
──新世界、とある海域。
「ヴォハハハッ!!!こいつァ面白ェ」
航行中の船の甲板で、今朝出たばかりの新聞と手配書を見て爆笑している一人の男がいた。
男の名は──ロックス・D・ジーベック。二年程前に聖地襲撃と海軍大将の殺害事件を起こし、続けて天上金強奪事件も起こした今の海を騒がせている男だ。
「おい、見ろよニューゲート!この志々雄って奴ァ、相当イカれてやがるぜ!!」
「あァ?………おいおい、軍艦四隻沈めて中将殺して天上金強奪だと?イカれてるなんて次元じゃねェだろ……」
一頻り笑ったロックスは、少し離れた所で酒を飲んでいた、現在もう一人だけいる船員の男─エドワード・ニューゲートに、手配書と新聞を見せた。
その記事と手配書の額を見たニューゲートは、眉を顰めて呆れたように肩を竦めた。そこに描かれていた志々雄の懸賞金額は──
『“煉獄龍”志々雄真実 懸賞金8510万ベリー』
──初頭手配で八千万超えは通常あり得ない金額だ。しかし、今回志々雄が起こした事件は、そのあり得ない事なのだ。それに、今回はロックスに続いて二回目の天上金強奪。その為天竜人の使える金が減っており、その事に天竜人が大層怒りを募らせた事も、金額が上がった要因だ。
「確かになァ…。だが………俺の野望にはこういう奴がいるんだよ!!」
「……行くのか?勧誘しに」
「ヴォハハ!勿論だ!!プロデンス王国近海って話だよな!?今すぐ行くぞォ──!!」
ロックスの野望成就には、志々雄の様な輩の力は必要不可欠。故に、ニューゲートの問いの答えは、当然今すぐ行く。幸い何処の国の天上金が奪われたのかも記事に載っており、そのプロデンス王国を出港した後で志々雄が襲ったのだ。
こうして志々雄の現在地を大まかに把握したロックスが、プロデンス王国方面に向けて船を進めるのだった。
俺がグロリオーサに薄刃乃太刀を渡してからは、その特徴的な刀の扱いを習熟させる為に、暇な時はいつでも振るっている。そのおかげで、止まっている的には既に百発百中。
よって今は、動く的に当てる修行をしている。動く的とは俺の事で、それなりに速く動いている俺に当てるのにグロリオーサは、かなり苦戦をしている最中だ。
「フハハ、どうした?……この程度の速度に当てられねェようじゃあ、実戦じゃ使い物にならねェぞ!!」
「分かってる……わっ!!!」
「!!!」
笑いながら回避した筈の刃が、直角に曲がって俺を追ってきた。ここに来て初めてきた追撃に、無限刃を抜いて弾こうとしたところ、更に刃の軌道が変化した。
地面スレスレを這い、まるで蜷局を巻くように俺を包囲する。完全に切られないようにするには、真上に回避するのが最善だと俺は判断し、跳躍した。
「フフッ♪これなら──どうッ!?」
だが、そんな俺の行動をグロリオーサは予想済みだったらしく、罠に掛かった獲物を仕留めるが如く笑い、刃を操った。
そして、本当に蛇が蜷局を巻いた様な状態になった刃の鋒が蛇の頭のように持ち上がり、俺を突き刺そうと追ってくる。
「これは……!!」
──躱せそうにない。少なくとも、空中での移動手段に飛行がない者は咄嗟の回避は出来ず、直撃するか受け止め弾くかのどちらかしか防ぐ方法がない。それとて、踏ん張りの利かない空中なら押し負ける可能性も高い。十分戦闘でも通じる良いコンボ技と言える。
「ッ!!……危ねェ」
鋒が直撃するコースを弾いて反らし、着地する。初めて無限刃を抜かなければならない事になった。これは確実に、手にしたばかりの頃より格段に上達している証拠だ。
「今のは良かったぜ?グロリオーサ!少しヒヤッとした……」
「──本当ッ!?なら、良かった!上手く扱えるように頑張った甲斐があったわ!!」
良かったのもヒヤリとしたのも事実。それを俺がほめてやると、グロリオーサは飛び跳ねて大喜び。正に全身で喜びを表現しているのが分かる程だ。
ここで一段落した俺は、昼飯にしようかと提案しようとした瞬間、巨大な覇気の持ち主が接近してきているのを感じ取った。
「さて、それじゃあ昼飯に──ッ!!」
「?──ッ!!」
二人ほぼ同時に感じ取ったのは、覇王色の覇気。それも今まで感じた事がない程の大きな物。その側にはもう一つ、最初に感じた方よりは弱冠弱めだが、同じ覇王色。俺もグロリオーサも、最大限警戒しつつ覇気を感じる方向を見据える。
「ヴォハハハハハハ!!──手配書と同じ顔!見つけたぜ!!お前が志々雄真実だよなァ!?」
近づいてくる俺達の船よりも大きな帆船。その船首で笑っている男の顔を見れば、それが何者かが一目で分かった。
「………ロックス・D・ジーベック…!!」
2〜3年程前に聖地襲撃と大将殺し、そして天上金強奪で一躍有名人になった大海賊。俺のONEPIECE原作知識には、ロックスの素顔とロックス海賊団に関する詳細な知識はない。口振りからして、俺が目当てだったのは明白。その目的は何なのかを大体察しながらも、一応問い掛ける。
「あんた程の有名人が俺に何の用だ?まさか……勧誘でもしに来たか?」
「そのまさかだ!俺の名は、ロックス!単刀直入に言うぜ?──俺の船に乗れェ、志々雄ォ!!」
ロックスの最終目標が俺には分からないが、あれだけの事件を起こした後の接触となれば、俺の力を欲している可能性が高い。そう思って問い掛けたのだが、案の定だった。
そうと決まれば、俺の返す答えは決まっている。
「生憎と俺は…俺より弱い奴には従わねェ…!もし俺の力がどうしても欲しいってんなら──俺をぶっ倒して従えてみろォ!!ロックス!!!」
「ヴォハハッ!面白ェ!!何が何でも従えてやらァ──!!!」
「!!!」
後に、一部の者のみが伝説として語る男──ロックス。そんな男と刃を交えられる機会など、ここを逃せば一生ないかもしれない。その上、俺より弱い者に従うのは性に合わない。
そしてロックス自身もまた好戦的な性格らしく、俺の言葉に嬉しそうに笑って剣を抜いた。俺とロックス、互いに覇気と力を込めた刃が新世界の海上で激突し、その激しい衝撃に周囲の海が波打つのだった。
感想、誤字報告、お気に入り登録、高評価、どれもして頂きありがとうございます!
グロリオーサの覇王色に関しては、私の独自設定です。ビッグマム、ハンコック、ヤマトくらいしか女性で使える者がいませんが、もう少し居てもいいんじゃないかと思ったので今作では使えるようにしました。
グロリオーサは、ハンコックより前の九蛇の皇帝であり、経歴的には持っていても可笑しくないのではないかと思ったので。
それと、志々雄の原作知識はエルバフ編でロックスが登場するより前までです。大体、神の騎士団の存在が登場した時くらいです。