ガートルード・ロックハートの慨嘆 作:スマイル
秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ
壁に恐ろしい文字が鈍い光を放って塗り付けられ、ホグワーツ管理人の飼い猫が、松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がっている。
「継承者の敵よ、気をつけよ!次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」
静寂を突き破ってスリザリンの宿敵ドラコ・マルフォイの声が響き渡る。ハリーは茫然として硬直していた。
「なんだ、なんだ? 何事だ?」
マルフォイの大声に引き寄せられたに違いない。ホグワーツ管理人のアーガス・フィルチが肩で人混みを押し分けてやってきた。石のように動かないミセス・ノリスを見たとたん、フィルチは恐怖のあまり手で顔を覆い、たじたじと後ずさりした。
「わたしの猫だ! わたしの猫だ! いったい何が?」
金切り声で叫んだ。そして飛び出した目でハリーを見た。
「おまえだな!――おまえだ! おまえがわたしの猫を殺したんだ! あの子を殺したのはおまえだ! ……俺がお前を殺してやる……!」
「アーガス!」
ダンブルドア校長が他に数人の先生――グリフィンドール寮監で「変身術」担当のマクゴナガル先生、スリザリン寮監で「魔法薬学」担当のスネイプ先生、それにロックハート先生――を従えて到着した。ダンブルドアはミセス・ノリスを
「アーガス、一緒に来なさい。ミスター・ポッター、ミスター・ウィーズリー、ミス・グレンジャーも」
「校長先生、私の部屋が一番近いです。ご自由にお使いください」
「ありがとう、ガートルード」
人垣が無言で割れ、一行を通した。
ロックハートは部屋に入り、杖を振った。蝋燭が灯る。もう一振りすると、部屋の壁面は殺風景な真っ白いカーテンに覆われ、羊皮紙の束や本の載った机が消え、毛布の敷かれた机とひじ掛け椅子が現れた。
ダンブルドアは、ミセス・ノリスを机の上に置き、調べ始めた。半月形のメガネが光り、折れ曲がった鼻先が毛先にくっつきそうなほど近づき、指や杖で丁寧につついた。マクゴナガル先生も目を凝らして見ていた。スネイプは奇妙な表情で漠然と立ち、ロックハートは壁にもたれかかり、右手を顎に添え黙りこくっていた。ハリーとロンとハーマイオニーは、椅子にぐったり座り込んだ。
フィルチは手で顔を覆ったまま、激しくしゃくりあげていた。生徒を憎み常に罰則を与えようとしてくるフィルチのことが、ハリーは他のホグワーツ生と同様に大嫌いだったが、この時ばかりはちょっとかわいそうに思った。――しかし、犯人だと疑われれば間違いなく退学になる自分のほうがかわいそうだ。
ダンブルドアは不思議な呪文をつぶやきながら、杖で軽く叩く。ミセス・ノリスはつい先日剥製になったばかりの猫のように見えた。
ダンブルドアがようやく体を起こし、やさしく言った。
「アーガス、猫は死んでおらんよ」
「死んでいない?――それじゃどうして」
「石になっただけじゃ」
ダンブルドアは静かに言う。
「ただし、どうしてそうなったのか、わしには答えられん……」
「あいつに聞いてください!」
「二年生がこんなことをできるはずがない」
ダンブルドアはきっぱりと言った。
「高度な闇の魔術をもってして初めて――」
「あいつだ!」
フィルチは吐き出すように言った。
「あいつが壁に書いた文字を読んだでしょう! あいつは見たんだ。――わたしの事務室で――あいつは知ってるんだ。わたしが……わたしが……!」
フィルチの顔が苦しげに歪んだ。彼の人生の苦渋がまるごと詰まった言葉が絞り出される。
「わたしができ損ないの『スクイブ』だって知ってるんだ!」
「……僕、ミセス・ノリスに指一本触れていません! それに、『スクイブ』が何なのかも知りません!」
みんなの目がハリーに集まった。
(スクイブ――魔法族の家に生まれながら魔法を使えない者にたいする呼称、蔑称を、魔法界で育っていないハリーは知らなかった。)
フィルチは歯噛みし睨みつける。
「バカな!『クイックスペル』から来た手紙を見たくせに!」
「校長、一言よろしいですかな」
スネイプの声がして、ハリーの不安がつのった。この教師は入学当初から、ハリーを憎んでいる。ハリーに有利な発言をするはずがない。
「ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな」
口元を歪めて冷笑するスネイプ。
「とはいえ、連中が三階の廊下にいた理由は疑わしい。なぜハロウィーンのパーティに参加しなかったのか?」
三人は一斉に「絶命日パーティ」の説明をはじめた。
(三人とて、ハロウィーンの豪勢な宴を休み、「自分の死んだ日を祝う」ゴーストの陰惨きわまりないパーティに参加したいわけではなかった。しかし、グリフィンドールの寮憑きゴースト「ほとんど首無しニック」のたっての頼みを断れなかったのだ。ハリーはちょうど、フィルチの魔手からニックに救ってもらったばかりだった)
「――ゴーストが何百人もいましたから、私たちがそこにいたと証言してくれるはずです」
「――それではそのあとパーティに来なかったのはなぜかね? なぜあの廊下に?」
スネイプの暗い目が輝く。間の悪いことに、ロンの胃袋がゴロゴロ鳴った。
「ゴースト向けに腐敗させた食物で腹が膨れるとも思えんが?」
「それは――つまり――」
ハリーの鼓動が暴れる。「自分にしか聞こえない声を追っていた」と言うのはあまりに唐突でないか? この前はロックハートが信じてくれたが――。
「お前はまたコソコソと隠し事をしている。校長、こやつの権利を一部――グリフィンドールのクィディッチチームでプレイするとか――取り上げるのがよろしいのでは」
「――ハリー」
マクゴナガル先生が抗議の声を上げる前に、そこでロックハートが初めて声を出した。ロックハートはハリーのほうまで歩き、ハリーと目線が合うようにかがみこんだ。
「正直に我々に話してくれませんか。非常事態です。我々には情報が必要です。少なくとも私は――」
そこでロックハートはスネイプをちらりと見た。ハリーに目を戻し、真剣な表情で言う。
「――私は君がしでかしたわけがないと信じています。万が一に仮に君の魔法だとしても故意のはずがない」
ハリーの喉に熱いものが込み上げた。
「それにもし君が、パーティの裏で校則の二つや三つ破っていた最中に目撃してしまったのだとしても――」
そこでロックハートはマクゴナガル先生とダンブルドア校長をちらりと見た。
「私以外には聞こえることがなく、したがって君たちは退校処分にはなりません」
マクゴナガル先生は目を閉じ、唇を真一文字に結んだ。ダンブルドアは微笑んだ。
「それに君は勘違いしてるかもしれませんが、現状で疑いが濃いのは君よりむしろ私です。生徒よりは教師のほうが力があり、教師の中で最も新参者の目立ちたがりですから」
「先生はこんなことしないでしょう!」
「ありがとう、ええ、私もそう信じています。ですから私を助けると思って、何をしていて何を見たのか、君の記憶を正確に教えてください、ハリー」
ロックハートは穏やかに言った。ハリーは堰を切ったように話し出した。
「僕、また声が聞こえたんです。玄関ホールのところで、『腹がへったぞ ――殺してやる――』って。先生の部屋で聞いた声と同じの。それで声を追いかけてたら――」
「ありがとう、ハリー。とても有益な情報です」
ハリーが話し終えると、ロックハートは目礼して立ち上がり、ダンブルドアと目くばせをした。ダンブルドアは短く頷く。
「三人とも、すまぬがちょっと職員会議をするから、休憩を取っておいてくれぬか。お腹も空いたじゃろう」
ダンブルドアが杖を振ると、机にサンドイッチと「魔女かぼちゃジュース」のボトルが現れた。
陽気な音楽が鳴り始め、教師たちが何を話しているのか、ハリーには分からなくなった。
「――ミネルバ、あなたの見立てはどうかな? 猫がいかにしてこうなったか」
ダンブルドアがマクゴナガルに尋ねる。マクゴナガル先生は首を横にふる。
「このような『変身術』は見たことがありませんわ、アルバス。死んではいなくとも『生』が凍結されているようにも見える」
ダンブルドアはスネイプに目を移す。
「セブルスはどうじゃ」
スネイプは肩をすくめる。
「わかりかねますな。あるいは魔術の失敗した痕跡かもしれない。どのみちたしかにポッター小僧にはこのような『闇の魔術』を扱えるはずもないでしょうが」
ダンブルドアのブルーの瞳が、ロックハートのそれをキラリととらえる。
「ではガートルード。おぬしの記憶を辿ると、何か心当たりがあるかな?」
「いいえ、校長」
ロックハートは静かに答える。
「強いて近いものを挙げれば、ワガドゥグーの魔術師の異形変身拷問の呪いですが――命を保存したまま恒久的に『石』にしてしまう呪いがあるとは、マグルの御伽噺にしか――」
ロックハートは鋭い視線を送り返す。
「――校長は、『何者』が『どうやった』か、お心当たりが無いものでしょうか?『継承者』、『秘密の部屋』、ハリー・ポッターにのみ認識できる声。――あるいは昨年のクィレルの件は無関係でしょうか?」
「残念ながら、わしの推理はどちらもまだ妄想の域を出ぬ、ガートルード」
ロックハートは目を細める。
「では『闇祓い』本部と『呪い破り』のチームと『開心術士』と『無言者』の派遣を要請しましょう。人的被害も死者も無いうちに」
ダンブルドアは静かに首を振る。
「未だその時ではない。『何者』よりさらなる問題が『どうやって』なのじゃ――。半世紀前も『秘密の部屋』が開き、大捜査が行われた。当時と同じく、潜伏されすべてが無に帰す可能性が非常に高い。そしてこの機会を逃せば、当時と異なり、この闇を永久に葬るための手がかりが喪われる」
ダンブルドアは悲愴な面持ちで言った。ロックハートは問い返す。
「では今後の起こりうる被害は許容できるリスクであると?」
「無論、許容できるリスクではない。しかし他に道が無い」
「アルバス」
マクゴナガル先生も声を上げた。
「生徒の安全はどのように――?」
「後ほど職員会議じゃ。そこで――」
ロックハートは無表情で遮る。
「――われわれ教職員の安全は? 私も『継承者』の敵とみなされるでしょう。当然ながら私は、生徒の安全を守る義務と校長の命令に従う義務と諸々の『仕事』をする義務を負っていますが、指揮官の保身や不合理な判断で命を使い潰すことまでは当初の契約に含まれていない」
「ガートルード!」
鋭く声を上げるマクゴナガルに向け、ダンブルドアは片手をあげてとどめる。
「まっとうな指摘じゃ。――ガートルード、改めてこの杖とマーリンとおぬしに誓うが、わしは今年の間はおぬしの命を失わせるつもりは毛頭無い」
「お言葉の通りなら何よりですが。――無礼を承知で、半世紀前に迷宮入りで今回解決できる見込みはおありで?」
「ある。また、わしとおぬしらで片をつけられぬとしたら、いずれにしても解決の見込みは無い」
「その判断を裏付けるための私がまだ知りえない情報はさらに十分に与えていただけるのでしょうね?」
ダンブルドアは悲しそうに首を横に振る。
「おぬしがわしにすべてを話し、共に命を投げうつ覚悟を持つならば」
「難題ですね」
ロックハートは肩をすくめる。
「まあ、多少の予想の範囲外とはいえ、職務の内容も、私と校長の記憶する情報の相違も、元の契約通りです。私の最善を尽くしましょう」
「礼を言う」
「ポッターについての検査や聴取は?」
「不要じゃ」
ダンブルドアはそこで杖を振り、ハリー達に聞こえていた音楽が鳴りやんだ。
何とか先生たちの会話を聞きとろうとしていたハリーは、そこで慌ててサンドイッチの残りを押し込み、むせかえった。
「食べ終わったかの? では、帰ってよろしい。マクゴナガル先生と一緒に、グリフィンドール塔までまっすぐ向かいなさい」
「しかし校長先生! 処罰は!」
それまで会話から置いていかれていたフィルチが叫んだ。
「わたしの猫が石にされたんだ! 罰を受けさせなけりゃ収まらん! こいつがコソコソと手助けしたに違いない! こいつは私の手紙を開けて盗み見る悪童なんです!」
(ハリーの胃がずんと沈む。「泥のついたユニフォームで城を歩いた」ことで因縁をつけられてフィルチの事務室に連行されたときに、好奇心に駆られフィルチ宛の封筒――「クイックスペル 初心者のための魔法速習通信講座」――を読んでしまったのは事実だ)
スネイプの瞳が暗く輝く。マクゴナガルの唇が結ばれる。ダンブルドアは口を開く。
「――アーガス。疑わしきは罰せずじゃ。ハリーはミセス・ノリスに悪さをした証拠は何一つない――」(ハリーの胃が軽くなる)「――おぬしの私信を読んだことに関しての事情聴取と罰則は必要じゃが――」(ハリーの胃が沈む)「――後でミネルバとロックハート先生に考えてもらうとしよう」(ハリーの胃が軽くなる)
「校長先生、そんな!」
「……フィルチさん」
ロックハートがフィルチとハリーの間に立ち、フィルチにむけて両腕を広げた。
「フィルチさん。無念は重々拝察しますが――ハリーや無関係の生徒に、恨みをぶつけることは、どうかやめていただけませんか」
フィルチはロックハートから目をそらし、わめいた。
「……お前に――お前なんかに何が分かる!――お前のような――――魔女に――!」
フィルチは拳を握り締める。
「私には――あの子しかいない――!――お前のような――何でも持っている女が――そうやって憐れむ目で見るな! わたしを道徳的な気分に浸るためのおもちゃにするな!」
ロックハートは横に一歩回り込み、なおもフィルチの目をみつめた。
「……ええ。たしかに私は、魔法が使える女で、世間から注目され、まだ三十路手前で、大切な相棒の猫がいませんから、あなたの気持ちは分かりません」
ロックハートは真剣なまなざしを保つ。
「ですが、あなたがとても辛い気持ちでいることは分かります。……私はミセス・ノリスは存じ上げませんが、猫の姿を取れるマクゴナガル先生、彼女はどんな猫でしたか?」
「え!? ええ――まあ、私もあまり彼女と話すことはありませんでしたが……気が合うほうでも――アー……彼女はとにかく抜け目のない――
「――ありがとうございます。素晴らしい相棒がこのようになり、お辛いでしょう」
ロックハートはゆっくりと、はっきりと言葉を区切る。
「――それに私は、あなたが私の持っていないものを持っている、とてもすごいお方であることも知っています。」
「………!……はっ?……馬鹿にするな……!!!――――わたしがそんなお世辞で喜ぶと?――わたしを――舐めるな!!」
フィルチはさらに真っ赤になり、ゼエゼエ息を上げた。ロックハートは落ち着き払ったまま。
「いえ、本心です。――あなたは何で今日までホグワーツに雇われつづけていると思いますか? 校長の教育方針と真っ向から合わないのに? もっと心優しいスクイブは他にもいるはずなのに?」
「ガートルード」
ダンブルドアのたしなめるような声を気にせず、ロックハートは声を張りあげる。
「あなたは魔法なしでこの摩訶不思議な城を管理しておられる。学校の誰よりもホグワーツ城の隠し部屋と廊下を知っておられる。この四半世紀、悪ガキやピーブズと渡り合っている。あなたはそれにかけて自信があるでしょう」
フィルチは唾をごくりと呑んだ。
「痛ましいミセス・ノリスの事件を暴くためには、あなたの力が欠かせません。逆に言えば、あなたが我を忘れ冷静に力を制御しなければ、あなたが今回の犯人――人かどうかもわかりませんが ――を手助けしてしまうかもしれない。この犯人は恐らく非常に狡猾です。あなたに近づきあなたを甘言で丸め込んで、あなたに手助けさせるかもしれない。それはあなたの望むところではないでしょう、フィルチさん」
フィルチの顔からゆっくり血が引いて行った。
「…………何が言いたい」
ロックハートは人差し指を立てる。
「私に力を貸してください。復讐と怒りのエネルギーを、無関係の生徒にぶつけるのではなく、研ぎ澄ませて犯人の究明に使ってほしいのです。――具体的には、あなたのホグワーツについての知識を提供してほしい。それはとても役に立つ。さらに、あなたのホグワーツについての知識を深めてほしい」
「あなたもホグワーツのすべてを知悉してはいない。情報を得るため――端的に言えば、生徒を味方につけてほしいのです。ホグワーツの構造とホグワーツで何が起きているかを知るために、これは欠かせない」
「は?」
「より具体的には。生徒はムチだけでは言うことは聞きません。たまには飴玉が――」
「ムチは一度も振るってない!親指締めも天井から吊るしあげるのも全部校長から禁止だ!」
「――書き取り罰則や掃除の手伝いの罰則云々だけでは言うことを聞きません。たまには飴玉が必要です」
「何を馬鹿な――あの子がいない今――余計にあいつらが増長する!」
「闇の魔術師はたいてい、手下どもを容赦なく罰し拷問するが、良い成果をもたらし忠誠を示せば褒美を与える。手下どもは罰が無いことに心から感謝し、しまいに罰にすら感謝し、忠誠心をますます高める」
スネイプは無表情を保った。
「……」
「恐怖と負の報酬で縛る体制は長続きしません。ましてあなたが生徒に与える罰は、時の校長が許す権限に依存する。生徒はあなた自身に服従しているわけではない」
「…………。わたしは――クソガキどもを許せない! わたしを馬鹿にし、見下し、コケにし、憎み、『噛みつきフリスビー』や『糞爆弾』を投げつけるクソガキどもが!」
「ホグワーツ生の多くは『クソガキ』ですが――私もクソガキでしたが――しかしクソガキではない生徒もいます。連鎖さえ止めればきっと。あなたが憎悪と罰の愉しみを向けない生徒がいたとすれば――『アーガス・フィルチに気に入られている』ことは、その生徒にとって大きなメリットと大きな優越感をもたらす。アーガス・フィルチに気に入られようとする生徒は増える。あなたのクソガキとの戦いはよりラクになる」
「どうせ舐めるに決まっている……!」
「マグルの家に生まれ魔法力を持った生徒が、どれほど学校にいるとお思いですか? 彼らは『穢れ』などと忌まわしい侮辱を受け、『継承者の敵』として名指しで脅迫された。彼らは、魔法族の家に生まれ魔法力を持たないあなたを腹の内で嗤うでしょうか? あるいは、卑劣な差別と被害を受け、ともに抵抗する仲間と考えるでしょうか?」
「……」
「生徒に媚びへつらえ、甘やかせと頼んでいるわけではありません。敵意や悪意をむやみに向けてこない生徒に対しては、むやみに向けないでほしいのです」
ロックハートは一歩フィルチに近づき、静かに声を落とした。
「あなたの苦難と差別と屈辱の記憶は、私にはとても想像できるものでないでしょう。忘れなさいと言うつもりもありません。魔法界への復讐をするなとも言いません。魔法界にいる限り、今後も魔法界はあなたを手酷く扱うでしょう。しかし――あなたとミセス・ノリスの生活をもっと少しでも素敵なものにする方法が――あなたがもしまだ模索していない方向があるとすれば――私はそれを探すお手伝いができるのではないかと、思うのです」
フィルチは、力なく腰を下ろし、椅子に座ったままロックハートをぼうっと見上げた。口が半開きになる。
そこでダンブルドアが声を上げて割り込んだ。
「ありがとう、アーガス、ガートルード」
フィルチの腕をつかんで立ち上がらせ、ドアへと向かわせる。
「アーガス、明日は休んでよろしい。それと君の猫はきっと治せますぞ。スプラウト先生がマンドレイクを調達してくださったのでな、時間はかかるが成長すれば――スネイプ先生が薬を煎じてくださる」
そしてダンブルドアは部屋を見渡した。
「さて、マクゴナガル先生、三人を――」
そこでロックハートが声を上げた。
「――校長先生、ハリーと少しお話しても?」
ハリーはロン、ハーマイオニーと顔を見合わせた。
「――うむ」
ダンブルドアとマクゴナガル先生がロンとハーマイオニーを引き連れ、ドアの向こうに消える。
スネイプがロックハートに顔を寄せ、嘲るように囁く。
「フィルチにポッターに、誰であれ取り入るのに見境が無いのかね、君は」
「君も私のファンクラブに入りますか? セブルス」
「何の興味も無い」
スネイプはにべもなく言うと、ドアをぴしゃりと閉めた。
「――ああいう手合いは、最初は俯瞰的な立場を取ろうとしていてすぐに熱狂的な
ロックハートは肩をすくめ、ハリーを見る。
「災難でしたねハリー。私には何か言っておきたいことはありますか?」