スパイディのことが大大大好きなマッドサイエンティスト幼女 作:サイリウム
え? 石はどうしたのかって?
勿論、使いましたとも。
まずあの宇宙人が持っていた“インフィニティ・ストーン”なるものを解析し、ルールを把握。その後ドクターストレンジを名乗る彼の元へと訪問し、タイムストーンを一時借り受ける(脅迫)ことにいたしました。えぇえぇ、もちろん“快く”お貸し頂けましたとも。
後はそのすべての力を抽出し、第7の石である“コンティニュイティ・ジェム”を作成したわけです。
……この石ですか? 勿論『この作品自体の書き換え、及び“そちら側”を含めたすべての並行世界への行き来』が可能となるモノですよ。貴方達風に言うなれば、『デッドプール』が三作目の映画で行っていたことと似たようなモノです。
あとはナノマシンと石を併用することで“カノンイベント”なる存在を誅殺し、この世界の紡ぎ手たる“作者”なる存在に確約させることで、今後一切『私達2人の時間を邪魔させない』という事象を打ち立てることに成功いたしました。
ふふふ♡ デートを邪魔されたのは、かなり腹が立っていたのです。これでようやく、愛しい愛しい夫との大切な時間を楽しめますね……♡♡♡♡♡
……あ、勿論。“貴方たち”が私の邪魔をするようでしたら。
解っていますよね?
「ママー? ごはんまだー?」
っと、ごめんなさい“アニー”。少々お話が長引いてしまったようで。すぐに用意するのでもう少しだけ待ってくださいね?
そんな言葉を返しながら。リビングでタブレットを弄っている彼女と、愛する夫の為に朝食の準備を進めて行く。やろうと思えばナノマシンを使い全て一瞬のうちに終わらせることが出来るが……、それではあまりにも味気ない。
初めて手料理を夫に振舞ったあの時のように、全て手作業で進めて行く。
(ふふふ、“永遠に続く幸せ”とは素晴らしいものですね♡)
あれから10年。
私達は今もあのアパート、元々夫が暮らしていて、私が買い取り魔改造した場所で暮らしている。
まぁ元の建物と比べれば内装も外装も全く別の建物になってしまっているのだが……。表に掛かっている表札が『パーカー』だけなのを見れば、すべて理解して貰えるだろう。
そう、真の意味で私は。
“レノラ・グリム”から、“レノラ・パーカー”になったのだ。
(結婚による苗字の変更、彼を知る前は欠片も意味を見いだせない風習だったが……。これほど良いモノは無い。)
思い返すのは、この名が“確定”した時。
あのエンパイヤステートビルの頂点で再度愛を確かめ合い、正式に関係を持つようになった時の事だ。
当初の想定ではもう少しおしとやかに事を進めようと思っていたのだが、あんな素敵な場所で覚悟を決めた可愛らしい夫。その顔を見た瞬間、全てがどうでも良くなってしまった。理性の私が仕事をしてくれていたおかげで、何の言葉も交わさず獣のように交わる、みたいなことは防ぐことが出来たのだが……。
普通に押し倒して結婚を迫ってしまったのだ。
(どこか冷静な自身が、『失敗した時のことも考え心に余裕を持て』なんて言っていたが……。やはり我が夫は、決める時に決めてくれる。)
正に素晴らしい雄。
覚悟を決めてくれた彼は私のプロポーズを受け入れてくれて、誓いのキスをしてくれた。まぁその後はビルの天辺で年齢制限が掛かることを多分に行ったわけだが……。あの瞬間から既に夫婦になっていたので、特に問題は無いだろう。事前に設定していたナノマシンが偽装の防壁を張っていたので、この玉体が夫以外に見られるようなこともなかったし。
とまぁそんなわけで、無事念願の入籍が出来た、というワケ。
(その後は、厄介な“作業”ばかりだったが……、悪くは無かった。)
やろうと思えば世界にたった1つのアダムとイブ。なんてことも出来るのだが、我が夫がそれを望むとは思わない。
他者によって構築されたソレを我らに捧げるという“社会”の中で生きる以上、凡夫どもが定めたルールにはある程度従わなければならない。まぁ普通に面倒で、本音を言えば互いに朽ち果てるまで媾いたかったのだが……。真面目な夫が法に従うのであれば、私もそれに付き合う必要があるだろう。
なにせこの身は夫にとっての最高にして唯一の妻なのだ。
その趣味嗜好を理解し、ともに楽しむと考えれば……。悪くない話ではない。
(ある意味自身にとっての初めての“親族”。彼女との話もあったわけだしね?)
というわけで最初に行ったのが、ピーターの育ての親である“メイ・パーカー”への報告だ。
彼女は最初から全てを察していたような顔で、我らを迎えてくれたわけだが……。無事に許可を頂き、祝福の言葉を頂いた。
途中からピーターに対するお小言というか。昔から『秘匿しているヒーロー活動』のせいで約束を全く守れないことを挙げられ『レノラちゃんを悲しませるようなことするんじゃないよ』と、夫が説教を喰らう光景が繰り広げられていたのだが……。
まぁ夫の面白い過去を、育て親である彼女の口から聞くことが出来るのだ。彼の心情は察するに余りあるが、とても良い時間であったことは確かだ。
(そして報告が終われば、書類周り。)
役所に関連書類の提出を行い、公的に我らの身分を認めさせる手続き。
まぁこちらは以前から私が準備を進めていたので、彼の署名を貰うだけで全て終わったのだが……。その後に彼の提案で行ったのが、この国では一般的な『契約』の話。
結婚後の取り決めや、もし離婚した時の財産の取り分、子供が生まれた時にどうするのか。そのような取り決めを事前に行うことで、所謂“誠実さ”をアピールする必要があるのだとか。
……正直に言って、今でもよく理解できない風習ではある。
自身からすればこの身の全てが夫のモノだし、夫を構成するすべてが私のモノ。というかこの世の全てが私達に奉仕すべき存在であるため、世界全てが私達のモノ。故にこの取り決めは最初から意味を為さないのだ。
彼も“夫婦”として本音を話してほしいと言っていたので、少しだけいつもの『仮面』を外し、この考えの通りに言葉を述べたのだが……。
『あ~~~~~、うん。OK。……でもやっぱり僕は必要だと思うし、付き合ってくれると嬉しいかな、うん。』
『勿論。“あなた”がそう言うのでしたら、何でもお付き合いいたします。』
これ僕が少しずつ影響を与えて、ちょっとずつ変えていかなきゃいけない奴……! なんて小声で言っていたが。その場では聞こえていないように振舞っておいた。なに、マイダーリンがそう望むのであれば“演じてやる”のもまた一興だろう?
というわけで“私は全く守る気の無い契約”が結ばれ、互いに保管しながら。コピーを夫の知り合いの弁護士に送ることで、この話は上手く纏った。
ようやくこれで公的にも、私達の意識的にも『夫婦』に成れたのだが……。
(まだ一大イベント、“結婚式”が残っていた。)
適当な島を既に買い上げていたので、自身としてはその場所をナノマシンで万全に整理。2人だけの特別な式を挙げたかったのだが……。
我が夫であるピーター・パーカーは『スパイダーマン』でもある。
まぁ早い話、ヒーローとしての付き合いがあった。式を挙げるのならば人を呼ばねばならないし、顔を合わせる必要があったのだ。
(けれど当時の私にとって、それはあまり好ましくない話で……。)
夫以外のヒーローは人間的に好みでは無いというか、愚かで救いようのない面が多くみられる。自身の元々の立場の事もあり、ヒーローという存在に嫌悪感を抱いていた。勿論『喜劇』として離れた場所から眺めるのなら問題なかったが、一個人として知り合ったりするのは正直ご勘弁、という奴だ。
それに、あの頃はニック・フューリーの一件も引きずっていた。ナノマシンでサノスを名乗る宇宙人たちを殲滅したことも相まり、いつ何時此方をヴィラン扱いして襲って来るかも解らない。
夫には悪いが二人だけの式を挙げた後。時間を置いて披露宴のようなものを開くことで『付き合い』を済ませようとしたのだが……。
(トニー・スターク。一体どこから話を掴んだのやら。)
奴から夫当てにメッセージが届き、『来月の頭に式場が完成するから、君の大事な人でも連れて見学しに来るといい』なんて送って来やがったのだ。
私としてはもうその名前を聞くだけで虫唾が走るので、見なかったことにして速攻着拒させたかったのだが……。よくよく考えてみれば、我が夫が勇気を出し覚悟を持ってくれたのも、ある意味奴のおかげではある。ダーリンも恩を感じている様だったし、話を聞かない訳にはいかなかった。
(非常に業腹だが。)
そんなわけで指定された場所に向かってみれば。待っていたのは豪勢に作られた新築の教会。奴の好みであろう派手さは欠片も存在しない、荘厳な白い神の屋敷がそこにあった。そしてその後の披露宴で使えるであろう巨大な建物も。
……元の情報を信じるなら、経営破綻した牧場が廃業し、ただの空き地になっていた場所に、だ。
(更にそこで待っていたのが……。日本式のスーツに身を包んだ“ドロッセル”。)
あのクソが建てたと聞くだけで目に入れるのも嫌だったが、教会自体のデザインは非常に良かったのだ。奴の技術レベルは認めざるを得なかったが、センスの良さに関しても評価を改めなければいけない。そう思っていた時に……、奴である。
どんなに言葉を重ねたとしても、好きになるはずが無い3人。
その内の1人が、あの場所で待ち構えていたのだ。表情こそ崩さずにいられたが、腹の虫の居所が死ぬほど悪くなったのは、確かだ。
(リード・リチャーズ。トニー・スターク。そして、大宙つぐみ。未だに状況次第では負け得る可能性があるのが……、非常に腹立たしい。)
私のナノマシンは、文字通り“世界”を飲み込むことが出来る。
ナノテクノロジーに関しては誰にも負ける気はしないし、未来永劫私以上の存在が現れることは無いだろうと断言できる。しかしながら別分野においては、私が頂点では無いことは認めなければならない。科学者として、技術者として、妄言を吐けるほどこの世界は優しく無いのだ。
リード・リチャーズは古臭く腐った術理を扱うが、その発想力は異次元。初手を取れれば確実に殺せるが、惑星外に逃げられナノマシンへの“準備”をさせてしまうと、勝ち切れるか怪しくなってくる。
トニー・スタークは道理を弁えないレベルの派手好きで人の研究結果を盗んでいく大罪人だが、今あるものを発展させ組み合わせるのに富んでいる。ナノマシンをひとかけらでも渡してしまえば同様のモノを作って来る可能性があるし、私の手元にある“石”のような存在が彼に渡った瞬間。これまでにない別の概念で此方を殺しに来る可能性がある。リード同様、時間を与えると不味い相手。
大宙つぐみは、現時点でも少し怪しい。時間をかけナノマシンを忍び込ませることが出来れば他同様に先手で消し切る事が可能だろうが、彼女には『縮退炉』。ブラックホール関連の技術がある。私同様指先ひとつで全宇宙を消し得る力の持ち主で、その術理はブラックボックス化されているせいで私でも詳細を知る事が出来ない。
(まぁ早い話、私と夫。その両者を同時に殺し得る存在が、目の前にいたのだ。私に掛かったストレスは例の宇宙人たちをはるかに上回る。)
ある意味祝いの席であったし、明確に敵対したわけでもない。
そして隣には、無邪気に教会の素晴らしさに心躍らせ、そして経済的に豊かでなかった時期が長かったせいか不安になり慄いている夫がいた。故にあの時のように怒りを外に出すわけにもいかず、無表情に徹するしかなかった。
けれど……。
『初めまして、本式場のプランナーを務めさせて頂く大宙つぐみです。“パーカー夫妻”でよろしかったでしょうか? お二人の式が最上の物となるよう全力を尽くさせて頂きますので、どんなご要望でもお伝えいただければ。何でもすぐにご用意いたしますよ?』
『え、な、何でドロッセルが!?』
『……悪くないですね、その響き。今後はそのように願います。』
『勿論。』
『レノラ!?』
非常に、弁えていた。
奴が呼称を間違えていれば、正直抑えが効かなかっただろう。あの場で全面戦争となってもおかしくは無かったが……。彼女は丁寧に、私達の式の準備を整えてくれた。
確かに教会自体は見事だったが、その内装はほぼ空っぽ。建物だけ用意したような状況だった。本来であればトニー・スタークがそこまで用意する予定だったそうだが、大宙つぐみがストップをかけ、内装だけは私達で決めるように仕向けたらしい。
……そこだけは、褒めてやる。
(まぁそんなおかげで、私好みの素晴らしい式を挙げる事が出来た。何故かヒーローだけでなく、何人かヴィランが紛れ込んでいたが……。)
スタークと大宙、2人が裏方に回ったおかげか、式の最中にはかなりの“アーマー”が配備されていた。AIによる警備と管理が行き届いており、多少の問題は起きたが、私達が対処する必要は無し。
余計な観客は確かに多かったが、ただ純粋に他者から祝われる。あの感覚は、そう悪いモノではあるまい。
ちなみにだが、私をヴィラン扱いしそうな存在であったニック・フューリーも、礼服を着て参加していた。隣に見知らぬ女性もいたが、“契約”を破るつもりは無かったらしい。それを示すように、他ヒーローたちの視線は総じて“祝福”。彼を始めとした何人かが根回しをしていたようで、この身が悪として謂れのない批判を受けることは無かった。
夫も楽しんでいた様だし……。
(其方から手を出してこない限り、この世から排除するのは勘弁してやろう。)
そんな素敵な式の後。
教会があるあの場所は、私達に手渡されることになった。あのスタークが言うには、『僕なりのちょっとした結婚祝い』だそうだが……。確かに、悪くない。
あの場所は私達の為に用意された式場で、思い出の場所なのだ。誰かに使われるのは業腹だし、他者の手に渡るのも望ましくない。教会と式場だけしかないが、余っているスペースも多分にある。奴がくれるというならば、受け取る以外の選択肢は無かった。……夫は何故か恐縮していたがね?
(今はこのアパートに居を置いているが、新しくあの場所に家を建て夫と共に隠居する場所として考えれば……。悪くない。)
ちなみに今は、その有り余った場所を生かしてちょっとした“自動農園”を行っている。今日の食卓に並ぶ彩たちも、そこで取れたものの一部だ。
まぁそんなわけで、私達は“夫婦”として新しいスタートを切った。正に順風満帆で、素晴らしい日々が続いていたのだが……。
問題が1つ。
そう、この“胎”だ。
(当初は夫を縛り付けるための手段の1つだったが……。結婚した後は、少し邪魔になって来る。確かに私達の愛の結晶ではあるのだが、2人の時間に“タイムリミット”が出来るようなものだ。……それに、かなり早い段階で“娘”だということは理解できていたし。)
一部の夫婦は、2人の時間を満喫した後に子供をこさえ親になるという。
しかし私たちの場合、それが無かったのだ。
既に子供はいるし、ナノテクノロジーの医療活用のおかげでこの胎に眠るのが娘であることが理解できてしまった。確かに、ピーターとの間の赤子なので嬉しくない訳が無いのだが……。寄りにも寄って娘。我が夫から父としての愛を一身に受ける存在が生まれようとしていたのだ。
ピーターにとっての全てが、私。つまり彼が発するすべての感情が私に向いていなければならない。無論それは不可能なので、彼の中の“1番”が私であれば何とか許容することが出来るのだが……。
(娘に向けられる親愛に、私は嫉妬しそうになった。というわけだ。)
故に最初は娘すらも“私”にしようとしたのだが……。
夫の“スパイダーセンス”が異様に反応した様でね? 思いついた瞬間には夫に止められ、異様なほどに“愛して”くれたのだ。あの時間は本当に素晴らしく、正に蜜月といったモノだったのだが……。まぁ、そんな夫の献身的なサポートのおかげで、私は道を踏み外すことは無かった。
まぁ彼が言うには『いやだってそれ以外の方法は無いって“センス”が言ってたし……。』とのことらしいが。
(そんなこんなで適宜愛してもらいながら徐々に胎を膨らませ、無事出産。『アリアドネ・メイ・パーカー』、愛称“アニー”と名付けた娘が、この世に生まれ落ちた。)
夫はとても喜んでくれたし、メイお義母さんも非常に祝福してくれた。その他の者たちからも祝報が送られてきたが、まぁそれはどうでもいい。
ようやく私は、この“娘”から解放されたのだ。
無論、自身の両親のように我が子を見捨てたりせず、最適な教育と愛情を注ぐことはしたのだが……。
胎が、空いたのだ。
(ふふ、ふふふふ♡♡♡ あぁ、思い出すだけでたまらない♡♡♡♡♡)
そこから先は、言わずとも理解できるだろう。
子供を宿しているから、出来なかったこと。納得はしていたが、満足はしていなかった妊娠期間中の鬱憤を晴らすように、私たちは死ぬほど愛を交わし合った。文字通り途中からナノマシンによる生命維持が働いていたし、娘の世話も少々おざなりになってしまった。メイお義母さんにそれが見つかってしまったので、途中で修正することにはなったが……。
とても、良い時間だった。
ちなみにだが、私の真の年齢をカミングアウトしたのもあの時期になる。
プレイの一環としてこの身から超人血清を抜き取り、本来の姿で行為に及ぶ。背徳感でどうにかなりそうな夫の姿にはとても興奮できたのだが……。色々終わった後に、彼が自分をペドフィリアと勘違いし自首しに行こうとするのを止めるのは、色々と面倒だった。
確かに世間一般的には『10になったばかりの子供を孕ませ産ませた性犯罪者』かもしれないが……。私達には愛があって、法や倫理を無視できるだけの力があるのだ。それに、この関係は私が襲ったことから始まっているのだし、何も問題は無いだろう?
(とまぁそんな色々な事がありながら、10年。今年でようやく私も『20歳』になる。戸籍上の年齢は夫と合わせているが……。成人祝いとして、今日“も”愛を貰うとしよう。)
そんなことを考えながら、さっきまで焼いていたキッシュをオーブンから取り出す。
私一人であればトーストなどで済ませても良いが、愛する夫と娘に食べさせるのであれば、少し凝ったものを用意したい。そう思いちょっと冒険したのだが……、これ以上手間をかけると時間をかけすぎてしまうだろう。スープは昨日の残りを温め直すとして、副菜のサラダは軽くちぎった葉物だけで済ますとする。
「……アニー、パパは?」
「昨日もママが搾り取ったんでしょ? まだ死んでる~。」
「そうでしたね。……そろそろ用意できますし、皿の用意だけしてくれますか?」
「はいは~い!」
元気よく返してくれる彼女に、笑みを送る。
アリアドネ。愛と親しみを込めて“アニー”と呼ぶ彼女は、本当に良い子に育ってくれた。最初は私が夫に掛かり切りだったこともあり、少しおざなりにしてしまっていたが……。メイお義母さんの指導のおかげで、何とか私も母親として務めを果たすことが出来たのだろう。
昔はまだ精神が幼く、孤児という出身からか無意識下で“親”に対する薄っすらとした不信感や、自分がアレと同じ存在に成りたくないといった感情があった。けれど彼女の成長を見る限り、この身はアレらを反面教師と出来たのだろう。夫や、メイお義母さんの助けあってのモノだが……。
少しだけ、誇らしい。
「そう言えばアニー、今日は何を?」
「分子間相互作用による自己組織化過程の制御! 非共有結合性相互作用とエントロピー的制約の競合を利用して、ナノ構造体の形成経路を選択的に誘導できないか、って奴!」
「あぁ、それでしたか。その何年か後の論文に解答例を載せてはいますが、自分で解き明かしてから進みなさいね?」
「もっちろん! いつかコレで、ママからパパを絶対奪っちゃうもんね! 略奪愛こそ正義!」
「寝言は寝て言いなさい?」
軽くナノマシンを制御し、彼女の足を掴み宙吊りにする。
ワーキャーと楽しそうに彼女も自前のナノマシンで対処しようとするが……、まだまだ私には及ばない。すぐに観念し、私に許しを乞うてくる。確かに夫がこの世で一番素晴らしい男性であることは事実ではありますが、娘でありながらそれを奪おうとする不届き者に育てたつもりはない。
まぁ、ちょっとした“ジョーク”であることは理解しているので、すぐに離してやるが。
「んもぅ、ママのケチ! 娘なんだし、3割くらい分けてくれてもいいじゃん!」
「ダメです。確かに貴女は私の“半身”ではありますが、許容には限度があります。当初の予定通り“娘”という立場すら、私が貰っても良かったのですよ?」
「うぐッ! それは困る……! あ、じゃぁ1割! 1割だけなら良いでしょ!」
「……それぐらいなら、まぁ。では今夜寝室に来なさい、女としての喜びを共に教えて貰いましょう。」
「いや朝から何話してるの2人とも。」
「あ、パパ!」
「おはようございます、あなた。」
声のする方に視線を送ってみれば、朝から凄い顔をしている我が夫が。
即座に飛びつき抱き着いている娘に少々の嫉妬が芽生えるが……、あえてゆっくり近づきながら私も抱き着き、唇を重ねるさまをアニーに見せつけてやる。ふふふ♡ コレが正妻の余裕という奴ですよ。
「あ、ずるい! パパ! 私も!」
「はいはい、アニーはおでこね。……レノラ、教育に悪いし、そういうのはやめようって言ったじゃないか。」
「ですがアニーの年齢の頃に、私は愛を知ったのです。そう考えれば何も問題は無いかと。」
「そうそう、問題ない!」
「あ~~~、うん解った。これ僕が頑張る奴ね。とりあえずアニーは後でお説教。」
「えちちなやつ? 大歓迎!」
「違うからね? マジの奴。」
え~! と文句を言うアニーに、何処か疲れた顔をする夫。軽く彼の手に触れながら医療用のナノマシンを流し込み、体調を整えておく。気疲れのような精神的なものには効きませんが、何事も体が資本です。身体のサポートは万全に行いますから、今日も頑張ってくださいね、あなた♡
さ! 何はともかく朝ごはんです。席についてくださいね、二人とも。
そんなことを口にしながら朝食の準備を進めていると。
夫の腕時計が、アラームを鳴らす。
この町に張り巡らせた警戒網が、警察では手に負えない“何か”を見つけた時の音だ。
「っ! ごめん二人とも、すぐ戻るから先に食べてて!」
そう言いながら彼が腕時計のアラームを止めると、それと同時に格納されていたナノマシンたちが展開されていき、一瞬にしてその体を赤と青のスーツへと塗り替える。10年前に試作し、あれからずっと改良を続けている夫の為だけのナノテクスーツだ。
「いえ、そこまで距離も無いようですし、待っていますよ。アニー、大丈夫ですね?」
「もっちろん! 頑張ってねパパ!」
「……うん、行って来るよ。」
何か噛み締める様に、言葉を紡ぐ彼。
そのやりとりの間に、家の周辺に偽装用のナノマシンを散布。此方を観測するすべての存在が“何の異常も感じなくなる”状態へと移行させた後、壁があった場所がナノマシンによって開かれ、外の景色が一望できるようになる。
「いってらっしゃい、あなた。」
「いってらっしゃい、パパ!」
私の唇へのキスと、娘の頬へのキス。
それを受け取った彼は、マスクを被りウェブを射出。ニューヨークの朝日へと消えて行った。
不満が無いといえば嘘になる。けれどその活躍を娘と共に眺める事が出来て、共に応援し、共に支える事が出来るのだ。それがこの世界にとって大切な仕事で、誇りあるモノであるのなら、文句など言えるはずが無い。
ただ私は、妻として彼を支え、共に生き、その帰りを待つ。
あぁもちろん、何の心配もしていないとも。
何せ私の夫は、『スパイダーマン』なのだから。
これでレノラ達のお話はお終いです。
また何か問題が起きるかもしれませんが、彼女とそのストッパーである彼がいる限り悪いことにはならないでしょう。彼本人も、幸せな家庭を手に入れられたようですしね?
それでは、またどこかで。