CyberPunk2077_Engram Controller 作:アルファルド・ロマネスク
暫くして私達は件の工場にたどり着いた。
工場は静まり返っていて、あの日あのサイバーサイコと対峙したときと同じみたいに感じる。
本来なら警備が万全なのだろうに、監視カメラすら止まっていた。
先行するのはイルダ。車で詳細は聞いたけど、サイバーサイコ関連の依頼を集中的に受けるみたいで界隈では
今回は実質サイバーサイコ鎮圧みたいなものだし、その道のプロが先行してくれるのは嬉しい。
私がそうこう考えながら進んでいると、ロバートが生き残ってた監視カメラをハッキングした。
そこからカメラ操作を行い、ターゲットを両方とも発見した。
私たちの仕事目標、ロックされているPC。イルダの目標、サイバーサイコ化したミリテク警備。
でも一つだけ想定外があった。
肝心のミリテク警備の装備だった。
「なあイルダ、サイバーサイコなんだが……」
「なによ」
「
「はぁ!?」
「ケンタウロス?」
それが何なのか知らない私は純粋な疑問で聞いた。
頭を抱えているイルダに変わってロバートが答えてくれた。
「ミリテク製の外骨格。左にガウス弾も防ぐ強化シールド、右に戦車に積むようなレーザーキャノンを小型化したヒートウェーブ砲を持ってる。しかも結構速いし硬い。脳負荷を考慮しなければ一級品のクロームさ」
「そんなすごいものを警備が?」
警備が持つには過剰すぎない?
話を聞けば、どう考えても軍用、それも一級品のクローム。
ただの工場警備で持ち出す代物じゃない。
そもそもママさんはサイバーサイコがそんな危ないものを装備してるなんて言ってなかった。
イルダは抱えた頭を離して、2回頭を振った後指示を出した。
「じっとしてても何も始まらない。PINGを見た感じ、あんたたちのシロモノもアイツの後ろにある。どのみち交戦は避けられなさそうよ」
私も倣ってテステラのバレルを見る。
2発、しっかり入ってる。
ポケットの中も見る。うん、十分予備もある。
ロバートも何やら準備をしている。
互いの用意は十分できてそう。
あとは、会敵あるのみ。
「接触のタイミングはあんたたちに任せるわ。じゃあ、私は消えるわよ」
消える?
イルダの謎の言葉、直後に本当にイルダが消えた。
まるで霧に飲まれるみたいに、すーと眼の前から綺麗に消えちゃった。
熱光学迷彩。何故かすっと頭の中からそんな単語が出てきた。
私はこの消える行動を知っている?
湧き出た疑問は端に置いておき、どっちにしても先頭は私がいかなければ。
いや、見えてないだけで実際にはイルダが前にいるんだろうけど……。
まあいいや細かいことは。
ロバートを1回見る。頷きを返してくれた。なら行くしかないね。
再度テステラを握りしめ、私はゆっくりとサイバーサイコのいる場所へと進みだした。
遠くで車の走る音が聞こえる。
しつこいくらい煩いはずの広告塔からの広告は、今だけは癒しに聞こえる。
かつて地球に猛獣と呼ばれるものがいた頃、ハンターと呼ばれる人たちはこんな気分だったのかな。
今私は初めての依頼の時ほどに心臓が早鐘を打っていた。
なんせ相手は軍用外骨格、持ってる装備は小型レーザー戦車砲と堅牢な盾。
まともに攻撃が通るのは背面のみかつ乗ってるのがサイバーサイコならきっと生身の部分なんてほとんどないはず。
パイロット部分を撃っても皮下アーマーは必ず入ってるはずだ。
テステラは大口径ペレットをダブル撃ちで24発も撃ち込むけど、果たしてアーマーを撃ち抜いてくれるかどうか……。
仮にダメだった場合は腕のマンティスブレードに頼るしかない。
ブレードならきっとアーマーでも刺し貫くことができるはず。
とはいえ殺してはいけないっていうのが厄介で……。
「殺していいなら手榴弾をねじ込めるのに」
ポツリ呟いて歩みを進める。
憂鬱になるほどに高いコンクリートの建物、その壁面をゆっくり進み続けて曲がり角、そっと視線を向こう側へと向ける。
いた。
奴は砲も盾も構えず、両手を天に突き出していた。
まるで空を拝むように。
おかしいね、空なんてビルでほとんど見えないのに。
彼の周囲に飛び散った赤、赤、赤。
何かの肉、何かの部品、何かの銃。
ミリテクの字がかろうじて見える装備品だったもののおかげで、それが元が何だったのかおおよその察しがついてしまう。
酷いものだね。死の川が生み出されている。
酷く鼻腔を刺すように刺激する臭い、タンパク質が焼け焦げた証。
混ざって漂う錆鉄の悪臭と死臭。
その中に立ち尽くす
アレと戦わないといけないと考えるとかなり憂鬱だよ。
でもやるしかない。アレの鎮圧も依頼の中に含まれてるんだから。
テステラのトリガーに指をかける。
まずは先制攻撃をしっかりと当てていきたい。
貴重な最初の一手、失敗したらその後何が来るか、知識のない私には想像がつかない。
シールドバッシュで済めば御の字、ゼロ距離ヒートウェーブ砲なんて食らったら確実に死んでしまう。
だから絶対に初撃は外せない。
狙うは厄介なシールド、それを掴んでいるサブアームの接合部。
滅茶苦茶硬そうだけど、これを破壊できれば一気に攻略の難易度は下がる。
「サブアームを狙っているのね。援護するわ」
「こっちはいつでもいいぜ」
ホロコールでイルダとロバート二人が声をかけてくる。
ロバートはカメラで見てるからわかるけど、イルダはどこから見ているんだろう……。
いやそんな事どうでもいいか。
重要なのは、ここから激しい戦闘が予想できるってことなんだから。
「いくよ私、しっかり決めろ」
一つ、自分に言いかせて私は飛び出した。
ジェンキンス腱とアドレナリン増幅器が私の初速を爆発的に加速させる。
一歩、たったの一歩で私は奴との距離を人二人分まで縮めた。
少し遅れてサイバーサイコが反応する。
シールドが稼働しようと起き上がるけど、それを防ぐための一撃。
テステラを構え、脊髄に意識を向け、一気に奴の背面に回り込むように大地を蹴る。
ケレズニコフ、そしてケレズニコフブーストがアドレナリンとドーパミンを脳へ壊れた噴水の如く叩き込んでくる。
世界が一気に私を置き去りにして遅くなる。
今なら奴の表情すらじっくり観察できるほどだ。
本当はその顔にテステラを突っ込んでやりたい。
でも依頼は生け捕り、そういうわけには行かない。
予定通りサブアームの付け根に目掛けて銃を向け、引き金を引き切る。
世界がやっと元の速度に戻ると同時に、24発の大型ペレットはサブアームの付け根を間違いなく打ち砕いた。
大爆発、それに違いない音圧と同時にシールドごとサブアームが宙に舞った。
あまりの爆発にサイバーサイコの安否が心配になったけど、すぐにそれは忘れることができた。
爆炎の中から赤い閃光が見えた。
それが何かを察せないほど私は愚かじゃない。
死、一文字浮かんだ瞬間私は姿勢を一気に低くしてスライディングを行なった。
ほんの少しだけ遅れて熱が来た。
私の顔スレスレを赤い光が突き抜けていく。
熱、いや熱と言うにはあまりにも熱い、最早人によっては痛い。
肌が焦げるような感覚が、いや実際に少し焦げた。
外れたそれは工場の壁面に四角の風穴を大きく残している。
かくいう私は頬と髪の一部が炭化して、髪に至っては少し発火していた。
もう少し滑るのが遅ければ顔どころか上半身が蒸発していた……。
冷や汗を掻きながら火のついた髪を鎮火するべく2、3度転がりながら距離を離す。
髪の鎮火を確認すると同時に奴を見る。
奴は次のヒートウェーブを撃とうとしていたがそれは叶わなかった。
「がぁぁぁ目がぁ!!」
ロバートだ。ロバートのオプティクス再起動による視界シャットダウン。と同時にサイバーウェア動作不良を仕込んだみたい。
前が見えなくなって出鱈目に撃とうとしたヒートウェーブが火花を上げてショートしてる。
挙動的に電圧をいじったっぽいね。少しすれば電圧オーバーによって体内放電するはず。
ビンゴ、サイバーサイコが軽く痙攣した。
それに合わせて何か、多分イルダが背面から取り取り付いた。
靄のかかったような半透明状態でサイバーサイコの背中にイルダがいるのが辛うじて見えた。
イルダはそのままヒートウェーブの動力部分に何処からから取り出した刀のようなものを刺し込んだ。
また鳴り響く炸裂音、大きくサイバーサイコが怯んだ。
その一瞬だ。
2本、なにか緑色の液体が入った凄くおっきな注射器がいつの間にかサイバーサイコの首筋に突き刺さっていた。
あれ私の腕くらいあるよ……。
サイバーサイコの痙攣がかなり激しくなったけど、一通り震えたあと、まるで糸でも切れたみたいに失神した。
「何をしたの?」
いつの間にか音もなく真横に来ていたイルダに聞く。
イルダは迷彩を解いて姿を現しながら答えてくれた。
「軍用の抑制剤よ。一時凌ぎだけど、レジーナが回収して何とかするまでの時間くらいは稼げるわ」
「……抑制剤?」
サイバーサイコシスの抑制剤とかあるんだ。
サイバーサイコシスは発症したら殺すしかないと思ってた。だから生かしたままとか無理難題じゃないかなって。
「あんたまさか、抑制剤まで知らないとかいうわけじゃないわよね?」
「知らない」
私が即答したら、イルダは絶句って顔してる。
「あんた、抑制剤無しでケレズニコフとかアドレナリン増幅器を使っているわけ? サンデヴィスタンよりマシとは言え!?」
「サン……なにそれ?」
「はぁぁぁぁ???!」
ため息に近いような怒声をもらっちゃった……。
私、変なこと言ったかな?
いや多分言ったねこれ。ロバートの絶句とため息もホロコール越しに聞こえた。
「……もういいわ、あとでどんだけ頭のおかしいことをしてるか説明してあげる。今は仕事を終わらせましょう」
……なんか、呆れられた。
まあいいや。無事生きたままサイバーサイコは確保できて、スキャンダルのデータが入ったパソコンも手に入れた。
クラックはロバートがあとで安全なところでしてくれるからこれで依頼完了。
私達はそのまま来た時と同じ方法でアフターライフに帰ることになった。
それから、抑制剤についてイルダとロバートからお叱りに近い形で教えてもらった。
サイバーウェアによる副作用、これによって引き起こされるサイバーサイコシスを抑制する専用薬。
普通はクロームの使用直後か、定期的に何本か打つのが普通らしい。
私は今日この日まで打ったことがなかったから、そんなのが必要なんだなぁって軽く流しちゃった。
半分無理やり首筋に市販品の抑制剤をイルダに打ち込まれたけど……それ以外は概ね何事もなく帰宅できた。
報酬は明後日、金額が凄いことになってるらしいけど、どうなるのかな。
向こうのダンボールに包まってるヘイデンは背中越しでも悲しそうにしてるのが見える。
ヘイデン……ごめんね。
ヘイデンが安全に暮らしていける場所を手に入れて、安定していけるまでは、私はソロ活動をやめられそうにないや。
これが好意の押し付けだったとしても、私には、今はこれしかないから……。
あぁ、ダンボールに寝転がっていたら眠くなってきた。
明日はソロの仕事はないはず。
ヘイデンと二人でまたゴミ拾い。少しばかりの平和が待ってる。
そんなことを思いながら私は瞼を閉じた。
今回の報酬に、2人そろってひっくり返ることになるのはもう少し先のお話。