あ、ありがとうございます。
中忍試験の本選前、原作主人公のうずまきナルトにビジネスマナーという名の「地獄の月読研修」を施し、洗練された営業マンへと仕立て上げた、その数日後。
あらためて考えるとすごく原作をブチ壊しているが、それは今更だ。
というか、壊さなかったら初手で詰んでいた。うちはクーデター決起集会がスタート地点なのは、どう考えてもおかしい。
ともあれ数日後。ナルトが我らがうちはの里へとやって来た。
ナルトは更なるビジネススキル向上を目指し、木ノ葉からの「出向(長期派遣研修)」という名目で、正式に派遣される体裁を独力で整えて見せたのだ。
(ほんのわずかな時間での研修だったというのに、見事にモノにしてみせたな)
誇らしさすら覚える成長だった。しかし、俺の教え子は他にもいる。
いや、別に写輪眼や万華鏡写輪眼開眼プロトコルの受講者たちではない。あれは教え子とは別カウントだろう。
あとこの間の中忍試験で薬師カブトを見かけたので、彼バージョンの万華鏡写輪眼開眼プロトコルも開発した。
孤児として、孤児院の仲間とマザーのために暗部の根に入ったのに、そのマザーも自分達を人質に根に入らされて……
最終的には「お前たち2人は知りすぎた」と、どちらも騙して、変装したカブトの命をマザーに狙わせて共倒れを狙う、そんな根の卑劣な思惑のせいで、マザーをその手に……
もう、効果は絶大だった。襲い掛かってきた仮面の刺客を倒して、その顔を確認しようと仮面を外せば、そこにあったのは……
という展開で、絶叫と共に万華鏡写輪眼バッチリですよ。
しかもマザーは、成長していくカブトの様子を根から写真で見せられていたが、それが別人の写真を使われていたせいで、自分をカブトだと認識してもらえず息絶えるという、隙を生じぬ二段構え。
普通の写輪眼すらもどうにも開眼できなかった子ですら、これでイケましたからね。
親への情が強い分、子供の方がより刺さったのかもしれません。
とある長老から再び「人の心とかないんか?」と言われたのは、大変に遺憾に思います。
「いやこれ実話ですから。人の心がないのは、これを実行した根のトップのダンゾウです」
そう言ったら、なんかダンゾウへのヘイトが一族の中で更に上がった。元々すごい高かったけども。
勝手に暗殺計画とか、どっかで立てられそうだな。まあ、バレないならいいけど。
話を弟子の話に戻そう。大丈夫、普通に教え子だから。
月読による超短期インストラクションが可能になる前から、ゆっくりと育てた自慢できる弟子だ。
その弟子の一人、うちはの里で、木ノ葉時代よりもはるかに時間が取れるようになった両親と兄にカマい倒され、逆に少しグレそうになった所で俺に弟子入り。
結果、健全かつ素直にスクスクと育った弟分、うちはサスケくんだ。
「初めまして! 木ノ葉隠れの里より出向してまいりました、うずまきナルトです!」
スッと胸の高さで名刺を差し出すナルト。
サスケも俺のマナー教育の通り、素早く両手でそれを受け取り、恭しく胸の高さで掲げた。
「あ、ドーモ。うちはサスケです。お名刺、頂戴いたします。どうぞ、お掛けになってください。今、お茶を……」
「いえ! お気遣いなく! 弊社としても、貴殿との円滑なアライアンス(同盟関係)を構築したく存じます!」
うむ。素晴らしい。互いのソンケイに基づいた完璧なビジネスマナーだ。
俺は遠目にその光景を眺めつつ、同じく優しい目でその光景を見守っていた、うちはの長老衆のもとへと足を運んだ。
「皆様、好々爺を楽しんでおられる所、失礼します。あそこでアイサツをしているあの二人ですけどね。彼らが今代の『六道仙人の息子たち、アシュラとインドラの転生体』なんですよ」
「……なに?」
俺はさらりとチクってみせた。
こんなこともあろうかと、以前から原作知識を、あたかも古文書を解読したかのようなフリをして里の文献としてバラまいたり、木ノ葉から離れた時の情報規制の解除に合わせて書類を混ぜてバラまいたりして来たのだ。
その内容は「大筒木一族を祖とする、うちは成立までの歴史」や「千手とうちはの因縁」「南賀ノ神社の石碑の内容が書き換えられた疑惑」「対立を促進する黒幕の存在の示唆」など一族関連の物を中心に、多岐に渡る。
つまり。六道仙人の二人の息子、アシュラとインドラがそれぞれ千手一族とうちは一族の祖となって、転生を繰り返してまで、ずっと対立を続けてきたというのは、すでに共通認識にまでなっていた。
その対立の源の二人が、今ここに揃ってしまった。
しかし先代の転生体である千手柱間とうちはマダラは、最終的に決裂したものの、一度は和解して木ノ葉隠れの里を作った。
「この数千年間続く血の呪いと無駄な対立。我がうちはの手で終わらせて見せようではないか!」
長老衆は俄然気合を入れた。彼らもビジネスと里の安定を通じ、忍界の平和がどれほど利益を生むか理解しているようだ。
これなら説教されるたびに、ちょくちょく反論してインストラクションを積んで来た甲斐もあるというもの。
あの長い説教の数々は、無駄ではなかった。
俺はこの機を逃さず、すかさず長老衆へとプレゼンを仕掛けた。
「ところで長老方。音の里、というか大蛇丸さま以外にも、まともな同盟国が欲しくないですか?」
『この世の誰よりお前が言うな』
「まあ、確かにな。お前の言っている事は真っ当だよ、言っている内容はな」
長老衆は目では、ある意味全否定しながらも、発言内容は認めてくれた。
まあ、大蛇丸との関係って、出会いから研究を通じた現在の相互依存まで、ほぼ俺が構築しちゃったからね……
クローンイタチボディ(永遠の万華鏡写輪眼付き)に入った、パーフェクト大蛇丸になっちゃってるからね。
こっちが確保した永遠の万華鏡写輪眼部隊と同数の、スペックは同じクローン部隊(自我有り版)を、密かに抱え込んでるからね。
お互いやりあったらタダでは済まないのと、永遠の万華鏡写輪眼持ちを増やすのにお互い必要だから、絶対に敵対しないけど、それでも大蛇丸だからね……
強力な力を手に入れて満足したのと、チャクラを視認できる写輪眼を使った研究が楽しすぎて夢中になっていなかったら「この力をブツけて試すのに丁度いいわね!」とハイテンションでうちはの里に襲い掛かってきた可能性も、ワンチャンあった。
原作のカブトにしたみたいに「イザナミだ!」をやるか、
キレイな大蛇丸に、早くなっておくれ。
まあ、大蛇丸の事は置いておいて、俺が長老衆に提示した同盟先の候補は二つ。「砂隠れ」と「雨隠れ」だ。
風の国の砂隠れは、我がうちはが木ノ葉崩し(大規模差し押さえ)を大蛇丸と組んで前倒しで行った結果、原作とは違い木ノ葉襲撃計画からスルーされている。
つまり木ノ葉との間に余計な遺恨はないし、四代目風影も健在だ。
この前の中忍試験にも、普通に参加していた。
計画が無いので、原作とは違って棄権しなかったカンクロウが、油女シノに普通に負けていたのはちょっと笑った。
やはり傀儡使いは、チャクラの糸を使う関係で、蟲使いとは相性が悪いらしい。
ちなみにシカマルがテマリとしっかりフラグを立てていたのには、原作の強烈な補正力を感じたものだ。悪い方にも働きそうなので、少し補正力には気をつけておこう。
そして補正力が更に働いたのか、本選でのナルトvs我愛羅が実現した。
俺が月読でビジネスマナーを叩き込んだナルトは、試合中、砂の里に向けた「地域緑化と環境ビジネス提案」という経営コンサルプレゼンをぶつけた。
「弊社にてただいま開発中のこの木遁の技術ならば、必ずや御社の需要を満たせるものと確信しております!」
などと、若干どころではない機密をバラしていたが、まあ、新人なので大目に見よう。
代わりに怒られるのは俺だが、大目に見よう。
木遁開発に柱間細胞が必須なのまでは、ナルトに伝えてないからバラされないけど、三代目とかは悟りそう。
まあ、三代目ならどうせ何もせんだろうし、ええか……
結果として、ナルトのプレゼンは我愛羅の心には届かなかった。困惑してはいたので、届いたが期待した反応は引き出せなかったというのが正確だろうか。
なお観客席にいる、四代目風影の心にはバリバリ刺さっていた。
席を離れて、うちの族長のフガクさまの所まで来て「詳しくお話を伺っても?」と必死さを隠しすらせずに問い詰め始めたからなあ……
フガクさまの「いや、今はご子息の試合を」という逃げに「いや、そんな事より」って我愛羅の事を、そんな事扱いしてたからなあ……
試合をしながらも、実父のそんな姿に、我愛羅は反応したようだった。
それは表面には出ない微かなもので、しかしその感情をよく知るナルトには、はっきりと感じ取れるものだった。
八つ当たりだったのだろう。それまで以上の強烈さで、我愛羅が大量の砂をナルトへと叩き付け、しかしナルトは必死にそこから立ち上がって見せた。
「…………わかるってばよ」
ナルトは俺のかけていた「言葉遣いの矯正」を解除し、素の自分をさらけ出して、我愛羅に向き合った。
「一人ぼっちの辛さは…… オレもよく知ってるってばよ」
「…………ぁ」
我愛羅が何かを言おうとした。
しかしそれが形になる前に、ナルトに限界が来て、倒れてしまった。
「そこまで! 勝者、砂隠れの我愛羅!」
救護班に運ばれていくナルトから目を離さず、我愛羅はずっと見つめていた。
なお。肝心のナルトに、その機微は伝わらなかったらしい。
ナルトがうちはの里へ研修に来たのは「プレゼンが通らなかった! もっと営業トークを学ばねば!」という勘違いゆえだ。
う~ん。この「顧客が本当に欲しかったもの」と「実際にお出しされたもの」の違い。すごく、心当たりがあります。
この場合、我愛羅が真に求めているのは「友情」であり、ナルトの差し出そうとしている「ビジネス」を求めているのは風影なのだよなあ。
ふうむ。
風影は確実に落ちる。というか、すでに落ちている。落としたのはナルトだし、この件を最後まで任せてみれば、ナルト
転生者知識とビジネス眼でそう踏んだ俺は、決断的に決定した。
「よし、ナルト。そしてサスケ。砂隠れを落としに行くぞ」
「エッ、サスケ=サンもですか?」
いぶかしがるナルト。武力的に落としに行くと勘違いしないあたり、忍者ではなくサラリマン、もといビジネスマンの認識が強いようで良い事だ。
……良い事なんだろうか? 原作主人公がこれで本当にいいんだろうか?
いや、まあ、良かった事にするのが、転生者の嗜み、か。
ナルトだけではなくて、サスケもこのビズに噛ませるのも、その一環だ。
里が分かれて同じ班になれない二人だが、ここで同じ地獄を見れば強い絆が生まれるはずだ。ユウジョウ!
そんな俺の温かい配慮である。
ところで、なんで今頃うちはの里でサスケとナルトが初対面の名刺交換なぞやっていたのかと言えば、マジで初対面だったからだ。
だって中忍試験。うちの里の下忍は参加できなかったからね。
さすがに大蛇丸と組んで、大規模差し押さえで木ノ葉の里の財政と行政と文官に大ダメージを与えちゃってから、そんなに間が開いていないからね。
上層部が観覧に行くだけでも、有情かなって。
なお音の里は、観覧すらも話が来なかったらしい。まあ、大蛇丸だし。
もし呼んでいたら、木ノ葉崩し(真)が起きていたかもしれないので、実に賢明で当たり前の判断だと思う。
さて。では、ナルトとサスケの友情を深めてもらうために、まずは一緒に特訓でも受けてもらいますか。
「というわけで…… 君たちには『月読インストラクション・ツー』を受けてもらいます」
「「エエッ――!?」」
問答無用で、月読の精神空間へと送り込まれるナルトとサスケと自来也。
自来也は、ナルトを心配して、あと綱手の様子も気になっていたのと、うちはの里の偵察にと、複数の理由でナルトについてきていて、この時も近くにいたので、巻き込んだのだ。
いや、砂隠れへの出張の引率役に、ちょうどいいかなって。
1秒間に24時間。今回はキリ良く10セット。
体感時間にして240時間の無慈悲な超高速ビジネス研修が行われた。
「グワーーッ!」
「エイエェェェ!」
「目がぁぁぁっ!?」
精神世界で地獄の研修に絶叫する三人。
え? 地獄という自覚はあるかって? もちろんです。俺も昔、前世の新人研修の時に散々味わいましたからね。身をもって知っていますよ、ええ。
そして三人は、見事240時間(現実世界で10秒)の研修をやりきって見せた。逃げる手段が無かったとも言う。
現実に意識が戻るや、彼らはまず身だしなみを整えるや、さっそく研修の成果を試しだした。
「お目にかかれて光栄です。私、今回のプロジェクトの担当を任せて頂きます、うずまきナルトと、うちはサスケと申します」
「私がうちはサスケです。若輩者ですが、一族の一員として一人前の仕事ができるよう努めます。どうぞ暖かい目で見守っていただけましたら、幸いに存じます」
ナルトとサスケは、キリッとした眼差しでスーツを着こなし、対風影を想定した、完璧な名刺交換の予行演習を始めた。
しかし自来也はというと、さすがに強い自我と長めの人生経験のおかげで、普段のフランクな口調までは大きく変化しなかった。
が、やはり衣装はスーツでネクタイとタイピンを整え「うむ、さっそくアライアンスの条件を詰めねばな」と、風影役を務めている。
表情も引き締まり、驚くほどまっとうな顔つきになっていた。
(あれ? 今の自来也なら、普通に書類仕事もこなして、五代目火影を襲名できるのでは?)
結構本気で、そう思ってしまった。でも、こっちで育てた人材を、木ノ葉にタダでやるのはイヤだな。
とりあえず自来也の講習費用も、木ノ葉の経理に請求しておこう。
こうして、完璧に仕上がったナルト、サスケ、自来也のプロジェクトチームに、我が里からの正式な護衛 兼 お目付け役としてイタチを添えて、風の国の砂隠れの里へと送り出した。
彼らなら、きっとやってくれるだろう。
いや、お前は行かないのかって? 俺には俺の仕事がある。
俺はナルトたちを送り出した後、もう一つの同盟候補「雨隠れの里」へのアプローチを開始した。
デスクに向かい、まずは手紙をしたためる。
表向きの宛先は、雨隠れの長として知られる「山椒魚の半蔵」だが、その内容は完全に裏の支配者である「暁の長門(ペイン)」に向けたものだ。
転生者知識をフルスロットルで回し、彼の「痛みによる平和」という青臭い理想を打ち砕くための、現実的かつ圧倒的な経済復興案を書き綴っていく。
実際、原作でも木ノ葉の里を盛大にぶっ壊したが、その里の連中は何も変わってなかったし、むしろ里のインフラが全滅して再建した分、懐が寂しくなって民度は下がったんじゃないかなあ。
「……あっ」
手紙を書きながら、俺はふと気付いて筆を止めた。
(長門を説得するなら、かつての師匠である自来也がいた方が絶対効果的やん)
失敗した。その自来也はさっき、砂隠れへのプレゼン部隊の引率として送り出してしまった。アフター・フェスティバルである。
だが、まあ、いいか。帰ってきてからで。
俺は即座に予定を変更し、手紙の会談場所を「雨の国のお隣の草の国」に設定し、自来也の名前を使ってサインをしておいた。
よし、あとは木ノ葉の外交ルートに便乗させてもらって、発送すればいいだろう。
さて。砂隠れとのディール(交渉)がどう転ぶか、楽しみに待つとしよう。
俺は満足げに淹れたてのコーヒーをすすり、窓の外の平和なうちはの街並みを見下ろすのだった。
……そういえばこの世界で、コーヒーとかって、どこで栽培してるんだろう?