SSSS.GRIDMAN 始まりの声 作:アレクシス同盟
先生を連れて学校を飛び出し、少し走った先の道路で止まった。
周囲に人影はない。
皆怪獣から逃げたお陰で、人っ子一人いなかった。
いつもは人で賑わっている商店街も、まるで世界から人が消えたかのように静かだった。
「はぁ、はぁっ……先生、大丈夫ですか……」
「あぁ……助かった……」
息を切らしながら二人で立ち止まる。
上を見れば怪獣とグリッドマンが戦っている姿が見える。
少し離れたとはいえ、あの巨大な体ではこの町のどこからでもその姿が見えるだろう。
怪獣はグリッドマンに引きつけられるため、もうこちらを襲う事もない。
いつものようにスマホを使用せず、呆けたように怪獣とグリッドマンを見つめる先生を横目に、スマホを起動して内海にメッセージを送る……いや、送ろうとした。
「…………」
自分からグリッドマン同盟から抜けた僕に、彼らに連絡する筋などないだろうか。
いまも彼らは怪獣達と戦っている。
この町を守るために。
僕は怪獣騒ぎの事を覚えていて尚、その事から逃げ出した男だ。
ああして怪獣と戦っている所を見ると、彼らは無事の筈。
今はただの民間人である先生と逃げることを優先しないと。
「先生、もっと遠くへ逃げましょう。いつ怪獣がこっちに来るか分からない」
「あぁ……そう、だな。……すまん、大田」
その謝罪には、助けてくれた事に対する謝罪と、いつもの態度に対する謝罪が含まれているように僕は感じた。
「いいんですよ。スマホは大丈夫ですか?」
「あぁ……だけど、今は……それどころじゃないから」
「……そうですか。では、行きましょう」
先生を連れて、遠くの高台へと逃げた。
高台へついた時には、グリッドマンと怪獣の戦いは終幕へ向かっていた。
ピンチだったグリッドマンに向けて放たれた怪獣の光線を遮るように、どこからともなく剣が現れ光線を防いだ。
金色に輝く大きな剣。
前の戦いにはなかった新たなる武器だった。
背中のブースターを加速させ、勢いよく剣を怪獣へと振り下ろす。
怪獣は反応する間もなく体が両断され、大きく爆破した。
その余波が遠くのここまで風となり、高台にいた僕達の元へと届いた。
今回もグリッドマンが勝利したみたいだ。
一息つくと、近くのベンチに座る。
先生も安心したようにベンチへと座った。
「……はぁ。死ぬかとおもった……」
「今更じゃないですか……?」
「色々とありすぎて実感するのが遅くなったんだ。……なんなんだ、あいつら」
「……さぁ、それは僕も……」
グリッドマン。
怪獣。
多分のこの町の中で、彼らを詳しく知っているのはあの三人だろう。
僕はあの戦いから逃げた、ただの一般人。
普通の「退屈」が欲しくて、平穏な日々の中で生活したくて。
自分の我儘で……もしかしたら僕は、僕の『使命』とやらを放棄したのかもしれない。
この世界が決めた、僕の運命を。
罪悪感は消えない。優しくしてくれたあの三人と、自分から離れることを決めた事も。
彼らの戦いを知りながら、自分からその戦いから逃げた事も。
僕の記憶が無くなったのも、この戦いにあの三人と共に戦うためだったのかもしれない。
……でも、それでも僕は……僕の意志でその使命を放棄した。
あの時から感じていた『異物』感は、今でもなくなっていない。
記憶が無くなる前の、元の『自分』に、いつか居場所を返す日が来るのかもしれない。
元の僕がどんな人物だったか。
それは知らないし、これからも知ろうとは思わない。
もし僕に、本当にその『使命』があるとしても、今この時の、この意志は僕だけのものだ。
僕が先生を助けなくても、先生は助かっていたかもしれない。
だけど……僕の、その僕だけの意志のお陰で先生が助かってここに居られていたとしたら。
僕のこの思いは、考えは。意志は……間違っていなかったのだろうか。
『退屈』を願う僕の気持ちは……間違っていなかったって、思えるだろうか。
「……学校、休みにはならないだろうな」
燃える町を見ていた。
時期に消火活動が始まり、町は普通の日常へと戻っていく。
僕が求めた『退屈』な世界へと。
それは、前のようなリセットで叶えられるのだろう。
怪獣が現れた事実は消え去り、世界は全てを忘れる。
グリッドマンと関わらなかった自分は、今回こそ記憶を消されて皆のようになるのだろうか。
そうなったら……あの三人は、僕を友達だと思ってくれるだろうか。
グリッドマン同盟ではなく、ただの、普通の友達として……。
僕と、一緒に過ごしてくれるだろうか。
また前のような一人の世界に戻るのは……うん。辛いなぁ。
『退屈』を求めながら、彼らとの日常を忘れられない僕は欲張りだろうか。
ただ、記憶を失って初めて出来た、僕の友達との記憶を、繋がりを。
忘れたくなかった、それだけだった。
僕はただ、普通の人のように、平穏に日々を送りたいだけなんだ。
「とりあえず家まで送らせてくれ。このままここにいる訳にもいかないだろう」
「……僕は大丈夫です。先生も色々とやる事があると思いますから」
先生はため息を吐いた。
この後にやる事を考えると、その気持ちも分かる。
「……悪い。とりあえず学校に戻らないと……色々と確認しないといけない事が山程ある。……本当に大丈夫か?」
「はい。あの怪獣も消えたみたいですし……。明日は休みですよね」
「明日どころか、数週間は休みだろうな……まぁ、なんだ。ゆっくり休めよ。……はぁ」
階段を降りて先生が離れていった。
スマホが鳴った。
内海からの電話だった。
『渚! 大丈夫だったか!? あの時学校にいたよな!?』
「え、なんで……あぁ、PCから見えたのか。うん、大丈夫。グリッドマンのお陰で」
『そうか、良かった……。今回もグリッドマンと裕太のお陰で怪獣は倒せたし、新しい戦力も増えた! 渚に紹介したい人もいるんだ。また連絡するから、その時詳しく話そう』
「うん。ありがとう。……それじゃ」
電話を切る。
静かな風が頬を撫でた。
……今は、この空気を感じていたかった。
遠くの空を見れば、ぼんやりと怪獣の姿が浮かんでいるように見えた。
どこか煙ったいような、そんなモヤッとした空気を感じながら、僕は自宅へと向かった。