いつもの場所で紅茶を嗜みながら夢結は一日千秋の思いで待ち人を服装に乱れはないか、可笑しなところはないか、既に何回も繰り返していることを思いながら今か今かと待っていた。
自身の記憶把握している脳内スケジュールによればすでに講義は終わってこちらに向かって来ている頃合いなはず。普段より2分ほど遅れているようだが恐らく大丈夫な筈だ。もしかしたら結梨の迎えで遅れているのかもしれない。
きっと大丈夫、そう自分に言い聞かせて唇をカップに触れさせる。するとタイミングよく梨璃が結梨とともに現れた。急いで来たのか服装が少し乱れている。
「梨璃、どうしたの?そんなに慌てて......ほらこちらへ来なさい。身だしなみを整えてあげるから」
「わわ、お姉様。ありがとうございます!」
解けかけていたリボンを丁寧に整え直す。他にも気になるところを綺麗にしていく。どさくさに紛れて梨璃の肌に触れながら不足していた栄養を堪能する。決してやましい気持ちなど......ない。
「これ、おいひぃ、もきゅもきゅ......」
「結梨。ゆっくり食べなさい。まだたくさんあるから......ところで梨璃、先程は慌てていたようだけど、何か聞きたいことでもあったのではなくて?」
結梨は隠し味にはちみつがほんのり入ったスコーンを気に入ったらしい。リスのように頬を膨らませる姿は可愛い。次は多めに用意しようと思いながら梨璃に目的を思い出させる。
「はっ!!そうでした。私、夢結様に聞きたいことがあったんです。これを見てください」
そう言ってタブレット端末を操作して映像が表示される。一体何を見せたい...のかしr ブフゥッ⁉︎
「お姉様?」
「な、なんでもないわ」
思わず、吹き出してしまいそうになるのを耐える。危うくみっともない姿を晒しかけた。その原因は
『かぐやっほー!月から来たかぐやだよー』
自身とは全くと言っていいほど違う、明るく元気な巷で人気のVtuberだった。なぜ梨璃がこれを知っていて夢結に見せてきたのか。動揺を押し隠して平常を保つ。
「り、梨璃?えっとこれは」
「はい!最近有名なVtuberさんでかぐや様というそうなんです」
「え、ええ。それは分かるわ。でも聞きたいことと私と関係があるのかしら?」
「お姉様とかぐや様とても声が似ていると思いませんか!わたし初めて聞いた時はとてもびっくりしたんです。同室の閑ちゃんに教えてもらって偶々だったんですけどね」
「へ、へー、そ、そうなの」
伊藤閑、余計なことを!やはり消しとくべきかしら。表には出さないがちょっとだけコンクリが頭を過ぎる夢結。とはいえ、百合ヶ丘の生徒たるもの、この程度で動揺などしない。僅かにカップの持ち手が震えているけれど気のせい、だから治りなさい私。
「で、でも雰囲気や言葉遣いが、違うからきっと気のせいでしょう」
「そう、ですよね。あっそうでしたもう1人似ている方がいるんです。これ見てください」
咄嗟に出た思いつきの言葉だったけれど、梨璃は納得した。よかった納得してくれて、安堵した夢結は次も大丈夫だろうと表示された映像を見て
石化した。
『"ゔまいニャぁァア』
夢結は考えることを辞めたくなった。しかしそれでも何とか踏み止まる。そして真剣な表情で梨璃を見る。
「り、梨璃これは余り教育に良いものではないわ。公共の場で見せていいものでもないわ。だからすぐにやめなさい」
「は、はい......」
が、動揺していて取り繕う余裕がなかったため思わず強い口調で言ってしまい梨璃を必要以上に怖がらせてしまう。しょんぼりとした梨理の姿を見てどうしようか悩む、そんな時だった。
「夢結、かぐや姫?」
「......月から来てないわよ」
「じゃあ、ヤニ猫?」
「違いますから」
結梨の無自覚な問いはその場の雰囲気を変えるには十分で、夢結は以降話を転換することに成功し、何とか危機を脱することができた。