### 幕開け:神々の悪ノリと、見知らぬ風の匂い
「ちょっと待ってくれ! デミウルゴス様、ニンリル様! 『あー、すまんすまん、ボタン押し間違えたわー!』で済まされる問題じゃないでしょうがー!!」
青空の下、どこまでも続く見渡す限りの大平原。その中央で、ムコーダこと向田剛志は頭を抱えて絶叫していた。
彼の傍らには、威風堂々とした巨躯を誇る伝説の魔獣・フェンリルのフェル。
その足元でぷるぷる、ご機嫌に揺れている従魔スライムのスイ。
そしてムコーダの肩のあたりを元気に飛んでいるピクシードラゴンのドラちゃん。
いつもの異世界放浪の旅の最中、神々への供物(主に甘いものとお酒)を『ネットスーパー』のスキルで捧げていたときのことだ。女神ニンリルが「もっと洋菓子を出すのじゃ!」と割り込み、創造神デミウルゴスがそれを宥めようとして神界の転送装置(?)に触れてしまい、次元の歪みが発生。気がつけば、ムコーダ一行は見知らぬ広大な大地へと丸ごとすっ飛ばされていたのである。
「ぬう……。ムコーダ、騒ぐな。周囲の空気の満ち引きが、以前の界隈とは微妙に異なるようだが、我が魔力に何ら影響はない。それより……腹が減ったぞ」
『スイもー! あるじー、ごはんまだー?』
『オレも腹減ったー! ムコーダ、なんか美味いもん作ってくれよ!』
「お前たちなぁ……! ここがどこかも分かってないんだぞ!? そもそも、ここ本当にいつもの世界か!?」
ムコーダが周囲を見回すと、遠くには雲を突くような巨大な山脈、そして中央には美しくもどこか厳かな城が聳え立っていた。植物の生生しさ、風が孕む魔力の質……すべてがこれまで旅してきた世界とは明らかに違っている。
「はぁ……とりあえず、どこかで街の情報を……」
ムコーダが溜め息をつき、腰のポーチに手をかけたその瞬間だった。
**ドドドドドドドドッ……!!**
地響きのような蹄の音が大平原を揺らした。
「な、なんだ!?」
「ほう……集団で接近してくるな。二足歩行の種族……馬に乗っているようだぞ」
草原の丘の向こうから現れたのは、燦然と輝く銀色の鎧を身にまとった騎士団の群れだった。その数、およそ百。中央には、紺青の地に金色に輝くトライフォースとハイリアのタカの紋章が刻まれた壮麗な旗がたなびいている。
「止まれ! 立ち去れぬように囲め!」
先頭で指示を出したのは、厳しい表情をした大柄な騎士長だ。そしてその隣には、背中に青い柄の聖剣を背負い、青い英傑の服を身にまとった一人の青年がいた。凛とした眼差し、隙のない立ち姿——ハイラル王国近衛兵隊長、リンクである。
そのさらに後方には、護衛の騎士たちに守られた白銀と青の気品あるドレスに身を包む少女、ハイラル王国の王女ゼルダの姿もあった。
「……何者だ。その恐ろしい魔獣と怪しげな妖精、謎の魔物を連れて、ハイラル城の目と鼻の先で何をしている!」
騎士長が剣を抜き放つ。それに応じるように、周囲の騎士たち一斉に長槍を突き突き出してきた。完全に一触即発の包囲網である。
「ひえっ……!? か、騎士様たち!? 待ってください、僕たちは怪しい者じゃ……いや、めちゃくちゃ怪しく見えますけど、敵意はありません! ただの旅の料理人です!!」
ムコーダは両手を挙げて降参のポーズをとった。
しかし、フェルが不快そうに喉を鳴らす。
「ぬう……ムコーダ、この者たち、我に向かって刃を向けるか。一息に吹き飛ばして構わんか?」
『スイ、あの鉄くずたちをやっつければいいのー? スイの酸でドロドロにしちゃう?』
『オレのスピードについてこれるかなー!』
「待て待て待て! 暴れるなフェル! スイも溶かさない! ドラちゃんも待った! ここで暴れたら僕たちが完全に悪者になるから!!」
ムコーダの必死の制止も虚しく、ハイラル騎士団側にも緊張が走る。
リンクの青い瞳が鋭く光った。彼はフェルから放たれる規格外のプレッシャー(神獣クラス、あるいはそれ以上)を感じ取り、静かに背中の『退魔の剣』の柄に手をかけた。
(なんだ……この巨大な狼の魔物は。ガノンの怨念とは違う……だが、計り知れない力を感じる。姫様をお守りしなければ……!)
空気は限界まで張り詰め、今にも血の雨が降り出そうとしたその時。
**グゥゥゥゥゥゥ……**
静寂を切り裂いたのは、フェルのお腹の盛大な虫の知らせだった。
「……ムコーダ。我の腹の虫が限界だ。早く飯にせよ」
『スイもお腹すいた〜』
あまりにも間抜けた音に、剣を構えていたリンクの肩がピクリと動いた。
ゼルダ姫も、馬の上で呆然と目を丸くしている。
「あ、あの……近衛兵隊長さん、王女様……でしょうか?」
ムコーダは滝のような汗を流しながら、必死に愛想笑いを浮かべた。
「僕たち、本当にただの行き倒れ……じゃなくて、次元の歪みに巻き込まれて迷い込んだ者なんです。戦うつもりはサラサラありません。もしよろしければ……喉、渇いてらっしゃいませんか?」
「……喉?」
騎士長が眉をひそめる。
「はい! 大勢で僕たちを追いかけてきて、お暑いでしょう。お詫びと言ってはなんですが、冷たい飲み物でもいかがかと……!」
ムコーダは即座に頭の中で『ネットスーパー』を起動させた。
周囲からは見えないホログラム画面を操作し、検索欄に『夏場 清涼飲料水 高級 フルーティー』と打ち込む。そして目に留まったのが、タイ産の厳選された最高級タマリンドをふんだんに使用した、濃縮果汁100%のプレミアム・タマリンドジュース(瓶入り)と、キンキンに冷えた氷、そしてクリスタルグラスのセットだった。
「ふッ……!」
ムコーダが空間から取り出したのは、氷で冷やされた眩しいほど透明なピッチャーと、そこを満たす濃密な琥珀色の液体。
「なっ……何もない空間から、グラスと飲み物を……!? 魔法か!?」
騎士たちがどよめく。リンクも警戒を強めたが、その液体から漂う、甘酸っぱくも優雅で高貴な香りに、思わず鼻をひくつかせた。
「どうぞ、ゼルダ姫様。毒など入っておりません。僕が最初に飲みますから」
ムコーダは自らグラスにタマリンドジュースを注ぎ、ぐっと飲み干してみせた。
「ふはーっ! 酸味と甘みが五臓六腑に染み渡る……!」
そのあまりにも美味しそうな表情と、大平原の風に乗って運ばれる魅惑的な甘酸っぱい香りに、固唾を飲んでいた王室貴族や騎士たちの喉が、同時に「ゴクリ」と鳴った。
特に、連日の古代遺物研究と公務で疲れ果てていたゼルダ姫の瞳が、かすかに揺れた。
「……隊長。その方に、一杯いただくことを許します」
「姫様!? 危険です!」
「大丈夫です。あの魔獣たちの瞳には、悪意がありません。……ただ、酷くお腹が空いているだけのようです」
ゼルダは馬から降りると、静かにムコーダの前へと歩み寄った。
ムコーダは恭しく、氷がカラランと涼しげな音を立てるグラスを差し出した。
「ハイラルにはない珍しい飲み物ですね。いただきます……」
ゼルダが小さな唇をグラスにつけ、琥珀色の液体を一口含んだ。
その瞬間——。
**ドクン……!**
ゼルダの瞳が大きく見開かれた。
口いっぱいに広がるのは、これまで味わったこともない、濃厚でいて爽快な甘酸っぱさ。タマリンド特有のコクのある甘みと、フルーティーな酸味が絶妙なバランスで口腔を駆け抜け、冷たい氷の喉越しとともに、長年の研究による脳の疲労がみるみるうちに吹き飛んでいくような感覚。
「な……なんという、美味しさ……っ! 果実の濃密な甘みなのに、後味はどこまでも爽やか……! まるで、古代の恵みが全身の細胞に満ちていくようですわ……!」
ゼルダの頬がポッと赤くなり、王女としての佇まいも忘れ、うっとりとため息をついた。
「姫様!?」
「わ、私にも一杯いただけないか!?」
「いや、私にこそ!」
ゼルダのその反応を見た周囲の王室貴族や高官たちが、我先にと押し寄せてきた。
「あ、こら! 順番を守ってください! まだたくさんありますから!」
ムコーダはネットスーパーでタマリンドジュースの大瓶を次々と追加購入(1本480円)。氷を大量に入れたグラスに注いでは、貴族や騎士たちに配り歩いた。
「う、うますぎる……! 長年ハイラルの宮廷料理を食べてきたが、これほど繊細かつ力強い味わいの果汁は飲んだことがないぞ!」
「この爽快感……疲れた体に染み渡る……!」
「おい、そこの貴公! 私の分を少し分けろ!」
「冗談ではない! これは私の分だ!」
ついさっきまで一触即発だった重苦しい雰囲気はどこへやら。ハイラル王国近衛兵団および王室一行は、タマリンドジュースを巡って大騒ぎの争奪戦へと変貌していた。
その様子を、リンクは無言で見つめていた。
ムコーダは「君もどうぞ」と、一番大きいグラスになみなみと注いだタマリンドジュースをリンクに手渡す。
リンクは無言で受け取ると、コクコクと一気に飲み干した。
そして——満足そうに「ふはぁ……」と小さく息をつき、ムコーダに向かって深く親指を立てて(グッ)みせたのだった。
「気に入ってもらえてよかったよ……」
ムコーダは胸を撫でおろした。
(ふぅ、なんとかネットスーパーのジュースで場が収まったぞ……。タマリンドジュース、買っておいて本当に良かった……!)
◇
こうして「異世界の謎の料理人」として一躍(飲み物だけで)注目を集めることとなったムコーダ一行は、ゼルダ姫の強い希望により、ハイラル城へと招かれることになった。
案内されたのは、煌びやかで荘厳なハイラル城の大広間。
玉座に鎮座するのは、ハイラル王国を統べる威厳に満ちた王——ローム・ボスフォラームス・ハイラルであった。
「……面を上げよ、異世界の訪問者よ」
ローム王の深みのある声が大広間に響く。
ムコーダは緊張でガチガチになりながら頭を下げていたが、隣ではフェルが退屈そうにあくびをし、スイはムコーダの足元で「きょろきょろ」と部屋を見回し、ドラちゃんは天井の豪華なシャンデリアに興味津々だ。
「娘から話は聞いた。そなたの取り出した『未知の果汁』は、殺伐とした近衛たちをも骨抜きにし、疲れ切っていた娘に笑顔を取り戻させたとか。異空間から品を取り出す奇妙な能力……誠に興味深い」
「は、はは……恐縮です、ハイラル王陛下」
「さて……本題に入ろう」
ローム王は組み替えた手に顎を乗せ、鋭い眼光でムコーダを見つめた。
「実はな、あと数日後に……我がハイラル王国は『建国45周年記念大式典』を迎える。ハイラル全土から貴族や各族の長……ゾーラ族、ゴロン族、リト族、ゲルド族の要人たちが一堂に会する、数年に一度の歴史的催しだ」
「はぁ……それはそれは、おめでとうございます」
(……ん? なんだか嫌な予感がするぞ……?)ムコーダの背中に冷や汗が流れる。
「本来ならば、宮廷料理長がその腕を振るうはずであった。……しかし、半月前の厨房の事故により、料理長が全治一ヶ月の怪我を負ってしまい、現在、宮廷の厨房は大混乱に陥っておる」
ローム王は一呼吸置き、力強く宣言した。
「ムコーダと申したな。そなたのあの『人を魅了する食の力』……見込 wine(見込んだ)! **この建国45周年式典における『主菜および宴席の料理一切』、そなたに任せたい!**」
「えぇぇぇぇぇぇええええええっ!??!?」
ムコーダの叫び声が、ハイラル城の大広間に虚しくこだました。
「無理です無理です! 僕なんてただの大衆料理(?)好きの一般人ですよ!? 各族の要人!? 王国建国記念!? スケールが大きすぎますって!!」
「断ることは許さん。……と言いたいところだが、もちろんタダとは言わぬ。成功させれば、そなたらが元の世界へ戻るための古代遺物や魔法の研究、資金援助、あらゆる面でハイラル王国が全面バックアップしよう」
「うぐっ……! 元の世界に戻る手掛かり……!?」
ムコーダは思わず言葉を詰まらせた。
デミウルゴス様たちの手違いとはいえ、この世界に永住するわけにはいかない。戻る方法を探すためには、この国のトップである王の協力が不可欠だ。
さらに、背後からフェルがムコーダの首根っこを鼻先で小突き、念話を送ってくる。
(ムコーダよ、受けよ。この城の肉……先ほど厨房の近くを通ったが、見たこともない巨大な鳥の肉や、身の引き締まった獣の肉が唸るほどあったぞ。我はあれが食べたい)
『スイも、新しい世界の美味しーの食べたい! あるじ、つくってー!』
『オレも! ハイラルの肉、食おうぜムコーダ!』
(お前たち……人ごとだと思ってぇぇぇ!!)
ムコーダは胃が痛むのを抑えながら、深々と溜め息をついた。
目の前には、期待と好奇心の入り混じった瞳で見つめてくるゼルダ姫。
静かに無言で「期待している」とばかりに頷く近衛隊長リンク。
そして、威厳たっぷりに返事を待つハイラル王。
「……分かりました。お任せいただいた以上、全力でやらせていただきます……!」
こうして、異世界のネットスーパー男・ムコーダによる、ハイラル王国建国45周年記念式典の超絶絶品フルコース作りが決定したのだった。
しかし、この時のムコーダはまだ知らなかった。
4ヶ月後に迫る『大災厄』の足音が、静かに、だが確実に近づいていること……。
そして、この式典で出される自身の料理が、ハイラル全土の英傑たちの運命すら変えてしまうほどの『とんでもない底力』を発揮してしまうことを——!
### 中編:ロピア降臨と、至高の食材たち
「……ダメだ、頭がパンクする……!」
ハイラル城から与えられた客室で、ムコーダは一人頭を抱えていた。
豪華な天蓋付きのベッド、歴史を感じさせる重厚な調度品。しかし、そんな優雅な空間とは裏腹に、彼の胃はストレスで千切れそうなほどキリキリと痛んでいた。
「ゾーラ族にゴロン族、リト族にゲルド族、そしてハイリア人……。種族によって食生活も体の構造も全然違うじゃないか! 魚を主食にする族もいれば、肉を豪快に喰らう族もいる。鉱物を食べるゴロン族にどうやって料理を出せばいいんだ……? いや、ゴロン族は岩塩とか鉱物っぽい塩分の効いた濃い味付けや肉もいくはずだが、全体としてどうまとめればいいんだよ……!」
『ムコーダよ、何をジタバタしているのだ。美味い肉をそのまま焼いて喰わせれば良かろう』
大きなベッドの上にドカッと鎮座したフェルが、あくびを噛み殺しながら呆れたように言った。
『そうだよー! スイ、お肉だーいすき! あとあまーいのも!』
スイはベッドの上でポヨンポヨンと跳ね、ドラちゃんは窓枠に腰かけてパタパタと羽を羽ばたかせている。
『おいムコーダ、オレはカリッとした鶏肉みたいなやつが食べたいぞ!』
「お前たちは気楽でいいよなぁ……っ! これは一国の建国記念式典なんだぞ!? 変なもん出したら僕の首が飛ぶ……どころか、ハイラルと異世界の外交問題に発展しかねないんだからな!」
頭を掻きむしるムコーダ。その時、彼の脳内にピコンと軽やかな電子音が鳴り響いた。
『メッセージ:『ネットスーパー』のレベルが上昇、および特別な提携機能が解放されました』
「え……? ネットスーパーの画面に、何か新しいタブが増えてる……?」
半信半疑で目の前の画面を操作するムコーダ。すると、いつもの大手ネットスーパーのロゴの隣に、見たことのない色鮮やかなアイコンが踊り出ていた。
**『食のテーマパーク・ロピア(LOPIA)オンラインコーナー、新規オープン!』**
「ロ……ロピアだってぇぇぇえええ!?!?」
ムコーダの叫び声が部屋に響き渡った。
ロピア——それは元精肉店から発祥し、圧倒的な肉の品質とコスパ、そして中毒性抜群のオリジナル調味料や大容量スイーツで爆発的な人気を誇る、まさに「食のテーマパーク」と呼ぶにふさわしい超人気スーパーマーケットである!
「ウソだろ、ロピアまで買えるようになったのか!? 肉類はもちろん、あそこのオリジナル調味料……特に肉用のタレや『ネギンジャー』とか、惣菜・スイーツのクオリティはヤバいぞ……!」
一気に目が輝くムコーダ。彼は慌てて自らの『アイテムボックス』の中身をスキャンし、在庫の確認に入った。
「僕の手元にある異世界の最高級食材……フェルたちが狩った肉の在庫は……」
* **ブラッディホーンブルの肉**(極上の霜降りと強い旨味を持つ最高級牛肉)
* **コカトリスの肉**(プリッとした弾力とジューシーな脂がたまらない高級鶏肉)
* **のどぐろ・鯛などの高級鮮魚**(以前の海沿いの街で買い溜めしたフレッシュな魚介類)
「よし……! 異世界の規格外な絶品食材と、ロピアの圧倒的な『中毒性のある旨味調味料』、そして僕の現代日本の調理法を掛け合わせれば……! ハイラル全種族の胃袋を完全に掴めるフルコースができる!!」
さらに、部屋の窓がコンコンと叩かれた。
外を見ると、フェルがドヤ顔で何かを咥えてたたずんでいる。
「フェル? なに持ってきたんだ……って、なにそれ!?」
フェルが床にポイと投げ捨てたのは、ハイラルの湿地帯や水辺に生息する、巨大なカニ型の魔物『テクタイト』(※あるいは水辺の大型甲殻類魔物)の巨大なハサミと甲羅だった。
「ふん、先ほど城の外の湿地まで散歩に行った際にな、気味の悪い多脚の魔物が襲いかかってきたのだ。一撃で叩き潰してみれば、中に詰まった身は驚くほど引き締まっておる。ムコーダ、これで何か作れ」
「えぇ……テクタイトって魔物でしょ!? でも待てよ……この殻の頑丈さ、身の詰まり具合……まるで巨大な渡りガニかタラバガニだぞ……!? これを生のまま、特製の醤油タレに漬け込んだら……『カンジャンケジャン』ができるんじゃないか!?」
アイデアが溢れ出す。
これまでの旅で培った料理の勘と、新解放されたロピアの圧倒的商品ラインナップ。
全てのピースが、今カチリと噛み合わさった。
「いける……! これならハイラル王国の歴史に残る、最高の宴が作れるぞ!!」
### 後編:圧巻の建国45周年式典フルコース!
そして迎えた、ハイラル王国建国45周年記念式典当日。
大広間は、まさに壮観の一言だった。
ハイラル王ロームとゼルダ姫を中心に、ハイリア人の貴族たちが居並び、その左右には各族の要人たちが集結している。
巨大で頑強な体躯を持つゴロン族の組長。
優雅で美しい鱗を輝かせるゾーラ族の王族。
風を纏う気高き鳥人・リト族の戦士たち。
そして、褐色の肌に華やかな装飾を纏った砂漠の民・ゲルド族の族長。
さらに、若き英傑候補たち——リンクを筆頭に、各族から集まった猛者たちも護衛兼賓客として席に着いていた。
「……これより、ハイラル王国建国45周年を祝う宴を催す!」
ローム王の力強い宣言とともに、ファンファーレが鳴り響く。
「本日の料理を仕切るのは、異世界より訪れし流浪の料理人・ムコーダとその従魔たちである。異世界の智恵と我がハイラルの恵みが織りなす饗宴、心して味わうがよい!」
パチパチと拍手が起きる中、コック帽を被ったムコーダが緊張の面持ちで大広間の中央へと進み出た。
「皆様、本日はお招きいただきありがとうございます。本日のフルコースは、僕の故郷の味と、僕の仲間たちが狩り集めた至高の食材を組み合わせた、特別なお品書きとなっております。どうぞお召し上がりください!」
ムコーダの合図とともに、給仕の侍女たちが一斉に料理を運んできた。
#### 【一の皿:前菜】
**『フェルが仕留めたテクタイトのカンジャンケジャン』**
最初に運ばれてきたのは、透明感のある艶やかな甲殻類の身が、濃密な秘伝の醤油タレに浸された涼しげな一品だ。
「これは……湿地帯に蠢く魔物、テクタイトではないか! あのような不気味なものを食べるというのか!?」
貴族たちがざわめく。しかし、ゾーラ族の要人やリンクは、その香りにいち早く反応した。
ニンニク、生姜、唐辛子、そして昆布の旨味が溶け込んだ濃厚な醤油の香りが、生の甲殻類の甘みと混ざり合い、鼻腔を強く刺激する。
「……いただきます」
ゼルダ姫がそっと手袋を外し、キュッと身の詰まったハサミ肉を口に含み、チュッと吸い上げた。
その瞬間——!
**「〜〜〜〜っっっ!?」**
ゼルダ姫の体に電撃が走った。
トロリととろける生のテクタイトの身は、まるで極上の海老とカニを足して二で割ったような濃厚な甘み! そこに染み込んだ特製醤油タレの鋭いコクとピリッとした辛みが、身の甘みをこれでもかと引き立てる。
「なんという……なんというトロけるような甘み……! 生の身の臭みは一切なく、醤油の香ばしさと旨味が、噛むたびに溢れ出してきますわ……!」
「うおおおっ! これは酒が進むぞ! このカニの味噌の部分をすくって飲むと、濃厚すぎて脳が痺れるわい!」
ゴロン族の重鎮が大口で殻ごと噛み砕かんばかり勢いでしゃぶりつく。
「魔物だと思って侮っていた……。これほどまでの美味とは……!」
一瞬で大広間はカンジャンケジャンを貪り喰らう音で満たされた。
#### 【二の皿:スープ】
**『ブラッディホーンブルのテールスープ』**
続いて運ばれてきたのは、湯気が立ち上る澄み切った、しかし深みのある琥珀色のスープだ。中央には、ホロホロに煮込まれた極上の肉塊が鎮座している。
「こちらは、Sランク魔獣『ブラッディホーンブル』の尾を、ネギや生姜、薬味とともに数時間じっくりと煮込んだスープです」
一口啜ったローム王の目が、大きく見開かれた。
「……ぬううっ!? こ、これは……っ!!」
見た目のあっさり感からは想像もつかない、力強い肉の旨味とコラーゲンの濃厚なコク! ブラッディホーンブルという強大な魔獣の生命力が、そのまま液体となって全身の血を巡るような感覚だ。
「肉が……口の中で解けていく……。噛む必要すらない。塩加減も絶妙で、身体の芯から熱い力が湧き上がってくるようだ!」
リンクもまた、無言でスープを飲み干し、お代わりを要求するように空の皿をじっと見つめている。
#### 【三の皿:魚料理】
**『のどぐろの炭火焼き』**
「ゾーラ族の皆様をはじめ、魚好きの方々へ。幻の高級魚『のどぐろ』の炭火焼きです。シンプルに岩塩と、香味野菜を添えております」
「ほう……魚料理か」
ゾーラ族の王族が箸(※ムコーダが用意したカトラリー)をつける。
皮目はパリッと香ばしく焼き上げられ、炭火の芳しい香りが漂う。身に箸を入れた瞬間、ジュワッと溢れ出す上質な脂。
「な……なんだこの脂の乗りは……!? まるで海のバター……いや、それ以上に品のある極上の脂だ!」
「皮の香ばしさと、ふっくらとした白身の甘み……! 焼き加減が神業に近い!」
魚を主食とし、味にうるさいゾーラ族たちが、一口食べるごとに歓喜の声を上げる。魚の素材そのものの味を極限まで引き出す日本の『炭火焼き』の技術に、彼らは完全に脱帽していた。
#### 【四の皿:サラダ】
**『半熟ウフマヨとベビーリーフの無限ネギンジャーサラダ』**
ここできたのが、今回の隠し球——**ロピアの技術が光るサラダ**である。
新鮮なハイラルのベビーリーフの上に、トロトロの半熟ゆで卵(ウフマヨ)が乗り、そこへかかっているのは……ロピア名物の万能調味料『ネギンジャー』ベースの特製ドレッシングだ!
「野菜か。肉や魚の口直しだな」と軽く考えていた貴族たちが、一口食べてフリーズした。
「……な、なんだこのドレッシングはっ!?」
「刻みネギのシャキシャキ感と、生姜の爽やかな風味が効いている……だがそれだけではない! ガツンと来るニンニクの旨味と、胡麻油の香ばしさが……野菜を『無限に食べさせる悪魔の味』に変えている……!」
「ウフマヨの濃厚な黄身とマヨネーズが、ネギンジャーの塩気と混ざり合って……野菜なのに、満足感が肉料理並みですわ……!」
ハイラル全種族にとって、ロピアの調味料はまさに『未知の病みつき味』覚醒の瞬間であった。草食傾向のあるリト族も、肉食のゲルド族も、我を忘れてサラダを貪っている。
#### 【五の皿:主菜(メイン)】
**『ロピアの七味タレに漬け込んだブラッディホーンブルのテキサス風ブリスケット』**
宴はいよいよ最高潮へ。運ばれてきたのは、巨大な木製プレートに乗せられた、圧倒的な存在感を放つ肉の塊——**テキサス風ブリスケット**だ。
低温でじっくりと時間をかけて燻製焼きにされたブラッディホーンブルの肩バラ肉。表面は香ばしいスパイスの層(バーク)で覆われ、ナイフを入れるとスッと吸い込まれるように切れ、中から溢れんばかりの肉汁がジュワッと溢れ出す。
「このタレには、ロピア特製の『七味醤油タレ』を使用しています」
「ぬおおおおおおおっ!!」
肉を口に放り込んだゲルド族の戦士と、ゴロン族の組長が同時に叫んだ。
「柔らかい……! 噛むと肉汁が爆発する! そしてこのタレ……醤油ベースの甘辛さに、ピリッと効いた七味唐辛子の風味が、肉の脂の旨味を極限まで引き立てている!」
「スモーキーな香りと、濃厚な和風タレの融合……! こんなに美味い肉料理、生涯で食べたことがないぞ!!」
#### 【六の皿:揚げ物】
**『コカトリスの唐揚げ(ほりにしのスパイス&にんにく醤油の2種)』**
メインに続いて出されたのは、みんな大好き唐揚げ!
高級鳥魔獣『コカトリス』の肉を使い、二つの味付けで提供された。
ひとつは、万能アウトドアスパイス『ほりにし』を効かせた、スパイシーでハーブ薫るザクザク衣の唐揚げ。
もうひとつは、ロピアの濃厚にんにく醤油に漬け込み、ジューシーな旨味を閉じ込めた王道の唐揚げ。
「ザクッ……! ジュワァァァ……ッ!」
大広間のあちこちで、衣が弾ける心地よい音が響く。
「このスパイスの効いた方は、一口食べると刺激的な香りが口いっぱいに広がって、手が止まらない!」
「にんにく醤油の方は……くぅぅぅっ! 白米が欲しい! 白米と一緒にこの唐揚げを掻き込みたい……っ!」
リト族の戦士たちが、羽をバタつかせながら唐揚げを貪り食う。
#### 【七の皿:シメ】
**『あご出汁薫る鯛茶漬け』**
油っこい肉料理と揚げ物の後に出されたのは、小さな陶器の碗に入った『鯛茶漬け』だ。
炊きたての白いご飯の上に、特製胡麻ダレで和えた新鮮な鯛の刺身が乗り、そこへ熱々の『あご(飛魚)出汁』を注ぎかける。
「お召し上がりください。出汁によって半生になった鯛の食感をお楽しみいただけます」
熱々の出汁を啜ったローム王が、ふぅっと長い息を吐いた。
「……あぁ…………落ち着く…………」
あご出汁の深みのある上品な旨味が、これまでの濃密な料理で満たされた胃袋を優しく包み込んでいく。胡麻ダレの香ばしさと、ワサビのツンとした爽やかさが完璧な調和を生んでいた。
「素晴らしい……。強烈な肉の暴風雨の後に、この静けさと深みのある出汁の味……。完璧な構成だ……」
#### 【八の皿:デザート】
**『ロピアの人気スイーツ・天使のふんわりティラミス』**
宴の最後を締めくくるのは、ロピアの看板スイーツ『天使のふんわりティラミス』だ。
大容量の容器から美しく盛り付けられたティラミスは、ほろ苦いココアパウダーと、口の中でシュワッと消えるマスカルポーネクリームの層が美しい。
「スイーツは別腹ですわ……!」
ゼルダ姫がスプーンで一口すくい、口へ運ぶ。
「……っ!! んんん〜〜〜〜っっっ持続!!」
ゼルダ姫は思わず頬に手を当て、うっとりと目を細めた。
ほろ苦いエスプレッソの風味と、濃厚なのに空気のように軽いチーズクリームの甘み。口に入れた瞬間に「ふわっ」と溶けて消えていく食感は、まさに『天使』の名にふさわしい。
「甘すぎず、それでいて満足感がすごい……! 異世界のスイーツは、ここまで進化しているのですか……!」
こうして、ハイラル王国建国45周年記念式典は、割れんばかりの拍手と、参列者全員の満面の笑み(とパンパンに膨らんだお腹)とともに、歴史的大成功のうちに幕を閉じたのであった。
### オチ:天界の衝突! ハイラル三幻神 vs デミウルゴス&ニンリル
式典の夜。
大成功を収めたムコーダは、ハイラル城の最上階にある豪華な客室で、フェルたちと一緒に横になっていた。
「ふぅ……死ぬかと思った……。でも、みんな喜んでくれて良かったよ……」
『ふん、当たり前だ。お前の作る飯が、あの程度の人間どもに響かぬはずがなかろう』
『あるじー、スイ、今日のティラミスってお菓子もっとたべたーい!』
『オレもー! 唐揚げおかわりしたかったぞ!』
「はいはい、また明日ネットスーパーで買ってやるからな」
ムコーダが苦笑いした、その時である。
**ゴオオオオオオオオオオオン……!!!!**
突如、部屋の空間が歪み、現実のものとは思えない神々しい、しかし不穏な空気に包まれた。
部屋の天井が透過し、そこには夜空を超えた『次元の狭間』が広がっている。
そこに着座していたのは——ハイラル王国を創造せし**三柱の創世神(ハイラル三幻神)**。
力の女神**ディン**、智慧の女神**ネール**、勇気の女神**フロル**の眩い姿であった。
『……聞き捨てなりませんね』
冷ややかな、しかし絶対的な神威を孕んだネールの声が響く。
『我が愛しきハイラルの地で、見知らぬ異世界の神の信徒(?)が、これほどまでの美味を振り撒き、王女や民の心を完全に掌握してしまうとは……』
ディンが燃え盛るような瞳でムコーダを見下ろす。
『あの『ブリスケット』という肉料理……あれは我が司る『力』の具現化のごとき力強さであった! ムコーダよ、そなたをこのまま異世界へ帰すわけにはいかん! ハイラルの宮廷専属神聖料理人として、永遠にこの地に留まるのだ!』
フロルも頷く。
『そうよ! あのティラミスと唐揚げがあれば、ハイラルの民の士気は100倍になるわ! リンクの英傑の力だって、あの料理を食べ続ければガノンなんて一撃で倒せるようになるわよ!』
「え、えぇぇぇぇぇっ!? 神様たちまで出てきたの!?!?」
ムコーダが泡を食って腰を抜かす。
その時!
三幻神の頭上の空間がバリバリと音を立てて割れ、聞き覚えのある呑気かつ必死な声が響き渡った。
**『ちょっと待ったぁぁぁぁぁああああっっっ!!!』**
光の柱とともに降臨したのは、ムコーダの元いた世界の最高神・**創造神デミウルゴス**!
そして、その隣には涙目になった風の女神**ニンリル**、さらに資質神アルテミ、火の女神アグニ、水の女神ルサールカたちの姿もあった!
『調子の良いことを言わないでいただきたい、ハイラルの神々よ!』
デミウルゴスが憤慨して叫ぶ!
『ムコーダは我が世界の貴重な『ネットスーパー供給源』……ゲホン! いや、我が世界の愛すべき勇者(のオマケ)なのだ! 貴方たちの手違い……ではなく我が方の手違いで一時的に流れてしまっただけ! 返していただこう!』
ニンリルが髪を振り乱して泣き叫ぶ。
『嫌じゃ嫌じゃ!! ムコーダを渡さぬぞ!! 毎週の洋菓子とどら焼きとロピアのティラミスがなくなったら、妾は生きていけぬのじゃぁぁぁぁあっ!!』
アグニも叫ぶ。
『あのロピアの七味タレで漬け込んだ肉とビール!! あれがない週末なんて考えられないわよ!!』
ルサールカも便乗する。
『あご出汁のスープ……あれがないと私の肌の潤いが……!』
『だまりなさい!!』
ネールが美しくも恐ろしい笑顔で一閃する。
『こちらの世界へ来た以上、彼はハイラルの理に従うべきです! そもそも、あなた方がボタンを押し間違えたのが原因でしょう!?』
『ぐぬぬっ……! それは……そうだが!』
デミウルゴスが言葉に詰まる。
『問答無用! ムコーダとフェンリルたちはハイラルが貰受ける! あの美味なるタマリンドジュースとブリスケットを、毎日捧げさせるのだ!』
ディンが腕を組み、譲らない姿勢を見せる。
『渡さぬ! 渡すものか! ムコーダ、今すぐ戻るぞ!』
『嫌じゃー! ムコーダのティラミスは妾のものじゃーーーッ!!』
**「「「「争うな(争わないで)ー!!!」」」」**
天界の神々とハイラルの創世神たちが、ムコーダの身代金(主にロピアの食料)と所有権を巡って、次元の狭間で大喧嘩を始めてしまったのである。
眩い神々の光と怒号が飛び交う天井を見上げながら、ムコーダは深々と、この世の終わりような溜め息をついた。
「……ハぁぁぁぁぁぁぁ…………。結局、どこへ行っても神様たちの都合に振り回されるのか……僕の平和な旅は、一体いつになったら戻ってくるんだ……?」
足元で、スイが能天気にぷるぷると揺れる。
『あるじー? かみさま達も、お腹すいてるのー? スイ、またお肉食べたいなー!』
『ぬう……騒々しい奴らだ。ムコーダ、神どもの喧嘩など放っておいて、明日の朝飯の仕込みをしろ』
「……はいはい、分かったよ……」
ハイラルの夜空に、神々の騒がしい議論と、美味しそうな肉を焼く香ばしい匂いが、どこまでもどこまでも溶けていくのであった。
### 決着:神々を鎮める神聖なる(?)B級グルメ
「ええい、静まりたまえ! ハイラルの神々も、こちらの世界の神々も、一度落ち着くのじゃ!!」
次元の割れ目から身を乗り出し、髪を振り乱して叫ぶのは風の女神ニンリル……ではなく、あまりの混乱ぶりに頭を抱えた創造神デミウルゴスであった。
天井の透過した次元の狭間では、ハイラル創世の三幻神——力の女神ディン、智慧の女神ネール、勇気の女神フロルが燦然たる神威を放ちながら、譲らぬ構えを崩さない。
『断る!』
ディンの燃え盛るような声が大気をも震わせる。
『あの『ブリスケット』の力強さ、『ネギンジャー』の悪魔的病みつき感……あれは我が司る『力』の領域を脅かすほどの逸品! このような至高の食を生み出す者を、やすやすと元の世界へ帰すわけにはいかぬ! ムコーダはハイラル王国に留まり、我が神殿に毎日供物を捧げるべきだ!』
『私からも申し上げます』
ネールが静かに、しかし冷酷なまでの威圧感をもって言葉を重ねる。
『あの『あご出汁』の深みと『のどぐろ』の脂の乗り……あれはまさに洗練された『智慧』の結晶。そちらの世界の神々が『ボタンの押し間違い』などという愚行でハイラルに流流着(ながれつき)させたという失態を考慮すれば、所有権がこちらに移るのが道理というもの』
『そうよそうよ!』
フロルも可愛らしく、しかし容赦なく追撃する。
『ティラミスだってまだ一口しか食べてないんだから! リンクたち英傑にだって、もっとあの唐揚げを食べさせてあげたいんだから!』
対する我が世界の神々も、一歩も引く気はない。
『嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃーーーッ!!』
ニンリルが地駄を踏み、天界の雲を散らす勢いで泣き叫ぶ。
『ムコーダは妾の美味しいものをくれる大事な従者じゃ! どら焼きも、ショートケーキも、ロピアの天使のティラミスも、全部妾のものなのじゃ! ハイラルの神々に渡してなるものかーーーッ!!』
『そうだそうだ!』
アグニが酒瓶を振りかざして威嚇する。
『あたしの週末の楽しみであるビールと『ほりにし唐揚げ』を奪う気か!? だったら神界戦争でも何でも買ってやるわよ!!』
『私の……私のあご出汁を……返して……!』
ルサールカに至っては、涙目になりながら透明な槍を構えている。
「あ、あの……神様方……? 僕の部屋で神界戦争を始めるのは本当にやめてもらえませんか……?」
ムコーダは滝のような汗を流しながら、必死に介入しようとしたが、神々の圧倒的な神威の前には彼の声など羽毛のように軽い。
「ぬう……。鬱陶しい奴らだ。ムコーダよ、雷撃の一発でも撃ち込んで黙らせてやれば良かろう」
『ダメだよフェル! 神様に雷なんて撃ったら僕たちが消し飛ぶよ!!』
『スイ、あの上のピカピカしてる神様たちも溶かしていいのー?』
『スイも待った! 溶かしたらあっちの世界に戻れなくなる!!』
『おいムコーダ!』
肩の上でドラちゃんがパンパンと頬を叩いてきた。
『あいつら、要するに「美味いもんが喰いたい」だけだろ!? 宴の残りと、なんか新しいもん作って食わせりゃ大人しくなるんじゃないか!?』
「新しいもの……って言っても、宴の料理は全部出し切っちゃったぞ!? 素材も……」
その時、ドスンと重い音が部屋の入口から響いた。
見れば、フェルが足元に「ヌチャ……」と気味の悪い音を立てる巨大な物体を転がしていた。
「……フェル、それなに?」
『む? 先ほどテクタイトを狩った際、水辺から飛び出してきたタコのような魔物だ。「オクタロック」とか申したか。やたらと石を吐き出して不快だった故、一突きで仕留めておいた。肉質はかなり引き締まっておるぞ』
「オ、オクタロック……!? ハイラルの名物魔物じゃないか!」
ムコーダの目の前に転がされているのは、巨大な足が無数に蠢く(※仕留められているが残砲反応でピクピクしている)巨大なタコ型の魔物であった。
「待てよ……タコ……? オクタロック……。タコがあるなら……アレができるんじゃないか!?」
ムコーダの脳裏に、電撃のような閃きが走った。
日本の誇る究極のB級グルメ、そして今や世界中で大人気の激辛韓国グルメ!
「よし……! デミウルゴス様! ニンリル様! そしてハイラルの三幻神の皆様! 落ち着いてください! 今から、両方の世界の神々が絶対に満足する『最高の宴の延長戦(夜食)』を作ります! それを食べてから、話し合いをしませんか!?」
ムコーダの叫び声に、上空の神々の動きがピタリと止まった。
『……夜食だと?』
ディンが眉をひそめる。
『妾たちの怒りを、食べ物ひとつで鎮めようというのか? ……ちなみに、何を作るのじゃ?』
ニンリルが涙を拭いながら身を乗り出す。
「お見せしましょう……異世界のB級ソウルフード『オクタロックの絶品たこ焼き』**と、激辛とトロトロチーズの悪魔的融合**『オクタロックのチーズチュクミ鍋』です!!」
### 調理開始:ロピアの資材とハイラル食材の融合
時間がない。ムコーダは即座に『ネットスーパー』を起動した。
「検索……『ロピア』のオリジナル冷凍食品および調味料コーナー!」
カチカチと画面を操作し、以下のアイテムを爆買いする。
* **ロピア特製・大玉たこ焼き粉&濃密たこ焼きソース**
* **業務用とろけるミックスチーズ(1kgパック)**
* **韓国直輸入・チュクミ(イイダコ)用激辛ヤンニョムタレ**
* **卓上ガスコンロ&大玉用たこ焼きプレート、浅型鉄鍋**
* **青のり、削り節、天かす、紅生姜、マヨネーズ(特大サイズ)**
「よし! スイ、このオクタロックの足を酸で綺麗に洗って、ヌメリを取ってくれ!」
『はいはーい! スイ、ピカピカにするー!』
スイの強力かつ精密な酸によって、オクタロックの足は一瞬で臭みとヌメリが消え去り、極上のピンク色に輝く新鮮なタコ足へと変貌した。それをムコーダは包丁で大ぶりにぶつ切りにしていく。
「まずは……たこ焼きだ!」
ボールにたこ焼き粉、卵、出汁を混ぜ合わせ、熱したプレートに流し込む。
ジュワァァァ……と香ばしい匂いが部屋中に充満する。大ぶりに切ったオクタロックの身、天かす、紅生姜を投入し、千枚通しでクルクルとテンポよくひっくり返していく。
「おお……流石はオクタロック、熱を通すと身がキュッと引き締まって、最高の弾力になりそうだ!」
外はカリッと、中はトロトロ。焼き上がった黄金色の球体に、甘辛いロピア特製ソースをたっぷり塗り、マヨネーズを網目状にかける。仕上げに青のりと、熱気で踊る削り節をフワッと踊らせた。
「そして次は……チーズチュクミ鍋だ!」
浅い鉄鍋の中央に、ヤンニョムタレで真っ赤に炒めたオクタロックのぶつ切り肉とキャベツ、玉ねぎを山盛りにセット。そしてその周囲を囲むように、ロピアの濃厚とろけるミックスチーズを**これでもか**と敷き詰める!
コンロの火をつけると、中央からは激辛の芳醇な唐辛子の香りが立ち上り、周囲からはチーズがグツグツと溶け出す香ばしい乳製品の香りが広がっていく。
「できた……! 出来立て熱々を召し上がれ!!」
ムコーダは魔法の如く空間から差し出し、神々の降り立つ次元の祭壇(?)へと、二つの熱々料理を捧げた。
### 実食:神々、完全敗北
『……む、何だこの丸い物体は? 表面で何かが踊っておるぞ?』
ディンが半信半疑で、熱々のたこ焼きを神力で一つ持ち上げ、口へと放り込んだ。
次の瞬間——。
**ハフッ……! ジュワァァァァッッ!!**
『〜〜〜〜〜っっっっ!??!』
ディンの美しい顔が、紅潮した。
外側の生地は香ばしくカリッとしているのに、中からはアツアツトロトロの出汁の効いた生地が溢れ出す! そして中央に鎮座するオクタロックの肉!
『な……なんだこの歯ごたえはっ! 噛むたびに弾力のある肉から旨味が爆発する! そしてこの黒いタレと白い塗料(マヨネーズ)の組み合わせ……甘み、酸味、コクが混ざり合い、濃厚極まりない!!』
『私もいただくわ!』
フロルがたこ焼きをパクリ。
『んん〜〜〜っ! 青のりの磯の香りと、削り節の旨味が最高! こんなに一口で幸せになれる食べ物があったなんて……!』
一方、デミウルゴスとニンリルたちは『チーズチュクミ鍋』に飛びついていた。
真っ赤なヤンニョムタレが絡んだオクタロックを、トロ〜リと伸びる熱々の溶けたチーズにたっぷり潜らせて、口の中へ投じる!
**「「「んんんんんんんんんんッッッ!!!」」」**
ニンリルが目を輝かせて叫んだ。
『からい! 辛いのに……甘い! そしてチーズが濃厚でまろやかじゃぁぁぁあっ! オクタロックの弾力のある食感が、激辛タレとチーズを纏って最高のハーモニーを奏でておる!!』
『これは……酒だ! アグニ、酒を持ってまいれ!!』
デミウルゴスが神としての威厳を完全に放棄し、激辛チュクミを頬張りながらビールを喉に流し込む。
『あぁぁぁっ! 辛い! 旨い! ビールが進むぅぅぅうっ!!』
アグニもプハッと息を吐き出し、タコ足をチーズに絡めては口に運ぶ無限ループに突入した。
ハイラルの三幻神も、チュクミ鍋の甘辛い香りに耐えかね、そっとチーズを絡めたタコを口に含んだ。
ネールがうっとりと目を閉じ、頬を染める。
『……言葉になりません。辛味という刺激の後に押し寄せる、乳製品の包容力とタコの旨味……。これぞ『混沌』の中に存在する完璧な『秩序』……!』
部屋の中は、もはや神界戦争の物星しさなど微塵もなかった。
あるのは、「ハフハフ」「熱い!」「ビール!」「たこ焼きおかわり!」という、神々とは思えぬ品のない(?)歓声だけであった。
### 和解と幕引き
二つの大皿が綺麗サッパリ空になり、神々全員が「ふぅ……」と満足そうな溜め息をついた頃。
ディンが満足そうにお腹(神体)を撫でながら、咳払いをひとつした。
『……コホン。ムコーダよ。そなたの料理、確かに見事であった。我が司る『力』の真髄を、この『たこ焼き』と『チュクミ』から感じ取ったぞ』
『ええ』
ネールも優しく微笑む。
『異世界の食文化……誠に奥深いものでした。これほどの美味を味わえたのであれば、今回の訪問は我がハイラルにとっても大いなる祝福であったと言えましょう』
デミウルゴスがビール瓶を置き、神妙な顔で頷いた。
『うむ……。ハイラルの神々よ、こちらの不手際で騒がせたことは詫びよう。しかし、ムコーダは我が世界の住人。彼を無理に繋ぎ止めるのは、世界の理を歪めることにもなりかねん』
ディンとネール、フロルは顔を見合わせ、やがて静かに頷いた。
『分かりました』とネールが言った。
『ムコーダを元の世界へ送り返すことを許可しましょう。……ただし! 条件があります』
「じ、条件ですか……!?」
緊張するムコーダ。
フロルがニカッと笑って指を立てた。
『次にハイラルとこちらの世界が繋がった時……あるいは、宴の際には、必ずその『ロピアのタレ』と『たこ焼き』の材料をハイラルに捧げること! ゼルダやリンクにも、もっと食べさせてあげたいからね!』
『それと、今回の建国記念式典の大成功の褒美として、ハイラル王室からそなたらへ『異次元を越える旅の護符』と、大量のルピー、そして最高級のハイラル食材を授けよう』
デミウルゴスが胸を胸を撫で下ろした。
『おお……交渉成立だな! さすがはハイラルの神々、話がわかる!』
ニンリルはたこ焼きの最後の一粒を口に放り込みながら、泣き出しそうな顔で言った。
『ムコーダぁ……帰ったらすぐに妾にロピアのティラミスと、あのタコ焼きというやつを捧げるのじゃぞ……! 約束じゃぞ……!』
「はいはい、分かりましたよニンリル様……」
ムコーダは深い溜め息をつきながらも、どこか安堵した笑顔を浮かべた。
翌朝。
ハイラル城の広場には、満足げな表情のローム王、満面の笑みを浮かべるゼルダ姫、そして誇らしげに胸を張るリンクたち近衛兵団が見送りに集まっていた。
「ムコーダ殿、そして魔獣の方々。そなたたちの振舞ってくれた饗宴は、ハイラルの歴史に永遠に刻まれるであろう。感謝する」
ローム王が重厚に頭を下げる。
「ムコーダ様、また……いつか必ず、あの素晴らしいお料理を食べさせてくださいね!」
ゼルダ姫が手を振る。リンクも無言で力強くグッと親指を立ててみせた。
「皆さん、お世話になりました! 美味しい肉や食材、ありがとうございましたー!」
ムコーダが『アイテムボックス』にぎっしり詰め込まれたハイラル特有の肉や魚、そして王室からの報酬を確かめながら手を振り返す。
デミウルゴスの手によって次元の扉が開き、眩い光がムコーダ一行を包み込んでいく。
『スイ、またあのお姫様と遊びたかったなー!』
『オレはハイラルの鳥の肉、もっと食べたかったぞ!』
『ふん、まあ悪くない街であったな。ムコーダ、戻ったら早速あの『オクタロックのたこ焼き』とやらを我にもっと作れ』
「分かってるって。……よし、それじゃあ帰ろう! 僕たちのいつもの旅へ!」
眩い光の中へと消えていくムコーダ一行。
ハイラルに持ち込まれた異世界のネットスーパーとロピアの味覚は、その後「伝説の宴」として、ハイラル王国で何世代にもわたって語り継がれることとなったのだった。
(おわり)