彼女が彼女を見つけたことは偶然であった。いや、後々のことを考えるのであればそれは神の導きと言っても過言ではないものなのかもしれないが。
彼女と示された一人は簡単に言えば、帝国騎士団を追放されて冒険者へと身を落とした騎士、セシリア=ルートワーク。
もう一人は、時計塔で見つかった記憶喪失の少女、名は……不明だ。
もっとも、この事の発端は少し前に遡る。
帝国騎士団、ジタンファ第一詰所にて、セシリアに追放処分が言い渡された。
「セシリア=ルートワーク。貴女を、規定により追放処分といたします」
「……了解しました」
「……故に、荷物をまとめ、今後一切帝国騎士団とは関わらぬように。」
「……はい」
彼女が追放された時、誰もが冤罪だと思った。
だがその思索は正しくなく、実際に罪を犯していたのだ。
彼女は、騎士団にそれまでの一生を懸けてきた。
だからか、再び戦いに身を落とすのは当然かと言うかのように冒険者になった。
彼女は冒険者になってすぐ、ジタンファの冒険者ギルド東区支部にて、ある依頼を受けた。
「……この依頼はなんですか?」
ボードに貼られた依頼書は色褪せていた、元々質素な物であったのであろうがそれがより見栄えを悪くしていた。
「その……依頼ですか?」
「ええ、随分と古びていますね」
「……皆さん、そういう依頼は受けたがらないんです。」
「じゃあ、この依頼受けます」
「本当ですか……!?……わかりました。……依頼者さんの住所はここです。話してきてください」
依頼者に聞きに行くのが当然なのかなど、セシリアにはわからずとりあえず従うことになった。
「……わかりました」
彼女がその依頼を受けたのは、慈悲であったのか、愉悦だったのか、気まぐれだったのか……それはわからないが、その依頼は冒険者に好かれない、人探しであった。
その依頼人の住む家は、ジタンファの東区にあった。その住居は最近よく建てられる低俗で不衛生な背割り長屋の一室であった。空気が通らず、湿ってジメジメとしている。その中の一室であった。
「……入ります」
ノックをした。……返事はない。留守だろうか?
背割り長屋に、入ってくる足音が聞こえた。源は……少女であった。黒髪の素朴ながら美しい少女だ。
「……冒険者さんですか?」
「ええ、そうです」
「本当ですか……!?は、入ってください」
「……ありがとうございます」
彼女の部屋は、質素であった。古びた壊れかけの寝台に、古い卓が一つ。まるで生きれれば良いとでも言うような素貧寒な有様であった。
「そこに座ってください……あ、床ですみません……」
「いえ、全然構いませんよ」
「冒険者さんにも、綺麗な人いるんですね」
「そう、ですか?」
確かにセシリアは外見だけは良い。一際目を引く、色艶のいい金髪のポニーテール。そして整った顔立ち。そして装備もまるで騎士のような綺麗な鉄鎧に、腰に携えた豪華な剣。市井の人々が想像する冒険者とは大きくかけ離れていた。
「あ、すみません。……て、てっきり冒険者さんってその……」
「その?」
「荒くれ者ばかりかと」
「……」
「ほ、本題に入りましょう……その誰を探して欲しいかなんですが」
「ええ、そうですね」
「写真があって……これです」
白い長髪の可愛らしい少女が、素朴ながらその子を引き立てるドレスを着て座っていた。
「……綺麗な子ですね」
「ふふん」
「……貴女を褒めたわけではありませんが」
「……彼女が褒められたとすれば、私も嬉しくなります」
「そんなに仲がよろしいのですね」
「ええ……彼女とは……彼女とは……まあ親友みたいなものです」
「親友みたいなもの?それはどういう?」
「……そ、それは……と、とにかく仲がよかったんです」
「詳しく聞かせてください、その人を探すためにも情報は多い方が良いですから」
「……い、いやあの、その……」
「その?なんですか?はっきり言ってください」
「……こ、恋人です」
「……なるほど。」
「……や、やっぱり変ですよね……女の子を好きになるなんて」
「いえ、大丈夫です。変じゃありませんよ。」
「そ、そうですかね……」
「ええ、……この方のお名前を伺っても?」
「……レイラ=ハンツマンです」
「……ふむ。わかりました。あと何かあれば」
「……秘密結社日十字団、あれが誘拐したんです」
「は?……いや、それがわかってるなら騎士団に行ったらどうですか?」
「……いえ、行ったのですが……その……証拠が少ないと言われまして」
「あー……まあ騎士団は動くにも色々制約がありますから」
「……ええ、そうなんですよ。とにかくおねがいします」
「わかりました。では行ってきます」
報酬の話をしなかったのはセシリアの良心が故だろうか。だが、騎士団内での殺害を起こした者に良心などあるはずがない。それに類する行動をしたのなら……それは愉悦が故だ。
セシリアは騎士団にいたことから、日十字団の噂を耳にしていた。彼らは人肉を食べるだとか、テラヒア派の末裔だとか……だがそのなかでも、ジタンファ時計塔にて夜、会合を行うという物があった。信憑性はともかくとして、行ってみる価値は多分にあった。
その日の夜、セシリアは時計塔へと侵入した。手すりのない螺旋階段を登り、鐘のあるフロアへとでる。
そこには……誰もいなかった。いや、正確には日十字団の団員はいなさそうに見えた。噂は嘘であったのかと、セシリアが落胆していると。
文字盤に身を預けている少女が居た。……セシリアが、見せてもらった写真の少女を少し幼くしたような綺麗で可愛らしい少女が、これまた綺麗な純白のドレスを着て。まるで聖女が如き容姿、主が自ら産み落としたのかと錯覚するほど。
セシリアは揺すった。
「……起きて下さい」
「んっ……っ……こ、ここは……」
「……あなたはレイラ=ハンツマンですか?」
「……あ、あなたは?」
「……わたしはあなたを探している……」
セシリアは考えた。冒険者とは昨今嫌われている、騎士団が現れた頃からだ。魔物の排除、傭兵など、そういった需要が消えただの荒くれ者に成り下がったのだ。
「……探偵です」
「……探偵さん?……ここはどこですか?」
「ここはジタンファ時計塔です」
「ジタンファ時計塔?……ごめんなさい、何もわからなくて」
「……名前は?」
「……」
少女は首を横に振った。セシリアとしては容姿は完全にあの写真の少女であるのに、確証も取れず、そしてましてや記憶喪失。あの依頼人に引き渡して終わりとは言えなくなっていた。
「そう、ですか。……教会はわかりますか?」
「い、いえ。……言葉以外は……」
「……教会に知り合いがいます。少しみてもらいましょう、そしたら何かわかるかもしれません」
「ほ、本当ですか?」
「行ってみないとわかりません。とりあえず立ってください」
「はい」
彼女らは時計塔を出て、東区はずれの寂れた教会にたどり着いた。その教会は新しく出来たのだろうか小綺麗であった。
セシリアは扉を叩き、少し経って眠たげなシスターが来た。
「……アイリーンはいますか?」
「……チャペルマン先生ですか?」
「ええ、そうです」
「とりあえず、入ってください。先生を呼んできます」
「ありがとうございます」
アイリーン=チャペルマン。彼女はセシリアの友人いや、元恋人であった。
セシリアの恋人はアイリーンを除いて必ず死んでいた。それはセシリアにとって、酷く悲しいことであった。そんな最中、彼女はアイリーンと知り合い、その心を傷を埋めて貰ったのだ。
「なんだ?こんな夜遅くに……」
扉からは紺色の長髪で質素なキャソックを着た女性が出て来た。
「この子を見てほしい」
「……これは……診察室に行こう」
「……さあ、行こう?」
診察室は、特別な部屋のようには見えず、文明人の書室であった。
「そこに座れ」
「ありがとう、アイリーン」
「……それで、そいつ何者だ?」
「さあ……時計塔で見つけたんだけど、記憶喪失みたいで……」
「そうか……君、触ってもいいかな?」
「……先生はすごい人なんだ、ここに来る前は聖法院で研究者をしていたんだよ」
「せいほういん?」
「ああ、わからないのか。まあ魔術を研究するところだよ」
「宗教関連の単語がわからないのか……?」
アイリーンの顔には疑問符が浮かびながらも、メモしていた。
「ええ、ちょっと。フィリル教のことですよね」
「ああそうだな。……忘れている単語と忘れていない物……何か特徴が得れればいいが……ふむ……詳しく体がみたい。セシリア出てってくれないか?」
「えー?女だしよくない?」
「……お前……いや、君、さすがに恥ずかしいだろう?」
「……はい、ちょっと……」
「ほらな、さっさとでてけ」
「はーい……」
「……触ってもいいか?」
「は、はい大丈夫です」
裸体となった少女の身体の隅々を触っていく。そして終わり際に一言、アイリーンは発した。
「……あいつには気をつけろ」
「……へ?」
「おい、もう良いぞ」
「はーい」
「……見た感じ、肉による魔道具だな。」
「???」
「もともとの肉を素材に再構築され、複雑な魔道具と化している。まるで時計塔のような複雑さだ」
「???」
「……その疑問符の浮かんでいるような顔をやめろ、うざい」
「だって本当にわかんないんだもん」
「はぁ……騎士団に入って少しは真面目になったと思ったら……二人きりならまだしも、ここには人が居る、少しは真面目にやれ」
「……はい、わかりました。で、アイリーン、結局どういうことですか?」
急に真面目な雰囲気を帯び始めた。それまでの様子が幻だったのか、と錯覚するほどに。
「……人肉を組み替えて魔道具にしている。効果は不明。」
「効果は不明ってどういう……?」
「複雑すぎる、大体の効果は生命維持だが……それだけならここまで複雑じゃなくていい」
「……わかった。この子をここに置いておけるかな?」
「……出来るが……」
「ちゃんと調査してほしい」
「……了解した。名前は?」
「……忘れました」
「んー……じゃあアイリスは?いい名前じゃない?」
「……お前っ!」
アイリーンが勢い良く立ち上がった。攻め立てるようにセシリアを睨みつけている。だが、少女本人にとっては訳もわからぬ状況であった
「……なに?ねぇアイリーン?」
「……っ……わかった!わかった!」
アイリーンがゆっくりと座った。
「ど、どうしたんですか?」
「いっいやっ!なんでもないっ!……いや、良い名だと思うぞ……」
「……あ、あの、お名前を伺っても?」
アイリスがセシリアの方を向いて、問いた。
「私?……セシリア、セシリア=ルートワーク」
「せ、セシリアさんっ……」
「なに?」
「……な、名前つけてくださって……ありがとうございます」
「……どういたしまして」
「……客室が空いてるはずだ、案内させよう」
アイリーンが出て行った。部屋に残されたのは二人。沈黙が鐘のように響いていた。
「そ、そう言えばセシリアさん、あの先生とはどういう関係何ですか?」
「……まあ元恋人だよ。」
「も、元恋人っ……!……あの失礼なんですけど……何で別れたんですか?」
「……本当に好きなのかわからないって言われちゃったからね」
「……それは……」
「……でもそれが彼女の良い所だと思う。はっきりしてる所、物怖じせずに言う所、そう言う所が少なくとも私は好きだった」
「そう……なんですね」
「おい、助手を連れてきた。……アイリス、こいつに連れてってもらえ」
「あ、あの、セシリアさんは?」
「話す用がある。」
「……アイリス、心配しなくていいよ。」
「し、心配している訳じゃないですけど……その……いえ……じゃあ、ありがとうございます」
「何だか歯切れが悪いな……」
「で、アイリーン、話す用ってなに?関係修復?」
「そんなわけないだろう。……アイリスのことだ」
「……あの子には言えないようなこと?」
「ああ、本当は何処で拾ってきた、本当に時計塔な訳ないだろう?」
「……本当に時計塔」
「本当に……?まさか……日十字団か?」
「おそらくは」
「……私のとこにも情報が少ない。……もしも調べるなら自分でやれ」
「つれないなぁ」
「……拾い子を教会に入れただけ優しいと思え」
「はーい……」
「……これ持ってけ」
「なにこれ?」
「……紹介状だ、そいつも日十字団のことを探してる」
「ありがと」
月が走るのは早い。彼らのような日陰者は太陽には焼かれてしまう、だからこそ走るのが早いのだろう。
「おはよう」
セシリアは少し気分が良さそうに見えた、逆にアイリーンは疲れているように見え、腰を庇っていた。
「セシリアさん、おはようございます」
「……セシリア、今日はどうするんだ?」
「まあ昨日言ってくれたアレクサンドルさんを当たってみるよ」
「そうか」
「アイリス、ちょっと待っててくれる?」
「はい、いつまでも待てます」
「……アイリス、こっちに来い。セシリア、さっさと行け、出て行け、顔も見たくない」
「そんな言わなくて良いでしょ、酷い」
「助手、こいつを締め出せ」
「すみません、セシリアさん」
「あ、ちょっと待って、待っててば。ああー!」
「……ちっ……」
セシリアは酒場に来ていた。アイリーンの談によると彼は、招待状の相手は良く酒場に居るそうだ。
「すみません、貴方が…… アレクサンドルさんですか?」
「ああ、俺がアレクサンドルだ」
質素な神父服、確かにアイリーンの知り合いであるのであればフィリル教関係者であるのは必然だった。
「……この紹介状、チャペルマン先生からのか」
「ええ、アイリーンから渡されました」
「……まじで?」
「はい、まじです」
「……はぁ……何用だ?どうせ面倒事だろ?」
「日十字団のことです」
「……本当にか?」
「ええ」
「チャペルマン先生も偶には厄介事以外も運んでくるんだな!」
「えぇ……アイリーンが?」
「ああ、先生はいっつも面倒事ばかり寄越してきやがる、俺はパシリじゃねえっつうの」
「……そうですか……とりあえず本題に入りましょう」
「ああ、日十字団のことだったな」
「ええ、アイリーンから貴方が調査していると聞きました」
「……ああ、そうだ。あいつらは俺の妹を攫った。……何故わかるかって?……感覚なんだ。でも絶対にこいつらだってわかる。色んな被害者にも聞いた、皆そう言う。」
「それは……催眠の類ですか?」
「違う、……チャペルマン先生が言うには信号が送られているそうだ」
「それはどう言う?」
「……さあな。何故、信号を送っているのか、そして何故攫ったのか、それらは全部不明だ」
「なるほど。……聞きたいことがあります。時計塔についてです」
「時計塔……ああ、あいつらの元集会場だな」
「元?」
「ああ、元だ。今は違う。……俺がしくったんだ。時計塔で集会をしてるってわかって直ぐ行っちまった」
「それで……逃して……場所を変えられた」
「ああ、今でも探してるがな、今度はあんなヘマはしねえ」
「なるほど……一つ情報を。時計塔で日十字団の被害者と思える少女を見つけました」
「は?……本当にか?」
「ええ、記憶喪失、肉体を魔道具に変えられて」
「……なんて酷いことを。だが、そうだ奴らは人体を変える魔法を使う」
「なるほど……でも不思議なことがあるんです。……それは何故その少女を置いてったのか」
「確かに……見つけられようとした?」
「その線がありそうですね」
「今は何処に居るんだ?」
「アイリーンの所です」
「チャペルマン先生の所か、なら安心だ」
「……?……え?アイリーンは弱くないですか?だって組み手とか運動とか、魔法とか全部からっきしで……」
「…………あ、いや、戦闘能力じゃなくてだな、まあ……対応力の高さだ」
「ああ、そう言う……」
「だが……つまり日十字団が動き出したってことだな。……あんたにも手伝ってもらってもいいか?」
「ええ、勿論。何を手伝えば?」
「……まあ、見張りだな」
「何処を?」
「あんたには時計塔をお願いしたい」
「……わかりました」
「すまん、感謝する」
そして日々は過ぎる。彼らは日々を奔走し、日十字団を探す。
しかしそれでも尚、奴らは見つからない。そしてある日の晩。アイリーンの教会で爆発が起きた。明らかなる異変。セシリアは、アレクサンドルを連れて教会へと向かった。
「くそっ……何が起きやがった」
「もしかしたら日十字団かも知れません!」
「……倒壊してやがる」
教会は崩れていた。破片やらが散らばって普段の様相とは大きく異なっていた。かろうじて壁と成っているところに身を預けたアイリーンが居た
「……あ、あれは……アイリーン!」
「……セシリアか……アイリスが……日十字団も来やがった」
「どう言うことだ?チャペルマン先生」
「アイリーン、その傷……」
「とりあえず、中庭の方に行け!さっさと行け!」
アイリーンが声を張り上げた。
「行きますよ、アレクサンドル!」
「あ、ああ!」
中庭はいつもの様相とは大きく変わっていた。倒壊した教会の壁や天井などの破片が散らばっていた。だがそれ以上に異常だったのは、アイリスと、奥にいる謎の外套に身を包み顔を隠した一団であった。そしてその中のリーダー格のような者が声を上げる
「おお、聖処女よ!お目覚めになられたのですね!?さあ!こちらに!」
「くそったれ……おい、セシリア!あれが日十字団だ!」
「おお!?貴方は!アレクサンドル神父、お久しぶりです!」
「……アイリス……」
「せ、セシリアさん……!た、助けて!……や、やっぱり、こ、来ないで!」
「……ちっ……どうする?セシリア?」
「……とりあえずあいつらを捕らえましょう」
「ああ、そうだな!」
「……お兄ちゃん……?」
信者の一人がアレクサンドルに声をかけた。フードを取り、顔を見せた。少女の面だ。
「は?……いや……お前は……何で……」
「ふふ……やっぱり……お兄ちゃん、久しぶりだね……」
「兄妹の感動の再会!主は我らを見てくださっているのです!」
「うるせえ、黙れ!どうせ偽物だ!」
「ううん……お兄ちゃん、偽物じゃないよ。私は気づいたの……そして自分の意思で従っているの」
「……っ……じゃ、じゃあ信号は何だよ!?」
「あれはですね!我ら日十字団を知らしめるためですよ!我らは今や……焼却された身……表だって活動は出来ません!しかし!貴方方ならわかってくださると!」
「うな訳ねえだろ!こっちは家族攫われてんだぞ!」
「だからこそですよ!貴方方は悲しみを知っている!」
「アレクサンドル……もう良いでしょう……捕まえてから聞けばいい」
「……ちっ……ああ、それもそうだな」
「せ、セシリアさん……」
「おおっと……聖処女よ!貴女は選ばれたのです!さあ彼らにも教えてあげてください!」
「……どう言うこと?アイリス……こっちに来て」
「セシリアさん……それは出来ないです……わ、私が近寄れば……セシリアさんは……」
「ああ!彼らには説明していませんでしたね!聖処女は!我らを天に召してくださるのです!」
「は?」
「おい、そりゃどう言う意味だ!」
「……そうなんです……私が近寄れば皆消えて……」
「……もういい、黙れ……」
「……セシリア……わかった」
セシリアが剣を抜いた。アレクサンドルが本を取り出した
「神の御名の下、祝福のあらんことを」
アレクサンドルが呪文を唱えた、聖魔術としては初歩だが練り上げられておりその精密さにより効力は引き上げられていた。その祝福がセシリアと自身に降り掛かる。
「我が家、ルートワークに伝わる宝剣、「
赫と白の混じったまるで芸術作品のような剣が現れた、宝剣と言いつつも様相は魔剣であった。
「我らは聖処女を回収にしにきただけです!戦いにきたわけでは!」
「お前らを赦す訳ねえだろ」
「っ……聖処女!後にお迎えに来ます!少しお待ちを!皆の者!行きますぞ!」
「逃すか!」
「テラヒア様!お守り致します!」
「なっ!」
「主の下より、我が血肉、怨敵を穿て!」
「っそんな物!」
セシリアがその血の弾丸を切り伏せた。だが、それだけが飛んで来ているわけではない。多くの魔法によって、いかに元騎士団といえども足止めされていた
「くそ!セシリア!こっちは無理そうだ!」
「くそ!逃げるな!」
セシリアが吠えた。だが負け犬だ。テラヒアには逃げられかけている、その内見えなくなるほどに
「テラヒア様!行ってください!」
信者が叫んだ。自身の命よりもテラヒアの方が大事そうに
「……アイリス……是を……」
「チャペルマン先生……?……これは……」
「着てくれ……一時的にお前の能力を封印する……」
「……ありがとうございます……」
「逃すか!宝剣解放!「
血の荊が剣先から伸び、テラヒアとやらに向かう。だが信者の一人が身を挺して守る
「くそ……!」
「もういい!セシリア!アレクサンドル!」
アイリーンが叫んだ。
「何でだよ!?先生!」
「……意味がない」
アイリーンは周りに倒れている者達を眺めて言った
「そのうち教会の奴らが来る、そいつらに任せておけ」
皆分かっていたのだ、今ここにいるのはただの信者だ。主犯たるテラヒアを捕まえられるわけでないのだから。信者達は逃げて行った、駆け出した。
「……アイリーンがそう言うなら……」
「……くそ……わかったよ……」
「……ああ、少し休もうか、皆」
その日の事は教会がもみ消した。何故かは不明だ、ただの神父と教会の先生、冒険者が知る術などなかった。だが一つ、わかったことはまたもや日十字団を逃したということであった。
そして今、夜遅く、診療室でアレクサンドルとアイリーンが話していた
「……アレクサンドル異端審問官、日十字団の場所はわかったか?」
「無論だぜ、執行官第七席磔刑様」
「……地図を」
「此だ」
「……了解した。では行って来る」
「……主の御名の下、祝福のあらんことを」
日十字団の拠点は西区の外れ、背割り長屋の地下にあった。その扉を敲くのは信者かあるいは……敵対者か
「夜分遅く、失礼します」
「……おお、新た……な……信者……」
扉が勢いよく閉められた。だがその隙間には指があった。強引にその扉は開けられた。
「執行官、第七席、磔刑。執行官の独自裁量より日十字団、貴方方に断罪を行います」
執行官。聖法院、最高戦力。異端審問官の中でもエリートが選ばれる独自裁量をもつ者達。彼らの制服たる、黒い布による目隠しに、黒金馬の革によるキャソック。まごうことなき執行官であった。
「皆ぁ!逃げろぉ!」
彼女が懐から出したのは邪悪な様相な杭であった。
「…断罪されよ」
逃亡を勧告した信者の心の臓が刺された。声にならぬ声を出しながら
「お前らもだ」
杭が投げられた。信者達がなす術もなく殺されていく。
魔法も使えず、ただ召されていく
「おお!執行官様ですか!ですが!このテラヒア!ただでは……」
信者は皆死んでいた。そしてテラヒアさえも足に、手に気付かぬうちに杭が刺さっていた
「杭を打ち立てよ、
アイリーンがテラヒアに触れ、呪文を唱えれば、テラヒアが塵となって行く、そして消えた。死体すらも残らず。
「……やはり……死体は美しい……」
「その中でもこの少女は……ああ……はあ……!」
日十字団壊滅の話が回ったのはアイリーンが殺戮してから10日後のことであった。
その話を聞き、アイリーン、セシリア、アレクサンドル、アイリスはお疲れ様会を開いた
「「「乾杯!」」」
「か、乾杯……!」
「さてはて……アイリスの身体も調整が効くようになったしな。いい機会だ」
「そうだね、アイリス、やったね」
「はい!これも皆さんのお陰です!」
「そうか……そっか……」
話も、酔いも、宵も深まり、そろそろお開きにしようとしていた
「……ねえアイリス、今日、二人でお泊まり会しない?」
「お泊まり会……やってみたいです!」
「そうだよね……じゃあアイリーン、今日私たちはホテルに泊まるから。もう行くね」
彼らはそう言うと直ぐ様出て言った。アイリスは疑わなかった。着替えも、何もないのに何故直行できるのか
「……止めなくてよかったのか?」
「……別に良いだろ……好きにさせとけ……」
「……なあ、先生、何でセシリアは騎士団を追放されたんだ?」
「ああ、セシリアは頭がおかしいんだ。好きな奴、つまり愛する者が本当に愛してくれているなら、自分から殺そうとしたら、殺そうとしてくれて、互いに死ねるとな」
「……は?」
「それで騎士団内で、アイリスと言う女騎士と付き合っていた。そして……」
「……殺そうとした」
アレクサンドルが補った。
「で、そのまま殺した。それで追放だ」
「よく追放で済んだな……」
「そこら辺はまあ本当に殺したかどうかしっかりと分かっていなかったからだろうな。まああいつも何回かやっているし証拠隠滅は得意だからな」
「……なるほどな。……あ、じゃ、じゃあ今のあのアイリスちゃんにアイリスって名付けたのは……」
「そう言うことだな」
「……じゃああんたら二人揃って同性愛者かよ!?」
「……そうだが?」
「なんでこうも俺は……女に恵まれねえんだ……」
次の日の朝、セシリアが受けた依頼の依頼人は街を歩いていた。久々の休み、どうお金を使おうかと歩いていると……
「え?」
彼女は発見してしまった。ホテルから出てくる。依頼を受けたあの騎士のような冒険者と、レイラによく似た少女がべったりとくっついて出てくる所を