後方腕組みで傍観を決め込む背景モブの僕、【怪文書】の差出人だと密かにバレて破滅予定の悪役令嬢に粘着された。   作:ぜんはいざ

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悪役令嬢が仲間になりたそうにこちらを見ている

「そのような大切なドレスを、どうして今日の歓迎パーティーで、しかもエステルに着せていらっしゃるのかしら。その理由、是非ともお聞かせいただきたいですわ」

 

 ヴァイオレットが煽(あお)るように人差し指を口元に当て、氷のような微笑を浮かべ尊大に、傲慢(ごうまん)に言い放つ。

 その姿はまさに悪役令嬢のそれで、美しさも相まって、僕は思わずぞくり、としてしまった。

 

「簡単なこと。エステルが優れた才女であることを、私は以前から聞き及んでおり、快諾を得て生徒会に迎え入れるつもりだった。なので、今日のパーティーを機会として、その話を皆にしようとしていたのだ」

 

 あらかじめ言い訳を考えていたのだろう。オズワルドは、淀みなく言い返す。

 その一方で。

 

「「「「…………………………」」」」

 

 後ろに控える生徒会役員の面々は、『え? どういうこと?』と、話の流れに全くついていけてない様子。これ、大丈夫そ?

 こういうのは、周囲の連中にも事前に口裏を合わせておかないと。社会に出るなら、根回しは大事だぞ。

 

「オズワルド殿下。わたくしは、どうしてエステルに第一王妃殿下の大切なドレスをお与えなのか、そうお伺いしているのですが」

「む……」

 

 若干呆れた表情で尋ねるヴァイオレットに、オズワルドは思わず口を噤(つぐ)んでしまう。

 確かに彼女の言うとおり、あの男が言ったことはエステルを評価したって話に過ぎず、ドレスを貸し与えた理由にはならない。

 

「オ、オズワルド殿下は、ドレスを持っていない私を見かねて、第一王妃殿下の大切なドレスを、わざわざお貸しくださったんです」

 

 胸に手を当て、身を乗り出して理由を説明するエステル。

 

「そういうことでしたら、それこそ第一王妃殿下のドレスである必要はありませんわよね? ドレスなんて、既製品のものがたくさんありますもの」

「そ、それは……」

「先程申したであろう。私が母上のドレスを与えたのは、エステルへの期待の表れだ」

 

 ちょっと無理やりこじつけた感はあるが、一応理由として成り立たなくはない。

 それだけエステルを評価しているということを、周囲に知らしめるという意味でも。

 

「それより、母上のドレスを貶(けな)したことについて、どう落とし前を……」

「あら? わたくしがいつ、そのドレスを貶(けな)したのでしょうか」

「なっ! 先程エステルのことを、馬鹿にしたであろう!」

 

 不思議そうな表情を浮かべるヴァイオレット。

 一方、オズワルドは声を荒らげた。

 

「ええ、馬鹿にしましたわ」

「なら……!」

「ですが、それは当然ではないでしょうか。本日のパーティーの主役は新入生。であるならば、その主役よりも目立つ格好をするのはいかがなものかと」

「…………………………」

「つまり、場を弁えず貴族令嬢に相応しくない振る舞いをしたからこそエステルを叱ったのであって、ドレスを貶(けな)してなどおりませんわ」

 

 ああ、なるほど。

 オズワルド達の追及を、そうやって躱(かわ)すことにしたのか。

 

「それと」

「っ!?」

「エステル。あなたはどうして、あえて(・・・)そのドレスを着ているのかしら」

「それは、先程もお話ししましたとおり……っ!」

「ちゃんと話を聞いていますの? 今日のパーティーに相応しいドレスが他にあったにもかかわらず、あなたは何故、第一王妃殿下のドレスを選択したのかと尋ねているんですのよ」

 

 急にヴァイオレットの視線が鋭くなり、エステルが思わず狼狽(うろた)える。

 だけど、エステルはさっき、実家からの援助がないため、用立てるドレスがないと言っていたよな……?

 

 そのことは『すてでき』でも明確に描写されていたから間違いないはずなんだが、ヴァイオレットは何を指摘しているんだろうか。

 

「な、何度も言わせないでください! 私は実家からは何の援助も……っ」

「二日前」

「ふ、二日前……?」

「あなた宛てにドレスを贈ったはずなんだけど、それはどうしたの?」

「っ!?」

 

 そういうことか。

 ヴァイオレットはこのことを見越して、先に予防線を張っていたんだな。

 

 彼女がドレスをあらかじめ送っていたのなら、エステルは実家の支援がなかったことを言い訳にはできない。

 

「その……ドレスなんて、いただいた覚えは……」

「おかしいわ。だって王都のブティックからは、『確かに届けた』と報告を受けているもの」

「待て。ならば、そのブティックが嘘を吐いている可能性も……」

「ならお調べになりますか? 王室御用達(・・・・・)のブティック、『インペリアル』を」

 

 勝負あったな。

 

 王室御用達のブティックともなれば、嘘を吐くなんてことはあり得ない。

 もしそんなことをしたら、王室からの信頼を失い、商売なんてできなくなるし。

 

「エステルも、次からは場を弁えることね。……そして、オズワルド殿下」

「な、なんだ……?」

「今回のことは、カヴェンディッシュ家から正式に確認をさせていただきますわ。まさか第一王妃殿下の大切なドレスを、今日の歓迎パーティーに持ち出すなんて、許可が出ているかすら怪しいですもの」

「……好きにしろ」

 

 オズワルドは苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるように告げる。

 本当ならこの場でヴァイオレットをやり込めて、次期国王へのステップアップにしたかっただろうから、さぞ悔しかろう。(煽(あおり))

 

 それにしても。

 

(たったあれだけの内容で、こうも見事にやり込めるなんてな)

 

 僕が送った怪しさ満載の【怪文書】を読んだことも驚きだが、既に説明したとおり手紙に記せる文字数は一四〇字が限界。

 だから僕は、この歓迎パーティーで起こり得ることをできる限り簡潔に箇条書きにして、最後に『気をつけろ』と一言だけ添えた。

 

 その情報量で、ヴァイオレットはあの二人の企みを逆手に取り、勝利したんだ。

 

 おかげで僕はさっきからずっと感心しきりで、うんうん、と頷くしかない。

 これでエステルよりも成績が悪いとは到底思えないし、むしろイケメンヒーローの詰めの甘さが際立っている。

 

 だけど。

 

「…………………………」

 

 企みが失敗したのに、エステルはどこか安堵(あんど)した表情を浮かべているんだが。

 これ、どういうこと?

 

「新入生の皆様、お騒がせして申し訳ありませんわ。どうか今宵(こよい)は、存分にお楽しみくださいませ」

 

 ヴァイオレットはドレスの裾(すそ)をつまんで優雅にカーテシーをすると、取り巻きの二人を連れて颯爽(さっそう)と会場を出て行った。

 何あれ、クッソ格好いいんだが……って。

 

「え……?」

 

 彼女、去り際に僕を見なかった?




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