今日も今日とて会議だ。また玉縄の話を聞かなきゃいけないのかと思うと行きたくなくなるが、お仕事なので仕方ない。会議室前に着くと何やら騒がしい。
何やってんだろうか?ドアを開けると、海浜総合高校の生徒会メンバーだけでなく、折本かおりと小学生の集団がいた。何が何だかわからないので固まっていると、折本が俺を見つけてこちらに寄ってきた。
「比企谷久しぶり!本当はクリスマスイベの時に会うつもりだったんだけどさ〜なんか玉縄くんがボランティア募集してたみたいで、比企谷の働く姿見て冷やかそうかと思って参加してみた!」
ボランティア?玉縄のやつ、まだ仕事の内容決まってないのになんでボランティア募集してんだよ。まぁそれはいい。人手があるとやれることも増えるからな。
「割と早い再会だったな……言っとくが立場は俺のが上だ。折本には死ぬほど働いて貰うから覚悟しとけよ。ちなみに俺は指示するだけで働かん。それで、あっちの子供はなんでいるの?」
折本がいる理由はわかったが、小学生の集団はなんなんだよ。託児所じゃないぞここは。家に帰してあげなさい。
「比企谷も仕事しなよ生徒会でしょ。あの子達も玉縄君が小学校にボランティアを募集したらしくて、それで来た子たちだよ。あたしもビビったわー、会議室きたら小学生いるんだもん」
…………やってくれたな、玉縄。俺が今回のクリスマスイベント失敗してもいいと思っていたのは、今回の失敗で割を食うのが海浜総合高校だけだと思っていたからだ。
俺たちはあくまでお手伝い。失敗の責任は海浜総合高校にある。一色には悪いが、失敗も経験だと言えば、俺は仕事をしなくて済むからな。
だが、小学生が絡むなら話は別だ。何の罪もない子供たちにクリスマスイベントが失敗しただなんていう思い出を植え付けるわけにはいかない。
どうしたもんかと小学生の集団に目を向けると知っている顔がいた。夏の林間学校で知り合い、今も土日にたまに遊んでいる鶴見留美だ。こちらをじっと見つめて、まるで今気づいたのかと言わんばかりの非難している目をしている。
いや、気づいてたよ。気づいてて知らないふりしただけだから。手招きして留美を呼ぶ。こっちおいで留美ちゃん!
「八幡。気付くの遅い。」
「気付いてたよ、留美に気づかないわけないだろ。ほら、この隣のお姉さんが俺に話しかけてきたせいで留美に声掛けるの遅れただけなんだって。このお姉さんがお詫びにジュース奢ってくれるから好きな物飲んでいいぞ。」
全ての責任はいきなり現れた折本にある。留美は雪ノ下と仲が良いので、チクられる前に賄賂を渡しておこう。
「あたし関係ないでしょ!あたしの財布勝手に当てにしないでよ!ってか、この子って比企谷の知り合い?同級生に友達いないからって小学生に手を出しちゃダメでしょ。ほらこっちおいで。このお兄さんに近寄ったらダメだよ。クズのロリコンから離れようね。」
「八幡はロリコンだったんだ、これから近寄らないでね」
風評被害が酷すぎる。俺は雪ノ下コンであってロリコンじゃない。ともあれ、留美は折本と一緒に仲良く自販機に歩いていった。
留美はあれから変わった。葉山がやらかした事件の影響は多少あったそうだが、俺と雪ノ下と小町で色々作戦を練って、なにより留美自身の努力のお陰で学校ではイジメられず、さらには友達も出来たそうだ。
林間学校では嫌な思い出をさせてしまった。今回は留美に最高の思い出をあげなくちゃいけないし、玉縄の事が嫌いとか言ってる場合ではないな。さっさと行動開始といきますか。
「玉縄会長。小学生を呼んだのはなにか小学生にして貰いたい事があったんですか?」
玉縄に話しかける。俺は今まで会議でも基本的に黙っていたので、こうやって玉縄と直接話すのは初めてだ。
「もちろんさ。小学生のフレッシュさは僕らのイノベーションをさらにブラッシュアップしてくれると思うんだよ。」
「つまり、まだ何をして貰うか考えてないってことですか?」
「それを今からみんなでブレストしようじゃないか。ウチの高校からボランティアも呼んだし、以前よりもシナジーが生まれると思わないか?」
話しても無駄だな。小学生だけでもこっちで引き取ろう。
「小学生は門限があるから会議なんてしてる暇はないですよ。何かやるにしても、高校生と違って制限が大きいです。なので、作業を分担しましょう。俺達総武高校側は小学生を中心に出し物を考えるので、海浜総合高校側は大人を中心にした出し物を考えてください。」
出し物っていっても歌を歌うか演劇をするかだろう。どちらにしろ練習するなら時間はもうそんなに無いから、今日から始まる必要がある。
「いや、それだと意味がない。別々ではシナジーが起きない。コンセンサスも取れてないだろう?アクティブなのはいいが、大事なのはコミュニケーションだよ。」
話し合いじゃ無理か。仕方ない。
「分かりました、ではご自由にどうぞ。俺は今日は小学生の相手をするので、今日の終わりにまた話を聞きにきますね。」
「ああ、よろしくたのむよ。メルシー!」
小学生の集団に戻ると折本達ボランティア3人が小学生とワイワイしていた。あれ?俺いらないんじゃないか?まあ出し物考えるのは別だからいいか。
「折本。そっちはどんな感じだ?」
小学生グループに引き留められながら折本がこっちに来たので状況を聞いてみた。この短時間でなんでそこまで仲良くなれてんだよ。
「やっぱこの子達は何も知らないってさ。クリスマスで面白い事やるって聞いたから来ただけみたい。」
「ちっ……まじでそっちの生徒会長どうにかしろよ。さっき話したけどプラン無しだったぞ。何考えてんだアイツ。」
「あたしにも分かんないけど、とりあえず成功はさせたいんじゃない?人集めるくらいだからやる気はあるんでしょ」
やる気あっても迷惑になるだけなんだよ……これは林間学校の時の葉山を思い出すな。葉山はアレに懲りてかなり改心したみたいだが、玉縄は無理かなぁ……
「とりあえず俺達高校生組はどうでもいいから、小学生だけは何とかするぞ、手伝ってくれ。」
「あいあいさ〜!ってか、まじで比企谷ってこんなんだっけ?もっとヤル気ないというか冷めてたことない?」
「今回は留美がいるからな。詳しい事はまた後で話すけど、留美には小学生を満喫して貰わないといけないんだよ。」
「ふーん、留美ちゃんが懐いてるわけだね。先話したけど、めっちゃ好かれてるよ、よかったじゃん比企谷!」
俺に懐くよりも、小学校で沢山思い出作って沢山友達作って欲しいんだけどな。まぁ好かれるのは悪い気はしない。
「お陰でこうして働くことになったけどな……先ずは子供達が何やりたいかを聞いとくか。折本、小学生を集めて話を聞いてくれ。」
「いや、指示だけじゃなくて比企谷も働いてよ。小学生多いんだからあたしらだけじゃ無理だってば。」
折本達と協力しながら小学生と話をする。
どうやら劇をする事で決まりそうだ。
内容は『悪いサンタを倒して、サンタから奪ったプレゼント(飴)を会場に配って回る』だ。最近の子供は暴力的過ぎる。
小学生グループは低学年〜高学年までいるので、サンタを倒す役は仮面ライダーやプリキュアや孫悟空やらが勢揃いでサンタをフルボッコにするらしい。
ちなみにサンタ役は留美の推薦で俺になった。後でデコピンしてやるから覚悟しとけよ。
内容的には節分に近いが、お祭りみたいなもんだからしっかりと台詞を覚える必要もないし、何とかなりそうだ。
小学生の門限になったので小学生をお見送りした後、玉縄の元に向かう。嫌だなぁ。玉縄と話したく無いなぁ。
「玉縄会長。小学生は門限で返しました。そちらの進捗はどうですか?」
「お疲れ様!明日にはアジェンダを決めるから、明日も同じ様に小学生の相手を頼むよ!みんな良いアイデア出してくれてね、パラダイムシフトな気分だよ!これから更にアウトプットがレベルアップしていくだろうね!」
なるほど、進捗無しね。一色と由比ヶ浜は……死んでる。頑張れ。玉縄の相手をするのも仕事のうちだ。
「それはよかったです。小学生の相手は引き続き俺と追加ボランティア組で見るので、玉縄会長はお仕事に集中してくださいね。」
「ああ!楽しみにしてくれ!明日には決めるよ!」
絶対無理だろうなぁ……
1週間が経った。クリスマスまであと1週間。
玉縄は「明日には決める!」とズルズル引き延ばしてきたが、流石に限界が近付いてきているのを理解しているのだろう、顔色が優れない。そして今日こそはブレストを終わらせるらしい。まだブレストやってたのか。
小学生の劇は順調だ。
俺が劇をやるという事を聞きつけて、雪ノ下が校内の仕事を爆速で片付け電撃参入してきた。三浦と海老名も一緒だ。
雪ノ下のポケットマネーで衣装の質は劇的に向上し、子供達の士気も大いに向上している。
倒されるサンタ役が足りないので、見た目が怖いギャルの三浦もサンタ役に抜擢された。三浦は子供が好きな様でノリノリだ。だからなんでその性格でギャルやってんだよ。
一方、玉縄チームは今日も成果無しだった。
マジでどうする気なんだ。一色と由比ヶ浜も流石に玉縄に抗議したが、横文字を使われてはぐらかされているらしい。
こっちはこっちでチラシとかは配って宣伝をし始めているので、玉縄チームが失敗しようがもうどうでもいいので放置している。
クリスマス2日前。
海浜総合高校の生徒会メンバーが飛んだ。
海浜総合高校が忙しくなるから後は任せるとの事だ。
この感じは文化祭での相模と同じか。懐かしいな。
「せんぱ〜い!やばいですやばいですほんとにやばいです〜!あの人達逃げちゃいましたよ!どうしましょ〜!」
一色が泣き真似しながら俺に相談してきた。さっき目薬さしてるの見えてたからな。
「ここまで放置した一色にも責任はあるぞ。ただ、今回は場所取ってあるしお客もチラシで呼んでるし小学生の練習も充分できてるから、一応は問題ない。」
「それはそうなんですけどぉ……やっぱ失敗したままって嫌じゃ無いですか〜!なんか大逆転的なのしたいんですよ!」
もしかして、一色はこれを狙ってたのか?だとしたらギャンブラー過ぎる。絶対生徒会長には向かない。
「ウチの高校の吹奏楽部と軽音学部に打診してみたらどうだ?吹奏楽と軽音学のコラボなんて斬新だろ。その場のセッションで小学生をコーラスにしても面白いだろうし、色々やりようはありそうだぞ」
「それいいですね!さっそく部長に依頼してみます!」
ルンルン気分の一色を見て確信した。こいつワザと玉縄を放置してたな。俺も放置してたから一色の事はとやかく言えないけど……。横で由比ヶ浜がポカンとしている。1番の被害者は由比ヶ浜かもしれない。
クリスマスイベント当日。
吹奏楽部と軽音学部を引き連れた一色生徒会長の演奏会は大盛況。平塚先生や雪ノ下(姉)もゲリラ参入で演奏に加わったりとサプライズも満載だった。
小学生の劇も大盛況。留美は鹿の衣装からサンタの衣装への早着替えを披露し、会場を沸かせていた。雪ノ下が言うには10万円近く掛かった仕掛けらしい。相変わらず留美には甘い。
一仕事終えてボロボロのサンタ服でマッ缶を飲んでると折本が近付いてきた。折本にも今回は世話になったな。
「比企谷、お疲れ様!玉縄君が逃げたのは流石に引いたけど、無事に盛り上がってよかったね!」
「そうだな。色々手伝ってくれてありがとな折本。」
「いいって、あたしも楽しかったし。それよりもさ、その…………中学の時はホントごめんね。言いふらすつもりなかったんだけど、勝手に広まっちゃってさ、あたしも引くに引けなくて…」
なんとなく予想ついてたが、やっぱりか。
「あれはいきなり告白した俺が悪いんだから気にするな。」
「……そうだね、比企谷ならそう言うよね。なんか、やっと比企谷のこと分かった気がする。年明けに中学の同窓会あるけど来る?あたしが一緒に行ってあげるよ?」
「行くわけないだろ。中学に未練はないから余計な気を回す必要はない。気持ちだけ貰っとく。」
「だよね!そう言うと思った!それじゃぁね!同窓会で比企谷の話して盛り上がっておくから!」
折本はそう言うとアッサリと友人の元に帰っていった。もうこれで2度と会わないかもしれないし、もしかしたらバッタリ何処かで会うかもしれない。でも、お互いにそんな無粋な事は言わない。俺達の関係はそれ位が丁度いい。
マッ缶を飲み終えたので、そろそろ帰るとしますか。
立ち上がってゴミ箱に缶を捨てると後ろから声が聞こえた。
「マッ缶は禁止にしていた筈なのだけれど?」
「禁止にされると余計に飲みたくなるんだよ。それに、今日はサンタ役の頑張ったからいいだろ、雪ノ下。」
振り返ると少し含みのある顔をした雪ノ下がいた。
折本との会話を聞かれてたかな。
「折本さんとは仲直りできたみたいね。」
「仲直りではないな。そもそも喧嘩してたわけじゃない。中学時代にやり残した青春を終わらせただけだ。」
「…………折本さんも、比企谷くんの事をちゃんと知っていたら告白受けていたでしょうね。」
「俺は折本の事をちゃんと知らずに告白してたんだ。あんなのは告白でもなんでもないよ。相手のことを知って、心から好きだと伝えなきゃ、それは告白とは言わない。」
「そうね。あの病院での台詞。まだ覚えてるわ。」
俺の雪ノ下への告白。
一言一句覚えてる。ホントに飾り気がなかったもんだ。
「俺も覚えてる。たぶん一生忘れない。」
「ふふ。愛の告白にして短かったものね。」
「あれが精一杯だったんだよ。というか、今でもあれが精一杯だ。」
「せっかくだからもう一度言ってくれないかしら?」
「それはいいけど、同じ言葉でいいのか?時間とか関係変わってるぞ。」
「そうね……なら、今日に相応しい言葉に変えて欲しいわ。」
今日に相応しい言葉?クリスマスってことか?
「これからの私達に相応しい告白をして欲しいの。」
雪ノ下が真っ直ぐに俺を見ている。
これからの俺と雪ノ下の関係。
俺は雪ノ下とずっとイチャイチャしてきたけど、
この単語だけはずっと言ってこなかった。
俺は雪ノ下の事が好きだけど、
これは学生の間だけの恋愛かもしれないと、
俺は心の奥底で思っていたのだろう。
折本に受けたトラウマは雪ノ下と付き合って治ったはずだと、自分に言い聞かせていたが、何処かにまだ心残りがあったんだと思う。
トラウマなんて、そう簡単に治るものじゃない。
だけど、折本に会ってそれが精算された。大事なのは俺がどう思い込んでるかじゃなくて、ちゃんと本人から言われる事だったんだ。言葉にしなきゃ、相手には伝わらない。
「雪ノ下。好きだ。1年と8ヶ月、雪ノ下といて楽しかった。これからも一緒にいたい。結婚して欲しい。」
病院の時と同じ。俺は頭を深々と下げた。
もしかしたらあの時と同じ様に
顔を真っ赤にして逃げられてしまうかもしれない。
そしたら雪ノ下のマンションまで追いかけてみよう。
今日は絶対に雪ノ下を捕まえてみせる。いつも雪ノ下に先を越されていたから、今日は俺が雪ノ下をリードするんだ。
少し経つと、嗚咽が聞こえてきたので顔を上げると、雪ノ下が泣いていた。
雪ノ下を初めて泣かせてしまった。
でも、嗚咽は雪ノ下だけじゃなくて、俺の方からもしていた。
俺も泣いてしまっていたようだ。
雪ノ下のマンションに着くまで、2人で色々な話をした。今まであんなにベタベタくっついてキスもしていたのに、今は手を繋ぐだけで幸せだった。でも、これから俺達はもっと幸せになる。俺はもっと雪ノ下を幸せにしたい。
クリスマスの夜。
俺と雪ノ下は2人で大人になった。