相模がブッチした文化祭も無事に終わり、総武高校の2年生は次のイベントである修学旅行(京都)に向けて動き出していた。
今はホームルームの時間。
修学旅行の班決めだ。友人と一緒の班になれるかどうか?片思い中の相手と一緒の班になってワンチャン狙うか?欲望渦巻く時間の始まりである。
ちなみに、その班決めの欄に俺の名前はない。
俺がぼっちだからハブられてるとかそういう訳ではない。
『比企谷くんは雪ノ下さんと一緒に回るだろうし、寝るとこだけ決まったら教えるね』とクラスメイトから言われているのだ。雪ノ下とイチャイチャし過ぎた結果がこれである。少しは自粛しないといけないな。
放課後。奉仕部の時間。
文化祭後夜祭でキスをした俺達は、部室でキスをしまくってた。
なんてことはなく、少しだけ距離が縮まっただけだ。
俺と雪ノ下は健全なお付き合いをしているので、キスをしまくるような不健全な事はしない。そりゃたまにはキスするけどさ。毎日じゃないよ。たまにだよたまに。
キスをするにしても、雪ノ下はいきなり唇にキスをするような事はしない。
先ずは手を触る。そして、お互いの肌の感触を確かめながら徐々に密着度を上げていく。
今日の雪ノ下は少し積極的だ。俺の首元にキスをしたと思ったら、少し舌を這わせてきた。舌で舐められるとゾワゾワしてしまう。
雪ノ下の口は俺の首から頬へ。頬から口が離れると、俺の目の前に雪ノ下の顔があった。雪ノ下と目が合う。雪ノ下は俺とキスをする時は必ず目を合わせてからキスをする。
そして俺も、雪ノ下とキスする時は雪ノ下の目を見てキスしたい。
唇が触れ合う。
今はまだ唇が触れるだけのキスだ。
だから俺と雪ノ下は、もっと触れ合っていたくなる。
また目が合った。俺と雪ノ下はまた重なり合った。
唇が離れる。まだ足りない。雪ノ下と目が合う。
雪ノ下も同じ気持ちでいてくれる。
俺達はまた顔を近づけて「ねぇ!!!さっきから私達いるんだけど!!いつまでキスしてるの!!!ヒッキーもゆきのんもキスし過ぎだから!!!」
ちっ……邪魔が入ったか。由比ヶ浜達が部室入ってきた事は知っていたが、空気を読んで出ていってくれると思ったのに。
「いや、たまたまだよ。たまたまキスしてるとこに由比ヶ浜達が来ただけで、そんなキスし過ぎだなんて、いったい何を根拠に言ってるのやら。」
証拠もないのに人を疑うなんて見損なったぞ由比ヶ浜。
「先週から毎日部室でずっとキスしてるの知ってるんだからね!!ほんとは修学旅行の相談したかったのに、毎日毎日キスしてるから部室入りづらかったからこれが証拠!」
どうやら毎日キスしてしまっていたらしい。俺の記憶力はダチョウ並かもしれん。
「まあ細かい事は気にするな。それで、相談ってなに?奉仕部は最近ちょっと忙しいから相談乗れるかわからないけど。」
「忙しいんじゃなくてキスしてるだけでしょ!修学旅行の班決めのことだよ!」
「めっちゃ忙しいのに……。班決めなんて大体決まったメンバーだから問題ないだろ。班が別でも無視して一緒に行動すればいいんだしさ。」
俺と雪ノ下なんてクラスが違うけど一緒に行動するし、行き帰りの新幹線の席も既に交渉済みである。
「その決まったメンバーが困ってるんだよ、ヒッキーも最近の隼人君との事は知ってるでしょ?」
「葉山?よく知らんが仲良くやってるんじゃないのか?」
ホントに知らん。俺あいつとそんな接点ないんだけど。
「結衣ありがと、こっから先はあーしが説明するから。ヒキオは今の隼人のこと、どう見える?去年とかと比べてさ。」
部室には由比ヶ浜・三浦・海老名が来ている。葉山と一緒にいる女子グループだ。たまに雪ノ下とともに昼飯食ってるから知らない仲というわけでもない。
「去年と比べれば接しやすい雰囲気はしてるな。去年は爽やかイケメン俺様オーラしてたが、今は普通に爽やかイケメンって感じか。」
悪く言えば落ちぶれた。カリスマ性を失っている。クラスを従える葉山隼人ではなく、クラスを率いる葉山隼人だ。クラスのトップである事は変わらんが、中身は別物だ。
「あーしは今の隼人の方が好き。前の隼人も好きだったけど、隙がないというか、あーし達に興味がないって感じだったし。」
「告白でもするのか?言っとくが恋のキューピッドなんてした事ないから出来んぞ。葉山とも仲良い訳でもないし。」
「いや、逆だし。隼人達のグループがあーしらに告白してくるのを止めて欲しいってこと。」
「随分とまあ自信満々だな。勘違いじゃないのか?」
「最近露骨過ぎでさ。隼人が変わっちゃったから、歯止めが効かないって感じ。隼人のせいってわけじゃなくて、隼人に守ってもらってた皺寄せが来ちゃったってことかな」
つまり、葉山の女子グループは前までは葉山の所有物だった。葉山の所有物だからこそ、誰も手出しはしてこなかった。
しかし、葉山がそれを手放した。正確にいえば、所有する事が出来なくなった。
目の前にいる女子3人は俺から見てもレベルは高い。修学旅行を機にワンチャン狙う輩がいてもおかしくないってわけか。
「なら責任は葉山にあるだろ。守るんだったら最後まで責任持てと伝えておいてやろうか?」
「責任ってことならヒキオと雪ノ下さんにもあるんだけど?」
「俺達に?なんで??」
俺はともかく雪ノ下に責任があるとは思えない。今も俺の膝枕を楽しんでいるだけの可愛い存在に、いったいなんの責任があるというのだろうか。
「アンタらが毎日毎日イチャイチャしてるからみんな恋愛脳になってんだし。アンタら人目気にしてないから気付いてないっしょ。」
失礼な。人目は気にしてる。気にした上で、無視してイチャイチャしてるだけなのである。うむ。俺達にも責任ありそうだ。
「はあ………それで、俺達にどうして欲しいんだ?修学旅行中だと俺達にできる事は限られてるぞ。」
俺はまだしも、雪ノ下は修学旅行中に他人の事は眼中に無くなるだろう。俺と雪ノ下だって絶賛恋愛中なのだから、他人の色恋を手伝えるほど余裕があるわけではない。
「アンタらのデートの邪魔はしないし。ただ、アンタらの班に入れて欲しいって事。アンタらの近くにいたら誰も近寄って来ないっしょ。」
「いや、近寄ってこないかどうかは分からんだろ。そんなん保証できんぞ。」
「デート中のアンタらの近くに近寄る奴なんてウチの高校にいる訳ないっしょ。」
酷い言われ様だ。三浦が言っているのは、一年生12月の時の校外学習の話だろう。
俺と雪ノ下がクラスの区切りを無視して2人でデートしていると、雪ノ下に告白してきた奴がいた。それ自体は別に良い。雪ノ下は可愛いし、告白されるのは仕方ない。
俺が文句を言わないと分かると、そいつは俺と雪ノ下のデートに付き纏い始めた。分かりやすくいうと、邪魔をしてきた。
とはいえ、邪魔があろうがなかろうが俺と雪ノ下は他人を気にしない。俺達から徹底的に無視されたその男は、俺を悪さ様に罵り、それに飽き足らず、雪ノ下の事を罵倒した。
俺の雪ノ下を罵倒したのだ。
雪ノ下を罵倒した男は、既に転校してしまったからその後どうなったかは知らない。俺も、あれに関しては少しやり過ぎたと反省している。
俺と雪ノ下が2人で好き勝手できているのはバカップルという理由だけではなく、近寄って地雷を踏むくらいなら放置しようという暗黙の了解ができているからだ。
雪ノ下を悪く言ったあの男が悪いだけなので、その辺を知ってる由比ヶ浜とかは平気で近寄ってくるし、俺達はそれを拒否することもない。
「まあ、それなら任せるよ。俺達は勝手に修学旅行楽しむから、利用したいなら好きに利用してくれ」
「ありがと。ただ、変な所に入ろうとしたら止めるかんね?修学旅行中止とかなったら嫌だし」
「入らねーよ……俺たちを何だと思ってんだ」
失礼な話だ。ラブホなんか入る訳ないだろ。たぶん。絶対。というか入ったところでキスするだけだから入る意味ないし。
そんな訳で女子グループは俺達の班に入ることになった。昼飯をたまに一緒に食べてる関係ではあるから、おかしい話でない。
数日後、葉山が部室にきた。
奉仕部に来る人が増え始めたので、そろそろ対策を考えないといけないな。
葉山は依頼しにきたわけではなかった。
葉山は三浦の意図に気付いたのでクラスの男子をそれとなく誘導しているが、一部は止められないかもしれない。その場合、三浦は勿論のことだが、俺と雪ノ下にも迷惑が掛かるかもしれないので、先にその事を伝えにきたのだ。律儀な男である。
葉山は俺への恩を返したい(なんかあったっけ?)らしいので、なにかあれば自分が責任を持って対処するから連絡して欲しいと、連絡先を渡された。
そう言えば葉山の連絡先知らなかったな。この連絡先、一年生女子相手なら高く売れそうである。
色々な思惑が交差している修学旅行であったが、三浦や葉山の心配をよそにつつがなく終了した。
三浦の作戦がハマったのか、葉山の頑張りが功を奏したのかは、神のみぞ知る話だ。
ちなみに俺と雪ノ下の関係は修学旅行というバフを貰ったことで、フレンチキスがディープキスに進化した。
修学旅行後に部室で楽しんでいたら平塚先生に見つかってしまったが、『私だってまだなのに……』という言葉と共に走り去っていった。南無三。