放課後。奉仕部。
舌が絡まる音と2人分の吐息が部室に響いていた。
雪ノ下から口を離すと、口付けが名残惜しいかのように唾液が混ざり合った液体の橋がお互いの口から伸びている。
雪ノ下はそれを指で絡めると、勿体無いとでも言う様に自分の口へ運び舐め取った。
最近の雪ノ下との関係は、極まってきている。
舌を絡めている時、雪ノ下は俺の服の下に手を入れてくるようになった。今はまだ上半身だけだが、腰にも手が伸びてきているので下半身に到達するのは時間の問題だろう。
俺はというと、雪ノ下を服の上から触るので精一杯だった。
雪ノ下の服の下に手を入れたい気持ちはあるが、それをしてしまうと止まれる気がしない。間違いなく一線を超えてしまう。
いつもなら雪ノ下がしてきた事を同じ様にし返してるのだが、今回ばかりは雪ノ下と同じ速度で進むことが出来てない。
雪ノ下はそんな俺を見て上機嫌だ。
いつ俺が我慢出来なくなるのか試しているのが、よほど楽しいのだろう。俺からしたらたまったものではない。
悪戯っぽく恍惚とした表情で雪ノ下は俺を見つめてくる。今日もまた、俺は雪ノ下は俺と口を重ねて舌を絡め、お互いの身体は密着度を増していく。
雪ノ下の手は俺の服の下に滑り込んで、雪ノ下の柔らかい指が俺の胸や背中に触れていく。
ツツ…と雪ノ下の指の腹が俺の肌を滑るたびに声が漏れそうになる。雪ノ下は俺が顔を歪ませて我慢しているのが余程面白いのだろう、俺の口の中の雪ノ下の舌の動きが早くなる。
いまだに服の下に手を入れられない俺は、雪ノ下を抱き寄せてその細い腰や、慎ましい胸を服の上から楽しむことしかできていない。しかし、それだけでも俺からしたら刺激的過ぎるくらいだ。
お互いの唾液で濡れた口元から、雪ノ下は舌を俺の頬に這わせながら耳元まで舐めてくる。耳元で吐息混じりの雪ノ下の声が聞こえる。
「比企谷くん、まだ我慢できそうかしら?」
雪ノ下は俺の耳を少し強めにカリッと噛んでくる。
どこで覚えてきたんだよそんなの。
「男の子だからな、我慢は得意なんだよ。でも、そろそろやばいかもしれん。」
少しだけ。ほんの少しだけ。抱き寄せた雪ノ下の背中に回していた手を、服の下に入れて雪ノ下の肌に触れてみた。
「我慢なんてしなくていいのに」
雪ノ下が俺の手を誘導して、自分の肌を触らせてくる。背中を直接触っているだけで、心臓がバクバクとうるさいほど高鳴っている。前を触れたらどうなるんだろうか。
俺の理性は触るなと叫んでいる。
俺の本能は触れと叫んでいる。
本能に負けた俺の手はゆっくりと雪ノ下の背中から滑るように前側へと移動していく。
ドゴォッ!と頭に衝撃が走った。
隕石か!?
「お前達はホントに周りの目を気にしないな。なんだ、私達が見えてないのか?いい加減にしないと教師権限を使って不純異性交遊でしょっぴくぞ」
いたんですか、平塚先生!気づきませんでした!!
隣には知らない女子がいるし、もしかして依頼人連れて来たのだろうか??
「いえ、気付いてましたよ。ちょっと話しかけるタイミングをはかりかねていただけで、無視していたわけではありません。」
「嘘をつくな。まったく……言っとくが学校でヤッたりするなよ。流石に見過ごせんからな。」
失礼な。する訳ないでしょう。たぶん。絶対。雪ノ下から誘われたら断れる気がしないから雪ノ下次第。たぶん大丈夫。
「うわわわ。ホントにバカップルだ……噂以上じゃないですか」
平塚先生の隣の女子は顔を真っ赤にしている。刺激が強過ぎた様で申し訳ない。文句なら平塚先生に言ってね。
横を見ると、珍しく雪ノ下が姿勢を正して平塚先生に向かい合っていた。俺を弄んで元気いっぱい上機嫌な雪ノ下が今回は依頼を引き受けてくれるようだ。
「平塚先生。今日は何の御用ですか?平塚先生が直接生徒を連れてくるなんて珍しいですね。」
「奉仕部への依頼だ。この子は1年生の一色いろは。来月の生徒会選挙に嫌がらせで立候補させられたから、アフターケアをしてやってくれ。」
「それならまずは嫌がらせの犯人を特定して、2度とこんな事が出来ない様に教育すべきだと思います。」
「それはもう終わっている。推薦には名前が必要だからな。良い事をすると気分が良いものだ。君達ももっと人助けしたまえ。」
確かに平塚先生の顔はスッキリしてるな。どんな教育をしたのか後で聞いてみることにしよう。
「報復が終わってるならアフターケアは不要ではないのですか?」
「そのあたりは一色から直接聞いてくれ。私は私で他にもやる事があるから失礼する。頑張りたまえ。」
一色を残して平塚先生は部室を後にした。気分爽快な顔した平塚先生は美人度が増していたので、あれならデートも成功するかもしれない。平塚先生も頑張ってくださいね。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。私は雪ノ下雪乃。こっちのヘタレは比企谷八幡よ。」
ヘタレて。まあヘタレだけど。さっきはちょっと勇気出したんだから褒めてくれてもいいだろう。
「私の名前は一色いろはです。えっと……お二人のことは知ってます!総武高のアンタッチャブル。噂と思ってたんですけど、まさか実在するなんて!」
なんだよその二つ名。初めて聞いたぞ。
「私達は特に何もしてないのだけれど……まあいいわ。それで、一色さんの話というのはなんなのかしら。」
「ホントは生徒会長なんてやる気なかったんですけど、他の立候補者がいなくて当選確実、暇な一年の時こそめんどくさい生徒会長をやっておけば受験に有利になる、だったら生徒会長をやってみようと思うんですよ」
「打算的な理由ね。褒められたものではないけれど、やる気があるのはいいことだわ。そういうことなら相談する必要ないじゃない。」
「私がなるのはいいんですよ。でも、他の生徒会メンバーがパッとしないというか、あんまり頼りにならなそうで〜」
雪ノ下とともに一色から渡された他の生徒会立候補者のリストを確認する。平塚先生が成績や生活態度諸々を纏めてくれたようで、平塚先生の所感付きだ。仕事するのはいいけど、個人情報という概念がないのかあの教師は。
リストの候補者は一色の言う通りこれといった特徴のない人員だ。通常の生徒会ならこれで問題ないだろう。ただ、一色が生徒会長を務めるという前提だとしたら、物足りない。
「確かに、言い方は悪くなってしまうけれど、頼りにはならなそうね。総武高校の未来は暗そうだわ。」
雪ノ下は辛口だ、そこまで言わんでもいいだろうに。
「そうなんですよ!だから、雪ノ下先輩と比企谷先輩に裏から私を手伝って欲しいなって思いまして!お二人が私の後ろ盾になってくれれば私に逆らえる人はいなくなりますし!」
暴君にでもなるつもりなのだろうか。見たところ悪い奴では無さそうなので、1年生だから舐められたくないって気持ちのが強いのかもしれん。
「そうね……………」
ん?雪ノ下が俺の方を見てくる。なんだろう。俺に意見でも求めてるのだろうか。今の話だとたまに手伝うくらいの話だから問題ないと思うが。
今回は雪ノ下に任せてるから余計なことは言わずに雪ノ下の裁定を待つ。考えの纏まった雪ノ下が口を開いた。
「分かったわ。私と比企谷くんが副会長になって一色さんを支える事にしましょう。副会長が2人というのはあまりないけれど、生徒会長が一年生ということで何とかなるでしょう。書記会計庶務の3人は私の知り合いから選ぶわ。この候補者よりはマシな人達よ」
え?俺達が生徒会やるの?雪ノ下にしては珍しい選択だ。てっきり一色を育てるか候補者の代打を立てるくらいだと思ってたが……
「先輩達が生徒会入ってくれるならめちゃくちゃ頼りになりますけど、いいんですか??その、忙しくなっちゃうかもしれないですし、お二人の邪魔しちゃうんじゃ……」
いろはちゃん良い事言うね。俺もそれが心配だ。イチャイチャの時間は減らしたくない。少し抗議の意思を込めて雪ノ下を見る。
「むしろ邪魔して欲しいのよ。さっき比企谷くんに肌を触れられた時に思ったのだけれど、私達は行くとこまで行ってしまうわ。このまま比企谷くんと奉仕部で2人でいたら新しい命が誕生してしまうから、ストッパーが欲しいのよ。ちょうど良い居場所だわ」
「雪ノ下先輩こそめちゃくちゃ打算的じゃないですか…」
「高校の生徒会なんてそんなものよ。話は決まりね。他の3人に話を付けてくるわ。」
雪ノ下はそういうと部室を足早に出て行った。
3人と言うとあの3人だろうな。女子率が高くなるから男を入れて欲しいけど、戸塚も材木座も葉山も忙しい身だ。誘えば入ってくれそうだが、男友達が少な過ぎる俺が悪いので今回は我慢するとしよう。
「比企谷先輩、雪ノ下先輩っていつもあんな感じなんですか?」
「んー、まあそうだな。言わないだけで色々と裏では考えてるから心配はしなくていいぞ。」
「それなら良かったです。それと、生徒会室ではイチャイチャするの禁止ですからね?私が生徒会長なので会長命令ですよ?」
「流石に周りに人がいる中でイチャイチャするわけないだろ。会長だったら部下を信じる事も仕事の内だぞ。」
「どの口が言ってるんですか………」
生徒会長選挙当日。
俺と雪ノ下が立候補したことで、元々立候補していた人たちは全て辞退した。俺達と関わり合いたくないのだろう。流石に可哀想だと思ったが、雪ノ下は『その程度で辞退するほどの覚悟しかないなら気にする必要はないわ』と言っていた。そりゃそうだろうけどさ。
生徒会選挙は全て信任投票となり、無事に全員が当選した。
生徒会長:一色いろは
副会長:雪ノ下雪乃、比企谷八幡
書記:三浦優美子
会計:海老名姫菜
庶務:由比ヶ浜結衣
驚きの女子率である。肩身が狭い。
それに、雪ノ下とのイチャイチャもこれでお預け。
奉仕部は廃部となり、俺と雪ノ下が育んできた奉仕部の歴史に幕が降りた。