『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』

と

『勇者刑に処す』

を合わせたらと思った勢い作品です。

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落とし穴の先、見知らぬ鉄の街

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザイロ! 右からバーグェストの群れが来ます! 踏み潰しなさい、我が騎士よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

響くのは、金髪の少女——《剣の女神》テオリッタの高慢で透き通った声だ。

 

爛々(らんらん)と輝く目を光らせ、背後に纏う髪の先からは疲労を示す火花が弾けている。

 

 

 

 

「言われなくても解ってる! くそがっ……!」

 

 

 

 

ザイロ・フォルバーツは悪口(ぞうごん)を吐き捨てながら、両脚の肉体に刻まれた聖印を発動させた。

 

 

 

≪飛翔印(サカラ)≫

 

 

一瞬にして脚部に圧縮された熱量が爆発的な脚力を生み出す。

 

ザイロの身体は重力を無視して跳躍し、象ほどもある巨大な狼の異形——バーグェストの脳天の上へと躍り出た。

 

 

空中で身を翻しながら、腰の帯から抜き放った二本のナイフに、別の聖印の力を叩き込む。

 

 

 

 

≪爆破印(ザッテ・フィンデ)≫

 

「死ねっ!」

 

 

 

 

 

放たれたナイフがバーグェストの眉間に突き刺さるや否や、家一軒を吹き飛ばすほどの凄まじい爆風と熱線が巻き起こり、巨大な異形の頭蓋を内側から粉砕した。

 

 

肉片と黒い血が雨となって降り注ぐ。

 

 

 

しかし、戦況は最悪だった。

 

 

第四次魔王討伐の最前線、泥と血に塗れたクヴンジ森林の最奥。

 

群がるフーア(カエル型の異形)とバーグェストの数は数百を下らない。

 

 

 

勇者刑として死ぬことすら許されず、何度肉体を切り刻まれようと蘇生され続けるザイロにとっても、息をつく暇もない泥沼の防衛戦だった。

 

 

 

 

 

「ザイロ! 見なさい、あそこです!」

 

 

 

 

テオリッタがザイロの背中にしがみついたまま、小柄な指先で空間の一点を指さした。

 

 

 

森林の真ん中、泥と巨木が広がる戦場の中に場違いな巨大な「石造りの門(アーチ)」がそびえ立っていた。

 

 

まるで古代の遺跡から切り取られて突如現れたかのようなその門の奥は、どす黒いモヤが渦巻き、異質な空間の歪みを発生させている。

 

 

 

 

 

 

「なんだあの門は……!? 新たな魔王現象の『波』か!?」

 

 

「わかりません! ですが、あの門の向こうから嫌な気配と……見たこともない理が漏れ出ています! このまま包囲されれば、いくら私とあなたが居ようと埒が明きません!」

 

 

「チッ……! 飛び込むぞ、テオリッタ! しっかり掴まってろ!」

 

 

 

ザイロは再び『飛翔印サカラ』を強烈に踏み込み、地面を削り取りながら滑空。押し寄せるバーグェストの牙を間一髪でかわし、渦巻く門の深淵へと真っ逆さまに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が真っ白な光に染まり、強烈な浮遊感が二人を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカッ!!

 

 

 

 

 

「がはっ……!?」

 

 

 

 

 

堅固な「何か」の上に激しく叩きつけられ、ザイロは肺の空気を吐き出した。

 

 

 

泥でも、腐葉土でもない。

 

 

異常なほど滑らかで、硬く、冷たい平坦な地面。

 

 

 

 

 

 

「痛いです……! 無礼ですよザイロ、もっと私を優しく抱えなさい!」

 

 

 

「……おいテオリッタ。ここはいったい……どこだ?」

 

 

 

 

 

 

ザイロは立ち上がり、周囲を見回した瞬間、思考がフリーズした。

 

 

 

匂いが違う。血と腐臭に満ちていた戦場の匂いではなく、焦げた薬品と、鉄と、見たこともない「煙」の異臭。

 

 

 

空を見上げれば、そこには灰色の雲と、天を突くように整然と並び立つ「ガラスと金属の巨塔(ビル群)」がひしめき合っていた。地面は一面、黒く固められた平原(アスファルト)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……んだ、この建造物は……。セネルヴァが呼び出す城砦とも違う……ガルトゥイルの攻城兵器か……?」

 

 

 

 

「いいえ、違いますザイロ。これは……見たことがありません。私の記憶にあるどの時代、どの異界の文明とも合致しません……!」

 

 

 

 

 

 

 

テオリッタすらも、黄金の目を見開いて言葉を失っていた。

 

だが、二人が呆然とする猶予は一秒たりとも与えられなかった。

 

 

 

「ギャアアアアッ!」

 

「助けて! 誰か助けてえええっ!」

 

 

 

絶叫。

 

 

悲鳴。

 

 

それは、今までザイロが戦場で耳にしてきた「兵士の叫び」ではなかった。

 

 

丸腰の、幼い子供や、見たこともない色鮮やかな布地(現代服)を身にまとった非戦闘員たちの悲劇の悲鳴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ!?」

 

 

 

 

ザイロが視線を向けると、巨大なガラス張りの建物(銀座の百貨店)の前に、異様な一団がなだれ込んでいた。

 

 

 

 

 

青銅の鎧を身に纏い、丸盾と長槍を構えた兵士たち。さらには、それに跨がる飛竜の群れ。

 

 

 

 

 

 

——特地の『帝国軍』である。

 

 

 

 

 

 

「ハハハハ! 逃げ惑え、野蛮な異世界の民ども! この土地は我が帝国のものだ! 女子供は捕らえて奴隷とせよ!」

 

 

 

 

 

ニタニタと卑しい笑みを浮かべた帝国兵が、腰を抜かして泣き叫ぶ現代日本の少女髪を掴み上げ、剣を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 

「おい、待て……あれは異形(フェアリー)じゃない……『人間』か……?」

 

 

 

 

ザイロの目が冷たく細まる。

 

 

 

 

「ザイロ!」

 

 

 

テオリッタがザイロの服の裾を強く引っ張った。

 

その瞳には、強い憤怒と、女神としての本能的な怒りが宿っていた。

 

 

 

 

 

「あの者たちは、無抵抗の者を虐殺しています! 罪なき人々の悲鳴を掠め取っています! 《女神》として、あのような悪行を看過することなど絶対に許されません!」

 

 

「指示するな、解ってる」

 

 

 

ザイロは吐き捨て、胸の奥でドス黒い不快感が渦巻くのを感じた。

 

 

自分は勇者刑の罪人だ。

 

 

決して聖人君子などではない。

 

 

だが——弱者を虫ケラのように踏みにじる胸糞悪い連中のツラを見ていると、無性に腹の底が煮え繰り返る。

 

 

 

 

 

 

 

≪飛翔印(サカラ)≫

 

ガゴオンッ! とアスファルトを砕く衝撃音とともに、ザイロの身体が弾丸と化して低空を滑空した。

 

 

 

 

「ぬ……!? なんだ、あの異形の動きは——」

 

 

少女に剣を振り下ろそうとしていた帝国兵が振り返るよりも早く。

 

 

「失せろ、鬱陶しいゴミが!!」

 

 

 

ザイロの重装甲のブーツが、強烈な身体強化(サカラ)を伴って帝国兵の顔面に突き刺さった。

 

 

 

 

ゴキッ!!!

 

 

 

嫌な破壊音が響き渡り、帝国兵は首を異常な方向に曲げたまま、十メートルの距離を吹き飛んで百貨店のショーウィンドウのガラスを粉砕した。即死だった。

 

 

 

「なっ……!? 貴様、何者だ! 敵の増援か! 殺せ、叩き潰せ!」

 

 

 

 

周囲の帝国兵5名が一斉に長槍を構え、ザイロに向かって突撃してくる。

 

 

 

 

 

「ザイロ! 剣を!」

 

 

 

 

テオリッタが気高く叫び、空中に手を掲げた。

 

 

空間が歪み、眩い光とともに異界から一振りの美しく研ぎ澄まされた長剣が顕現し、ザイロの手元へと落ちる。

 

 

 

 

 

「ああっ!」

 

 

飛来した剣を柄で受け止めたザイロは、そのまま低く身をかがめると、聖騎士団時代に培った狂暴かつ完璧な剣術で一閃。

 

 

 

ズバッ!!!

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

「ひっ……!?」

 

 

 

先頭の二人の胴体が、鎧ごと真っ二つに両断され、血の噴水が銀座の綺麗な舗装路を赤く染め上げた。

 

 

 

残る三人が恐怖に引きつり、腰を抜かす。

 

 

 

 

 

 

「ヒッ……化け物……! 聖印も魔法も使わずに、一撃で鉄の鎧を……!?」

 

 

 

 

 

「おい、言葉が通じるな」

 

 

 

ザイロは血塗られた剣をだらりと下げ、冷徹な殺意を孕んだ瞳で生き残った帝国兵を見下ろした。

 

 

 

 

「お前たち、どこから来た? ここはどこだ? なぜ無抵抗の奴らを殺している?」

 

 

 

 

 

「く、狂人が……! 飛竜隊! 飛竜隊、あの男を焼き殺せぇっ!」

 

 

 

 

 

空を舞っていた帝国軍の飛竜が一頭、咆哮をあげながら急降下を開始。口内に紅蓮の炎を溜め込み、ザイロとテオリッタを目掛けて火炎ブレスを放とうと迫る。

 

 

 

 

「ザイロ! 上です!」

 

 

「ちっ、巨大なトール(鳥型異形)か……! テオリッタ、しっかり掴まってろ!」

 

 

 

 

 

 

ザイロがナイフを取り出し、≪爆破印ザッテ・フィンデ≫を込めて投擲しようとした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——バババババババババババババババババババッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂ったような金属打撃音が、上空のビル街に響き渡った。

 

 

 

 

「な……なんだ!?」

 

 

 

急降下していた飛竜の胴体に、目に見えぬ「何か」の大群が着弾。

 

 

飛竜の頑丈な皮膚が内側から弾け飛び、肉片と大量の血を撒き散らしながら、飛竜はビル壁面に激突して凄まじい音を立てて墜落した。

 

 

 

空を見上げると、そこにはプロペラを猛烈な速度で回転させた「緑色の鉄の蜂(ヘリコプター)」が旋回していた。

 

 

 

 

 

さらには、遠くの道路から、地響きのようなエンジン音とともに、見慣れぬ「緑色の鉄の車輪(自衛隊の車両)」が続々と押し寄せてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

『こちら陸上自衛隊! 警察および周辺の市民に告ぐ! これより暴漢の制圧を開始する!』

 

 

 

 

スピーカーから響く、聞いたこともない言語——しかし、どこか整然とした機械的なアナウンス。

 

 

 

緑色の服を着て、異質な鉄の筒(89式小銃)を構えた人間たちが、車から一斉に降り立ち、帝国兵たちに向かって一糸乱れぬ射撃陣形を組み始めていた。

 

 

 

 

その先頭で、どこか冴えない顔つきをした一人の自衛官——二等陸尉・伊丹耀司が、拳銃を構えながら驚愕の目で見つめていた。

 

 

 

 

血塗れの剣を持ち、跳躍の余波で煙を上げる男(ザイロ)と、その背中にしがみつく黄金の髪の少女(テオリッタ)。

 

 

 

 

 

 

そして、その足元に転がる帝国兵の惨殺死体。

 

 

 

 

 

 

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 

 

 

 

伊丹は引きつった笑みを浮かべ、冷汗を拭った。

 

 

 

 

「ファンタジーのモンスターだけじゃなくて……なんか凄まじくヤバそうな奴まで混ざり込んでやがるぞ……」

 

 

 

 

 

ザイロと伊丹。

 

 

ふたつの異なる世界の「軍人」たちの視線が、銀座の真っ只中で真っ向から交差した。

 

 

 

 

 


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