習作:マブガル世界にTS転生した一般レイヴンのお話 作:ぱんそうこう
今回の章で4話で示唆した主人公の過去について少し触れられたらなぁとか思ったり思わなかったり。
それは、羽音がLOCに行く少し前のお話。
スカラ校舎のとある教室に集まったカオスメイデンのメンバーは、暗鬱とした雰囲気に包まれていた。
シリウスシュガーに敗れてから、何もかもが噛み合わない。
連携ミスが生まれるようになった。個人プレーも精彩を欠くようになった。
何をしても上手くいかない焦燥感。先が見えない不安。そんな負の空気に支配された教室の中で、場の雰囲気を壊すように翠蘭の端末から電子音が響く。メッセージの着信だ。差出人は、黒鉄羽音。
顔を見合わせる一同。
翠蘭が端末を開くと、そこには「最近調子悪そうだけど大丈夫?なにか手助け出来ることとかある?」との文言が。
「心配してくれているのはありがたいんですがね。なにか、と言われましても……」
「そうよねぇ。あの子に頼るのもいいけど、ちゃんとあたし達が勝って安心させてあげたらいい。それだけの話じゃないかしら?」
「「「「「………………」」」」」
一様に黙る5人。
チームのことだ。チームの中で解決するのが一番いい。でも、どうやって?
そう言う意味では彼女の申し出は渡りに船とも言える。けれど、この厭な予感は何だろうか。まるで袋小路に立っているようなこの感覚は。
それを言葉にしたのは、沙耶だった。
「私は、頼るべきではない、と思うのです」
「沙耶?」
「すみません。私自身、彼女を頼るというのは魅力的だとは思います。ですが今彼女を見てしまえば、私たちは取り返しのつかないことになってしまうのではないかと思えてしまって。……今の私には恐ろしく思えるのです。彼女の、自由さが」
「私もさ、なんか今は会う気になれないんだよね。羽音ちゃんと遊ぶの、あんなに好きだったのに」
「沙耶、ユリアも……」
翠蘭が2人の様子を訝しむ。
そんな時だ。ユリアの端末からメッセージの到着が知らされたのは。差出人は、またしても。
ユリアはそれを開いて、読んで、そのまま閉じた。
「あら、ユリアが羽音ちゃんに既読無視?明日の天気はどーなっちゃうのかしらねー?」
「アニスは煽らないでください。……なにか言ってましたか、彼女は」
「私のこと、キュークツだってさ。いいなあ羽音ちゃんは、いつも楽しそうで。……羽音ちゃんみたいにやってみたら、楽しくなるのかな」
結局翠蘭は羽音の申し出を、「大丈夫だ」と言って断った。
そして彼女たちが羽音との過酷な特訓を経たカラフルブーケに敗北を喫したのは、それから少し後のことであった。
◇◆◇
今私は急いでスカラの格納庫に向かっている。
カオスメイデンがカラフルブーケに負けた。それは分かる。私との特訓でカラフルブーケもかなり腕を上げてるからね。お蔭で一人の特記戦力を相手にするのに十分な練度を得て、ユリアを相手にしても十分やれるぐらいに強くなったと思う。
でも今日のカオスメイデンは……ユリアは予想とはまるで違った。
言うなればそう、劣化版「黒鉄羽音」。
単騎で突撃するところまではいつもと変わらない。だけど今日のユリアは周りを何も見ていなかった。自分のことしか見えていなかった。それじゃあダメだ。私の機動を形だけ真似しただけじゃ、飛ぶことはできない。空で溺れてしまうだけだ。
結局、ユリアは一番初めに落ちた。葵ちゃんも拍子抜けしたんじゃないだろうか。あれだけ勝つと意気込んで、何度も何度もクタクタになってぶっ倒れるぐらいに練習したのに。その仮想敵は私よりずっと弱かったなんて笑い話にもならない。
やっぱ大丈夫じゃないよ翠蘭。分かるよ、翠蘭は責任感が強いから。だからチームの中だけで解決しようとしたんでしょ。けどこれは。
「限界だよ、みんなして……!」
太刀筋に迷いがある沙耶、調子の悪いアニスとフィー、現場の調整で過労死しそうな翠蘭、そして私の真似をするユリア。
特にユリアが私の真似をするなんて何食べたらそうなるの?ユリアは「自由」だからこそ強いのに、逆に自分から縛られに行ってどうするのさ。
「しかしどうするつもりだ?彼女らに会ったとして、貴女に出来ることはあるのか?」
「無い、かもしれない。でも見捨てるなんて出来ない」
「それでは逆効果になるかもしれぬぞ。何が貴女をそうさせる」
「戦友が困ってるのに、助けないなんて嘘でしょ!」
「……まさか、貴女からそんな言葉が聞けるとは思っていなかった」
「私のことなんだと思ってたのさ!?」
ランめ、遠慮のないことを言う!
そんな状態でも近道のナビゲートとかはきっちりやってるからちくしょう!オペレーターの腕を上げてきたなぁ!私は嬉しいよ!
「よし到着!」
格納庫に正面から、襲撃するような勢いで突入する。何やら中が慌ただしいけど何かあったのか。
「ユリアッ!!」
しかし広がっていたのは予想だにしない光景。見慣れたカオスメイデン仕様の黒の「エクスプローラー」。それが、一機しか格納庫には残っていなかった。
「あれ……?」
もしかしてもう皆どこか行っちゃった?でも一機だけ残ってるけど。あの武器構成は翠蘭のだよね。じゃあなに、まさか皆翠蘭置いて行っちゃったの!?
「い、いったいなにごと!?」
「な、何が起こって……!羽音さん!?」
翠蘭!ヤバいよこれ!
カオスメイデン、行方不明だ!
「ユリア!フィー!アニス!沙耶!どこに行ったのですか!」
「翠蘭何事!?なんで皆いなくなっちゃったの!?」
「そんなの私が聞きたいですよ!シャワーを浴びているうちにこんな……!」
翠蘭にも言ってないの!?でもここスカラの格納庫じゃん!そこから外に勝手に出てくってなると……!まさか学園の外だったりする?でもMGの学外への無断持ち出しは厳禁だったよね!?
「どうする?風紀委員会に連絡するか?」
「ラン!会長にだけ投げといて!風紀には秘密!」
「いいのか?行方不明者の捜索には風紀委員会の方が良いと思われるが」
「誰かは知りませんがそれは悪手でしょう。常に最悪の状況を想定しなくては……!まさかとは思いますが、羽音さんはこうなると分かってここに?」
「まさか。皆明らかに限界だったから急いでかっ飛ばして来ただけ。まさかこんなことになるなんて思ってないよ!最悪、私のいつもの違反行為が可愛く見えることになるかも!」
「いや、そもそも貴女は違反行為をするな」
「いや、そもそも違反行為はしちゃダメでしょう」
初対面なのに2人で揃ってマジレスするのやめない?何でそんな息ピッタリなの??
「……とにかく、こちらからも会長に話を通しておきますから。これ以上あなたの手を借りるわけにはいきませんよ」
「いーや。流石にこれは見過ごせない。カラフルブーケとの試合、あれ何?様子おかしいでしょ。太刀筋がブレてる沙耶、調子悪いアニスとフィーを抱えて過労死しかけの翠蘭に私の物真似したユリア。一体何したらあんなになるのさ!特にユリア!あんなユリア見たくなかったよ!」
「ねえ。せめて何があったかぐらいは教えてよ。じゃなきゃ何もわからない。私嫌だよ、このままカオスメイデン空中分解なんて」
「…………分かりました。これから生徒会室に行きますので、その道中で話しましょう」
◇◆◇
生徒会校舎に着いて、生徒会室に来た私と翠蘭。いきなりだっていうのに会長はお話を快く聞いてくれた。こういう時にいきなり行ってもちゃんと対応してくれるから会長ってすごいね。
そして翠蘭から一通り話を聞いた会長が少し考え込んでいる時、生徒会室に電話が一本。こっちに一言断ってからそっちの方に行ったのである。
とりあえず今は会長を待ってる間にお茶を飲みながら翠蘭とお話中。
で、来る途中で聞いた翠蘭の話を聞く限りだと。
「スランプ、かぁ……」
とんでもないことになっちゃった……。
皆の様子がおかしいのは分かってたけど、ここまでだったなんて。
決まらない連携、ちぐはぐな戦型、昔のシリウスシュガーを見てるみたいな、結果が分かりきった試合。粗製の試合ならわかる。でもこれはカオスメイデンだ。スカラでも屈指、学園最強クラスのパイロットを擁するチームなんだよ?おかしい。おかしいんだよ。
私自身、ユリアとの「遊び」はいつも楽しみなんだ。多ければ毎日、少なくても週1回は必ず来るユリアを迎えて、シミュレータやスカラ校舎に行く時間は遠足前日の子どもみたいな気分だったんだよ。それがまさか。
「ユリアがパイロット辞めるって言い出すとか、冗談にしても性質悪すぎだよ」
「冗談であれば良かったんですが。それにユリアだけではありません。他のメンバーも似たような状況……貴女の言う限界、という言葉もあながち間違いではないのかもしれません」
「最悪だ。ああもうほんとに最悪。こんなになってるのに気付かなかった私の馬鹿さ加減が嫌になる」
「貴女が悪いわけではありませんよ。校舎も違いますし大丈夫だと言ったのは私ですから。……私自身も、ユリアとの繋がりで関わりが深いとはいえ他校舎の貴女に心配をかけさせている現状をとても不甲斐なく思っています。何か他に、私に出来ることがあったのではないかと……」
「翠蘭はよくやってるよ。あのクセの強い面子をまとめられるのは翠蘭しかいないんだから。……他になにかあった?様子のおかしいことは」
「……そうですね。確か先日、連絡をいただいた時に『羽音ちゃんのようにやってみたら楽しいのかな』と。あの時はまさかとは思いましたが、今日のカラフルブーケとの試合を見る限り……」
「本気、だったかぁ……」
違う、違うんだよ。確かに私の戦型を一番上手く扱えるのはこの学園じゃユリアしかいないさ。
でもそれは私の翼であって、ユリアの翼じゃないんだよ。そんなことしたって私のようにはなれない。けれど、そうしてでも手に入れたい「翼」があったんだとしたら。
「これ、かなり深刻だよ」
翼を求めてもがいて足掻く、飛び方を忘れた鳥。それが今のユリアだ。
「カオスメイデンの皆ってさ、強さが自分のテンションに依存してるじゃん。だから精神的に参ってくるとそれが強さに影響してくる」
「そう、ですね。それは同感です。ユリアといい沙耶といい、そういうタイプのパイロットが多いことは否定しません」
「だから、全員が参っちゃってる今のカオスメイデンに必要なのは外部からの刺激だと思う。身内でなんとかしようとしてる限り、永遠に解決できない。……翠蘭も、薄々察してるんでしょ?」
「それは……」
言い淀む翠蘭。今、自分たちのことは自分たちで、とか思ってるよね。
でもさ、私的には頼ってほしいなーって思うわけ。そりゃ、何が出来るかも分かんないけど、それでも戦友をこんなつまらない形で失うのは私も本意じゃないんだよ。
……お、会長が帰ってきた。表情が少し明るいぞ。なにか分かったのかな?
「お待たせしました、お二人とも。仕事とはいえ放置してすみません」
「いえいえそんな……急に押しかけたのは私達の方ですから。それで、ユリア達がどこに行ったか分かりますか?」
「先ほど有力な情報が入りました。……つい先ほど、LOC校舎でスカラ校舎のMGが4機、指揮官さんを機体ごと誘拐していったとのこと。翠蘭さんのお話をも加味すれば、カオスメイデンの4名で間違いないかと。行き先については、学内で騒ぎが起きていませんので学園敷地外ではないかと」
うおっ……まさかのパターン来ちゃったなあ!誘拐、そっか誘拐かぁ……このやり方、間違いなくユリアだ。アニスちゃんも積極的に乗っかりそうだけど。
……ユリアも、薄々察してるのかもしれない。意識してるかどうかは別として、自分たち以外の要素が必要だってことが。指揮官を攫ったのもそのためなんだろうか。……うーん、でもユリアだしな。「そっちのが面白そう」でやる可能性もあるか。
「!?待ってください、生徒会の関係者を誘拐というのは……」
「ええ。重大な校則違反です。加えて彼女達の居場所が学外であるならば、これらが表沙汰になった場合最悪、退学も……」
「お願いです!私は退学になっても構いません!だから、だから!あの4人のことだけはどうか、どうか……!」
ありうる、と言いかけた会長の言葉を遮って、深く、深く頭を下げる翠蘭。
会長は彼女に優しく笑うと、膝立ちになって彼女と視線を合わせながら両肩に手を添えて言った。
「頭を上げてください。何もそうすると言ったわけではありません。幸いなことに、今回の件は未だ風紀委員会の耳には入っていませんから。ですので今回はこのまま、ここだけの話にしてしまいましょう」
やったぜ会長!話が分かる!風紀、特に小花に知られるとガチでヤバいからね。私もここ最近小花からの視線がドンドン冷たくなってるから分かるよ。
「学園の現状として、『双頭の斧』の件も相まってカオスメイデンのような優秀なパイロットを失うわけにはいかない、という事情もあります。……それに現状を打破し変えようと、『翼』を求めてもがく彼女たちの未来を私は奪いたくないのです。……羽音さんも、そうでしょう?」
「そうだね。もしこれで退学ってなるなら私は学園理事会の襲撃だって辞さない覚悟だよ」
「貴女がもっと深刻なことをしてどうするんです!?」
「彼女はやると言ったら本気ですよ。先日もテロリスト迎撃の名目で企業を襲撃したばかりですし」
「いや何やってるんですか本当に!?」
「ちなみに指揮官さんの工作で無罪放免となりました」
「あの人も何やってるんですか!?!?!?」
うおおお私はやるぜ私はやるぜ私はやるぜ。
私は必要とあらば企業だろうと行政だろうと襲ってやるぜ。政治も大人の事情も何もかもぶっちぎる暴力ってやつを見せてやる。
「ですので羽音さん。これは私個人から、貴女への私的な依頼です。……作戦目標は教導指揮官の奪還。同時に、翠蘭さんと共にカオスメイデンの彼女たちを連れ戻してください。勿論、秘密裏に」
「了解だよ。その仕事、請け負った」
「お願いします。指揮官さんとの関わりもある信頼できるチーム、と言う面ではシリウスシュガーの皆さんに依頼することも考えましたが……やはり、カオスメイデンとの関係性も考えれば貴女しかいませんから」
「光栄だね。そう言ってもらえると。……それじゃ行こっか、翠蘭。ついでに皆ボコボコにしちゃう?なに仲間外れにしてんだゴルァ、って」
「いや流石にそれは……」
そう?結構悪くないと思うんだけど。
ほら、主任だって「仲間外れは良くないなぁ、俺も混ぜてくれないと」って言ってたもんね。
「ですが……そうですね。私を置いてこれだけのことをした以上、ユリア達にも何か考えがあるはずです。一度彼女達と向き合うべき、なのでしょうね」
「そうそう。私はちょーっとお手伝いをするだけ。本命はあくまで翠蘭だからさ」
よし、そうと決まれば突撃だ。指揮官を奪還するなら当然抵抗はしてくるよね?その時こそチャンスだ。戦いの中で、カオスメイデンを見る。
幸いなのは攫われたのが指揮官だってことかな?あの人ならきっと悪いようにはしないだろうからね。何なら不調の原因を分析して、もう何かの糸口を掴んでいるかもだし。
それじゃ、行こうか。ところで会長、居場所に目星はついてるの?そう、ガラムグラード山脈ね。おーけー。愉快な遠足ならぬ、ピクニックの始まりだ。
おっとそうだ。これだけは言っておこう。翠蘭はよく知ってるから余計なお世話だろうけど、ね。
「翠蘭。絶対に、ユリアを1人にさせちゃダメだよ」
「分かってます。私は絶対に、このチームを崩壊なんかさせません。……私のチームメイトは、ユリア達以外に考えられないんですから」
「うん。是非、そうしてほしいな」
チームの崩壊、そして解散。そんなのを経験するのは、私ぐらいでいいんだから。
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