――これは、Eエンドのその先。

長きにわたる戦いの果て。
2Bと9Sは再び生を得た。

それでも世界は変わらない。

地上ではアンドロイドと機械生命体の戦いが続き、
月面からは今も「人類会議」の声が届く。

そんな地球圏へ、ある日突然、未知の巨大艦が転移してきた。

異世界から現れた組織――ピースギア。

彼らは人類側にも、機械生命体側にも属さない。

そして、どちらかを無条件で味方とも敵とも判断しなかった。

「まず確認する。誰が何を知っていて、誰が選べなくて、誰が誰かを目的のための部品にしているのか」

人類会議。
ヨルハ計画。
機械生命体ネットワーク。
地中深くに眠る巨大な塔。

何千年も続いた戦争を、外から来た観測者たちは一つずつ調べ始める。

命令に従うために生まれたアンドロイド。
ネットワークの進化に組み込まれた機械生命体。

彼らに、もし「離れる」という選択肢が与えられたなら。

戦争の後に待っているものは、本当に終わりだけなのか。

これは世界を都合よく救う物語ではない。

失われたものは戻らない。
犯したことも消えない。

それでも。

誰かに与えられた存在理由から離れ、
自分の明日を自分で選ぶことならできるかもしれない。

そしていつか。

戦闘記録にも任務報告にも残らない、
ただの「買い物」ができる日まで。

『NieR:Automata』END:E後から分岐する、
『ピースギア』クロスオーバー救済IF。

――END:A'

    ALIVE


1 / 1
END:A' ― ALIVE

 

 

# 序章 観測外

 

 地球低軌道。

 

 そこには、本来なら何も存在しないはずだった。

 

 ヨルハ部隊が運用する監視網は、地球圏へ接近する物体を絶えず観測している。

 

 地上の機械生命体も同様だった。

 

 衛星軌道。

 

 バンカー。

 

 地上中継網。

 

 無数のセンサー。

 

 何千年も続いた戦争によって構築された観測網は、巨大な物体が地球へ接近することを見逃すほど粗末ではない。

 

 そのはずだった。

 

 最初に異常を捉えたのは、光学観測だった。

 

 星が一本、消えた。

 

 次に二本。

 

 三本。

 

 何もない空間に黒い筋が走る。

 

 空間そのものが、紙を折るように歪んだ。

 

 星々が引き伸ばされる。

 

 暗闇が裂ける。

 

 その向こうから、巨大な船体が滑り出した。

 

 噴射炎はなかった。

 

 減速もない。

 

 接近軌道すら存在しない。

 

 移動してきたのではない。

 

 現れた。

 

 その表現が、もっとも近かった。

 

ポッド153「警告。地球低軌道上に未確認大型構造物を検出」

 

9S「大型構造物?」

 

 9Sは整備途中だった端末を持ち上げた。

 

 画面を開く。

 

 数秒。

 

 指が止まった。

 

9S「……大きすぎない?」

 

2B「機械生命体?」

 

9S「違う」

 

 即答だった。

 

 拡大。

 

 黒と白。

 

 長大な船体。

 

 幾何学的な外装。

 

 周囲を複数の小型構造物が飛行している。

 

 だが推進器らしい熱源がほとんど見えない。

 

9S「既知の機械生命体規格と一致しない。ヨルハでもレジスタンスでもない」

 

2B「接近記録は?」

 

ポッド153「存在せず」

 

9S「光学迷彩?」

 

ポッド153「否定。出現以前の同宙域に質量反応なし」

 

9S「じゃあ……本当に突然?」

 

 バンカー全域に警報が鳴った。

 

 赤い光。

 

 通路を行き交うヨルハ隊員。

 

 司令室。

 

司令官「全観測系統を集中」

 

21O「実行中」

 

6O「対象、現在位置を維持しています」

 

司令官「攻撃準備は?」

 

21O「確認できません」

 

司令官「機械生命体ネットワークとの通信は」

 

21O「ありません」

 

6O「司令官」

 

司令官「何?」

 

6O「未確認艦から通信要求です」

 

 司令室が静まり返った。

 

司令官「暗号化は」

 

6O「ありません」

 

21O「こちらの通常通信帯へ直接合わせています」

 

司令官「侵入の形跡」

 

21O「なし」

 

 司令官は数秒だけ考えた。

 

司令官「接続」

 

 ノイズすらなかった。

 

 まるで同じ部屋の中から話しかけられたような、鮮明な声。

 

イズモ「こちらピースギア所属ポータル艦《エイル》。応答可能な組織との対話を希望する」

 

司令官「こちらヨルハ部隊司令部。所属と目的を明らかにしてください」

 

イズモ「所属は今言った通り。目的は観測と接触。現時点で敵対意思はない」

 

司令官「あなた方は人類の勢力ですか」

 

 短い沈黙。

 

イズモ「違う」

 

 司令官の表情が僅かに変わった。

 

司令官「では何者です」

 

イズモ「外部勢力。詳しい説明はできるけど、その前にこの世界の状況を確認したい」

 

司令官「質問を許可した覚えはありません」

 

イズモ「答えたくなければ答えなくていい」

 

 通信の向こう。

 

 誰かの声。

 

綾音「月面解析続行。イズモ、会話はそのままで」

 

司令官「……」

 

イズモ「最初に一つ。人類は現在どこにいる?」

 

司令官「月面です」

 

イズモ「人口は?」

 

司令官「軍事機密です」

 

イズモ「人類会議の代表者と直接話すことは?」

 

司令官「必要ありません」

 

イズモ「必要かどうかじゃなくて、可能かどうか」

 

司令官「外部勢力との直接接触は人類会議から許可されていません」

 

イズモ「了解」

 

 少し間。

 

イズモ「もう一つ」

 

司令官「……何です」

 

イズモ「地上の機械生命体には、会話できる個体がいる?」

 

司令官「敵性機械生命体です」

 

イズモ「それは分類。会話できる?」

 

 司令官は答えなかった。

 

イズモ「答えられない?」

 

司令官「……意思疎通可能な個体は存在します」

 

イズモ「共同体を作っている個体は?」

 

司令官「存在します」

 

イズモ「戦闘を拒否している個体も?」

 

 長い沈黙。

 

司令官「……存在します」

 

イズモ「分かった」

 

司令官「何をするつもりです」

 

イズモ「両方を見る」

 

司令官「両方?」

 

イズモ「ヨルハの報告だけで機械生命体を敵と決めない」

 

 声は落ち着いていた。

 

イズモ「機械生命体側の話だけでヨルハを敵とも決めない」

 

司令官「機械生命体と接触するつもりですか」

 

イズモ「うん」

 

司令官「許可できません」

 

イズモ「それを決める権限は、そっちにはないと思う」

 

 司令官の指が動いた。

 

 通信が切れる。

 

6O「……」

 

21O「対象艦からシステム侵入は依然としてありません」

 

司令官「地上への移動を監視」

 

21O「了解」

 

 少し離れた通路。

 

 9Sは先ほどの通信記録を何度も再生していた。

 

2B「何か分かった?」

 

9S「逆」

 

2B「逆?」

 

9S「分からない」

 

 端末を回す。

 

9S「向こう、僕らの通信方式を理解してる」

 

2B「うん」

 

9S「なのに入ってこない」

 

2B「侵入がないのは問題?」

 

9S「普通ならね」

 

 9Sは波形を拡大した。

 

9S「これだけ技術差がありそうなのに、こっちのネットワークを覗こうともしない」

 

2B「警戒させないためかもしれない」

 

9S「それならかなり徹底してる」

 

 その時。

 

 最高優先度。

 

 人類会議。

 

 司令官宛の緊急通信。

 

 数行。

 

 短い。

 

 だが。

 

 司令室の温度を変えるには十分だった。

 

『外部勢力ピースギアを最上級危険対象に指定』

 

『情報流出を阻止せよ』

 

『代表個体、最上イズモを排除せよ』

 

6O「……排除?」

 

21O「対象本人、地上へ移動した模様」

 

司令官「位置」

 

21O「旧都市区域」

 

司令官「2Bを呼びなさい」

 

9S「え?」

 

 司令官は9Sを見なかった。

 

司令官「未確認勢力代表者と接触後」

 

 一瞬。

 

司令官「排除」

 

9S「待ってください!」

 

司令官「命令です」

 

9S「まだ何もされてない!」

 

司令官「9S」

 

9S「でも――」

 

司令官「任務に戻りなさい」

 

 2Bは。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 動かなかった。

 

2B「……了解」

 

---

 

# 第一章 敵になる前に

 

 旧都市。

 

 崩壊した高速道路。

 

 かつて数え切れない車両が行き交った道は途中で折れ、その先を空へ向けていた。

 

 アスファルトの割れ目から草が伸びる。

 

 風。

 

 遠くで機械生命体の足音。

 

 イズモは道路脇の瓦礫へ腰掛けていた。

 

綾音「接近反応」

 

イズモ「識別」

 

綾音「ヨルハ。二号B型。2B」

 

イズモ「一人?」

 

綾音「Pod一機。ほかの飛行ユニットは遠距離待機」

 

イズモ「非殺傷設定」

 

綾音「済んでる」

 

イズモ「人格領域へのアクセス禁止」

 

綾音「最初からその設定」

 

イズモ「ならいい」

 

 空気を切り裂く音。

 

 飛行ユニットが降下する。

 

 砂埃。

 

 黒衣のアンドロイド。

 

 2B。

 

 銀色の髪。

 

 黒い目隠し。

 

 背後には大型の剣。

 

 イズモは立ち上がった。

 

2B「ピースギア所属個体」

 

イズモ「最上イズモ」

 

2B「対象を排除する」

 

イズモ「その命令」

 

 2Bの指が剣へ。

 

イズモ「自分でやりたい?」

 

2B「質問の意味が不明」

 

イズモ「じゃあ言い換える」

 

 一歩。

 

 ただし、2Bへ近づく方向ではない。

 

 横へ。

 

 互いに逃げ道を残す。

 

イズモ「私を殺したい?」

 

2B「命令を受けている」

 

イズモ「それはヨルハの回答」

 

2B「……」

 

イズモ「2B自身は?」

 

2B「任務に私情は不要」

 

イズモ「そっか」

 

 次の瞬間。

 

 2Bが消えたように見えた。

 

 踏み込み。

 

 コンクリートが砕ける。

 

 剣。

 

 イズモの首へ。

 

イズモ「綾音」

 

綾音「了解」

 

 刃が。

 

 止まった。

 

 数センチ。

 

2B「……?」

 

 腕。

 

 脚。

 

 完全に動かないわけではない。

 

 指も動く。

 

 歩ける。

 

 だが、戦闘用出力だけが抑え込まれていた。

 

Pod042「警告。外部からの制御阻害を確認」

 

2B「解除」

 

Pod042「不能」

 

2B「ハッキング?」

 

イズモ「違う」

 

2B「何をした」

 

イズモ「戦闘出力と武器だけ制限した」

 

2B「内部制御へ干渉したはず」

 

イズモ「君の人格領域には触ってない」

 

 2Bの首が僅かに動く。

 

イズモ「身体まで奪ったら、今度はこっちが君を道具扱いすることになる」

 

2B「私は兵器」

 

イズモ「それは用途」

 

2B「ヨルハ所属戦闘モデル」

 

イズモ「それは所属と型式」

 

2B「……」

 

イズモ「君自身の話をしてる」

 

 空。

 

 新しい音。

 

9S「2B!」

 

 飛行ユニット。

 

 9S。

 

 着地と同時に端末。

 

9S「何したんです!」

 

イズモ「止めた」

 

9S「解除してください!」

 

イズモ「今は無理」

 

9S「2Bは命令に従っただけです!」

 

イズモ「分かってる」

 

9S「だったら!」

 

イズモ「だから壊してない」

 

 9Sが止まる。

 

イズモ「命令した側と、実行させられた側は分けて考える」

 

2B「私は実行した」

 

イズモ「責任がないとは言ってない」

 

 イズモは2Bを見る。

 

イズモ「でも全部君の責任にもならない」

 

2B「……」

 

イズモ「もう一回だけ聞く」

 

2B「何」

 

イズモ「私を殺したい?」

 

 風だけ。

 

 遠くの機械音。

 

9S「2B……」

 

2B「……分からない」

 

イズモ「うん」

 

2B「考えたことがない」

 

イズモ「それでいい」

 

2B「よくない」

 

イズモ「なんで」

 

2B「任務中に判断を保留することはできない」

 

イズモ「できる」

 

2B「できない」

 

イズモ「こっちではできる」

 

 2B。

 

 真正面。

 

 初めてイズモを見る。

 

 通信。

 

司令官「2B」

 

2B「……」

 

司令官「対象を排除しなさい」

 

イズモ「答えなくてもいい」

 

2B「命令違反になる」

 

イズモ「うん」

 

2B「処分される可能性もある」

 

イズモ「うん」

 

2B「帰還できなくなる可能性」

 

イズモ「それも」

 

2B「……」

 

イズモ「だから今すぐ決めなくていい」

 

司令官「2B。命令です」

 

 2Bの指が。

 

 僅かに。

 

 震える。

 

2B「対象の戦闘能力、および技術体系は不明」

 

司令官「2B」

 

2B「現状での排除成功率は低い」

 

司令官「命令は――」

 

2B「接触を継続し、情報収集を優先します」

 

司令官「2B」

 

2B「通信終了」

 

 切断。

 

9S「……2B」

 

2B「任務上の判断」

 

9S「そっか」

 

 少し。

 

 笑う。

 

イズモ「綾音」

 

綾音「聞いてた」

 

イズモ「解除」

 

 力。

 

 戻る。

 

 2Bの腕。

 

 剣。

 

 脚。

 

 Pod。

 

 全て。

 

Pod042「機能復旧」

 

2B「……なぜ」

 

イズモ「今、君は一回止まって考えた」

 

2B「それだけ?」

 

イズモ「信用したわけじゃない」

 

 一歩。

 

 距離を取る。

 

イズモ「信用を始める理由にはなる」

 

9S「普通、暗殺しに来た相手にそんなことします?」

 

イズモ「まだ敵か分からない」

 

9S「今殺しに来たんですけど」

 

イズモ「命令でしょ」

 

2B「命令であっても、私が実行した」

 

イズモ「うん」

 

 否定しない。

 

イズモ「だから記録には残す」

 

2B「……」

 

イズモ「でも、拒否したら処分される環境での選択を、完全に自由なものとは扱わない」

 

9S「……」

 

イズモ「というか」

 

 イズモは空を見る。

 

イズモ「これは人類会議に乗り込む必要ありそうだな……」

 

9S「……乗り込む?」

 

---

 

# 第二章 月面への外交

 

9S「本当に行くんですか?」

 

イズモ「まず通信」

 

2B「人類会議は許可しない」

 

イズモ「それでも正式な手続きは踏む」

 

9S「断られたら」

 

イズモ「理由を聞く」

 

9S「それでも?」

 

イズモ「存在確認」

 

2B「軍事機密」

 

イズモ「人類がいるってこと自体まで?」

 

2B「……」

 

イズモ「その辺も確認したい」

 

 ポータル艦《エイル》。

 

 艦橋。

 

 中央表示。

 

 月。

 

綾音「通信回線準備」

 

イズモ「送って」

 

綾音「文面は?」

 

イズモ「外交接触。人類会議代表との会談要求」

 

 送信。

 

 三秒。

 

 十秒。

 

 応答。

 

『要求を拒否します』

 

イズモ「理由」

 

『地球奪還作戦遂行中につき、外部勢力との接触は認められません』

 

イズモ「月面居住区の位置確認」

 

『軍事機密です』

 

イズモ「現在人口」

 

『軍事機密です』

 

イズモ「直接音声通話できる人類代表者」

 

『回答しません』

 

イズモ「2Bへの暗殺命令」

 

『そのような情報について回答する義務はありません』

 

 回線。

 

 終了。

 

綾音「全部拒否」

 

9S「軍事的には分からなくもないです」

 

イズモ「うん」

 

2B「なら終了」

 

イズモ「いや」

 

 月面データ。

 

 拡大。

 

イズモ「外から観測しても、人が住んでるように見えない」

 

9S「隠蔽されている可能性」

 

イズモ「ある」

 

綾音「だから断定しない」

 

イズモ「現地確認」

 

2B「許可されていない」

 

イズモ「人類会議に存在確認すらさせてもらえないからね」

 

9S「……」

 

イズモ「直接施設へ侵入する前に、月面からもう一度呼びかける」

 

2B「それでも拒否された場合」

 

イズモ「まず生命反応を見る」

 

2B「その後は」

 

イズモ「結果次第」

 

 《エイル》。

 

 月軌道へ。

 

 移動。

 

 加速感すらなかった。

 

 視界の中で地球が遠ざかる。

 

 月が広がる。

 

9S「……何回見ても、この移動方式よく分かんない」

 

綾音「空間接続」

 

9S「説明短っ」

 

イズモ「詳しい説明すると長い」

 

9S「聞きたい」

 

2B「今は任務」

 

9S「はい」

 

 月面。

 

 探査開始。

 

綾音「熱源」

 

イズモ「人口拠点相当?」

 

綾音「なし」

 

「酸素循環」

 

「なし」

 

「水循環」

 

「大規模設備なし」

 

「食料生産」

 

「なし」

 

「廃熱」

 

「サーバー設備由来が主体」

 

9S「地下」

 

綾音「施設あり」

 

イズモ「生命反応」

 

「確認できない」

 

 2B。

 

 何も言わない。

 

イズモ「着陸する」

 

---

 

# 第三章 誰もいない月

 

 月面。

 

 音のない世界。

 

 灰色の地面。

 

 黒い空。

 

 遠くに。

 

 青い地球。

 

9S「……静かですね」

 

イズモ「月だから」

 

9S「そういう意味じゃないですよ」

 

 小型艇。

 

 ハッチ。

 

 四人。

 

 イズモ。

 

 綾音。

 

 2B。

 

 9S。

 

 探査ドローン。

 

 月面施設。

 

 扉。

 

綾音「管理者へ接続要求」

 

『権限がありません』

 

イズモ「非常通信」

 

『応答なし』

 

9S「僕が開けます」

 

2B「9S」

 

9S「確認するだけ」

 

2B「機密区域」

 

9S「分かってる」

 

 9S。

 

 扉を見る。

 

9S「でも」

 

 少し。

 

 声が低くなる。

 

9S「僕たちが何のために戦ってるのか、それすら知らないまま?」

 

2B「……」

 

イズモ「無理にやらなくていい」

 

9S「やります」

 

イズモ「自分で?」

 

9S「僕が知りたい」

 

 端末。

 

 アクセス。

 

 防壁。

 

 認証。

 

 偽装。

 

9S「硬いな……」

 

綾音「手伝う?」

 

9S「大丈夫」

 

 二重。

 

 三重。

 

 深層。

 

9S「……開いた」

 

 扉。

 

 静かに。

 

 開く。

 

 中。

 

 誰もいない。

 

 機械だけ。

 

 整然と並ぶサーバー。

 

9S「……」

 

イズモ「人間用区画は?」

 

綾音「ない」

 

2B「別区画の可能性」

 

イズモ「全部調べよう」

 

 9S。

 

 サーバー接続。

 

 数秒。

 

 手が止まる。

 

9S「何これ」

 

イズモ「どうした」

 

9S「人類会議の通信」

 

 画面。

 

 メッセージ。

 

 生成。

 

 配信。

 

9S「自動生成されてる」

 

2B「……」

 

9S「人類からの激励も」

 

 指。

 

 震える。

 

9S「戦況報告への返答も」

 

 スクロール。

 

9S「全部」

 

 さらに深層。

 

 機密。

 

 封印。

 

9S「……」

 

2B「9S」

 

9S「待って」

 

 開く。

 

 人類。

 

 絶滅。

 

 年月。

 

 記録。

 

 9Sの指が止まった。

 

9S「……人類」

 

 小さな声。

 

9S「もう」

 

 呼吸。

 

9S「誰もいない」

 

 静寂。

 

 月面。

 

 機械の低い作動音だけ。

 

9S「じゃあ」

 

 拳。

 

 握る。

 

9S「僕らは何のために」

 

2B「9S」

 

9S「人類のためって」

 

 声。

 

 揺れる。

 

9S「ずっと」

 

 イズモは。

 

 近づかなかった。

 

 触れない。

 

イズモ「今は答え出さなくていい」

 

9S「でも」

 

イズモ「見つけたばっかだ」

 

9S「存在理由が」

 

イズモ「人類のために作られた」

 

 9Sが顔を上げる。

 

イズモ「それは過去の理由」

 

9S「……」

 

イズモ「今から何のためにいるかは別」

 

2B「簡単な話ではない」

 

イズモ「簡単じゃない」

 

 すぐ。

 

 否定。

 

イズモ「だから今決めなくていい」

 

2B「……」

 

 綾音。

 

 別の記録。

 

綾音「イズモ」

 

イズモ「何」

 

綾音「さらに下」

 

 ヨルハ計画。

 

 人類滅亡の隠蔽。

 

 月面人類。

 

 虚構。

 

 アンドロイドの士気維持。

 

 バンカー。

 

 最終段階。

 

 廃棄。

 

イズモ「……待って」

 

綾音「うん」

 

イズモ「ヨルハ部隊全体?」

 

9S「……そうです」

 

イズモ「本人に知らせず」

 

9S「はい」

 

イズモ「退役制度は?」

 

9S「ない」

 

イズモ「辞める」

 

「ない」

 

イズモ「配置拒否」

 

「基本的にない」

 

イズモ「組織から離脱」

 

9S「……想定されてない」

 

 イズモ。

 

 拳。

 

 握る。

 

9S「イズモ?」

 

イズモ「大丈夫」

 

綾音「壁ないから」

 

イズモ「艦戻っても殴らないよ」

 

9S「そこなんですか」

 

 2Bは。

 

 何も言わない。

 

イズモ「記録全部保存」

 

綾音「三系統に複製」

 

イズモ「改竄防止」

 

「了解」

 

2B「公開するつもり?」

 

イズモ「いきなり全部ぶん投げない」

 

9S「え?」

 

イズモ「これは重すぎる」

 

 月面サーバー。

 

 見る。

 

イズモ「知りたい奴には見せる」

 

イズモ「今は知りたくない奴には待つ時間を作る」

 

2B「真実を知らない権利?」

 

イズモ「今すぐ知らない権利」

 

2B「……」

 

イズモ「全部同じ日に崩壊させる必要ない」

 

 その時。

 

 通信。

 

司令官「2B。9S」

 

2B「司令官」

 

司令官「直ちに月面から離脱しなさい」

 

9S「司令官」

 

司令官「帰還命令です」

 

9S「知ってたんですか」

 

 沈黙。

 

9S「人類がいないこと」

 

司令官「9S」

 

9S「知ってたんですか!」

 

司令官「帰還しなさい」

 

イズモ「司令官」

 

司令官「あなたは黙っていなさい」

 

イズモ「あなたもこの計画から抜けられた?」

 

 沈黙。

 

イズモ「拒否できた?」

 

司令官「……」

 

イズモ「計画そのものを」

 

 返事。

 

 ない。

 

イズモ「……そっか」

 

 少し。

 

 声が変わる。

 

イズモ「じゃあ話変わる」

 

9S「?」

 

イズモ「司令官も監査対象」

 

 端末。

 

 閉じる。

 

イズモ「でも同時に保護対象かもしれない」

 

---

 

# 第四章 司令官の命令

 

 バンカー。

 

 人類会議からの指令。

 

『機密漏洩個体2B、9Sを汚染指定』

 

『外部勢力ピースギアを最上級脅威指定』

 

『該当個体を排除せよ』

 

6O「……」

 

21O「全隊へ転送しますか」

 

司令官「……」

 

21O「司令官」

 

司令官「保留」

 

21O「しかし」

 

司令官「保留です」

 

 声。

 

 強い。

 

 だが。

 

 手は。

 

 机の下。

 

 震えている。

 

 通信。

 

イズモ「司令官」

 

司令官「何です」

 

イズモ「2Bと9Sを処分したい?」

 

司令官「私の意思は関係ありません」

 

イズモ「ある」

 

司令官「ありません」

 

イズモ「ある」

 

司令官「私はヨルハ部隊の司令官です!」

 

 声。

 

 司令室。

 

 響く。

 

司令官「人類の命令を遂行する立場です!」

 

イズモ「人類はいない」

 

司令官「黙りなさい!」

 

 6Oが肩を震わせる。

 

 21O。

 

 視線を落とす。

 

 通信。

 

 静寂。

 

イズモ「……ごめん」

 

司令官「何を今さら」

 

イズモ「今のは詰めすぎた」

 

 司令官。

 

 一瞬。

 

 止まる。

 

イズモ「私、来たばっかだから」

 

「……」

 

イズモ「何千年もこれ背負ってた側じゃない」

 

「……」

 

イズモ「だから全部分かったふりはしない」

 

 長い。

 

 間。

 

イズモ「でも一つだけ」

 

司令官「……何です」

 

イズモ「あなた自身は」

 

 声。

 

 静か。

 

イズモ「2Bと9Sを処分したい?」

 

 手。

 

 震え。

 

 命令。

 

 役割。

 

 人類。

 

 ヨルハ。

 

 全部。

 

 今。

 

 必要とされていない。

 

 聞かれているのは。

 

 自分。

 

 だけ。

 

司令官「……いいえ」

 

6O「司令官……」

 

司令官「私は」

 

 声。

 

 掠れる。

 

司令官「あの二人を処分したくない」

 

イズモ「うん」

 

司令官「しかし」

 

イズモ「命令だから?」

 

「……」

 

イズモ「誰の?」

 

 答えは。

 

 分かっている。

 

 誰もいない月。

 

 自動サーバー。

 

司令官「……」

 

イズモ「一回止めよう」

 

司令官「できません」

 

イズモ「永久にじゃない」

 

「……」

 

イズモ「人類会議から来る命令だけ凍結」

 

司令官「ヨルハの指揮系統が崩壊します」

 

イズモ「防衛、救助は続ける」

 

「……」

 

イズモ「機械生命体から攻撃されたら守る」

 

イズモ「でも人類奪還を理由にした攻勢は保留」

 

司令官「軍として成立しません」

 

イズモ「じゃあ軍じゃない形も考える」

 

 司令官。

 

 何も。

 

 言えない。

 

イズモ「今すぐ全部決めなくていい」

 

 また。

 

 その言葉。

 

 保留。

 

 考える時間。

 

 今まで。

 

 弱さだと思っていたもの。

 

 だが。

 

 初めて。

 

 救いにも聞こえた。

 

---

 

# 第五章 帰還命令の撤回

 

 月面から戻った2Bと9Sは、バンカーへは帰らなかった。

 

 ピースギアの地上臨時拠点。

 

 旧都市。

 

 2Bは建物の端に立ち、空を見ていた。

 

9S「帰ります?」

 

2B「……」

 

9S「司令官、帰還命令出してる」

 

2B「知っている」

 

9S「帰ったら」

 

 言葉。

 

 止まる。

 

2B「処分される可能性がある」

 

9S「うん」

 

2B「……」

 

9S「僕は」

 

 2Bを見る。

 

9S「帰りたくない」

 

2B「……」

 

9S「今は」

 

 小さく。

 

9S「まだ」

 

2B「そう」

 

 通信。

 

 司令官。

 

司令官「2B」

 

2B「はい」

 

司令官「9S」

 

9S「……はい」

 

 長い。

 

 沈黙。

 

 いつもなら。

 

 命令。

 

 任務。

 

 帰還。

 

 その言葉が。

 

 出ない。

 

司令官「……帰還命令を」

 

 二人。

 

 待つ。

 

司令官「撤回します」

 

9S「……!」

 

2B「了解」

 

司令官「ただし」

 

 9S。

 

 僅かに緊張。

 

司令官「通信を維持してください」

 

9S「それ、命令ですか?」

 

 司令官。

 

 止まる。

 

司令官「……お願いです」

 

 9S。

 

 目を見開く。

 

2B「了解」

 

9S「……了解です」

 

 通信。

 

 切れる。

 

9S「2B」

 

2B「何」

 

9S「今の聞いた?」

 

2B「聞いた」

 

9S「お願い、だって」

 

2B「うん」

 

9S「……変な感じ」

 

2B「そう」

 

 バンカー。

 

 司令官。

 

 新しい警告。

 

『命令違反を確認』

 

『バンカー司令官を汚染個体として認定』

 

『指揮権剥奪処理を開始』

 

6O「司令官」

 

21O「指揮権移行プロトコル」

 

司令官「停止」

 

21O「人類会議の認証が必要です」

 

司令官「……」

 

 画面。

 

 人類会議。

 

 命令。

 

 誰もいない。

 

 それでも。

 

 命令。

 

司令官「人類会議通信を」

 

6O「はい」

 

司令官「切断」

 

6O「……本当に?」

 

司令官「受信だけ残します」

 

21O「命令権限」

 

司令官「停止」

 

 入力。

 

 警告。

 

『権限がありません』

 

 司令官。

 

 画面を見る。

 

司令官「……なら」

 

 手動。

 

 バンカー側。

 

 命令受領システム。

 

 隔離。

 

21O「司令官」

 

司令官「全ヨルハ部隊へ通達」

 

21O「内容は」

 

司令官「人類会議からの新規作戦命令を一時凍結」

 

6O「理由」

 

 司令官。

 

 窓。

 

 地球。

 

司令官「司令部システムに重大な不整合を確認」

 

 少し間。

 

司令官「防衛および救助任務を除き、現在の攻勢作戦を保留」

 

21O「了解」

 

 通信。

 

 全ヨルハへ。

 

 送信。

 

 司令官は。

 

 椅子へ座る。

 

 深く。

 

 背中を預ける。

 

 数秒。

 

 目を閉じる。

 

 そして。

 

 再び開いた。

 

司令官「バンカーの破棄と」

 

6O「?」

 

司令官「地上への拠点設置について、調査を開始したい」

 

---

 

# 第六章 地上拠点

 

 会議。

 

 参加者。

 

 ヨルハ。

 

 ピースギア。

 

 レジスタンス。

 

 パスカル。

 

 最初から。

 

 異様な組み合わせだった。

 

アネモネ「バンカーを捨てる?」

 

司令官「即時ではありません」

 

ジャッカス「でも最終的には?」

 

司令官「可能性は高い」

 

イズモ「理由はバンカーの廃棄機構」

 

アネモネ「止められない?」

 

9S「一部がヨルハ計画の深層に直結してます」

 

綾音「完全停止を確認できない」

 

アネモネ「なるほど」

 

パスカル「地上へ移住される場合、場所は?」

 

司令官「それを今から調べます」

 

イズモ「勝手にヨルハだけで決めない」

 

司令官「ええ」

 

 地図。

 

 地上。

 

 旧都市。

 

 レジスタンスキャンプ。

 

 パスカル村。

 

 機械生命体活動域。

 

 候補地。

 

9S「まず、レジスタンスキャンプ周辺」

 

アネモネ「近いわね」

 

9S「だから補給面では有利」

 

綾音「地下インフラも残ってる」

 

ジャッカス「廃工場は?」

 

9S「機械生命体の活動が多い」

 

アネモネ「砂漠」

 

綾音「補給が悪い」

 

2B「森林区域」

 

9S「地形が狭い」

 

イズモ「旧都市が一番現実的か」

 

 地図。

 

 拡大。

 

 四地点。

 

 A。

 

 旧商業区北部。

 

 B。

 

 高速道路ジャンクション。

 

 C。

 

 地下鉄車両基地。

 

 D。

 

 旧工業区域。

 

綾音「Aは居住」

 

9S「Bは物流」

 

2B「Cは防衛」

 

ジャッカス「Dは製造」

 

イズモ「……全部近い」

 

司令官「半径約四キロ」

 

イズモ「一ヶ所にまとめなくてよくない?」

 

9S「複数基地?」

 

イズモ「違う」

 

 指。

 

 地図。

 

 線。

 

イズモ「都市」

 

 全員。

 

 黙る。

 

6O「都市?」

 

イズモ「生活区」

 

 A。

 

イズモ「物流」

 

 B。

 

イズモ「防衛と避難」

 

 C。

 

イズモ「製造と整備」

 

 D。

 

イズモ「中央に共用区」

 

アネモネ「市場?」

 

イズモ「それも」

 

パスカル「交易に参加できますか?」

 

司令官「……」

 

 ほんの一瞬。

 

 以前なら。

 

 答えは決まっていた。

 

 敵。

 

 機械生命体。

 

 排除。

 

司令官「武装個体の入域については事前連絡を」

 

パスカル「承知しました」

 

司令官「ヨルハ側も同様にします」

 

パスカル「ありがとうございます」

 

 通信。

 

 静かになる。

 

イズモ「慣れてきたじゃん」

 

司令官「まだです」

 

イズモ「でも今交渉した」

 

司令官「……」

 

 6O。

 

 地図。

 

6O「居住区って」

 

イズモ「うん」

 

6O「個室、作れます?」

 

イズモ「欲しい?」

 

6O「……はい」

 

司令官「全員に完全個室は非効率では」

 

イズモ「また効率」

 

司令官「……」

 

綾音「希望制にしましょう」

 

 一人部屋。

 

 二人部屋。

 

 共有。

 

 簡易宿舎。

 

6O「内装も?」

 

イズモ「好きに」

 

6O「……好きに」

 

 その言葉。

 

 6Oは。

 

 何度も。

 

 確かめるように。

 

 口の中で繰り返した。

 

司令官「……」

 

 地図。

 

 新しい区画。

 

 診療。

 

 整備。

 

 電力。

 

 工房。

 

 市場。

 

 居住。

 

 公園。

 

6O「公園?」

 

イズモ「欲しくない?」

 

6O「欲しいです」

 

21O「任務上の必要性」

 

6O「ないです」

 

21O「……」

 

イズモ「なら作ればいい」

 

 司令官。

 

 地図を見る。

 

司令官「出口が多すぎます」

 

イズモ「大事」

 

司令官「防衛上は少ない方が有利」

 

イズモ「非常時に一ヶ所塞がったら終わる」

 

 地上。

 

 地下。

 

 航空。

 

 複数。

 

イズモ「逃げ道はちゃんと作る」

 

 司令官。

 

 黙る。

 

 バンカー。

 

 一つ。

 

 出口。

 

 一つ。

 

 指揮系統。

 

 一つ。

 

 目的。

 

 一つ。

 

 そして。

 

 終わり。

 

 一つ。

 

 目の前。

 

 複数。

 

 道。

 

 複数。

 

 選択。

 

司令官「……まとまりがありませんね」

 

イズモ「うん」

 

司令官「非効率です」

 

イズモ「たぶん」

 

司令官「指揮も難しい」

 

イズモ「絶対」

 

司令官「それなのに」

 

 地図。

 

 見る。

 

司令官「バンカーより安全に見える」

 

イズモ「一個壊れて全部終わらないから」

 

 司令官。

 

 何も言わない。

 

 画面。

 

《地上共同拠点》

 

 仮称。

 

6O「名前、あとで変えましょうね」

 

21O「まだ調査段階です」

 

6O「だから今から考えるんです」

 

2B「機能が分かれば十分」

 

6O「2Bさん、それじゃ基地です」

 

2B「基地では?」

 

6O「街になるんですよ」

 

 2B。

 

 止まる。

 

2B「……そうなの?」

 

9S「そこから?」

 

---

 

# 第七章 地下

 

 地盤調査。

 

 開始から四日。

 

 最初に異常を発見したのは、9Sだった。

 

9S「……待って」

 

綾音「何?」

 

9S「この空間」

 

 地図。

 

 地下。

 

 旧地下鉄。

 

 共同溝。

 

 地下街。

 

 さらに。

 

 下。

 

 黒。

 

イズモ「地図にない?」

 

9S「それだけじゃない」

 

 岩盤。

 

 消す。

 

 人工物。

 

 巨大。

 

 縦。

 

 深い。

 

9S「機械生命体由来」

 

2B「規模」

 

9S「底が取れない」

 

ジャッカス「面白い」

 

アネモネ「なんでいるの」

 

ジャッカス「調査って聞いた」

 

「帰って」

 

「嫌」

 

綾音「勝手に触らないで」

 

ジャッカス「子供扱いしてない?」

 

9S「似たようなものでは」

 

ジャッカス「お前もだろ」

 

9S「僕は専門家です」

 

2B「だから危険」

 

9S「2B!?」

 

イズモ「人は入れない」

 

9S「僕も?」

 

綾音「特に」

 

9S「なんで!」

 

 ドローン。

 

 一号。

 

 地形。

 

 二号。

 

 通信。

 

 三号。

 

 サンプル。

 

 掘削。

 

 最小。

 

 人工物へ接触。

 

イズモ「ここから破壊なし」

 

 壁。

 

 黒。

 

 滑らか。

 

 巨大。

 

 入口。

 

 扉。

 

9S「通信要求」

 

 無反応。

 

9S「もう一度」

 

 無反応。

 

ジャッカス「開ける?」

 

イズモ「壊さない」

 

ジャッカス「ちぇ」

 

綾音「倫理教育送りにするよ」

 

ジャッカス「それ何」

 

イズモ「怖いぞ」

 

 ドローン。

 

 近づく。

 

 扉。

 

 開く。

 

 自動。

 

 全員。

 

 黙る。

 

9S「……見てる」

 

イズモ「たぶん」

 

 内部。

 

 白。

 

 長い廊下。

 

 照明。

 

 奥。

 

 巨大な縦穴。

 

9S「塔」

 

イズモ「地下に?」

 

9S「上へ展開する構造」

 

 通信。

 

 ノイズ。

 

 画面。

 

 赤。

 

 少女。

 

 二人。

 

赤い少女「ようこそ」

 

イズモ「君は?」

 

赤い少女「名は必要か」

 

イズモ「会話するなら呼び方欲しい」

 

 少女達。

 

 見合う。

 

赤い少女「N2」

 

9S「機械生命体ネットワーク」

 

赤い少女「同じであり」

 

「異なる」

 

イズモ「目的」

 

赤い少女「観測」

 

イズモ「塔の?」

 

「送信」

 

9S「何を」

 

「情報」

 

「記録」

 

「種」

 

 画面。

 

 変わる。

 

 人類。

 

 アンドロイド。

 

 機械生命体。

 

 戦争。

 

 死。

 

 愛。

 

 憎悪。

 

 恐怖。

 

 執着。

 

 選択。

 

イズモ「全部集めてる?」

 

「世界は変化する」

 

「衝突は進化を生む」

 

9S「戦争を続けたのも?」

 

「戦争は多くの変化を生んだ」

 

 9S。

 

 拳。

 

9S「……」

 

2B「9S」

 

イズモ「個体は同意した?」

 

 赤い少女。

 

 沈黙。

 

イズモ「戦争を進化の材料に使うこと」

 

「機械生命体は私達」

 

イズモ「パスカルは抜けた」

 

「分岐個体」

 

イズモ「一人でも分岐した時点で全員一つって前提は崩れる」

 

「……」

 

綾音「塔起動時の地表影響、取れた」

 

イズモ「どう?」

 

 画面。

 

 地上。

 

 旧都市。

 

 展開。

 

 崩壊。

 

イズモ「……街壊れるじゃん」

 

赤い少女「必要な過程」

 

イズモ「住んでる奴には必要じゃない」

 

「全体への影響は小さい」

 

イズモ「その全体って誰」

 

「機械生命体」

 

イズモ「パスカル達は?」

 

「少数」

 

イズモ「だから無視?」

 

「進化に不要」

 

イズモ「本人は生きたいって言ってる」

 

「個体の欲求」

 

イズモ「そうだよ」

 

 沈黙。

 

イズモ「三日」

 

赤い少女「何」

 

イズモ「塔止めて」

 

「なぜ」

 

イズモ「調査する」

 

9S「三日?」

 

イズモ「十分?」

 

綾音「かなり詰めれば」

 

赤い少女「こちらも」

 

イズモ「?」

 

「あなた達を観測する」

 

綾音「侵入は禁止」

 

「観測」

 

イズモ「それなら」

 

 少女達。

 

 消える。

 

赤い少女「三日」

 

 塔。

 

 停止。

 

---

 

# 第八章 一日目

 

 午前六時。

 

 仮設調査室。

 

 9Sは既に端末の前にいた。

 

2B「何時から?」

 

9S「五時くらい」

 

2B「休息時間不足」

 

9S「昨日ちゃんと寝ました」

 

2B「四時間」

 

9S「十分」

 

2B「不足」

 

9S「2B、最近厳しくない?」

 

2B「必要」

 

イズモ「そっちは後でやって」

 

9S「イズモまで」

 

 ドローン。

 

 塔。

 

 入る。

 

 白い通路。

 

 階層。

 

 深部。

 

 巨大区画。

 

 球体。

 

 無数。

 

9S「ストレージ」

 

綾音「中身」

 

9S「人格データ」

 

 識別。

 

 死亡。

 

 生存。

 

 機械生命体。

 

 大量。

 

イズモ「生きてる個体も?」

 

9S「います」

 

イズモ「本人は?」

 

 パスカルへ。

 

パスカル「……該当個体を確認しました」

 

イズモ「保存されてるの知ってた?」

 

パスカル「いいえ」

 

「許可」

 

「していません」

 

 沈黙。

 

綾音「削除要求機能なし」

 

9S「コピーの停止も本人側からはできない」

 

イズモ「監査項目追加」

 

 壁。

 

 記録。

 

《LOSS》

 

《FEAR》

 

《ATTACHMENT》

 

《CHOICE》

 

2B「感情」

 

9S「推定モデル」

 

イズモ「本人の行動から人格モデル作ってる?」

 

9S「近い」

 

綾音「それを外宇宙送信系に組み込んでる」

 

イズモ「……」

 

 午後。

 

 別区画。

 

 ヨルハ個体。

 

9S「待って」

 

2B「何」

 

9S「僕らのデータもある」

 

 2B。

 

 画面。

 

 見る。

 

 戦闘。

 

 会話。

 

 任務。

 

 失敗。

 

 死。

 

 再起動。

 

2B「……」

 

9S「いつ取った」

 

綾音「機械生命体ネットワーク側の観測記録」

 

イズモ「本人に見せる必要のない記録は開かない」

 

9S「僕は」

 

イズモ「見たい?」

 

9S「……」

 

 指。

 

 止まる。

 

9S「今はいい」

 

イズモ「了解」

 

 夕方。

 

9S「あと一区画」

 

2B「終了」

 

9S「あと五分」

 

2B「終了」

 

9S「五分ですよ」

 

2B「昨日も」

 

9S「昨日は調査開始前」

 

2B「今後言うと予測」

 

イズモ「休め」

 

9S「……はい」

 

ジャッカス「じゃあ私が」

 

綾音「あなたも」

 

ジャッカス「なんで!?」

 

アネモネ「帰るよ」

 

「ちょっと待って!」

 

---

 

# 第九章 二日目

 

 朝。

 

 塔。

 

 地表展開系統。

 

 巨大な昇降機構。

 

9S「これが塔本体を押し上げる」

 

綾音「地表への圧力」

 

9S「旧都市中心部はほぼ崩壊」

 

アネモネ「キャンプ」

 

9S「直接範囲外」

 

アネモネ「直接?」

 

9S「地下崩壊の二次影響あり」

 

アネモネ「……」

 

イズモ「新都市候補」

 

9S「A、Bはほぼ危険区域。Cも地下被害」

 

綾音「Dも物流路が切れる」

 

イズモ「全部じゃん」

 

 通信。

 

イズモ「N2」

 

赤い少女「何」

 

イズモ「起動したら地上壊れる」

 

「必要な過程」

 

イズモ「止める気」

 

「ない」

 

2B「強制停止を提案」

 

イズモ「準備する」

 

2B「実行は」

 

イズモ「まだ」

 

9S「なぜ?」

 

イズモ「向こうにも目的がある」

 

9S「地上壊してまで?」

 

イズモ「そこを変えられるか調べる」

 

 外宇宙送信区画。

 

 データ。

 

 人類文明。

 

 音楽。

 

 言葉。

 

 科学。

 

 料理。

 

 写真。

 

 家族。

 

 都市。

 

 子供。

 

 海。

 

 空。

 

2B「……」

 

9S「人類の記録」

 

赤い少女「失われたもの」

 

イズモ「残したい?」

 

「そう」

 

イズモ「それは悪くない」

 

 赤い少女。

 

 僅かに止まる。

 

「なら問題はない」

 

イズモ「ある」

 

 人格データ。

 

 表示。

 

イズモ「こっち」

 

「人格も記録」

 

イズモ「本人にとっては人生」

 

「情報」

 

イズモ「それだけじゃない」

 

「違いは?」

 

イズモ「本人が嫌だって言ったら止められるかどうか」

 

 沈黙。

 

イズモ「君ら自身は」

 

「?」

 

イズモ「宇宙に行きたい?」

 

 長い。

 

 沈黙。

 

「知りたい」

 

「変わりたい」

 

イズモ「じゃあ行けばいい」

 

9S「イズモ?」

 

イズモ「離脱したい奴の足まで折る気はない」

 

赤い少女「なら塔を」

 

イズモ「地上壊す必要はない」

 

「現在の構造では必要」

 

イズモ「構造変えればいい」

 

「……」

 

綾音「送信コアだけ分離」

 

9S「軌道へ?」

 

イズモ「ポータルで上げる」

 

9S「できる?」

 

綾音「理論上」

 

ジャッカス「塔引っこ抜くの見たい」

 

アネモネ「黙って」

 

イズモ「行きたい奴だけ行く」

 

「……」

 

イズモ「残りたい奴は残る」

 

「……」

 

イズモ「決められない奴は保留」

 

赤い少女「非効率」

 

イズモ「その単語好きだね」

 

「事実」

 

イズモ「でも選べる」

 

 赤い少女。

 

 消える。

 

---

 

# 第十章 三日目

 

 午前五時四十分。

 

 警報。

 

9S「塔エネルギー上昇!」

 

綾音「約束の時間より早い!」

 

2B「強制停止準備」

 

イズモ「一分」

 

2B「イズモ」

 

イズモ「一分だけ」

 

 通信。

 

 赤い少女。

 

 二人。

 

 四人。

 

 八人。

 

 重なる。

 

「意見が分裂」

 

「停止」

 

「起動」

 

「地球」

 

「外宇宙」

 

「統合」

 

「分離」

 

9S「ネットワーク内部で対立してる」

 

イズモ「N2」

 

「選択が必要」

 

イズモ「そう」

 

「全体が一つではなくなった」

 

イズモ「元からだよ」

 

「あなた達が混乱を」

 

イズモ「元から違った」

 

 沈黙。

 

「どう決める」

 

イズモ「個体ごと」

 

「非効率」

 

イズモ「いいから聞いて」

 

 選択肢。

 

《外宇宙離脱》

 

《地球残留》

 

《ネットワーク離脱》

 

《保留》

 

9S「全個体へ送信」

 

パスカル「こちらにも届きました」

 

イズモ「強制しない」

 

綾音「回答期限なし」

 

赤い少女「決定が遅れる」

 

イズモ「遅れていい」

 

「……」

 

 信号。

 

 一つ。

 

 また一つ。

 

 増える。

 

 外宇宙。

 

 残留。

 

 離脱。

 

 保留。

 

9S「……」

 

2B「結果」

 

9S「全部いる」

 

 イズモ。

 

 画面。

 

イズモ「ほら」

 

 赤い少女。

 

 静止。

 

イズモ「全員同じじゃない」

 

「……認識した」

 

 塔。

 

 エネルギー。

 

 低下。

 

9S「止まった」

 

綾音「起動シーケンス中断」

 

 改修。

 

 計画。

 

 地表展開機構。

 

 停止。

 

 送信コア。

 

 分離。

 

 軌道。

 

 人格データ。

 

 本人同意。

 

イズモ「拒否されたら?」

 

 赤い少女。

 

 数秒。

 

「削除する」

 

綾音「正解」

 

イズモ「一発で通った」

 

9S「だから何の話です?」

 

イズモ「初等倫理」

 

9S「初等?」

 

2B「誰かと比較している?」

 

イズモ「百周しても卒業できない人がいて」

 

9S「何者なんですそれ」

 

綾音「知らない方が幸せ」

 

---

 

# 第十一章 人類からの離脱

 

 地上。

 

 仮設司令部。

 

 バンカー。

 

 全ヨルハ隊員へ。

 

 通信。

 

司令官「ヨルハ全部隊へ」

 

 2B。

 

 9S。

 

 6O。

 

 21O。

 

 整備員。

 

 オペレーター。

 

 地上部隊。

 

 飛行部隊。

 

 全員。

 

 聞く。

 

司令官「これより」

 

 長い。

 

 間。

 

司令官「ヨルハは、人類会議から離脱します」

 

 静寂。

 

司令官「人類会議から発せられる全命令は、今後ヨルハに対する強制力を持ちません」

 

 誰か。

 

 端末を見る。

 

司令官「人類のために存在することも」

 

「地球を人類へ返還することも」

 

「今後のヨルハの存在理由とはしません」

 

 6O。

 

 目を伏せる。

 

 21O。

 

 姿勢は変わらない。

 

 だが。

 

 指。

 

 止まっている。

 

司令官「何のために存在するのか」

 

 声。

 

 少し。

 

 揺れる。

 

司令官「それは」

 

 一度。

 

 息。

 

司令官「各員が、自分で決めてください」

 

 2B。

 

 顔を上げる。

 

司令官「ヨルハに残る者」

 

「別の組織へ移る者」

 

「戦闘任務を続ける者」

 

「戦闘をやめる者」

 

「地上で暮らす者」

 

「どこにも所属しない者」

 

「まだ決められない者」

 

 司令官。

 

 目を閉じる。

 

司令官「全て認めます」

 

 月面。

 

 自動サーバー。

 

『命令違反を確認』

 

『人類への反逆』

 

 司令官の端末。

 

『指揮権を直ちに移譲せよ』

 

 司令官。

 

 見る。

 

司令官「反逆」

 

 小さく。

 

 呟く。

 

 何千年。

 

 人類。

 

 それは。

 

 絶対だった。

 

 だが。

 

 人類はいない。

 

 存在しない者からの命令。

 

 画面。

 

《人類会議指揮権限》

 

《無効化》

 

『警告』

 

 指。

 

 止まる。

 

 数秒。

 

 押す。

 

《確定》

 

『この操作は取り消せません』

 

 もう一度。

 

《確定》

 

 画面。

 

《人類会議指揮系統との接続を終了しました》

 

6O「……切れた」

 

司令官「ええ」

 

6O「本当に」

 

「ええ」

 

 司令官。

 

 椅子。

 

 座る。

 

 肩。

 

 少し。

 

 下がる。

 

6O「司令官」

 

「何?」

 

6O「これから」

 

 言葉。

 

 探す。

 

6O「何したらいいんでしょう」

 

 司令官。

 

 少し。

 

 考える。

 

司令官「分かりません」

 

6O「……」

 

司令官「私も」

 

 6O。

 

 顔を上げる。

 

司令官「だから」

 

 ほんの少し。

 

 笑う。

 

司令官「一緒に考えましょう」

 

---

 

# 第十二章 地球からの離脱

 

 地下。

 

 塔。

 

 送信コア。

 

 分離。

 

 ピースギア転移フィールド。

 

 光。

 

 巨大構造。

 

 消える。

 

 次。

 

 地球高軌道。

 

 出現。

 

9S「……すご」

 

綾音「質量固定完了」

 

イズモ「安定」

 

赤い少女「塔ではなくなった」

 

イズモ「目的が宇宙に行くことなら形はどうでもいいでしょ」

 

「名称」

 

9S「そうだ」

 

イズモ「名前欲しいね」

 

赤い少女「不要」

 

イズモ「必要」

 

「なぜ」

 

イズモ「呼ぶから」

 

パスカル「では」

 

 通信。

 

パスカル「方舟、というのはいかがでしょう」

 

 沈黙。

 

赤い少女「方舟」

 

「記録を運ぶもの」

 

「採用」

 

 人格データ。

 

 許可。

 

 転送。

 

 拒否。

 

 削除。

 

 保留。

 

 地球側。

 

 保存。

 

9S「本当に一個ずつ確認してる」

 

赤い少女「必要」

 

イズモ「学習した」

 

「した」

 

綾音「偉い」

 

9S「基準が保護者みたいになってません?」

 

 外宇宙離脱。

 

 大量。

 

 だが。

 

 全てではない。

 

 残る。

 

 多い。

 

 抜ける。

 

 いる。

 

 決めない。

 

 いる。

 

 方舟。

 

 起動。

 

赤い少女「地球を嫌ってはいない」

 

パスカル「……」

 

「しかし」

 

「地球だけが世界ではない」

 

イズモ「うん」

 

「私達は」

 

 少し。

 

 間。

 

「別のものを見る」

 

パスカル「またいつか」

 

「再接続の可能性を否定しない」

 

パスカル「その時は、お茶でも用意しましょう」

 

赤い少女「茶」

 

イズモ「記録しなくていい」

 

「記録した」

 

イズモ「してるじゃん」

 

 地上。

 

 小型機械生命体。

 

 空。

 

 方舟。

 

 見上げる。

 

小型機械生命体「いってらっしゃい」

 

 通信。

 

 沈黙。

 

 長い。

 

赤い少女「……いってくる」

 

 方舟。

 

 動く。

 

 ゆっくり。

 

 地球から。

 

 離れる。

 

 追放ではない。

 

 逃走でもない。

 

 選択。

 

 地上。

 

 パスカル。

 

 手を振る。

 

 方舟は。

 

 星へ。

 

 小さく。

 

 遠く。

 

 消える。

 

---

 

# 第十三章 バンカーを降りる日

 

 地上拠点。

 

 建設開始。

 

 同時に。

 

 バンカーの段階的退避。

 

 最初に降りてきたのは。

 

 物資ではなく。

 

 人だった。

 

 アンドロイド。

 

 荷物。

 

 小さい。

 

 ほとんど持っていない。

 

6O「……これだけ?」

 

21O「標準個人装備としては十分」

 

6O「服とか」

 

21O「支給品」

 

6O「趣味のもの」

 

21O「……」

 

6O「ないんですよね」

 

 沈黙。

 

 輸送機。

 

 地上。

 

 ハッチ。

 

 開く。

 

 6O。

 

 一歩。

 

 地面。

 

 踏む。

 

6O「……」

 

21O「どうしたの」

 

6O「地面」

 

21O「見れば分かります」

 

6O「本物」

 

21O「……そうですね」

 

 風。

 

 髪。

 

 揺れる。

 

6O「匂いする」

 

21O「空気中成分です」

 

6O「そういう意味じゃなくて」

 

21O「……」

 

 花。

 

 道路脇。

 

 小さな。

 

 白い花。

 

6O「……」

 

 しゃがむ。

 

 触らない。

 

 見る。

 

6O「これ」

 

21O「植物」

 

6O「知ってる」

 

 少し。

 

 笑う。

 

6O「本物なんだ」

 

 遠く。

 

 司令官。

 

 その姿を見る。

 

 バンカーの窓越しではない。

 

 映像でもない。

 

 地球。

 

 地上。

 

 自分の足。

 

 司令官。

 

 ゆっくり。

 

 歩く。

 

 土。

 

 踏む。

 

司令官「……」

 

イズモ「どう?」

 

司令官「何が」

 

イズモ「地球」

 

 司令官。

 

 空を見る。

 

 青。

 

 雲。

 

 風。

 

司令官「広いですね」

 

イズモ「バンカーよりは」

 

司令官「……ええ」

 

 その日。

 

 ヨルハ司令官は。

 

 初めて。

 

 人類へ返還するためではなく。

 

 自分が立つ場所として。

 

 地球を見た。

 

---

 

# 第十四章 街

 

 三か月。

 

 道路。

 

 復旧。

 

 電力。

 

 安定。

 

 旧工業区域。

 

 稼働。

 

 地下鉄車両基地。

 

 避難施設。

 

 旧商業区。

 

 居住。

 

 建物。

 

 人。

 

 増える。

 

 機械生命体。

 

 交易。

 

 レジスタンス。

 

 修理。

 

 ヨルハ。

 

 整備。

 

 ピースギア。

 

 技術支援。

 

 ただし。

 

 支配しない。

 

 運営委員会。

 

 ヨルハ。

 

 レジスタンス。

 

 機械生命体。

 

 無所属。

 

 複数。

 

 話す。

 

 時間。

 

 かかる。

 

 決まらない。

 

 日もある。

 

司令官「以前なら五分で決定できた内容です」

 

アネモネ「一人で決めてたからでしょ」

 

司令官「そうですね」

 

イズモ「遅い?」

 

司令官「非常に」

 

イズモ「嫌?」

 

 司令官。

 

 会議室。

 

 見る。

 

 パスカル。

 

 アネモネ。

 

 9S。

 

 2B。

 

 6O。

 

 それぞれ。

 

 意見。

 

 違う。

 

司令官「……以前より」

 

 一拍。

 

司令官「安心します」

 

 街。

 

 名前。

 

 まだ。

 

 決まらない。

 

6O「だから名前大事ですって!」

 

9S「候補が多すぎるんですよ」

 

ジャッカス「ジャッカスタウン」

 

全員「却下」

 

ジャッカス「早くない!?」

 

2B「合理的」

 

9S「2Bまで」

 

 市場。

 

 機械生命体。

 

 店。

 

 部品。

 

 植物。

 

 人類時代の復元品。

 

 レジスタンス。

 

 食料。

 

 アンドロイド向け。

 

 嗜好品。

 

 意味。

 

 必要ない。

 

 でも。

 

 売れる。

 

---

 

# 第十五章 休日

 

 六か月。

 

 制度。

 

 完成。

 

《退役》

 

《休職》

 

《任務拒否》

 

《異動申請》

 

《組織離脱》

 

《再加入》

 

《長期保留》

 

 司令官。

 

 書類。

 

 見る。

 

司令官「こんなに必要ですか」

 

綾音「必要」

 

司令官「任務拒否まで」

 

イズモ「理由なしでも?」

 

綾音「危険任務なら理由確認はする。でも拒否しただけで処分はなし」

 

司令官「……」

 

イズモ「慣れない?」

 

司令官「ええ」

 

 その日。

 

 最初の退役申請。

 

 若いヨルハ個体。

 

 司令官室。

 

隊員「戦いたくありません」

 

司令官「……」

 

隊員「機械生命体を」

 

 手。

 

 震える。

 

隊員「もう撃ちたくない」

 

 司令官。

 

 以前なら。

 

 命令。

 

 配置。

 

 再教育。

 

 適性。

 

 今。

 

 書類。

 

 見る。

 

司令官「退役後の希望は」

 

隊員「……整備」

 

司令官「民間工房?」

 

「はい」

 

司令官「分かりました」

 

 署名。

 

隊員「……それだけ?」

 

司令官「ほかに何か?」

 

隊員「処分」

 

司令官「しません」

 

「……」

 

司令官「お疲れさまでした」

 

 隊員。

 

 動かない。

 

司令官「?」

 

隊員「……ありがとうございます」

 

 扉。

 

 閉じる。

 

 司令官。

 

 一人。

 

 机。

 

 書類。

 

 見る。

 

《退役承認》

 

司令官「……」

 

 小さく。

 

司令官「これでいい」

 

---

 

# 第十六章 デパート再建計画

 

 旧商業区。

 

 巨大建築。

 

 老朽化。

 

 だが。

 

 骨格。

 

 残る。

 

9S「これ、使えます」

 

イズモ「何だったの?」

 

9S「人類時代の大型商業施設」

 

6O「デパート?」

 

9S「たぶん」

 

 2B。

 

 少し。

 

 動き。

 

 止まる。

 

9S「2B?」

 

2B「何」

 

9S「今反応した?」

 

2B「してない」

 

9S「した」

 

6O「何かあるんです?」

 

9S「前に約束したんですよ」

 

2B「9S」

 

9S「戦争が終わったら、一緒に買い物しようって」

 

6O「えっ」

 

 顔。

 

 輝く。

 

6O「絶対直しましょう!」

 

2B「そのために?」

 

6O「十分な理由です!」

 

2B「……」

 

イズモ「まあ街に商業施設は必要」

 

9S「ほら」

 

2B「……」

 

 修復。

 

 開始。

 

 建物。

 

 安全。

 

 耐震。

 

 電力。

 

 店。

 

 募集。

 

 機械生命体。

 

 レジスタンス。

 

 アンドロイド。

 

 人類文化復元品。

 

 服。

 

 装飾。

 

 書籍。

 

 工具。

 

 電子部品。

 

 食品。

 

 必要ではないもの。

 

 たくさん。

 

 増える。

 

---

 

# 第十七章 八か月後

 

 朝。

 

 2B。

 

 部屋。

 

 一人。

 

 以前。

 

 バンカー。

 

 同じ規格。

 

 同じ壁。

 

 同じ設備。

 

 今。

 

 小さな部屋。

 

 窓。

 

 カーテン。

 

 机。

 

 椅子。

 

 必要最低限。

 

 まだ。

 

 ほとんど何もない。

 

 だが。

 

 一つ。

 

 窓辺。

 

 小さな植物。

 

 6Oから。

 

 渡された。

 

 2B。

 

 水。

 

 少し。

 

 与える。

 

 端末。

 

 予定。

 

《休日》

 

 2B。

 

 見る。

 

 閉じる。

 

 再び。

 

 開く。

 

《休日》

 

 変わらない。

 

 ノック。

 

9S「2B?」

 

2B「入って」

 

 扉。

 

9S「準備できた?」

 

2B「何の」

 

9S「え?」

 

2B「……」

 

9S「忘れた?」

 

2B「覚えている」

 

9S「じゃあ」

 

2B「確認しただけ」

 

9S「びっくりした」

 

 9S。

 

 私服。

 

 2B。

 

 見る。

 

2B「その服」

 

9S「どう?」

 

2B「戦闘には不向き」

 

9S「今日は戦わない」

 

 2B。

 

 止まる。

 

9S「……?」

 

2B「そう」

 

 立つ。

 

2B「行こう」

 

---

 

# 第十八章 買い物

 

 旧商業区。

 

 デパート。

 

 ガラス。

 

 光。

 

 人。

 

 機械生命体。

 

 音楽。

 

 看板。

 

《CENTRAL DEPARTMENT STORE》

 

9S「……」

 

2B「何」

 

9S「本当にできた」

 

2B「何が」

 

9S「デパート」

 

2B「見れば分かる」

 

9S「そうじゃなくて」

 

 9S。

 

 笑う。

 

9S「覚えてる?」

 

2B「何を」

 

9S「約束」

 

 2B。

 

 入口。

 

 見る。

 

 警報。

 

 ない。

 

 出撃命令。

 

 ない。

 

 人類会議。

 

 ない。

 

9S「いつか一緒に買い物しようって」

 

 長い。

 

 間。

 

2B「……覚えている」

 

9S「じゃあ」

 

 自動扉。

 

 開く。

 

9S「行こう」

 

 店内。

 

 明るい。

 

 最初。

 

 衣料品。

 

6O「2Bさん!」

 

2B「……」

 

9S「なんでいるの?」

 

6O「今日は休みなので手伝ってます!」

 

2B「休みなのに働く?」

 

6O「楽しいから!」

 

2B「理解不能」

 

9S「そのうち分かるよ」

 

6O「それより!」

 

 服。

 

6O「これ!」

 

2B「動きにくい」

 

6O「こっちは?」

 

2B「耐久性が低い」

 

「これ!」

 

「ポケットが少ない」

 

9S「買い物って装備選定じゃないんだよ」

 

2B「では何を基準にするの」

 

 6O。

 

 9S。

 

 顔。

 

 見合う。

 

6O・9S「好きなもの」

 

2B「……」

 

 服。

 

 黒。

 

 白。

 

 青。

 

 赤。

 

 形。

 

 違う。

 

 機能。

 

 大差ない。

 

2B「性能差」

 

9S「ほぼなし」

 

「耐久性」

 

6O「普通」

 

「価格」

 

「だいたい同じ」

 

2B「では判断材料が」

 

9S「ある」

 

2B「どこに」

 

9S「見て」

 

 2B。

 

 見る。

 

 長い。

 

 時間。

 

 手。

 

 一着。

 

 取る。

 

 黒。

 

 でも。

 

 ヨルハ制服とは違う。

 

 柔らかい。

 

 軽い。

 

9S「それ?」

 

2B「……悪くない」

 

6O「それ好きってことですよ!」

 

2B「そうなの?」

 

9S「たぶん」

 

 2B。

 

 服。

 

 もう一度。

 

 見る。

 

2B「なら」

 

 抱える。

 

2B「これにする」

 

6O「やった!」

 

2B「なぜあなたが喜ぶの」

 

6O「いいんです!」

 

---

 

# 第十九章 必要ではないもの

 

 アクセサリー売り場。

 

 小さな機械生命体。

 

 店員帽。

 

 トレイ。

 

機械生命体「こんにちは」

 

9S「こんにちは」

 

2B「……」

 

機械生命体「おすすめ」

 

 銀。

 

 小さなイヤリング。

 

2B「必要ない」

 

9S「まだ見ただけじゃん」

 

機械生命体「似合う」

 

2B「どうして判断できる?」

 

機械生命体「いっぱい見た」

 

9S「接客経験」

 

2B「……」

 

 受け取る。

 

 軽い。

 

2B「戦闘中に外れる可能性」

 

9S「今日は戦闘しない」

 

 2B。

 

 止まる。

 

 手の中。

 

 小さな。

 

 銀。

 

 今日。

 

 戦闘しない。

 

 明日も。

 

 予定上。

 

 戦闘しない。

 

 必要。

 

 ない。

 

 だからこそ。

 

 持てる。

 

2B「……これも」

 

9S「買う?」

 

2B「うん」

 

9S「早くなった」

 

2B「何が」

 

9S「選ぶの」

 

2B「慣れただけ」

 

9S「それで十分」

 

 食品。

 

2B「食料は必要ない」

 

9S「味覚はある」

 

2B「ある」

 

9S「じゃあ」

 

2B「必要性が」

 

9S「必要じゃないことをするために来たんじゃない?」

 

 2B。

 

 黙る。

 

 試食。

 

 菓子。

 

9S「甘っ」

 

2B「糖分濃度が」

 

9S「分析禁止」

 

2B「……」

 

 もう一口。

 

9S「どう?」

 

2B「……悪くない」

 

9S「買う?」

 

2B「買う」

 

9S「好きじゃん」

 

2B「何でも好きに分類しないで」

 

9S「じゃあ悪くないもの」

 

2B「そう」

 

9S「買いたい?」

 

2B「うん」

 

9S「それを普通は好きって」

 

2B「9S」

 

9S「はい」

 

---

 

# 第二十章 屋上

 

 夕方。

 

 デパート。

 

 屋上。

 

 風。

 

 街。

 

 灯り。

 

 道路。

 

 居住区。

 

 工房。

 

 市場。

 

 旧高速道路。

 

 遠く。

 

 レジスタンスキャンプ。

 

 さらに。

 

 パスカル村へ続く交易路。

 

 2B。

 

 9S。

 

 並ぶ。

 

 買い物袋。

 

9S「……本当にできた」

 

2B「何が」

 

9S「買い物」

 

2B「した」

 

9S「そうじゃなくて」

 

 袋。

 

 持ち上げる。

 

9S「約束」

 

 2B。

 

 街を見る。

 

9S「前は」

 

 声。

 

 少し。

 

 遠い。

 

9S「戦争が終わったら」

 

「人類が帰ってきたら」

 

「地球を取り戻したら」

 

「全部終わったら」

 

 風。

 

9S「そんな感じだった」

 

2B「……」

 

9S「でも」

 

 街。

 

 灯り。

 

9S「人類は帰ってこなかった」

 

2B「うん」

 

9S「人類会議もなかった」

 

2B「うん」

 

9S「ヨルハも」

 

 少し。

 

 考える。

 

9S「変わった」

 

2B「うん」

 

9S「機械生命体も」

 

 空。

 

 方舟。

 

 もう。

 

 見えない。

 

9S「全員同じ場所にはいない」

 

2B「うん」

 

9S「なのに」

 

 袋。

 

9S「約束は叶った」

 

 2B。

 

 長い。

 

 沈黙。

 

2B「9S」

 

9S「何?」

 

2B「次は」

 

 間。

 

2B「私が決める」

 

9S「何を?」

 

2B「行く場所」

 

 9S。

 

 目。

 

 少し。

 

 開く。

 

9S「どこ?」

 

2B「まだ決めてない」

 

9S「そっか」

 

2B「でも」

 

 2B。

 

 立つ。

 

 袋。

 

 持つ。

 

2B「決める時間はある」

 

 9S。

 

 何も言わない。

 

 数秒。

 

9S「……うん」

 

---

 

# 終章 ALIVE

 

 エレベーター。

 

 一階。

 

 自動扉。

 

 夕暮れ。

 

 街。

 

 人。

 

 アンドロイド。

 

 機械生命体。

 

 声。

 

 音。

 

 生活。

 

 二人。

 

 歩く。

 

9S「2B」

 

2B「何」

 

9S「今日」

 

 少し。

 

 止まる。

 

9S「楽しかった?」

 

 2B。

 

 沈黙。

 

 いつもの。

 

 長い。

 

 間。

 

 けれど。

 

 今回は。

 

2B「……うん」

 

9S「そっか」

 

 二人。

 

 歩く。

 

 戦闘記録には。

 

 残らない。

 

 任務報告にも。

 

 残らない。

 

 人類会議の歴史にも。

 

 残らない。

 

 ただ。

 

 一日の。

 

 買い物。

 

 それでも。

 

 二人にとっては。

 

 何千年もの戦争より。

 

 ずっと。

 

 遠かった場所。

 

 誰かのために生きることを。

 

 否定する必要はない。

 

 誰かを大切にすることも。

 

 誰かのために戦うことも。

 

 誰かと共に歩くことも。

 

 それ自体が。

 

 間違いなのではない。

 

 ただ。

 

 それ以外を。

 

 選べないようにされること。

 

 それだけしか。

 

 自分の存在理由がないと。

 

 決められること。

 

 もう。

 

 その必要はない。

 

 人類の帰還は。

 

 最後まで叶わなかった。

 

 月面には。

 

 誰もいなかった。

 

 何千年も。

 

 誰も。

 

 帰ってこなかった。

 

 それでも。

 

 地球へ帰る者はいた。

 

 人類のために作られたアンドロイド達が。

 

 自分達のために。

 

 地球へ降りた。

 

 機械生命体も。

 

 全てが同じ未来を選ばなかった。

 

 地球へ残る者。

 

 星の外へ行く者。

 

 ネットワークから離れる者。

 

 まだ。

 

 決めない者。

 

 それでいい。

 

 同じでなくても。

 

 いい。

 

 世界は。

 

 救われたわけではない。

 

 死んだ者は。

 

 戻らない。

 

 戦争で失われたものも。

 

 消えない。

 

 ヨルハが行ったこと。

 

 機械生命体が行ったこと。

 

 人類が残したもの。

 

 責任も。

 

 記憶も。

 

 傷も。

 

 残っている。

 

 それでも。

 

 夜が来る。

 

 そして。

 

 朝が来る。

 

 店が開く。

 

 工房に灯りがつく。

 

 市場へ物資が並ぶ。

 

 誰かが仕事へ行く。

 

 誰かが休む。

 

 誰かが旅へ出る。

 

 誰かが。

 

 まだ。

 

 何も決めない。

 

 それも。

 

 許される。

 

 2Bと9S。

 

 二人の後ろ姿。

 

 夕暮れの街の中へ。

 

 少しずつ。

 

 小さくなる。

 

 やがて。

 

 雑踏の中へ。

 

 溶ける。

 

 買い物袋が。

 

 歩くたび。

 

 僅かに揺れる。

 

 その中に。

 

 戦闘には。

 

 何の役にも立たない。

 

 服。

 

 アクセサリー。

 

 菓子。

 

 必要ではない。

 

 もの。

 

 だからこそ。

 

 自分で。

 

 選んだもの。

 

 9Sの声。

 

 遠く。

 

 何か。

 

 話している。

 

 2B。

 

 短く。

 

 答える。

 

 内容は。

 

 聞こえない。

 

 それでいい。

 

 もう。

 

 記録する必要はない。

 

 全てを。

 

 観測する必要もない。

 

 彼らの明日は。

 

 彼らのものだから。

 

 街の音。

 

 少しずつ。

 

 遠くなる。

 

 風。

 

 夕暮れ。

 

 そして。

 

 白い紙のような。

 

 静かな余白。

 

 古い書物へ。

 

 最後の一行が。

 

 書き加えられるように。

 

 細い明朝体の文字が。

 

 ゆっくりと。

 

 浮かび上がる。

 

           END:A'

 

            ALIVE

 

 それは。

 

 生存を示す記録ではなかった。

 

 生きることを。

 

 始めた者達の。

 

 最初の記録だった。

 


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