ユニバース戦士補ジュウ計画~THE AFTER UNIVERSE~ 作:TELTELボーズ
および「真っ赤な太陽!永久に叫べ、ナンバーワン!」https://syosetu.org/novel/374798/77.html
の後日談です。
「総理大臣、野党第一党の党首、学者先生、カリスマギャル、スーパーアイドル、東映プロデューサー、歌舞伎座一門と来て…今度はトップ企業の社長とは。元から名店とは思ってましたが、ここもとうとうセレブリティ御用達の隠れ家になったんですかね?」
「皆君に用があるようだがね。君が紹介したんじゃないのかね」
ここはピザの隠れた名店“Che sorpresa!”、その厨房で修行中の店員・向ヶ丘晴照と店長のドン・
「今回は俺が呼んだんで良いですが、毎度俺に指名入るんですよね。店長いるなら店長に作ってほしいですけどね」
「実践に勝る修行はないからね。既にハレテルも店出せるほど旨いのだから自信を持つといいがね」
「店長には及びませんて。世界獲れるくらい美味いですもん」
そしてこぞって晴照の焼くピザを注文するのだ。元々店長の道楽同然に開いている店であり、熱海総理がやってきた時も店長が留守の為に仕方なく晴照が作ったものを提供したわけだが、これが殊の外好評で店長がいる時でも自分のピザを注文されるようになってしまった。確かに晴照は驚異的なスピードでピザ作りの才覚をメキメキ伸ばし、密かにはや日本でも指折りの職人となりつつあるが、それでもまだ店長に勝っている気がしなかった。
「はっはっは、私くらい美味いピザを食べさせたいならもっと精進するといいね。ハレテルも今に追いつくね」
「なんだかなあ」
当の店長が気まぐれでテキトーなので今後もしょっちゅう晴照が作ることになってしまうのだが。そういえば店長って超スーパー悪者ワルドに声が似てる気がする…?などと思考が脇道に逸れていたが、あまりのんびり前フリをしている暇はない。何しろ今回のお客様は早めのご提供をご所望だからだ。晴照もその詳しい事情を聞いているが故に、早速ピザ生地をくるくると伸ばし始めた。
20分後、予定通りに予定の客が来た。
「いらっしゃいませ。お席までご案内いたします、クオン様」
その男はクオンAIコンツェルンの社長にして、かつてリングハンター・ガリュードとして晴照を降した張本人、クオンその人だった。
「ずいぶんと畏まった対応だねぇ。そんな仲でもないだろうに」
「お客様に私怨は持ち込まない主義なので。それより時間は大丈夫ですか?せっかくの焼きたてですから、剣に戻る前に召し上がることをオススメいたしますよ」
「そうだね、抜きそびれたらしい棘をこれ以上食らう前にいただくとしようか」
預かった外套をハンガーに掛けて、つい1分前に窯から焼き上げたやや小さめのピザをクオンの前に出す。
「お待たせしました。見習いシェフのマルゲリータです」
「へぇ、ずいぶん王道を攻めてきたねぇ」
マルゲリータ、それはトマトソースとモッツアレラチーズとバジルを載せた最もオーソドックスなスタイルのピザである。大衆にも馴染まれている分、生半可な腕では未熟さが如実に露呈してしまう。安牌のように見えてある意味挑戦的な選択だった。クオンはそんな正面突破の一作にナイフを入れ、フォークで一切れを持ち上げて口にする。豪快に喰らいつく吠とは対象的に、よく咀嚼し飲み込む所作まで丁寧に整っているようだった。
「…ふぅん、案外悪くない。見習いにしては大したものだ」
「恐れ入ります」
クオンは一切れ、また一切れとピザを口にしていき、綺麗に完食した。
「ま、吠を連れて来たいほどじゃないけどね」
「…オレのピザ、何か拙かったでしょうか?」
「いいや上等だよ? ただ最高とまではいかないだけさ。吠には最高に美味しいものを食べさせたいからねぇ」
「ブレないですね。あなたの基準には吠くんとそれ以外しかないんですか?」
「…ああ、そうか。そう、かもしれないね」
晴照の言葉に何か思うところがあったのか、クオンは沈思する。この時の晴照は知らなかった。この日の会話が巡り巡って10年後の“あの”大それた計画に行き着くことを…
「まあ俺もまだ似たようなものですけどね。今回のは経過報告のようなものと思っていただければ」
「経過報告?」
「俺はこれからもっと美味いピザを作ります。色んな人に出会って、色んなもんを味わって、そういう厚みをここに載せていきます」
無から有を作るよりも、周りのエネルギーを巻き込んで飛び込むことで真価を発揮する五行風水の心得。それは、指輪能力を失った今も晴照の精神に馴染んでいた。
「ただひとまず、吠くんから貰った熱でここまで来たと、他でもないあなたに報告したかったんです。ある意味良いきっかけをくれた、あなたに」
「…謙遜抜きに感謝されることじゃないと思うけどね」
「それはまあそうですね」
謝罪と賠償は貰っているとはいえ、一時は歩行すら困難になる程の大怪我を負わされた身として感謝は出来ない。ただ、あの敗北も痛みもまた、今の晴照の人生を作った一部なのは間違いなかった。
「!…そろそろ時間のようだ」
「本日は貴重なお時間とポイントを割いていただき、ありがとうございました」
「ま、吠の友達だからね。大目に見るさ」
こうは言うものの、クオンにとってもつい数日前に吠の看病で切らしていたばかりのポイントだったので、大した痛手ではなかった。クレジットカードで手早く会計を済ませると、赤いメッシュの光を発してガリューデカリバー50の姿に戻ってしまった。そんなちょっと生暖かい無機物と化した客の為に、晴照は店の扉を開けて道を作る。
「またのご来店をお待ちしています。今度は吠くんを連れて来たくなるくらい美味いピザを提供しますよ」
もっとイケイケドンドンな明日に繋がっている、今日の話であった。
〈了〉
Che sorpresa!:晴照が働いているピザ専門店。知る人ぞ知る隠れ名店であり、中でも店長のドン・塩塚が焼く創作ピザは某ガイドの三つ星にすら届き得るという。