異世界おじさん、原神の世界へ 全面改稿版   作:ところてんの

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第30話「モンドから璃月へ」

 モンドの街は、もう見えなかった。

 

 背後には、広い草原と街道が続いている。

 

 風が吹く。

 

 草が揺れる。

 

 遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

「……本当に出たんだな」

 

 俺は振り返った。

 

 けれど、もうモンドの城壁は見えない。

 

「昨日まで普通に街にいたのにな」

 

「今は街道だ」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 俺は苦笑した。

 

 昨日、蛍とパイモンとも別れた。

 

 そして今日。

 

 俺たちは本当にモンドを離れた。

 

 目的地は璃月。

 

 ここから先は、二人だけの旅になる。

 

     ◆

 

 しばらく歩く。

 

 街道には、俺たち以外の人影はほとんどない。

 

 モンドにいた時とは違う静けさだった。

 

「……静かだな」

 

「ああ」

 

「街にいる時は、もっと人の声がしてたからな」

 

「そうだな」

 

 俺は後ろを振り返る。

 

 やっぱりモンドは見えない。

 

 少しだけ寂しい。

 

 けれど、もう歩き始めている。

 

「まあ……いつまでも振り返ってても仕方ないか」

 

「ああ」

 

 俺は前を向いた。

 

     ◆

 

 街道の途中で、俺たちは休憩した。

 

 俺は荷物から水を取り出す。

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 二人で水を飲む。

 

 少し休んでから、俺は空を見上げた。

 

 青い空。

 

 白い雲。

 

 モンドで何度も見た空と同じだった。

 

「……ゲームで見てた景色なのに」

 

「何だ?」

 

「実際に歩いてみると、全然違うな」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 俺は周囲を見回す。

 

「ゲームなら、ここを通って次の場所へ行くってだけだったけど」

 

「今は違う」

 

「そうだな」

 

 俺は足元を見る。

 

 石。

 

 土。

 

 草。

 

 街道。

 

 全部が現実に存在している。

 

「自分で歩いてるんだよな」

 

「ああ」

 

「モンドにいた時も、何度も思ったけど」

 

「実際に経験しなければ分からないこともある」

 

「うん」

 

 俺は頷いた。

 

「だから璃月でも、知ってることは知ってることとして使う」

 

「必要な時だけな」

 

「そうするよ」

 

     ◆

 

 再び歩き始める。

 

 進むにつれて、景色が少しずつ変わっていく。

 

 遠くには山々が見える。

 

 モンドの草原とは違う、岩の多い景色。

 

「……璃月が近づいてる感じがする」

 

「まだ先だ」

 

「分かってるよ」

 

 俺は地図を確認する。

 

「この道を進んでいけば璃月方面」

 

「ああ」

 

「モンドとは、やっぱり全然違うんだろうな」

 

「行けば分かる」

 

「まあ、そうだよな」

 

 俺は地図をしまった。

 

 頭の中には、璃月についての知識がある。

 

 璃月港。

 

 七星。

 

 岩神。

 

 冒険者ギルド。

 

 商人。

 

 そして、ゲームで知っている人物たち。

 

 けれど――。

 

「……今回も、実際に行ってみないと分からないか」

 

「ああ」

 

「モンドでも、そういうこと結構あったしな」

 

「その通りだ」

 

「じゃあ、今回も自分で確かめていくか」

 

「ああ」

 

     ◆

 

 しばらく歩いたところで、俺たちは小さな丘の上に出た。

 

 そこから先の景色がよく見える。

 

 遠くに山々が連なっている。

 

「……すごいな」

 

 思わず呟いた。

 

「モンドとは全然違う」

 

「ああ」

 

「これから、あそこへ行くんだよな」

 

「そうだ」

 

 おじさんは前を見ている。

 

「璃月だ」

 

 俺も前を向いた。

 

 モンドとは違う国。

 

 違う文化。

 

 違う人々。

 

 そして、まだ知らない事件。

 

「なんか、ちょっと楽しみになってきた」

 

「そうか」

 

「モンドを出る時は、ちょっと寂しかったけど」

 

「今は?」

 

「新しい場所に行くって考えると、やっぱり楽しみだよ」

 

 俺は笑った。

 

「こういうのも旅なんだろうな」

 

「ああ」

 

     ◆

 

 夕方。

 

 俺たちは街道から少し離れた場所で休むことにした。

 

 焚き火を起こす。

 

 モンドで準備した食料を取り出す。

 

「これ、モンドで買ったやつだな」

 

「ああ」

 

「まだ残ってる」

 

「食べればなくなる」

 

「まあ、そうだけど」

 

 俺は食料を口に運ぶ。

 

「……普通にうまい」

 

「そうだな」

 

 静かな時間が流れる。

 

 モンドでは、毎日のように誰かと話していた。

 

 依頼を受ける。

 

 街を歩く。

 

 騎士団へ行く。

 

 知り合いと会う。

 

 魔物と戦う。

 

 そんな日々が続いていた。

 

 今は二人だけ。

 

「静かだね」

 

「ああ」

 

「街を出たって、こういう時に実感するね」

 

「そうだな」

 

 俺は火を見る。

 

「でも、悪くないかも」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 少し考える。

 

「二人で旅するのも、これはこれでいいな」

 

「ああ」

 

「モンドにいた時とは、また違う感じがする」

 

「旅だからな」

 

「まあ、それもそうか」

 

 火の粉が夜空へ舞い上がる。

 

 しばらく、二人とも黙っていた。

 

「……璃月って、どんな感じなんだろうね」

 

「行けば分かる」

 

「それ、おじさん結構好きだよな」

 

「何がだ?」

 

「『行けば分かる』ってやつ」

 

「実際に行けば分かる」

 

「まあ……そうなんだけど」

 

 俺は苦笑した。

 

     ◆

 

 夜が深くなる。

 

 焚き火を眺めながら、俺は明日のことを考えていた。

 

 璃月。

 

 ゲームでは何度も見た場所。

 

 知っている人物もいる。

 

 知っている事件もある。

 

 けれど、実際に行けばどうなるかは分からない。

 

 モンドでも、それは何度も経験した。

 

 知っていることと、実際に経験することは違う。

 

「……今度は何が待ってるかな」

 

「何か起きるだろう」

 

「できれば何も起きないほうがいいんだけどな」

 

「旅だからな」

 

「そういうものなのかな」

 

「ああ」

 

「まあ、モンドでもいろいろあったしな」

 

「そうだ」

 

「璃月でも、何かあるかもしれないか」

 

「おそらくな」

 

「……じゃあ、覚悟しておくよ」

 

 俺は火を見つめた。

 

 不安がないわけじゃない。

 

 それでも、楽しみな気持ちもある。

 

 知らない土地へ行く。

 

 知らない人と出会う。

 

 知らない出来事を経験する。

 

 そう考えると、少しだけ胸が高鳴った。

 

     ◆

 

 翌朝。

 

 俺たちは荷物をまとめた。

 

「忘れ物は?」

 

「ない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

 俺は荷物を確認する。

 

 食料。

 

 水。

 

 薬。

 

 道具。

 

 モラ。

 

 リサさんからもらった本。

 

 必要なものは揃っている。

 

「よし」

 

 俺たちは歩き出した。

 

 朝の光が街道を照らしている。

 

 モンドの方向を振り返る。

 

 やはり、街は見えない。

 

 けれど――。

 

 俺は、もう振り返らなかった。

 

「行こう」

 

「ああ」

 

 二人で前へ進む。

 

 その先には、璃月がある。

 

     ◆

 

 道を進むにつれて、山々が少しずつ近づいてくる。

 

 風の国を離れ、岩の国へ。

 

 景色は少しずつ変わっていく。

 

「……モンドを出たんだな」

 

 俺が呟く。

 

「ああ」

 

「でも、モンドで覚えたことは無駄じゃなかった」

 

「文字も読めるようになった」

 

「モラの使い方も分かった」

 

「冒険者として依頼を受ける方法も覚えた」

 

「魔物との戦い方も」

 

「人との付き合い方も」

 

 俺は前を見る。

 

「いろいろ覚えたな」

 

「ああ」

 

 モンドで得たものは、荷物の中には入らない。

 

 けれど確かに俺たちの中に残っている。

 

 それは知識だけではない。

 

 経験だった。

 

     ◆

 

 昼頃。

 

 俺たちは高台から遠くを眺めていた。

 

 眼下には広い道が続いている。

 

 その先には、さらに険しい山々。

 

「……あれが璃月方面か」

 

「ああ」

 

「まだ遠いな」

 

「歩けば着く」

 

「うん。まあ、そうだよな」

 

 俺は苦笑した。

 

「じゃあ、行こう」

 

「ああ」

 

 二人で再び歩き出す。

 

 モンドはもう見えない。

 

 けれど、俺たちの中には残っている。

 

 モンドで得た経験を持って。

 

 新しい土地へ。

 

 新しい出会いへ。

 

 新しい冒険へ。

 

 そして――。

 

 日本へ帰るために。

 

 俺たちは璃月への道を歩き続けた。

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