立希ちゃんの誕生日お祝い小説を書きたかっただけ……間に合っていませんが、よしなに()

あと↓の小説からオリキャラを一人出張させています。
『夕立、ひぐらしが鳴く』
https://syosetu.org/novel/352913/

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憧れは今は渦中に

 うだるような暑さが続く八月の夕暮れ、学生は夏休み、社会人も早ければお盆休みという状態だからか人が普段よりも行き交う。なんで人混みが多いところを……燈が人混み苦手なのに、いち早く集合場所に到着していた椎名立希――鋭い眼光が宿る紫瞳と眉間に皺が寄りがちな表情から近寄りがたい雰囲気を放つ少女――スマートフォンをキッと睨む。現在の時間とチャット内容、夕方で帰ろうとする者とこれから繰り出す者でごった返す時間帯の駅前広場は流石に待ち合わせ場所に適さないだろう。

 ついでに言えば、提案者は件の人混みが苦手な燈と一緒に買い物していて集合時間に間に合わないから遅刻するとのこと。自分から言っておいて……しかも燈を連れておいて……ぶつぶつと文句を言いたくなる気持ちを抑えながら適当にスマートフォンを眺めること、少し。ふと顔を上げた瞬間、柔和な勿忘草色と目が合う――お待たせ。

 別に、私も来たところ。そう、愛音ちゃんたち遅れてくるんだってね。はぁ……なんで呼び出したあいつが遅れるの。まぁ、連絡があるんだからいいんじゃない?

 長崎そよ――ふわりとした明るいブラウンの長髪がよく似合う落ち着いた少女――はつと立希の両隣へ目配り。一人は抹茶アイスを食べながら大人しく待っており、もう一人は立希の足元にしゃがみ込んでいる。楽奈ちゃんが珍しくちゃんといる、もう一人は確か……こげ茶の瞳とぶつかった瞬間、しゃがんでいた少女は立希の足に絡みついて威嚇するように睥睨してきた。

 当然、立希は立希で驚き、彼女の行動をたしなめる。けれどこげ茶の瞳を持つ少女――池袋祈利は立希から離れようとしない、椎名先輩の隣は譲りたくないので。いや離れてよ、動きづらいんだけど。

 微笑ましい、という認識でそよは目の前の光景を眺めながら立希に言問う。その子、立希ちゃんの後輩なんだよね? ああ、そうだけど……いい加減に離れて。いやです、先輩の隣がいいんです。

 やいやい言い合う先輩と後輩、本当に賑やかでいいねとそよは嘆息を吐くしかなかった。私もりっきーの後輩。だとしても後輩歴では負けませんよ。でも、バンドしてない。ぐぬぬ、痛いところを突かれました……しかし私にもトランペットがあるんですよ。

 さらに要楽奈――野性味溢れる白いウルフカットと色違いの両眼が印象的な自由奔放な少女――が火種を投下。瞬く間に立希を挟んで謎の口争(こうそう)が始まり、渦中の本人は両者を納めようとしながらも頭を抱えていた。そよは立希ちゃん大変そうだな、でも騒ぎが大きくならない間は手助けせずに見守っておこうと傍観者になるだけ。

 お待たせー、あれ? りっきーたち、なにしているの? 遅れてきた発起人こと千早愛音――手入れが行き届いた長いピンクヘアーと明るい笑顔が噛み合う快活な少女――は困惑した様子で年下たちの戯れを見つめる。未だに応酬が止まない二人と間に入れられて迷惑そうな立希、助けを求めるような視線を送られても全く動かないそよ、なんとなく状況を察した愛音はりっきー、モテモテだねーと煽った。

 はぁ!? 立希は発言者に対して嚇怒の眼差しを向ける。けれど愛音は気にも留めず、ともりんのことをあんなに――とつらつらと言葉を続けていく。ちょっ、燈は関係ないでしょ? 立希が声を荒げた瞬間、えっと……立希ちゃん? と純朴な曙色の瞳がすっと現れた。

 燈、これは違くて……。なにが違うの? それはその……りっきー、浮気した人の言い訳みたいだよ。はぁ!?

 どう現在の状況を無難に説明しようかと立希が考えあぐねている間、高松燈――柴色(ふしいろ)のショートヘアと中性的な顔立ちが相まって少年のようにも見える不思議な風柄の少女――は立希を挟む両隣を見やる。どちらともなんとなくだが楽しそうにしている、ああ仲良くじゃれ合っているだけなんだ。

 立希ちゃん……、なっなに燈……? 仲いいね。え? あ、うん、そうだね? そうかも、そうだよ。

 あまりの立希の挙動不審っぷりにそよは嘆息を吐き、愛音は面白がりつつも若干呆れていた。もうちょっと普通に答えたらいいのに、傍観席は冷ややかな視線を送るだけ。

 

 

 

 

 グダグダはそよが場を仕切ることで収まり、改めて全員集合したのを確認したところで愛音が先導して目的地に向かう。どうして、こうなったんだっけ……? もう既にクタクタな立希は何気なく思い返す。ああ、そうだRiNGのカフェで祈利が初めて来店したときに愛音が言い出したんだっけ、今度の休みに皆でライブの打ち上げも兼ねて出かけよう、と。

 乗り気ではなかったが燈もやりたいと言った以上は、当然ついていくしかない。加えて、祈利の壮行会もやろうと発案者は言って羽丘時代の唯一の後輩を巻き込んでいた。恐らく祈利本人も気が進まなかっただろう、面倒くさそうな表情を浮かべていたが立希が行くことを告げれば、うだうだ言いつつも同行することに――昔から面倒くさがりなところは変わらないな。

 ねぇ、りっきー。なに? ちょっと服見ていかない? はぁ?

 だってさ、祈利ちゃん可愛いのにもうちょっとオシャレした方がいいじゃん? そうなの? うーん、私は本人が嫌なら今のままでもいいと思うなー。

 えー、そよりんもー? そよりんはやめて。ともりんも楽奈ちゃんもちょっとは違うお洋服着てみたいよね? えっ、あっ……どうなんだろう? 興味ない。

 ちょっと燈を巻き込まないでくれる? ついでに私も反対でーす。もうみんな、ひどくなーい? ひどくない。

 一人だけ賑々しくしている中、立希は改めて祈利の私服を見やる。確かに愛音の言う通り、ファッションに無頓着な装い――薄手のフーディージャケットとTシャツ、ジーンズにシンプルなデザインのスニーカー。どちらかというと動きやすさを重視した恰好なのは認める、昔から華やかな感じは苦手で倦んでいたのも変わらずか。

 視線に気づいた祈利はやや上目遣いになる、どうしましたか? お前、本当に昔から変わらないなって。そうですか? 特に服なんて着れて動ければなんでもいいですから。

 いのりん、可愛いのとか興味ないの? ないですね。じゃあ、格好いい系とか? 興味ないです。

 ことごとく撃沈される愛音、見かねたそよがため息を吐いて――そんなに行きたいの? えっ!? そよりん一緒に来てくれるの? まだ時間に余裕はあるし、私もちょっと見ておきたいのがあっただけ……それにそよりんはやめてって言っているでしょ。

 景気の良さを取り戻した愛音がアパレルショップを少しだけ巡ろうと改めて提案する。全く乗り気ではないのは祈利と楽奈、立希の三人。燈は困惑しながらも愛音に手を引かれることでとりあえず行くことを決め、そよは宣言した以上は付き添う――なお、燈が一緒に行くということは当たり前ながら立希も同行、最年少組は彼女に首根っこ掴まれながら連れられるのであった。

 

 

 見てともりん、これちょー可愛くない? あ、可愛い……と思う。燈、こういうのとかどう? おぁ、いいと思う。

 学生向けのリーズナブルな価格で販売しているアパレルショップにて、各々が――というより、愛音と立希、遠巻きにそよが燈を中心として服や小物を選んでいた。全く興味のない最年少の二人は大人しく手を繋いで待っている――わけでもなく、楽奈が適当なところに逃げ出そうとするところを祈利が無理やり引き留めて、抹茶味のお菓子類を手渡してなんとかはぐれさせないようにしているだけ。りっきー、まだ? 椎名先輩、まだですか? お前ら、もうちょっとだけ待ってて!

 なんだかんだで目が離せないのか、燈との会話が終えるとすぐ立希は中学生組の方へ向かって、彼女たちがあちらこちらに行かないように世話を焼く。

 ……立希ちゃん、人気者。だよねー、りっきーってばすぐ楽奈ちゃんたちに呼ばれるんだから。でも楽奈ちゃんたちの無茶ぶりに応えられるの、立希ちゃんしかいないし。

 残された三人は年下に振り回される立希の姿を見て、思い思いに呟き、自分たちは自分たちで服選びに没頭することにした。

 

 

 なんでお前らは大人しくできないの……。悪態をつきながら立希は中学生二人に連れ回され、猫や犬などの動物系の小物や雑貨が置いてあるコーナーを歩き回る羽目に。

 猫グッズに楽奈は夢中になり、祈利は適当に目新しそうなものを見繕う。私はお前らの保護者じゃないんだけど、ぶつぶつ文句を言いつつも彼女たちが見せてきたものに対して投げやりながらも反応を示し、雑な感想を投げ捨てる。ふと何気なくヘアピンが置かれているコーナーに目を移すと、なんとなくシンプルなヘアピンを手に取った――そういえば最近ちょっと前髪が伸びて邪魔ってあいつが言ってたような。

 祈利。立希が呼びかけると、祈利は爆速で彼女のもとへ駆けつける。いや、そんなに急がなくても私は逃げないから……。椎名先輩から名前を呼ばれた貴重な機会なんですよ、ここで0.1秒でも遅れたら呼ばれなくなっちゃうかもしれないじゃないですか。遅れても用があればちゃんと呼ぶってば。でも私の名前、つい最近まで知らなかったじゃないですか。

 指摘されて、立希は目をそらす。夏休みの序盤に再会した際、中学時代に祈利の名前を知らずに接していたがためになんと呼べばいいのか分からずに戸惑っていた。分かってはいたが、やはり面と向かって言われてしまうとなにも言い返せない。

 こほん、それでご用件は? えっ、ああ、ちょっとそこの鏡見てて。はい? いいから。はぁ……。

 先輩に促されるまま祈利は近くにあった鏡と向き合う。じっとしてて。立希はサッと後輩の前髪を軽く寄せて先ほどのヘアピンを手際よく挿す。うん、結構いいじゃん。少しだけ柔らかな笑みを浮かべる立希の隣で、祈利はじっと鏡に映っている自分を見つめたまま固まる。

 椎名先輩、これは……? なんか最近前髪が邪魔だって言ってたでしょ? えっ、あっはい。りっきーの女たらしー。はぁ!? 野良猫、なに言ってんの!?

 先ほどまで猫グッズに夢中になっていた楽奈がさらっと茶々を入れ、立希は鋭く反発の声をあげる。二人が口論――というより一方的に立希が譴責するも暖簾に腕押し状態――している間、祈利の両隣にそよや愛音がやってきては二人とも似合っていると声をかけた。けれど祈利は微動だにしない、ファッションに関心がなかったが立希に付けられたヘアピンと言葉がずっと離れないまま。

 あちゃー、これは当分戻ってこなさそうだねー。そうだねー。りっきーって本当に罪な女の子だよねー。そうだねー。

 呆れたようにそよは未だに野良猫に弁明を繰り返す立希を見やり、立希ちゃんって本当に……本人は自覚なさそうだけど、と心の中でそっと呟く。えっと……これって……ただ一人、話題の流れに乗り遅れた燈は呆然と周りを眺めるだけだった。

 

 

 

 

 はぁ……今日は疲れた……。お疲れ様です。いや本当に……なんで自分の誕生日に振り回されなきゃいけないの……。あ、ちゃんと誕生日覚えていたんですね。さっき愛音たちがそう言ってたでしょ、だから――あっ。

 面影橋を渡る途中、愚痴を零し続けた立希は足を止める。あれ、私の誕生日? はい、そうですよ。隣を歩いていた祈利がスマートフォンを取り出して、カレンダーを見せる。今日の日付は八月九日、間違いなく自分の誕生日だ。

 忘れてました? 忘れてたし、愛音たちに言われてもなんか実感なかった。先輩、徹夜のしすぎですよ。……そうじゃないと思う。

 紫の瞳は疲労が溜まった元凶の一人を睥睨する。アパレルショップ巡りを終えてRiNGのカフェへ移動しても祈利は好き勝手立希の隣を占領し、楽奈はマイペースに抹茶パフェを食べ、愛音はライブの打ち上げではなく立希の誕生日パーティーと言い出して派手に会を進めた。おまけにそよは基本的に傍観者を決め込んで動かず、燈は懸命になにかしようとしていたがゆえに彼女に負担はかけまいと立希が代わりに動き回り続けた結果、もう誰が主役なのか忘れてしまっていたのだ。

 加えて祈利の都大会の壮行会も兼ねていたため、完全にサプライズ誕生日パーティーという名目は立希の中では消え去り、後輩への激励と主催者への文句しか言っていなかった記憶しかない。ただし燈から誕生日プレゼントとして紫色のノートとパンダのボールペンをもらったことは鮮明に覚えている、いや他のメンバーからもらった様々な物が腕の中にあるのだから忘れるはずもない。燈が懸命に選んでくれたプレゼントは一生大切にしよう、むしろ大切すぎてあまり使い倒したくない。

 椎名先輩。我に返れば、不機嫌な眉間とげんなりとした表情が合わさった後輩の顔が目の前に。こんなに可愛い後輩を目の前にして……妬けますよ。は? また高松先輩のこと考えていましたよね? 顔に出てましたよ。はぁ? 読み取れないでくれる? いや、読み取ろうとしなくても自然と伝わってきましたよ。

 最近、仲のいいクラスメイト(海鈴)と微妙に重なるような詰め方をするようになってきたな……と立希は視線をそらしたくなる。燈への気持ちがバレつつあるのは恥ずかしいのもあるが、どうして詰問されてしまうのかという疑問も湧く。別に変なことはしているはずはないのに……。

 高松先輩は高松先輩で魅力的ですから椎名先輩が惚れてしまう理由も分かります。ですが、先輩の隣は私ですから。……はぁ……。なんですか、そのため息は。私、傷つきますよ? その言葉が言えるなら大丈夫じゃん。泣きわめきますよ、なんなら泣きわめいたまま椎名先輩の家に突撃しますよ? それはやめて。

 また一つため息をつく立希、中学生時代はもう少し大人しかったはず……多分。あ、話を変わるのですがと祈利が次の話柄を切り出し、立希は仏頂面のまま耳を傾ける。このヘアピン、ありがとうございました。彼女が指さしたのはアパレルショップで似合いそうだと思ってつけてあげたヘアピン、シンプルなデザインながら少し明るめの赤がすんなりと馴染んで祈利に明朗さを付け足している。

 えっ、ああ、まぁ……でも買ったのはお前じゃん。選んでくれたのは椎名先輩ですから。……まぁ、そっか……。

 面と向かって改めて礼を言われるとむず痒い、ただ単純に前髪が長くて困っているのを知っていて似合いそうなものを彼女に提案してみただけなのに。なのでお返しに、私からもプレゼントをお渡しします。え? えって、私まだ椎名先輩に渡してないですよ? そう……だっけ?

 懸命に今日の記憶を辿る、燈や愛音、楽奈やそよからそれぞれもらった記憶は確かにある。けれど不思議と祈利からなにかを手渡された記憶はない、疲れて抜け落ちているというわけでもなく、本当にもらっていない……らしい。祈利は証拠と言わんばかりにリュックからラッピングされた小包を取り出し、立希に見せる。

 えーこほん、改めまして誕生日おめでとうございます、椎名先輩。え、あぁ……ありがとう。

 立希は困ったような、けれど嬉しいような柔らかい相好で彼女の言葉とプレゼントを受け取った。が、既に両手いっぱいのプレゼントを抱えながら彼女からの贈り物も落とさぬように歩くのに苦労し、今度からバッグを持っていこうと決意する羽目に――。




 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 今回登場した池袋(いけぶくろ)祈利(いのり)ちゃんというオリキャラは下記の作品に登場しています。こちらも立希ちゃんとの交流がメインとなっていますので、良ければ一読してくれると幸いです。

『夕立、ひぐらしが鳴く』
https://syosetu.org/novel/352913/

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