青峰大輝 in ブルーロック   作:AIで小説を上手く書きたい!

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第016話 もう一本

 ルナから中央のロキへ、再開のボールが渡った。

 

 青峰は真正面から詰めた。ロキが受けて運ぶ、その一歩目を奪うつもりだった。

 

 ロキは止めなかった。

 

 右にいたカバソスへ、一度で送る。同時に、自分は青峰の左脇を走り抜けた。氷織がその先へ回る。

 

 カバソスは、右足でボールを前へ置いた。

 

 ゴールまで十数メートル。左には走るロキがいて、その後ろを氷織が追っている。中央の石狩はダダを見ており、烏にはブレイクが近づいていた。

 

 青峰はカバソスへ向きを変えた。

 

 カバソスの目が、ロキを追った。ここで左へ通せば、ロキが先に追いついて撃てる。青峰は一歩だけ内側へ寄り、パスの道を塞いだ。

 

 カバソスの左足が振られた。

 

 シュートだった。

 

 ロキを見ていた顔も、左へ開いていた肩も、パスを出すためではなかった。青峰が空けた脇を、低いボールが通る。

 

 キーパーが遠いポストへ手を伸ばす。

 

 その指先よりわずか外で、ネットが揺れた。

 

 二対四。

 

 青峰は出しかけた足を戻した。カバソスの前へ行くまでに、終わっていた。さっき足を跨いで抜いた相手は、今度はこちらに触らせなかった。カバソスが両手を軽く上げた。

 

「よし。オイラの分」

 

 ロキはゴールの反対側で、歩幅を小さくした。前へ走っていた身体が、ゆっくり中央へ向き直る。氷織はその手前で止まった。青峰はカバソスの前へ行った。

 

「パス出す顔してんじゃねえよ」

 

 青峰が言うと、カバソスはゴールを指した。

 

「え? そんな顔してた? オイラ、最初から撃ちたかったけど」

 

 青峰はカバソスの左足を見た。ロキへ出せば追い、こいつが持つなら奪う。そのどちらもやるつもりで寄った。向こうは、その迷った一歩の間に撃った。

 

 ロキが中央へ戻っていく。

 

 ロキはカバソスへ渡した後も、自分が撃てるところまで走った。だから青峰も、そちらへ通されることを警戒した。二人がゴールを狙ううち、どちらを止めるか決めるのが一歩遅れた。

 

 二対四。さっきまで一点差だったのに、また離された。青峰は奥歯を噛みしめた。カバソスは自分を抜こうともせず、空いた瞬間に撃った。それを、止められなかった。

 

 青峰は舌打ちし、相手から背を向けた。

 

 なら、次の球を取る。こっちが先に残り三本を入れれば、まだ勝てる。

 

 烏が球を拾っていた。青峰が手を出すと、烏は首を振った。

 

「その位置、もう見られとる」

 

「だから出せよ」

 

「ロキとルナの間、通る前に触られる。もう一歩、右へ出え」

 

 烏は石狩を見た。石狩はダダから一度離れ、また前へ出ていた。

 

「俺のも、まだ入ってない」

 

 石狩が言った。青峰はその長い腕を見上げた。手は自分の方ではなく、氷織の方へ向いている。青峰は右へ動いた。ロキがこちらへ寄る。その手前で一度止まり、逆へ走り直した。さっきの速さなら、もう一度外せる。ボールが出る場所を探しながら、ロキの前を横切った。

 

 氷織が中央へ出た。そこからなら、石狩が呼んだ高いところへクロスを上げられる。青峰はロキの横を通り、ダダが頭で弾いた場合に拾える場所へ走った。石狩はダダの肩へ身体を寄せ、自分が先に跳ぶつもりで膝を曲げていた。

 

「こぼすなよ」

 

「こぼすつもりで呼んでない」

 

 返事はすぐに来た。青峰はゴールへ顔を向けた。石狩が決める前に球がこぼれれば、自分が撃つ。

 

 

 烏から氷織へボールが渡った。

 

 中央では石狩がダダの横へ動き、手を上げている。氷織はルナが寄せる前に、その頭の先へクロスを上げた。

 

 石狩は、ゴールへ胸を向けて跳んだ。

 

 前の一本では、先に頭へ当ててもダダに身体を寄せられ、シュートにならなかった。今度は受けてから向き直る必要のない姿勢で、先に撃とうとした。

 

 ダダも一緒に跳んだ。

 

 高い。石狩の額はボールへ届くが、ゴールへ飛ばしたい方に、相手の肩と頭があった。

 

 石狩は空中で顔を右へ向けた。

 

 右後ろの七星へ、頭で落とす。

 

 青峰はすぐにゴール前へ走った。七星がここへ通せば、ダダの着地より先に撃てる。石狩も下りながら身体を戻し、次のボールを呼ぼうとしていた。

 

 その前に、ルナが入った。

 

 石狩が右を向いた時から、もう落ちる先へ走っていた。七星の左足が届く直前に、靴先で横へ弾く。

 

「っ、まだ!」

 

 七星が追う。

 

 横にいたブレイクが受け、七星からボールを隠しながら外へ出した。カバソスが前を向く。烏がその正面へ走った。

 

 青峰は、反対側を見た。

 

 右の外が空いている。まだ中央にいたロキが、カバソスの顔を見て、そちらへ向きを変えた。

 

 青峰はボールが蹴られる前に戻り始めた。

 

 今は青峰の方が自分のゴールに近い。ここから内側を通り、ロキの走る先へ出れば間に合う。相手と同じ道を後ろから追っていては、また先に取られる。

 

 肩越しに見たカバソスの右足が振られた。

 

 烏の脇を、長いパスが抜けた。高く上げず、右のタッチライン際へ速く転がる。ロキが追った。

 

 青峰は斜めに走り続けた。まだ足は動く。ロキの進路が見えた時に身体が反応し、次の一歩も遅れず出た。

 

 ボールへ先に着けば、今度は自分が運べる。

 

 青峰は速度を落とさなかった。相手が来る前に外へ蹴り捨てる気もない。ここで奪い、そのままロキの横を抜けるつもりで右足を出した。

 

 

 青峰が、ボールへ先に触った。

 

 カバソスのパスが出る前から戻り始め、ロキの走る道より短い内側を通った。その分だけ、最初の一歩で前を取れた。

 

 右足の外側で、ボールを中央へ引く。

 

 ロキの左足が、さっきまでボールのあった場所へ伸びた。そこを外した。青峰は身体を反転させ、今度はこちらが相手ゴールへ運ぼうとした。

 

 ロキは止まらなかった。

 

 空振りした左足をすぐ地面へ置き、その一歩で内側へ戻る。青峰が次に触るより先に、右足でボールを前へ押した。

 

 奪い返された。

 

 青峰はすぐ追った。ロキの右側へ身体を寄せ、伸ばした左足でボールを突く。

 

 触れた。

 

 ボールがロキから少し離れる。青峰はもう一歩出て、自分の足元へ引き寄せようとした。

 

 左足を戻す前に、ロキがもう一歩出た。

 

 青峰は左脚をいっぱいに伸ばしてボールを突いた。その分、次に走るための足を身体の下へ戻さなければならない。

 

 ロキはそこで止まらなかった。青峰が触って離れたボールへ、低い姿勢のまま追いつく。

 

 肩が、半歩先へ出た。

 

 速い。

 

 青峰は歯を食いしばって追った。さっきは先に触った。今度も一度は奪い返せた。それでもロキは、そのたびに次の足を出してくる。

 

 前に出たい。もう一度、ボールへ触りたい。

 

 ゴールに近い側へ身体をねじ込んだ。ロキが右足で近いポストへ撃つなら、まだ自分の足が届く。

 

 ロキは左足で蹴った。

 

 青峰から遠い側で、ボールが跳ねる。キーパーの手を抜け、逆の隅へ入った。

 

 二対五。

 

 終了の音が鳴った。

 

 青峰は走りすぎ、ゴールの横で止まった。振り向くと、ネットの中にボールがある。もう次へ転がらない。

 

「……っ、くそ!」

 

 声が出た。胸の奥へ、息を吸っても消えない熱が残っている。

 

 足は動いていた。目も追えていた。ロキがどちらへ蹴るか、最後まで見えていたのに、自分の脚はそこまで届かなかった。あれほど近くで、ボールを奪い合っていたのに。

 

 青峰はゴールの中へ一歩寄り、止まった。

 

 終わりだ。

 

 あと三本入れるつもりだった。ルナをもう一度抜く。ブレイクの前でも撃つ。最後には、自分がロキを置いていく。まだ一つも諦めていないうちに、試合の方が終わった。

 

 ロキが少し先で振り向いた。

 

 青峰は顔を上げた。

 

 

「ロキ」

 

 呼ぶと、相手が止まった。

 

「お前、何本走った」

 

「何本?」

 

「全速で。初めから今まで」

 

 ロキは少し考えた。

 

「八本、かな。途中で止まって走り直したのは、数えてないけど」

 

 青峰はゴールの中のボールを指した。

 

「九本目、やれよ」

 

「……もう終わったよ」

 

「分かってる。もう一本やれっつってんだ」

 

 青峰はさっきボールを奪った場所へ顎を向けた。

 

「あそこで、俺が先に取ったろ。そっからでいい。今度は取り返されねえ」

 

 ロキが青峰の顔を見た。さっきシュートを決めた直後とは違う、険しい目だった。

 

「自分が入れたところじゃなくて?」

 

「取られたから、もう一回やりてえんだよ」

 

 青峰は右手を腰へ当てた。息がまだ荒い。脚も重くなっていた。それでも、いまロキがボールを蹴ったら、もう一度追えると思った。

 

 ロキは、少しだけ口元を緩めた。

 

「君、いくつ?」

 

「十六。何だよ」

 

「一つ下か」

 

「年の話してねえだろ」

 

「うん」

 

 ロキはボールをゴールから引き出した。青峰の足が動く。それを見てから、ロキはボールを両手で持ち上げた。

 

「今日はやらない。五点取ったら終わりだから」

 

「ちっ」

 

「次の試合で会ったら、その時に。さっきみたいに来てよ」

 

 青峰は顔を上げた。

 

「お前もな」

 

「もちろん」

 

 ロキはボールを脇へ抱えた。

 

「次は、二本もやらない」

 

「五本取るっつってんだろ」

 

 ロキは短く笑い、仲間の方へ歩いた。青峰は追いかけなかった。もうボールは転がっていない。二対五の表示も変わらない。

 

 負けた。

 

 ロキに先へ出られた一歩が、何度も頭に戻ってきた。二点取ったところまで思い出しても、その一歩をやり直せるわけではない。

 

 悔しい。もう一度なら、と考えてしまう。考えるそばから、ロキが同じ取り方をするとは限らないことも分かった。

 

 それでもやりたい。

 

 青峰はボールを抱えていく背中を見た。さっきの足が、今はゆっくり歩いている。それを見ているだけで、また走り出したくなった。

 

 

「ずいぶん話してたね」

 

 出口の前で、ルナがロキを待っていた。

 

「何だって? サイン?」

 

「もう一回やれ、って」

 

「あはは。まだ足りないんだ」

 

 ロキは一度、コートを振り返った。青峰はまだゴールの近くにいた。仲間が来てもすぐに動かず、自分が最後に追いついた辺りを見ている。

 

「十六歳だそうです」

 

「へえ。君より下?」

 

「はい」

 

 ロキは自分の右足を見た。

 

 二点目の青峰に並んだ時、シュートは止められると思った。そこまで近づけば、ボールが足を離れる瞬間に触れる。実際、一度目はそうした。

 

 今度も追いついた。それなのに、ボールが自分の靴先を越えていった。

 

 あの一球を、ロキはまだ気にしていた。

 

「面白かった?」

 

 ルナが聞いた。

 

「二点目は、止めたかったです」

 

「最後に取ったじゃない」

 

「はい。でも、入れられた二本は残りますから」

 

 ロキは持っていたボールを籠へ返した。青峰の名前を頭の中でもう一度呼ぶ。

 

 青峰大輝。十六歳。

 

 同じくらいの歳の選手は、ヨーロッパにもいる。速い選手も、自分を抜くつもりで来る選手もいる。その中で今日の青峰を覚えるのは、試合前の大きな口のせいではなかった。

 

 自分が止めに行ったところから、あいつは入れた。

 

 その時の速さで、次も来るのか。もう一度並んだら、今度はどの足で撃つのか。

 

 ロキは振り返るのをやめた。次に会えば、まずあの一歩目から遅れない。追いついた後にどう奪うかまで、考えておく相手ができた。

 

「ロキ、置いてくぞ!」

 

 ダダが向こうから呼んだ。

 

「今行きます」

 

 ロキはいつもの歩幅で、四人を追った。

 

 

 待機室へ戻ると、青峰は空いていた椅子に腰を落とした。

 

 誰も喋らなかった。

 

 試合が始まる前には、誰が最初に決めるかを言い合っていた。いまは七星も石狩も、水を飲む間だけ顔を上げる。烏は肘を膝へ乗せ、氷織は正面の壁を見ていた。

 

 青峰は靴紐へ手を掛け、やめた。

 

 ロキへ最後に伸ばした左脚を、椅子の下へ引いた。まだ張っている。ボールを突く前に肩を寄せていたら。中央へ引かず、外へ運んでいたら。座っていても、別の抜き方ばかり考えていた。

 

「最後、何て話してたんすか」

 

 七星が聞いた。

 

「もう一本やれっつった」

 

「……あそこから?」

 

「どっからでもいい。やらずに帰りやがった」

 

 青峰は出口を見た。もう世界選抜の声はしない。呼び止めたところで試合の結果は変わらないし、向こうには続ける理由もない。そんなことは分かっていた。

 

 七星はボトルを両手で持った。

 

「俺、ルナが触る前に、落とし受けたつもりでした。石狩さんの頭見て、次は左で前へ出そうって」

 

「遅かったんだろ」

 

「はい。でも、足出した時にはもう向こうにあったんで。次は蹴るの速くすりゃいい、だけじゃ無理だなって」

 

 氷織が壁から目を戻した。

 

「石狩くんが右向いた時、ルナさんも動いてたね。七星くんが受けてからやなくて、どこへ落ちるか先に見てた」

 

「……じゃあ、俺が待つ場所も変えなきゃ駄目っすね」

 

「変えたら、僕も出すとこ探し直すよ。そこが間に合わんかった」

 

 氷織は、そこで言葉を切った。ルナに身体を寄せられた場面を思い出しているのか、右肩へ手を置いて離す。

 

 青峰も見ていた。氷織が顔を上げた時には、既に蹴る道が狭くなっていた。それでも何本かは通してきた。二点目の前、自分がロキの背後へ出た瞬間にも、あいつは蹴った。あの一球はよかった。その先で、自分はまだ三点足りなかった。

 

「もう一回、頭で撃ちたかったな」

 

 石狩が言った。

 

「最後も届いた。ダダの上には出られたんだ。でも、あそこから振ったら、肩か頭に当たってたと思う」

 

「跳ぶ高さ分かった後、先に君の撃つ方へ立っとったな」

 

 烏が答えた。

 

「俺が先にそっちへ行ってたら、ついて来るか?」

 

「来るやろ。そん時どっち向いて受けるかやな」

 

 石狩は黙って頷いた。次なら勝てる、と烏は言わなかった。自分でも何度かルナの腕を外せず、ボールを後ろへ戻していた。

 

「こっちが苦しいとこ、向こうにはよう見えてたわ。普通に受けたら、普通に潰される」

 

 烏が青峰へ顔を向けた。

 

「君に出すとこまで、もっとこっちで崩さんとあかんな」

 

「俺が取る」

 

「それで五点取れるんやったら、とっくに勝っとる」

 

 青峰は睨んだ。

 

 烏は目を逸らさなかった。

 

「俺も取る。君が前で走って、俺が持っとる時にな」

 

「撃てんのかよ」

 

「撃てるとこまで持ってくんや」

 

 青峰は返事をしなかった。烏が撃つなら、その前に自分がいい場所へ入る。パスが来なければ、相手が弾いたボールを取る。今日、世界の連中はそれを続け、五人とも入れた。自分にも、まだ奪えるボールがあったはずだった。

 

 石狩が頭で撃ちたがり、七星が奪われた球の話を続けている。ここへ来る前のチームなら、相手が世界選抜だったという話で終わったかもしれない。二点も取った、と青峰の方を見る奴もいただろう。

 

 誰も、そう言わなかった。

 

 それでいいと思った。慰められたところで、二対五が逆になるわけではない。

 

 

 部屋の画面が切り替わった。

 

 二次選考を通過した選手の名が、五人ずつ並んでいる。氷織が立ち、表示へ近づいた。

 

「黒名くん」

 

 青峰も顔を上げた。

 

 黒名蘭世の名前があった。少し離れた組には、清羅刃の名もある。知らない選手と並んでいて、二人は同じ組ではなかった。

 

「二人とも、来たんすね」

 

 七星が言う。

 

 青峰は黒名の名前を見た。氷織を奪われた後、清羅と二人で部屋を出ていった。その二人が、別の組で五人を揃え直している。

 

 次に会えば、まだ自分を抜くつもりで来るのだろうか。

 

 清羅はどこで蹴る足を変えたのか。黒名の短いパスに誰が走り込んだのか。知らないまま消えると思っていた名前が、ここに残っていた。

 

「お前、話しに行くのか」

 

 青峰が聞くと、氷織は振り返った。

 

「会えたらね。どうやって上がったか、気になるし」

 

「聞くより、やりゃ分かるだろ」

 

「そやけど。試合ないとこで会ったら、話すくらいええやろ」

 

 青峰は画面から離れた。氷織の返事を聞きながら、また黒名と清羅の顔を思い浮かべた。

 

 あの二人にも、自分がまだ知らない試合がある。ここで負ければ誰かが消える。それは入寮テストで見た。今日残った名前も、次に同じように並ぶとは限らない。

 

 だったら、やれるうちにやりたい。

 

 それまで、自分も残っていなければならなかった。

 

 

 監視室で、アンリは青峰の二点目をもう一度見ていた。

 

 ロキが横へ来ても、青峰はボールを離さない。肩を寄せたまま左足を身体の下へ入れ、右足で撃つ。

 

「何度見ても、あそこから入るのが信じられません」

 

「現実に入ってるだろ」

 

「分かってます。だから、驚いてるんです」

 

 アンリは言い返した。絵心は鼻を鳴らしたが、画面から目を離さなかった。

 

「ロキが止めに行って、それでも入れた。日本の高校生に、これができるんですね」

 

「だから呼んだんだよ。そこらの高校生で終わる奴ばっか集めて、世界一ができるか」

 

 アンリは映像を進めた。

 

 最後の攻防。青峰が先にパスを奪う。ロキが取り返し、青峰がまた足を伸ばす。その次にロキが前へ出た。

 

「でも、最後はロキが勝った」

 

「ああ。青峰は伸ばした脚を戻すのが遅れた。ロキは、もう次のボールへ走ってる」

 

 絵心が二人の足元を指した。

 

「二点目じゃ、青峰が止まってロキも止めた。そこから自分で走って、先に撃った。最後は取ろうとして脚を伸ばし、次の一歩で置いていかれた」

 

 映像を動かす。半歩先へ出たロキが、青峰から遠い足で撃った。

 

「相手のボールに触るところまでは、間に合ってたんですね」

 

「取って、自分のゴールまで持っていかなきゃ終わりじゃねえ。あいつもそうするつもりで、外へ蹴り捨てずに運ぼうとした」

 

 アンリは頷いた。二点取れたことも、最後に奪い返されたことも、映像にははっきり残っている。

 

「あそこから自分で運べていたら、三点目を狙えたんですね」

 

「ロキはそのつもりで取り返し、実際に入れた。青峰が次も自分で行きたきゃ、あの奪い合いに勝つしかねえ」

 

 絵心は再生を進めた。

 

 画面の青峰が、帰ろうとするロキを呼び止める。

 

 九本目、やれよ。

 

「……ほら。もう抜き返す気でいやがる」

 

 絵心は口元を歪めた。

 

 アンリはその続きも聞いた。二得点を誇る言葉はない。最後に取られたボールを指し、もう一度やらせろと言っている。

 

「入所前は、練習にも出なくなっていたんですよね」

 

「ああ」

 

「今は、試合が終わってもやめたくない」

 

 青峰の声は苛立っていた。ロキに断られると舌打ちし、それでも次の試合では五本取ると返す。

 

 アンリは少し笑い、それから口元を引き締めた。

 

「やっと、あの力を出し切っても戦い続けたい相手に会えたんですね」

 

「それで勝てなかった。こいつには、それが気に入らねえ」

 

 絵心は青峰の顔を指した。

 

「世界から二点取れました、で喜んで終わるならここまでだ。自分の最高のプレーをした日に、まだ勝てねえ奴がいた。だったら、次に何をする?」

 

 アンリはすぐには答えなかった。画面の青峰は靴を脱がず、またボールへ目を向けていた。

 

「また、こんな相手とやらせるんですか」

 

「こいつが勝ちたがる敵を用意する。それでも足りなきゃ、自分で上がってこさせる。世界一になりたい奴に、退屈してる暇なんかねえよ」

 

 絵心は隣の画面へ目を向けた。ほかの通過者も、それぞれの試合を終えて戻ってきている。

 

「あとは、こっちも黙って見てるかどうかだな」

 

 アンリは名前を追った。青峰と戦った者も、まだ直接会っていない者も残っている。今日の二点を見れば、同じチームで球を蹴りたいと思う者だけが増えるとは限らなかった。

 

 あの青峰に、自分が勝ちたい。

 

 そう思う選手を、ここには集めている。

 

 

 待機室の隣には、ボールの入った籠があった。

 

 青峰は通りかかった係員を呼び止めた。

 

「これ、持ってっていいのか」

 

「共用のボールです。使ったら返してください。廊下では蹴らないように」

 

 青峰は一つ取った。黒い表面に、細い擦り傷がある。

 

 部屋へ戻り、誰もいない壁際で下へ落とした。右足の外側で内へ引く。あの時と同じように身体を返し、すぐ逆側へ足を出す。

 

 ふくらはぎが張った。

 

 青峰は止まった。もう一度やりかけて、球を踏む。

 

 相手がいなければ、どこまで足を伸ばせば届くのか分からない。自分で動かした球を追っても、ロキの次の一歩にはならない。いま同じ動きを繰り返しても、勝ったことにはできなかった。

 

 それでも、ボールを籠へ戻す気にはならなかった。

 

 青峰は壁へ寄り、床に座った。膝の間へ球を置く。さっきまで何ともなかった脚が、じわじわ重くなる。試合が終わったと、身体まで言い始めていた。

 

 そのことが、また腹立たしかった。

 

 青峰は黒いボールを両手で挟んだ。

 

 昔は、試合が終わると次はいつやれるか考えていた。負けた相手にはすぐ取り返したかったし、勝った相手にも、また来るなら付き合うつもりだった。

 

 いつからか、点を取っても相手の顔を見なくなった。もう追ってこないことが分かっていた。試合前から眠くなる。終われば靴を脱ぎ、誰かに呼ばれる前に帰る。

 

 今日、ロキを抜いた。

 

 抜いたはずなのに、また横へ来た。

 

 その時の足音が、まだ耳に残っていた。顔を上げれば次の守備者がいて、ぶつかっても、転びかけても、ボールを取りにくる。あの二点目を入れた直後まで、相手は走っていた。

 

 入った瞬間、声が出た。

 

 あんな声で喜んだのは、いつ以来だったか。

 

 青峰は一度、口元へ手をやった。すぐ下ろした。思い出していると、最後にロキへ先行されたところまで戻ってくる。

 

 負けたことに納得する気はなかった。次にやれば、五点先に取る。九本目をやっていれば勝った、などとも言えない。あいつはもう別の取り方で来るだろう。

 

 それを、早く見たい。

 

 見て、自分が抜きたい。

 

 青峰はボールへ指を食い込ませた。まだ脚が重い。いま走ったところで、試合中と同じ動きにはならない。それが分かっていても、ボールを手放す気になれなかった。

 

 ロキは帰った。ルナも、ブレイクも、ダダも、カバソスも。

 

 次に会う時は、相手の方から自分を見つけさせる。あいつだ、と分かって走ってくるところを、今度こそ抜く。

 

 ここで残っていけば、その試合まで行ける。

 

 青峰は、部屋の外へ顔を向けた。

 

「青峰さん」

 

 七星が戸口から呼んだ。

 

「集合、かかったっす。次の部屋」

 

 青峰は立ち上がった。球を片手で抱え、鞄を肩へ掛ける。まだ脚は重い。廊下へ出ると、氷織と烏が先を歩き、石狩が低い扉を屈んで抜けていた。

 

 世界選抜はもう帰った。

 

 ここには、残っている奴らがいる。

 

 青峰は黒いボールを抱え直し、集合場所へ向かった。

 

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