青峰大輝 in ブルーロック 作:AIで小説を上手く書きたい!
ルナから中央のロキへ、再開のボールが渡った。
青峰は真正面から詰めた。ロキが受けて運ぶ、その一歩目を奪うつもりだった。
ロキは止めなかった。
右にいたカバソスへ、一度で送る。同時に、自分は青峰の左脇を走り抜けた。氷織がその先へ回る。
カバソスは、右足でボールを前へ置いた。
ゴールまで十数メートル。左には走るロキがいて、その後ろを氷織が追っている。中央の石狩はダダを見ており、烏にはブレイクが近づいていた。
青峰はカバソスへ向きを変えた。
カバソスの目が、ロキを追った。ここで左へ通せば、ロキが先に追いついて撃てる。青峰は一歩だけ内側へ寄り、パスの道を塞いだ。
カバソスの左足が振られた。
シュートだった。
ロキを見ていた顔も、左へ開いていた肩も、パスを出すためではなかった。青峰が空けた脇を、低いボールが通る。
キーパーが遠いポストへ手を伸ばす。
その指先よりわずか外で、ネットが揺れた。
二対四。
青峰は出しかけた足を戻した。カバソスの前へ行くまでに、終わっていた。さっき足を跨いで抜いた相手は、今度はこちらに触らせなかった。カバソスが両手を軽く上げた。
「よし。オイラの分」
ロキはゴールの反対側で、歩幅を小さくした。前へ走っていた身体が、ゆっくり中央へ向き直る。氷織はその手前で止まった。青峰はカバソスの前へ行った。
「パス出す顔してんじゃねえよ」
青峰が言うと、カバソスはゴールを指した。
「え? そんな顔してた? オイラ、最初から撃ちたかったけど」
青峰はカバソスの左足を見た。ロキへ出せば追い、こいつが持つなら奪う。そのどちらもやるつもりで寄った。向こうは、その迷った一歩の間に撃った。
ロキが中央へ戻っていく。
ロキはカバソスへ渡した後も、自分が撃てるところまで走った。だから青峰も、そちらへ通されることを警戒した。二人がゴールを狙ううち、どちらを止めるか決めるのが一歩遅れた。
二対四。さっきまで一点差だったのに、また離された。青峰は奥歯を噛みしめた。カバソスは自分を抜こうともせず、空いた瞬間に撃った。それを、止められなかった。
青峰は舌打ちし、相手から背を向けた。
なら、次の球を取る。こっちが先に残り三本を入れれば、まだ勝てる。
烏が球を拾っていた。青峰が手を出すと、烏は首を振った。
「その位置、もう見られとる」
「だから出せよ」
「ロキとルナの間、通る前に触られる。もう一歩、右へ出え」
烏は石狩を見た。石狩はダダから一度離れ、また前へ出ていた。
「俺のも、まだ入ってない」
石狩が言った。青峰はその長い腕を見上げた。手は自分の方ではなく、氷織の方へ向いている。青峰は右へ動いた。ロキがこちらへ寄る。その手前で一度止まり、逆へ走り直した。さっきの速さなら、もう一度外せる。ボールが出る場所を探しながら、ロキの前を横切った。
氷織が中央へ出た。そこからなら、石狩が呼んだ高いところへクロスを上げられる。青峰はロキの横を通り、ダダが頭で弾いた場合に拾える場所へ走った。石狩はダダの肩へ身体を寄せ、自分が先に跳ぶつもりで膝を曲げていた。
「こぼすなよ」
「こぼすつもりで呼んでない」
返事はすぐに来た。青峰はゴールへ顔を向けた。石狩が決める前に球がこぼれれば、自分が撃つ。
*
烏から氷織へボールが渡った。
中央では石狩がダダの横へ動き、手を上げている。氷織はルナが寄せる前に、その頭の先へクロスを上げた。
石狩は、ゴールへ胸を向けて跳んだ。
前の一本では、先に頭へ当ててもダダに身体を寄せられ、シュートにならなかった。今度は受けてから向き直る必要のない姿勢で、先に撃とうとした。
ダダも一緒に跳んだ。
高い。石狩の額はボールへ届くが、ゴールへ飛ばしたい方に、相手の肩と頭があった。
石狩は空中で顔を右へ向けた。
右後ろの七星へ、頭で落とす。
青峰はすぐにゴール前へ走った。七星がここへ通せば、ダダの着地より先に撃てる。石狩も下りながら身体を戻し、次のボールを呼ぼうとしていた。
その前に、ルナが入った。
石狩が右を向いた時から、もう落ちる先へ走っていた。七星の左足が届く直前に、靴先で横へ弾く。
「っ、まだ!」
七星が追う。
横にいたブレイクが受け、七星からボールを隠しながら外へ出した。カバソスが前を向く。烏がその正面へ走った。
青峰は、反対側を見た。
右の外が空いている。まだ中央にいたロキが、カバソスの顔を見て、そちらへ向きを変えた。
青峰はボールが蹴られる前に戻り始めた。
今は青峰の方が自分のゴールに近い。ここから内側を通り、ロキの走る先へ出れば間に合う。相手と同じ道を後ろから追っていては、また先に取られる。
肩越しに見たカバソスの右足が振られた。
烏の脇を、長いパスが抜けた。高く上げず、右のタッチライン際へ速く転がる。ロキが追った。
青峰は斜めに走り続けた。まだ足は動く。ロキの進路が見えた時に身体が反応し、次の一歩も遅れず出た。
ボールへ先に着けば、今度は自分が運べる。
青峰は速度を落とさなかった。相手が来る前に外へ蹴り捨てる気もない。ここで奪い、そのままロキの横を抜けるつもりで右足を出した。
*
青峰が、ボールへ先に触った。
カバソスのパスが出る前から戻り始め、ロキの走る道より短い内側を通った。その分だけ、最初の一歩で前を取れた。
右足の外側で、ボールを中央へ引く。
ロキの左足が、さっきまでボールのあった場所へ伸びた。そこを外した。青峰は身体を反転させ、今度はこちらが相手ゴールへ運ぼうとした。
ロキは止まらなかった。
空振りした左足をすぐ地面へ置き、その一歩で内側へ戻る。青峰が次に触るより先に、右足でボールを前へ押した。
奪い返された。
青峰はすぐ追った。ロキの右側へ身体を寄せ、伸ばした左足でボールを突く。
触れた。
ボールがロキから少し離れる。青峰はもう一歩出て、自分の足元へ引き寄せようとした。
左足を戻す前に、ロキがもう一歩出た。
青峰は左脚をいっぱいに伸ばしてボールを突いた。その分、次に走るための足を身体の下へ戻さなければならない。
ロキはそこで止まらなかった。青峰が触って離れたボールへ、低い姿勢のまま追いつく。
肩が、半歩先へ出た。
速い。
青峰は歯を食いしばって追った。さっきは先に触った。今度も一度は奪い返せた。それでもロキは、そのたびに次の足を出してくる。
前に出たい。もう一度、ボールへ触りたい。
ゴールに近い側へ身体をねじ込んだ。ロキが右足で近いポストへ撃つなら、まだ自分の足が届く。
ロキは左足で蹴った。
青峰から遠い側で、ボールが跳ねる。キーパーの手を抜け、逆の隅へ入った。
二対五。
終了の音が鳴った。
青峰は走りすぎ、ゴールの横で止まった。振り向くと、ネットの中にボールがある。もう次へ転がらない。
「……っ、くそ!」
声が出た。胸の奥へ、息を吸っても消えない熱が残っている。
足は動いていた。目も追えていた。ロキがどちらへ蹴るか、最後まで見えていたのに、自分の脚はそこまで届かなかった。あれほど近くで、ボールを奪い合っていたのに。
青峰はゴールの中へ一歩寄り、止まった。
終わりだ。
あと三本入れるつもりだった。ルナをもう一度抜く。ブレイクの前でも撃つ。最後には、自分がロキを置いていく。まだ一つも諦めていないうちに、試合の方が終わった。
ロキが少し先で振り向いた。
青峰は顔を上げた。
*
「ロキ」
呼ぶと、相手が止まった。
「お前、何本走った」
「何本?」
「全速で。初めから今まで」
ロキは少し考えた。
「八本、かな。途中で止まって走り直したのは、数えてないけど」
青峰はゴールの中のボールを指した。
「九本目、やれよ」
「……もう終わったよ」
「分かってる。もう一本やれっつってんだ」
青峰はさっきボールを奪った場所へ顎を向けた。
「あそこで、俺が先に取ったろ。そっからでいい。今度は取り返されねえ」
ロキが青峰の顔を見た。さっきシュートを決めた直後とは違う、険しい目だった。
「自分が入れたところじゃなくて?」
「取られたから、もう一回やりてえんだよ」
青峰は右手を腰へ当てた。息がまだ荒い。脚も重くなっていた。それでも、いまロキがボールを蹴ったら、もう一度追えると思った。
ロキは、少しだけ口元を緩めた。
「君、いくつ?」
「十六。何だよ」
「一つ下か」
「年の話してねえだろ」
「うん」
ロキはボールをゴールから引き出した。青峰の足が動く。それを見てから、ロキはボールを両手で持ち上げた。
「今日はやらない。五点取ったら終わりだから」
「ちっ」
「次の試合で会ったら、その時に。さっきみたいに来てよ」
青峰は顔を上げた。
「お前もな」
「もちろん」
ロキはボールを脇へ抱えた。
「次は、二本もやらない」
「五本取るっつってんだろ」
ロキは短く笑い、仲間の方へ歩いた。青峰は追いかけなかった。もうボールは転がっていない。二対五の表示も変わらない。
負けた。
ロキに先へ出られた一歩が、何度も頭に戻ってきた。二点取ったところまで思い出しても、その一歩をやり直せるわけではない。
悔しい。もう一度なら、と考えてしまう。考えるそばから、ロキが同じ取り方をするとは限らないことも分かった。
それでもやりたい。
青峰はボールを抱えていく背中を見た。さっきの足が、今はゆっくり歩いている。それを見ているだけで、また走り出したくなった。
*
「ずいぶん話してたね」
出口の前で、ルナがロキを待っていた。
「何だって? サイン?」
「もう一回やれ、って」
「あはは。まだ足りないんだ」
ロキは一度、コートを振り返った。青峰はまだゴールの近くにいた。仲間が来てもすぐに動かず、自分が最後に追いついた辺りを見ている。
「十六歳だそうです」
「へえ。君より下?」
「はい」
ロキは自分の右足を見た。
二点目の青峰に並んだ時、シュートは止められると思った。そこまで近づけば、ボールが足を離れる瞬間に触れる。実際、一度目はそうした。
今度も追いついた。それなのに、ボールが自分の靴先を越えていった。
あの一球を、ロキはまだ気にしていた。
「面白かった?」
ルナが聞いた。
「二点目は、止めたかったです」
「最後に取ったじゃない」
「はい。でも、入れられた二本は残りますから」
ロキは持っていたボールを籠へ返した。青峰の名前を頭の中でもう一度呼ぶ。
青峰大輝。十六歳。
同じくらいの歳の選手は、ヨーロッパにもいる。速い選手も、自分を抜くつもりで来る選手もいる。その中で今日の青峰を覚えるのは、試合前の大きな口のせいではなかった。
自分が止めに行ったところから、あいつは入れた。
その時の速さで、次も来るのか。もう一度並んだら、今度はどの足で撃つのか。
ロキは振り返るのをやめた。次に会えば、まずあの一歩目から遅れない。追いついた後にどう奪うかまで、考えておく相手ができた。
「ロキ、置いてくぞ!」
ダダが向こうから呼んだ。
「今行きます」
ロキはいつもの歩幅で、四人を追った。
*
待機室へ戻ると、青峰は空いていた椅子に腰を落とした。
誰も喋らなかった。
試合が始まる前には、誰が最初に決めるかを言い合っていた。いまは七星も石狩も、水を飲む間だけ顔を上げる。烏は肘を膝へ乗せ、氷織は正面の壁を見ていた。
青峰は靴紐へ手を掛け、やめた。
ロキへ最後に伸ばした左脚を、椅子の下へ引いた。まだ張っている。ボールを突く前に肩を寄せていたら。中央へ引かず、外へ運んでいたら。座っていても、別の抜き方ばかり考えていた。
「最後、何て話してたんすか」
七星が聞いた。
「もう一本やれっつった」
「……あそこから?」
「どっからでもいい。やらずに帰りやがった」
青峰は出口を見た。もう世界選抜の声はしない。呼び止めたところで試合の結果は変わらないし、向こうには続ける理由もない。そんなことは分かっていた。
七星はボトルを両手で持った。
「俺、ルナが触る前に、落とし受けたつもりでした。石狩さんの頭見て、次は左で前へ出そうって」
「遅かったんだろ」
「はい。でも、足出した時にはもう向こうにあったんで。次は蹴るの速くすりゃいい、だけじゃ無理だなって」
氷織が壁から目を戻した。
「石狩くんが右向いた時、ルナさんも動いてたね。七星くんが受けてからやなくて、どこへ落ちるか先に見てた」
「……じゃあ、俺が待つ場所も変えなきゃ駄目っすね」
「変えたら、僕も出すとこ探し直すよ。そこが間に合わんかった」
氷織は、そこで言葉を切った。ルナに身体を寄せられた場面を思い出しているのか、右肩へ手を置いて離す。
青峰も見ていた。氷織が顔を上げた時には、既に蹴る道が狭くなっていた。それでも何本かは通してきた。二点目の前、自分がロキの背後へ出た瞬間にも、あいつは蹴った。あの一球はよかった。その先で、自分はまだ三点足りなかった。
「もう一回、頭で撃ちたかったな」
石狩が言った。
「最後も届いた。ダダの上には出られたんだ。でも、あそこから振ったら、肩か頭に当たってたと思う」
「跳ぶ高さ分かった後、先に君の撃つ方へ立っとったな」
烏が答えた。
「俺が先にそっちへ行ってたら、ついて来るか?」
「来るやろ。そん時どっち向いて受けるかやな」
石狩は黙って頷いた。次なら勝てる、と烏は言わなかった。自分でも何度かルナの腕を外せず、ボールを後ろへ戻していた。
「こっちが苦しいとこ、向こうにはよう見えてたわ。普通に受けたら、普通に潰される」
烏が青峰へ顔を向けた。
「君に出すとこまで、もっとこっちで崩さんとあかんな」
「俺が取る」
「それで五点取れるんやったら、とっくに勝っとる」
青峰は睨んだ。
烏は目を逸らさなかった。
「俺も取る。君が前で走って、俺が持っとる時にな」
「撃てんのかよ」
「撃てるとこまで持ってくんや」
青峰は返事をしなかった。烏が撃つなら、その前に自分がいい場所へ入る。パスが来なければ、相手が弾いたボールを取る。今日、世界の連中はそれを続け、五人とも入れた。自分にも、まだ奪えるボールがあったはずだった。
石狩が頭で撃ちたがり、七星が奪われた球の話を続けている。ここへ来る前のチームなら、相手が世界選抜だったという話で終わったかもしれない。二点も取った、と青峰の方を見る奴もいただろう。
誰も、そう言わなかった。
それでいいと思った。慰められたところで、二対五が逆になるわけではない。
*
部屋の画面が切り替わった。
二次選考を通過した選手の名が、五人ずつ並んでいる。氷織が立ち、表示へ近づいた。
「黒名くん」
青峰も顔を上げた。
黒名蘭世の名前があった。少し離れた組には、清羅刃の名もある。知らない選手と並んでいて、二人は同じ組ではなかった。
「二人とも、来たんすね」
七星が言う。
青峰は黒名の名前を見た。氷織を奪われた後、清羅と二人で部屋を出ていった。その二人が、別の組で五人を揃え直している。
次に会えば、まだ自分を抜くつもりで来るのだろうか。
清羅はどこで蹴る足を変えたのか。黒名の短いパスに誰が走り込んだのか。知らないまま消えると思っていた名前が、ここに残っていた。
「お前、話しに行くのか」
青峰が聞くと、氷織は振り返った。
「会えたらね。どうやって上がったか、気になるし」
「聞くより、やりゃ分かるだろ」
「そやけど。試合ないとこで会ったら、話すくらいええやろ」
青峰は画面から離れた。氷織の返事を聞きながら、また黒名と清羅の顔を思い浮かべた。
あの二人にも、自分がまだ知らない試合がある。ここで負ければ誰かが消える。それは入寮テストで見た。今日残った名前も、次に同じように並ぶとは限らない。
だったら、やれるうちにやりたい。
それまで、自分も残っていなければならなかった。
*
監視室で、アンリは青峰の二点目をもう一度見ていた。
ロキが横へ来ても、青峰はボールを離さない。肩を寄せたまま左足を身体の下へ入れ、右足で撃つ。
「何度見ても、あそこから入るのが信じられません」
「現実に入ってるだろ」
「分かってます。だから、驚いてるんです」
アンリは言い返した。絵心は鼻を鳴らしたが、画面から目を離さなかった。
「ロキが止めに行って、それでも入れた。日本の高校生に、これができるんですね」
「だから呼んだんだよ。そこらの高校生で終わる奴ばっか集めて、世界一ができるか」
アンリは映像を進めた。
最後の攻防。青峰が先にパスを奪う。ロキが取り返し、青峰がまた足を伸ばす。その次にロキが前へ出た。
「でも、最後はロキが勝った」
「ああ。青峰は伸ばした脚を戻すのが遅れた。ロキは、もう次のボールへ走ってる」
絵心が二人の足元を指した。
「二点目じゃ、青峰が止まってロキも止めた。そこから自分で走って、先に撃った。最後は取ろうとして脚を伸ばし、次の一歩で置いていかれた」
映像を動かす。半歩先へ出たロキが、青峰から遠い足で撃った。
「相手のボールに触るところまでは、間に合ってたんですね」
「取って、自分のゴールまで持っていかなきゃ終わりじゃねえ。あいつもそうするつもりで、外へ蹴り捨てずに運ぼうとした」
アンリは頷いた。二点取れたことも、最後に奪い返されたことも、映像にははっきり残っている。
「あそこから自分で運べていたら、三点目を狙えたんですね」
「ロキはそのつもりで取り返し、実際に入れた。青峰が次も自分で行きたきゃ、あの奪い合いに勝つしかねえ」
絵心は再生を進めた。
画面の青峰が、帰ろうとするロキを呼び止める。
九本目、やれよ。
「……ほら。もう抜き返す気でいやがる」
絵心は口元を歪めた。
アンリはその続きも聞いた。二得点を誇る言葉はない。最後に取られたボールを指し、もう一度やらせろと言っている。
「入所前は、練習にも出なくなっていたんですよね」
「ああ」
「今は、試合が終わってもやめたくない」
青峰の声は苛立っていた。ロキに断られると舌打ちし、それでも次の試合では五本取ると返す。
アンリは少し笑い、それから口元を引き締めた。
「やっと、あの力を出し切っても戦い続けたい相手に会えたんですね」
「それで勝てなかった。こいつには、それが気に入らねえ」
絵心は青峰の顔を指した。
「世界から二点取れました、で喜んで終わるならここまでだ。自分の最高のプレーをした日に、まだ勝てねえ奴がいた。だったら、次に何をする?」
アンリはすぐには答えなかった。画面の青峰は靴を脱がず、またボールへ目を向けていた。
「また、こんな相手とやらせるんですか」
「こいつが勝ちたがる敵を用意する。それでも足りなきゃ、自分で上がってこさせる。世界一になりたい奴に、退屈してる暇なんかねえよ」
絵心は隣の画面へ目を向けた。ほかの通過者も、それぞれの試合を終えて戻ってきている。
「あとは、こっちも黙って見てるかどうかだな」
アンリは名前を追った。青峰と戦った者も、まだ直接会っていない者も残っている。今日の二点を見れば、同じチームで球を蹴りたいと思う者だけが増えるとは限らなかった。
あの青峰に、自分が勝ちたい。
そう思う選手を、ここには集めている。
*
待機室の隣には、ボールの入った籠があった。
青峰は通りかかった係員を呼び止めた。
「これ、持ってっていいのか」
「共用のボールです。使ったら返してください。廊下では蹴らないように」
青峰は一つ取った。黒い表面に、細い擦り傷がある。
部屋へ戻り、誰もいない壁際で下へ落とした。右足の外側で内へ引く。あの時と同じように身体を返し、すぐ逆側へ足を出す。
ふくらはぎが張った。
青峰は止まった。もう一度やりかけて、球を踏む。
相手がいなければ、どこまで足を伸ばせば届くのか分からない。自分で動かした球を追っても、ロキの次の一歩にはならない。いま同じ動きを繰り返しても、勝ったことにはできなかった。
それでも、ボールを籠へ戻す気にはならなかった。
青峰は壁へ寄り、床に座った。膝の間へ球を置く。さっきまで何ともなかった脚が、じわじわ重くなる。試合が終わったと、身体まで言い始めていた。
そのことが、また腹立たしかった。
青峰は黒いボールを両手で挟んだ。
昔は、試合が終わると次はいつやれるか考えていた。負けた相手にはすぐ取り返したかったし、勝った相手にも、また来るなら付き合うつもりだった。
いつからか、点を取っても相手の顔を見なくなった。もう追ってこないことが分かっていた。試合前から眠くなる。終われば靴を脱ぎ、誰かに呼ばれる前に帰る。
今日、ロキを抜いた。
抜いたはずなのに、また横へ来た。
その時の足音が、まだ耳に残っていた。顔を上げれば次の守備者がいて、ぶつかっても、転びかけても、ボールを取りにくる。あの二点目を入れた直後まで、相手は走っていた。
入った瞬間、声が出た。
あんな声で喜んだのは、いつ以来だったか。
青峰は一度、口元へ手をやった。すぐ下ろした。思い出していると、最後にロキへ先行されたところまで戻ってくる。
負けたことに納得する気はなかった。次にやれば、五点先に取る。九本目をやっていれば勝った、などとも言えない。あいつはもう別の取り方で来るだろう。
それを、早く見たい。
見て、自分が抜きたい。
青峰はボールへ指を食い込ませた。まだ脚が重い。いま走ったところで、試合中と同じ動きにはならない。それが分かっていても、ボールを手放す気になれなかった。
ロキは帰った。ルナも、ブレイクも、ダダも、カバソスも。
次に会う時は、相手の方から自分を見つけさせる。あいつだ、と分かって走ってくるところを、今度こそ抜く。
ここで残っていけば、その試合まで行ける。
青峰は、部屋の外へ顔を向けた。
「青峰さん」
七星が戸口から呼んだ。
「集合、かかったっす。次の部屋」
青峰は立ち上がった。球を片手で抱え、鞄を肩へ掛ける。まだ脚は重い。廊下へ出ると、氷織と烏が先を歩き、石狩が低い扉を屈んで抜けていた。
世界選抜はもう帰った。
ここには、残っている奴らがいる。
青峰は黒いボールを抱え直し、集合場所へ向かった。