この素晴らしい世界の強敵たち。興奮するじゃないか♥ 作:あまねく世界のこのすば作者
Side めぐみん
旅立ちの日。私は荷物を背負い、転送屋から少し離れた場所にある宿屋にて、待ち合わせしていたルークと会いました。彼はなぜか、私と違って荷物を全く持っていませんでした。
「準備は出来たようだね。めぐみん」
「ええ。ルークは荷物を持ってないのですか?」
「ああ。俺の荷物なら、ここに収納してる」
そう言うと、彼は影の中に手を突っ込み、そこから大きなリュックを取り出した。
「なんですかそれは!? まさか収納魔法とかいうやつですか?」
「いや。これは召喚獣の力さ。セーレという召喚獣でね。空間をつかさどる力をと持っているんだ。その力により、影の中に異空間を作らせている」
「召喚獣? しかし、そのセーレとやらの姿はどこにも見えませんが。どこに召喚してるのですか?」
「召喚してないよ。セーレは特殊な召喚獣でね。通常、召喚獣は呼び出さないとその力を使えないんだが、セーレだけは呼び出さなくても力の一部を行使できるんだ」
そう言って、彼はリュックを再び影の中へと収納した。近くに行って影をよく見ると、揺れる水面のように波打っており、奥には真っ暗な異空間が広がってるように見える。
「便利な力ですね。もう何でもありじゃないですか」
「その分、契約はかなり大変だったけどな。そういえば、お別れは済ませてきたのか? なにやら面白い杖と眼帯をしているが」
「ええ。これらは大切な友達からの餞別です。そういえば、あなたは昨日どこに行ってたのですか? 夜遅くになっても帰ってこなかったみたいですが」
「独占欲の強い女にボコボコにされてね。体が回復するまで休めていたのさ」
「あなたがボコボコに? それに、独占欲の強い女というのは一体」
「君が気にする必要はない存在だ。それより、早くアルカンレティアへ向かおうじゃないか」
気になったが話してくれそうにないので、その会話は終わりにして転送屋へ向かう。
「あんた遅いわよ。朝早くから待ってる身にもなってよ」
そして入ろうとすると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこにはふにふらやどどんこ、あるえを始め、クラスメイトの面々が立っている。どうやら見送りに来てくれたらしい。
「……皆暇なんですね」
「あんた、最後ぐらいありがとうとか言えない訳!?」
ふにふらが顔を赤くして食って掛かってくる。そんな中、一人だけ姿が見えない事に気が付いてキョロキョロしていると、彼女が気怠そうに言ってくる。
「ゆんゆんなら来ないわよ。何か、親と大事な話があって来られないんだってさ」
「べ、別に何も言ってませんが!?」
私の言葉を聞き、ふにふら、どどんこがニヤニヤと笑みを浮かべる。
……くっ、随分と生意気な顔してくれますね。今日が旅立ちの日でなければ泣かせてやるところなのに。
私がギリギリと歯を嚙みしめていると、あるえがピッと私の着けている眼帯を指さした
「似合ってるよ」
「大事にしますよ」
「そうしてくれると助かる。そして蛇遣い。めぐみんとの取引について、私は今更どうこう言うつもりはない。でも、あまり虐めないでくれよ。あまり虐めすぎたら、私の中の真なる力が目覚め、君を殺してしまうかもしれない」
「くふふふふふ。それは是が非でも目覚めさせたくなるな。まあ安心しろ。俺は極上の果実を駄目にするような愚かな真似はしない。まずはそこそこの果実で試し、安全だと判断したら、こいつにも色々試すさ」
「全く安心できる要素がないんだが。めぐみん、やはりこの男と取引するのは」
「今更やめませんよ。我が家への金や食材の供給も無くなりますし。それに、私がこの男よりも強くなって生殺与奪の権利を握ってしまえばOKですから」
「……君がそれで良いならそれで良いのだが」
そんな中、転送屋からの声が響く。
「ルーク様ー! アルカンレティア行きのテレポート、そろそろ発動しまーす。出来ればお早めにー」
転送屋の声を聞き、私とルークは皆に手を振り背を向けた。どうやらゆんゆんには会えず仕舞いのようだ。
まあ、元々見送りには来ないと言っていたし、友達が少なく寂しがり屋なあの子の事だ。顔を合わせてしまうと私に付いてきたがるかもしれないから、これで良い。
心残りがないといえば噓になるが……。
ルークの権限のおかげでお金を支払うことなく使用出来た。しかもルークのために特注で作られた魔法陣のようで、転送事故は絶対に起こらず、快適な転送が出来るとのこと。改めて、彼がとんでもない権限を持っていると思い知らされる。
行き先は水と温泉の都アルカンレティア。
初めての里の外だ、緊張するなという方が無理がある。でも、緊張と同じぐらいに期待もしている。今の私は、負ける気がしない。約束したのだ。『最強の魔法使い』になる事を。そして決意したのだ。この男を未来で相手を叩き潰し、取引の美味しい所だけしゃぶりつくす事を。
「さあ、めぐみん。新たな旅へ出発だ」
「胸が高鳴りますね。体の底から力が溢れてくるようです。精々、私を失望させないようにしてくださいね。ルーク」
「くふふふふ。望むところだ。めぐみん」
そして、私たちは転送魔法にその身を受けた。転送魔法は今までにないほどのリラックス感を味わえる素晴らしいもので、思わず眠ってしまいそうになるほど心地良かった。
転送直後。私はさっさとアクセルへ行こうとしたのだが。
「さてルーク。無事アルカンレティアへ着きましたし、早くアクセル行きの馬車に乗りましょう」
私は彼をアクセル行きの馬車がある所へ行こうとするが、彼はそこから動かず、どこか遠くを見つめるような視線をどこかに向けていた。
「……ふむ。その前に、少し調べたいことがある。めぐみんは適当に暇を潰していてくれ。ここは温泉街だし、暇を潰す手段はいくらでもあるだろう」
「え? 暇を潰してくれと言われても、そもそもどこに行くんですか!」
「新しい暇潰しと、食材で強化する実験だ。ちょうど良さそうな実験動物もいるからな。そうだ、このペンダントを渡しておこう」
そう言われて渡されたのは、金色のペンダントで、ベルゼルグ王家の紋章が描かれていた。
「これは?」
「そのペンダントがあれば、俺と同等の権限を持つことが出来る。宿には無料で泊まれるだろうし、アクセル行きの場所も無料で行けるが、まだ行かないでくれよ。極上の果実が勝手に離れるのは嫌だし。じゃあな!」
そう言って、彼はどこかに走り去っていく。
「ちょっ! 待ってくださ────い!」
追いかけようにもあまりにも速く、すぐに見失ってしまった。探しても探しても影や手がかり1つ見つからない。
そうして1人きりでアルカンレティアで過ごす内、いつのまにか3日が経っていた。幸い、彼のくれた資金とペンダントのおかげでアクセルに行くのも高級宿に泊まるのも余裕だが、私1人でアクセルに行くのもなんだか気が引けるし、彼の支援を受けられないのも困るので待つしかなく、観光客かのようにアルカンレティアを満喫していた。
「あの男……一体どこで油を売ってるんですか」
そもそも実験動物が何のことなのか全く分からない。碌でもない事を企んでるのは間違いなさそうだが。
私はそんなことを考えながら、抱きかかえてるちょむすけに餌を与え、今日の分のスキルアップポーションを飲んでスキルポイントを獲得し、それを消費して爆裂魔法の威力上昇に使用した。
スキルアップポーションは1日に何十回も飲むと、体に副作用を起こす危険があるようで、大事を取って1日5本に抑えるように言われている。
そして今与えたちょむすけの餌。これはルークが用意してくれたものだ。本当、あの男には至れり尽くせりで世話になってばかりだ。殺し合いする未来が確定してなければ、素直に感謝できるのだが。
「さて。これからどうしますかね」
私は次にどうすべきか考えながら、空を見上げていた。
その頃。ローブを目深に被って角を隠した女悪魔のアーネスは遠くからめぐみんとちょむすけを観察していた。
「あの女1人なら問題ないが……奴は今どこにいる」
彼女は昨日、既にめぐみんとちょむすけ──彼女にとってはウォルバク様だが──を見つけ出していた。ならば、なぜ見つけた瞬間にちょむすけを回収しなかったのかと言うと、蛇遣いの攻撃を警戒していたからだ。
蛇遣い、ルークが彼女と共に来ているのは把握しているのだが、どこにいるのか所在を掴めず、見知らぬところから反撃を喰らうことも避けたいため、下手に手出し出来なかった。
「くそ、あの蛇遣いは何を考えているんだ。なぜあの女を1人にしている。何か狙いがあるのは間違いないだろうが」
だが目的が分からない以上、下手に手出しできない。歯がゆい思いをしていたそんな時、彼女に1人の男が近づいてきた。
「ああ……この雰囲気、そしてこの凶悪な気配。間違いなく悪魔様だっぺ!」
アーネスが振り返ると、そこには1人の男がいた。ローブを目深に被ってるため素顔は見えない。だがその身なりからして魔族を毛嫌いするアクシズ教徒だということは分かった。
(私の気配を感知したのか。悪魔がいることを他の奴らにバラされても面倒だし、今ここで殺すか)
そう考えて魔法を使おうとすると、男は突然、膝をついて崇めるように手をこすり合わせた。
「感激だべ。あの悪魔様に出会えて、オラ感激だべ!」
「……? なぜひざまずいている。貴様はアクシズ教徒だろう。アクシズ教徒なら、私のような悪魔は殲滅すべき存在のはずだが」
「殲滅!? 何を馬鹿な事いうだっぺ。俺……じゃなくてオラは、あんたのような悪魔様を待ってたんだっペ!」
そう言うと、彼は持っていたカバンを開ける。そこには経験値を大量に得られる高級食材にスキルアップポーション、魔力を増強させるマナポーションが大量に入っていた。
「こ、これは……オラが今用意できる対価だっぺ。これを対価にして、アクシズ教を滅ぼす契約をしてほしいだっぺ。オラはもう、あんな腐った教団は嫌なんだっペ! あいつらのせいで、オラの家族は皆……うう……アクシズ教は絶対に許せないっぺ! オラの家族を傷つけ、あんな事をした報いは必ず受けさせたいんだっぺ! 頼む悪魔様! オラに力を貸してくんろ!」
男は泣きじゃくり、嗚咽を漏らしながら土下座をして頼み込む。彼女はそれを見ながらバレないように笑みを浮かべていた。
(食材やポーションがこんなに沢山。しかも契約を前払いか。人間にしては素晴らしい律儀さだね。殆どの奴らは、願いを叶えたとしても、何かと屁理屈をつけて支払いに応じなかったりするというのに。それに私としても、この状況は願ったり叶ったりだ。これだけあれば、忌まわしい蛇遣いよりも強くなれるかもしれない。それに、アクシズ教はウォルバク様にとっても邪魔な存在だろうし、今のうちに滅ぼしておくのも悪くないか)
彼女は聖人のように微笑む演技をして、男の手を優しく握る。
「良いだろう。あんたと契約を結んでやるよ。あんたがアクシズ教徒に何されたかは知らないが、あんたの恨み、この私が晴らしてやろうじゃないか!」
「本当だべか!? ありがとうだべ悪魔様! 本当にありがとうございますだ!」
「気にするな。代価をもらったなら、その分はきっちり働く。それが悪魔ってもんだからね」
彼女は聖人のように優しい笑みを浮かべ、男の頭を撫でながら優しく語りかける。
(それに、こいつは色々と使えそうだしね。骨になるまでしゃぶり尽くして、私の糧になってもらうよ)
彼女は男に気づかれないように笑いを堪えるのに必死だった。こんなにも都合のいい契約者が来るなど想定外。まるで、地獄がウォルバク様を取り返すように手助けしているのだとしか思えず、内心歓喜にあふれていた。
だが彼女は気づけなかった。そのアクシズ教徒に見える男は何者なのか、そんな都合の良い契約者の正体はなんであるか。目深に被った金髪と、獣のようにギラついた碧眼の瞳が見えていなかったのだ。
アクシズ教徒を騙り、嘘の悲劇をでっち上げて契約を持ちかけたルークは、ニタリと笑みを浮かべる。
(上手く行ったな。これでこの女との戦いも、もっと楽しくなりそうだ。興奮してきたよ♡)