誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘)   作:オタリオン

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41:12の将像を正しき場所へ戻すだけの仕事?③

 馬の木像を紐で体に縛り付けて――走る。

 

「――――!!!!」

「は、は、は、は、は」

 

 化け物の不気味な叫びが響いている。

 ドドドドと指音が響いており、俺に向かって来ていると分かる。

 俺はそれを感じながら、目の前に転がる死体の山を――飛び越える。

 

 飛んで、飛んで、飛んで――まるでハードル走だな。

 

 死体、死体、周りは死体だらけだ。

 今までの参加者のものなんだろう。

 体がバラバラであり、むせ返るような血の臭いに鼻がいかれそうだったが……まぁいいか。

 

 なるべく死体に当たらないように走る。

 が、死体の数が多くなっている。

 完全に避けるのは無理であり、心の中で謝りながら死体を足で踏む。

 ぐちゅりと音がしたり、空気が抜けるような音が響く。

 何ともいえない感触だが……まぁ、うん。

 

 俺はカメラをポケットから出す。

 そうして、片手で自分へと構えてシャッターを押す。

 カシャリと音がして写真がすぐに現像された。

 それを口でキャッチしてカメラを戻す。

 

 背後から化け物が迫ってきているのを感じる。

 俺はすぐに鞄から髑髏タイマー取り出し時間をセットした。

 そうして、死体の山を躱していき――無数の蝋燭がある場所で止まる。

 

 左右には扉があり、それを間髪入れずに蹴り破る。

 髑髏の口に俺の写真を挟んで、そのタイマーを左の部屋へと投げ入れた。

 俺は右の部屋へと入り、そのまま扉と壁の隙間に隠れる。

 暫くすれば化け物がやってきて――タイマーが起動した。

 

 派手な音とフラッシュであり、化け物はすぐに左の部屋へと向かっていった。

 化け物の移動スピードによって死体の肉片が飛び散り蝋燭の火は消えている。

 タイマーが破壊された音を聞き、ほぼ同時に部屋から飛び出し再び走る。

 

 化け物が追って来る気配は無い。

 予想通りであり、実験通りの結果になった。

 

 あの化け物は確実に光によって俺を探知していた。

 が、光が弱ければ完全には探知できない。

 光がほぼ無ければ近くで派手な音を出しても襲っては来ない。

 その事から俺が編み出した最も効率のいい攻略方法は――ダッシュ&デコイだ。

 

 兎に角、目標地点まで全力で走る。

 走って、走って、走って。

 感知されれば道中で手に入れたカメラを使って己の写真を撮ってタイマーと併用しデコイとする。

 勿論、こんな攻略方法が最初から使える筈がない。

 最初の4ステージ分はステージの隅から隅まで探索した。

 そうして、手に入れる事が出来るアイテムをなるべく回収し――5ステージ目からこの作戦を決行した。

 

 タイマーの残量は残り7つ。

 カメラのフィルムは手に入れた替えの分も含めれば……15枚ほどは撮れるだろう。

 

 仕事を早く終わらせる。

 そうして、ゲームの続きをする。

 その為ならば、多少のリスクには目を瞑ろう。

 一度のミスで死ぬ事は確定だが……まぁいいだろう。

 

「右行って、左――真っすぐ、ジャンプ――前は――障害物。戻って、右――」

 

 ぶつぶつと言いながら進んでいく。

 その道中でまたしても無数の火が灯った蝋燭にエリアを通った。

 瞬間、遠くから化け物の叫び声が聞こえる。

 

 俺は走る。

 走って走って走って――橋だ。

 

 簡易的に作られた木の橋で。

 風の吹く音が聞こえているが、恐らく下は奈落だろう。

 明らかに走って渡れば壊れそうな橋だ。

 が、ゆっくりと渡っていく事は出来ないので――全力で走る。

 

 一歩踏み出した瞬間に橋が大きく軋む。

 ビキビキと音を立てて激しく揺れるが。

 ルミ先輩から教わったダンスの技術を使って走る。

 橋の半ばで橋を支えている縄がぶちりと切れる。

 残り3本であり、もう少しのところで反対側の縄も1本切れた。

 橋が傾いていくのを感じて――飛んだ。

 

 必死になって手を伸ばす。

 その途中で橋は崩落していき――垂れ下がる縄を掴んだ。

 

「いててて」

 

 体重によってずりずりと俺の体は下がっていく。

 必死になって縄を掴めば、皮膚がめくれて血が噴き出す。

 それでも何とか止まって……いる。

 

「――――!!!!」

「……」

 

 化け物が向こう側から指音を鳴らしていた。

 血走った目で俺を睨んでいるが。

 流石にこの距離をジャンプしては来られないんだろう。

 そのまま奴は何処かへと走り去っていく。

 俺はそれを一瞥し、そのまま激痛の走る手で縄を掴んで上に登っていった。

 

「ふぅ……いててて」

 

 上に登り切る。

 そうして、鞄から消毒液と包帯を取り出した。

 消毒液を傷に掛けてから包帯を巻けば、じわりと包帯が赤くなる。

 何重にかして巻いてから、手を開け閉めして……よし。

 

 立ち上がる。

 そうして、俺は先へと目指して再び走り出した――

 

 

 

「は、は、は、は、は」

「――――!!!!」

 

 化け物が迫って来る。

 殺意を肌で感じながら、俺は走っていく。

 迷路のような道を考えて進んでいった。

 

 何処もかしこも死体だらけで。

 ちょっとでも道の選択を誤ればお陀仏だが。

 死体の山で障害物となっている道などは特徴がある。

 耳を澄まして、体に当たる風に神経を集中させれば、おのずと風が吹き込んでいる通路が分かる。

 風がない道は何かしらで塞がれている確率が高いだろう。

 別に確認した訳じゃないが……まぁいいか。

 

 風によって方向を変える。

 そうして、進路がズレればその都度修正する。

 同じような石壁だからこそ、少しでも方向感覚を失えば詰む。

 もし間違っていたのなら、足を止めえて何処かの部屋に息を潜めてマップを確認する必要があるが。

 それは大きなタイムロスであり、なるべくしたくはない。

 

 考え事をしながら走っていれば、足が転がっていた頭に当たる。

 まるで、サッカーボールのように蹴ってしまったが……まぁ仕方ないか。

 

 道徳的にはアウトでも、今は緊急時なので割り切る。

 失敗すれば命は無いというのも理由だが。

 そもそも、見つかったら足を止めるのは自殺行為でしかない。

 だからこそ、全力で走る上で死体を蹴ってしまうのは仕方ないと思うが……まぁどうでも良い事か。

 

 死んだら終わるだけだ。

 ゲームが出来なくなるのは少し嫌だが。

 自分のミスによる終わりなら諦める他ない。

 これも仕事で……そういえば、何でこれが仕事だって俺は思ってるんだ?

 

「あぁ…………まぁいいか」

「――――!!!!」

「あ、忘れてた」

 

 余計な事を考えて走っていてすっかり走っている目的を忘れていた。

 うっかりしていたと反省しながら俺は更に走る。

 死体の山を越えて、死体を蹴ってしまって、死体が――立ちふさがる。

 

「あ、失敗した」

 

 明確なミスだ。

 明らかに選択を誤ってしまった。

 が、よく見れば死体というよりはドロドロと溶けた肉の何かで――全力でタックルする。

 

 少しの躊躇いもなく。

 全力で突破する気でタックルすれば、思いのほか肉が脆く突破できた。

 全身が血肉塗れであり、口にも少し入った。

 

「ぺっ」

 

 唾と共に吐き捨てる。

 口が妙な感じだが貴重な水は飲めない。

 我慢しようと思いつつ、化け物の気配がどんどん近くなっていくのを感じる。

 振り切れない。

 やはり、化け物の方が速度は速いようで……お?

 

 急に周りにあった蝋燭の火がぼっと燃え盛る。

 すっかり明るくなり、目的地についたのかと思えば……何かあるな。

 

「……あぁ」

 

 何かの前で足を止める。

 それはどう見ても……トロッコだ。

 

 鉱山で見るようなタイプであり、恐らくが人を運搬する為のものだ。

 何処に向かっているのかは分からないが――考えている暇はない。

 

 俺はトロッコに乗り込む。

 すると、トロッコは何もしていないのに動き出す。

 真っすぐに線路の上を進んでいき、化け物の声が遠くなっていく。

 

 石壁から一変し、今度は洞穴のような場所を通っていく。

 穴がいたるところで空いていて、トロッコの前のライトがぴかりとついた。

 まるで、前のテーマパーク風の仕事で乗った骨のジェットコースターのようだ。

 が、今回はアトラクションというよりは単純な逃走手段でしかない。

 

 化け物の気配が遠ざかっていく。

 これならば何とかなりそうだ。

 

 

 そう思って――無数の化け物の声が響く。

 

 

「「「――――!!!!」」」

 

 虫のように蠢く不気味な音が響く。

 指の骨をパキパキと鳴らす音やひたひたという濡れた音。

 見れば、穴の中からきらりと瞳を光らせる――無数の小さな手が見えた。

 

「あぁ――罠か」

 

 納得する。

 そりゃそうだと思った。

 

 完全に囲まれていた。

 逃げ道は無く、この速度で飛び降りればミンチは確定だ。

 命が助かったとしても、あの数であれば逃げ切れる可能性はゼロで――まぁいいか。

 

「……これはぁ」

 

 トロッコの前方の中心にあるレバー。

 右と左と書かれれている。

 何かをするのかと思っていれば――頭の中に声が響く。

 

『問いに答えよ。正しければ右を、間違えであれば左を』

「あ、はい」

 

 急に何かが始まった。

 周囲を見れば、土壁の穴の中がまた一瞬見えた。

 無数の小さな手が這いまわっていて、俺を狙っている。

 間違えればただでは済まないんだろうが……まぁいいか。

 

『最初に汝が受けし試練。その時に貰った褒美の額は30万であるか』

「あぁ――右っと」

 

 レバーを右に倒す。

 瞬間、トロッコの車輪が火花を散らせる。

 そうして、先で別れた二つの線路の内、右に進んでいった。

 

 暫く待つが……いけたかな?

 

 変化はない。

 トロッコはそのまま先へ進んで――

 

『汝の友人であるマイケル・ハマーと出会った試練。その時に持っていた包丁の購入金額は30万円以上である』

「え、いや……あぁ」

 

 一瞬、そんな事知らないと思ったが。

 以前に話した時に包丁の事を教えてくれた事がある。

 それは彼に料理を教えてくれた先生からの贈り物で。

 有名な職人の手によって作られた一本らしい。

 その値段を別の友人から教えてもらって驚いたって聞いた……確か1500ドルだった。

 

 何年前に貰ったのかは分からない。

 が、数十年くらい前でもレートで考えてもそこまでの良い意味でのインフレはしていない筈だ。

 大まかに考えるのであれば……左だな。

 

 レバーを左に倒す。

 すると、今度はトロッコは左へと進む。

 奥の方から化け物たちの鳴き声が聞こえてくる。

 一瞬、失敗したかと考えて――線路の前に死体の山が築かれていた。

 

 血まみれの虚ろな目の死体たちで。

 バッチリとトロッコに乗る俺と目が合う。

 一瞬の出来事で、トロッコに身を隠す事も出来ず――トロッコが死体の山を吹き飛ばす。

 

「――」

 

 盛大に血肉が飛び散る。

 再び全身に血肉のジュースを浴びた。

 全身ドロドロであり、俺はゆっくりと片手を動かし顔の血肉を拭う。

 

「…………まぁいいや」

 

 気にしても仕方ない。

 そう思っていれば、トロッコの中に薄ら笑いを浮かべた女性の頭が転がっていた。

 ジッと俺を見ていて、何かを訴えかけるようだった。

 俺は思わずその頭を拾ってジッと見つめる。

 すると、口元がゆっくりと動き出し血の涙を流し始める。

 

「こんな、筈じゃ、こんな、筈、じゃ……試練をクリア、すれば、願いが……私の、夢が、あぁ、こんなところ……でも、どうしても、願いを、叶えて、かな、え、アレを食べれば、私も、襲われ、ずに――」

 

 女性はずっと喋っていた。

 俺は何を言っているのかと思って見つめて――女性の頭が爆散した。

 

「――――」

 

 顔面に脳漿やらが掛る。

 これで何度目なのか。

 そう思いながらも、俺はまた片手で残骸を拭う。

 

「……まぁ……うん……うん」

 

 トロッコは進んでいく。

 化け物たちは鳴き声を響かせていて、まるで笑っているように聞こえた。

 俺は笑えない状態なんだが……まぁ、もういいや。

 

 先ほどの障害物以外は何も無いからちゃんと解答出来たようだ。

 一体、あとどれだけ続くのか分からない。

 が、理不尽な問題は出さないようで――

 

 

『汝は叶えたい願いがある。それはどんな代償を払ってでも叶えたいものであるか』

「……あぁ」

 

 

 急に妙な問いになった。

 叶えたい願いはある。

 が、どんな代償を払ってでも叶えたいかと言われれば……どうなのか。

 

 その代償によるのではないか。

 最高のゲームがしたい願いであれば、ゲームをする為の手が無ければ意味がない。

 大金を得るという願いでも、大金が使えない状況では意味がない。

 

 ただ……心の何処かに代償を払ってもいいという心もある。

 

 まるで、相反する考えだ。

 魂が二つあるようで……俺はレバーを中央にした。

 

「……」

 

 これが正解かは分からない。

 が、己の心に従うのであれば、イエスでもノーでもない。

 これこそが俺自身の答えで――トロッコが揺れる。

 

「……!」

 

 車輪から火花が散っていた。

 速度が急速に速まっていく。

 大きくトロッコが揺れていて、今にも脱線しそうだった。

 俺は必死にトロッコにつかまり――

 

 

『それが汝の答えか』

「え、あ、はい」

 

 

 思わず答えてしまった。

 瞬間、トロッコは更に加速していき――宙に浮いた。

 

 開けた空間で、二つの道へは行かない。

 そのまま脱線し、目の前に向かって飛んでいっていた。

 見れば、底の方で無数の手が蠢いている。

 俺が乗ったトロッコはそんな無数の手に向かって落下していき――突っ込む。

 

「おぉ」

「「「――――!!!」」」

 

 終わったかと思った。

 が、トロッコの周りに見えないバリアのようなものが張られていた。

 無数の手を弾き飛ばしながら、トロッコは底まで落ちていき――また線路に乗った。

 

 そのまますさまじい速度で線路は走っていく。

 ぐるぐるとトロッコが回っていき――急停止した。

 

 俺はそのまま身を投げ出された。

 紐で縛り付けている木像をしっかりと体で守る

 ゴロゴロと地面を転がっていき――何かに当たって止まった。

 

「いて……あれ? 此処は……あぁ」

 

 頭を摩りながら周りを見る。

 すると、無数の火の灯った蝋燭が設置された――木像を置くポイントのようだった。

 

 台があり、あの謎の手の平もある。

 立ち上がってポケットからマップを出して確認すれば……方角は合ってるな。

 

 俺はマップをポケットに戻し、紐で縛っていた木像を解く。

 そうして、台座の上にそっと置いて……まただな。

 

 根っこのようなものが木像を包み。

 中へと侵入していく光景。

 それを見終われば、元の場所に戻る道が出来て……ん?

 

 新たなトロッコと光を放つ線路が出現した。

 が、それよりも台の近くから音がしたので見れば……果実か?

 

「……」

 

 真っ赤な果実らしきものが実っていた。

 が、明らかに普通の果実ではない。

 血管のようなものが浮かび上がっていて、ドクドクと鼓動している。

 まるで、果実の形をしただけの心臓のようだった。

 今まではこんなものは現れなかった。

 恐らくは、これも何か重要なアイテムなんだろう。

 

「……」

 

 上を見る。

 すると、無数の小さな手たちが蠢いている。

 それらは手の甲の目を見開きジッと俺を見ていた。

 小さな目からは殺気しか感じない。

 それは俺が奴らにとって敵でしかないからで……そういう事か。

 

 俺は果実に触れる。

 生暖かく、肉のような質感だ。

 俺は果実をもぎ取り……まぁいいか。

 

 鞄の中に入れておく。

 取り敢えずは、後で考えれば良い事だ。

 そう思いながら、俺は元の場所に戻る為のトロッコへと向かっていった。

 

 残るは5体で、何事も無ければ達成できそうだが……イチは何処にいるんだ?

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