『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
「地下ですか?……地面の下をどうやって入るのですか?それに穴を開けた後なんてなにも残っていませんよ。アイニス」
(いいえ、エリス姫様。あいつは平然とやっていました、無動作にです。なんの詠唱も無しにあいつは魔法を行使したのです)
「無詠唱で魔法?そんなことできる人、初めて聞きました。そんな!」
(はい、姫様。先ほど会場で見せた剣術、巨石の魔法、身体が半分しか残っていなかったシュマルト殿の完全回復。全てはあいつが1人でやってのけたのです)
◇
地上では、いつでも大空を見上げる権利を得た。
では地下は?
今から拡張してプライベートルームを作れば良し。
先ほどの、シモン担任との素晴らしい出会いに気分が良い私。
勿論、顔は無表情の微笑でほくそえみ、身体は動いている。
「……流石は王都の土壌と言ったところか? 遥か昔は大農工地帯で栄えて、そのまま人口が爆発的に増え、大都市として今に至る感じだろうか?」
久しぶりの1人、プライベート空間だ。
独り言も饒舌になるというもの。
無詠唱の土魔法で地下の土を退け、地形を少し変えていく。
まぁ、これは王宮地下に建造中の私用地下迷宮と同じ作業だが……
惜しいな。
この素晴らしい土を活かしたいな。
これで私用の畑を作り、私の好物だけの野菜や香草を作り、青空の下で農作業……青空の元、鍬を振って青空を見る。
「くふぅ……最高じゃないか……ゴホッゴホッ……まずい、酸素濃度が薄まってきたか」
おっと、少々有頂天になり、掘り進めた穴の空気の入れ替えを忘れていた。
土魔法で地中から草原の地上まで数センチほどの穴を開け、その穴をチューブ状に精製した空気を循環させるための粘土管で舗装。
地上から地下へと新鮮な空気が出入りするように細工する。ここで注意するべきはアイニスの存在だろう。
あれは暗殺者であるため、肉体の五感は鋭い。それに加えて、アイニスは私のことを常時警戒しているので、居場所がバレたらお仕置きしてくる厄介な相手だ。
「まぁ、地面を掘られて逃げられては、地上からはなにもできないだろう。アイニス」
今頃、エリスの影の中で茫然としているであろうアイニスに向かって、ニヒルに笑う。
(おい、貴様!今日、牢屋に戻ったら覚えていろよ。極上のお仕置きを施してやるからな。覚悟しておけ)
…………近くにあったチューブからアイニスのドスの効いた低い声が聴こえた。
きっと気のせいだろう。
「……………王宮に建設中の迷宮には気がつけないくせに、なぜ学園では気がつける?……まぁ、良い。
また、新しいギャグを思いつき、腹が捻れるほどの微笑をしてしまった。
掘ろう。
いや、自身が寛げる部屋を造ろう。
なにせ、今の私は自由なのだから。
「……まずは、王宮の地下と同じようにと」
土魔法である程度の空間を作った。
続いて木魔法で内部が崩れないように支えを作り、木魔法で作り出した木材の内側に土魔法で粘土質の土を生成、塗装していく。
勿論手は汚さず、風魔法の風壁を利用しながら同時並行思考で処理していく。
こんな三重魔法同時使役など、普通の人間の脳でやれば脳が焼き切れるが、私なら問題なし。
心がすり減っているからできる荒業だ。
「まぁ、その磨り減りも、王都の美食を食べ始めて微細に変化してきてはいるがっ!……完成だ。学園内に私だけの隔離されたプライベートルームの完成」
六畳ほどの大きさの部屋があっという間にできた。
一応は窓も付けたが、地中を蠢く極小の生物しか見えない。
ニヒッと笑い、部屋の中に木魔法で作るテーブルと椅子を用意、そこに座って寛ぎ始める。
「あー、これで青空が見……れ?」
な、い?
「あ、あれ?……そう、いえば、ここは地下か」
そうだった。
誤認していた。
優しきシモン担任の甘美なるお言葉「なにもしなくていいのです」で脳が焼かれていた。
「地下に居ては、私の大好きな青空を見上げてのボーッとができない。そればかりか、太陽を浴びての棒振りも…………戻るか」
まぁ……まぁ、良い。
地下に私専用の部屋を作れたんだ。
夏場は、水魔法で泳げるプールを作るのも良い。さらに地下へと掘り進め、氷を作れる部屋を増築し氷室でも作って、体を冷やし安らぐのもいいな。
冬季で寒くなれば暖炉を造ろう。
そこで換気も良くし、料理と暖を取れる環境を作って惰眠を貪ろう。
夢が広がる。
父上、母上から受けるスパルタ教育以外に田舎にはなかった。
そう、都会には夢がある。
好き放題行い、自身のプライベート空間を好きなだけ作れる夢が。
◇
真上の草原に穴を開け、素直に出ていってもエリスに捕まるだけと思った私は、草原から少し離れた茂みがあることを思い出し地下を掘り進めていく。
そしてしばらく掘り進めながら、そろそろ慣れてきたトンネル舗装をやりながら道を作り、地下から地上へと繋がる秘密の扉を完成させ、ついでにお洒落な木の扉も作成。外の世界に戻ると────
「それって違法建築ですよね?マルスさん」
「突然、立派な木の扉が現れたと思えば、やはりここだったか。貴様」
「エリス姫様にアイニス?」
エリスが笑いながらお出迎えしてくれた。
ブチギレた顔で私を見つめるアイニス。
なぜ、ここに居る?
「あ、え、と……さようなら」
「いえいえ、お待ち下さい、マルスさん。わたくし達はマルスさんが持つお力のことをたくさん知りたいんです。お話致しましょう」
急いで来た道に戻ろうと、扉を閉めようとした瞬間、微笑みながら私の腕を勢い良く掴んで離さないエリス。こ、この姫、意外と力が強い。
なぜ、私の居場所がバレた?
「貴様の気配がどんどん地上に上がって来るのを感知していた。後は出てくる大まかな場所で待機して貴様を待ち伏せしておけばチェックメイトということだ。ふんっ!どうだ?悔しいか?」
勝ち誇った顔をされても困る。
私は別にアイニスと張り合っているわけではないんだ。
「………………」
「な、なんとか言え!この台詞をさっきまで考えて発言した我の労力を返せ」
いや、なんの労力だろうか?
「アイニス、見て下さい。マルスさんが出てきた扉の中、まるで国家指定鉱山の舗装されたトンネルのようになっています」
「トンネル?……エリス姫様はここで、こいつが逃げないか見ていて下さい。我はこの怪しいトンネルの内部を確認して来ますので」
エリスとアイニスは、私を拘束すると、私が掘り進めて来た地下道に興味を持ったのか扉の奥の穴を調べ始めた。
「え?い、や、その中は私の世界……」
「違法建築ですよね~?学園の中での?」
「え、と、は、い」
「それでは行って来ます」
私が言葉を詰まらせている間に、アイニスは扉を潜りトンネルへと飛び込んで行った。
私が1時間ほどで造り上げたプライベートルームが、天敵《アイニス》によって蹂躙されてしまう。なんとかしなくては。
そして2人きりになる私とエリス。
「いやー、凄いですね。まさかマルスさんが一瞬で造り上げてしまえるなんて。なんでそんな力があることをわたくし達に隠していたんですか?」
「え?い、や、あの、別に隠しているわけではない」
無意識にできてしまうだけなのだから仕方ない。
全ては、いつも暇な時にやっている棒振りと同じだ。自然に無意識にできて当たり前にできるようになるまで、体を慣らすしかない。
「フフフ、凄く慌ててますね、マルスさん……まぁ、いいです。マルスさんとは、これから長い付き合いになりますからね。わたくしと一緒に居られて嬉しいですよね?ね?」
「……いや、それは困る。私はただ青空を見ながらサボりたい」
そう、学園を卒業したあかつきには、どこか平和な草原でのんびりするんだ。
それが私のささやかな願い。
「またまたご冗談を?それにマルスさんに拒否する権利はもうありませんよ。これからマルスさんには、新校舎を建てていただくのですから。できますよね?雨避けくらいの木造建築。できなければ、王宮の地下にある建造中の迷宮を王へと報告しますよ?」
「……………」
なぜ、王宮の地下のことがバレている?
それにエリスの目が一切笑っていない。
私に拒否権はない。
「は、い」
「ただいま戻りました、エリス姫様。地下が凄いです。こいつは姫様のために地下室に部屋を造っていたようです。あそこならば、隠し拠点にもでき、学園内での姫様暗殺にも対応できます」
「まぁ、それは凄いですね。ありがとうございます、マルスさん」
「い、え、え~?」
私が1時間で造ったプライベートルームは、エリス姫の避難場所兼隠れ家となり……
「どうして、こうなった?」
木魔法で簡易的な木造校舎を作る。
「す、凄い、どんどん生えて大きな家になっていくぞ」
「これで校舎で学べるのね?やったー!」
喜ぶ学友達を背に、私は急ごしらえの歪な木造建築を完成させた。
プライベートルームを取られた腹いせに、やる気がまったくない状態で造ってしまったので、後でちゃんと作り直さなくては……
「立派な校舎ですね。ありがとうございます!マルスさん」
(貴様、これほどの建築技術と、その未知の魔法はなんだ?……凄いじゃないか。感謝する)
「は?立派?これが?」
なぜかエリスには抱き付かれ、アイニスには感謝された。
たかだか木造の大きなボロ小屋を造っただけなのに。
……もしかしなくても、この世界の建築技術は大したことなかったりするのだろうか?