『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
「おんぼろ校舎を造ったが、上に窓ガラスが無い、青空が見えない」
「い、いえ、こんな凄い建物!見たことがありません!ありがとうございます!マルスさん、皆さんも大喜びですよ」
(良くやった。今夜の牢屋でのお仕置きは抑え目にしてやろう)
「お、と、おおおお!?」
エリスに両手を掴まれ上下に振り回された挙げ句、木の板床に私の身体が突き刺さった。
「あ、すみません。マルスさん」
「ん……いや、いい。これも強度が悪い造りをした私の怠慢だから」
「怠慢ですか?い、いえ、マルスさんの見た目は、だらしなくは見えるかもしれませんが。いえ、お顔は良いので背筋を伸ばしていればモテるとは思います」
(エリス姫様。完全に今の論点とずれております)
足元の地面を踏み、地面強度を確かめる。
底抜けた木板の下は、草木生い茂る草原のまま。
建物を建てる前の整地もなしの突貫工事をしてしまった。
そういえば、前前世の頃の記憶にこんなのが残っている。
世界大戦……第二次世界大戦のおり、日本人の捕虜が精巧に造った「ナボイ劇場」を。
あれは、勤勉な日本人が未来に残る代物と思い建造したとか。
自分達が死んだ後も、自分達が脆い粗悪品を造ったと言われないがために。
「……土壌改善からやり直した方がいいか?」
「マルスさん?」
(ブツブツと独り言が気持ち悪いぞ。建物ならこんな立派な建物を建てて皆を喜ばせたではないか)
耐震耐熱対策もできていない建物が立派とはこれいかに?
私の実家、ミリストレア家の屋敷のような装飾も骨組みとなる柱もないこのボロ屋がか?……そういえば、入学式でも使われていたコロシアムも、古びた石柱で囲まれたアレな建物だったな。
最初に校舎前で見た立派な建物は立派に思えたが、おそらくあの建物は特別クラス専用に用意されたものか、他国が用意したものだろうか?
「まぁ、いい。そんなことよりも、今は建物……青空が見える窓ガラスを天井に設置したい」
全ては極上の青空を見上げてボーッとするため。
そして振るのだ、棒を。
何も考えず青空を見て一心不乱にぬたあんしたい。
「あぁ、それだと室内が吹き飛ぶか。なら、中と外を出入りできるような設計にしないと駄目か?いや、でも私にはそこまでの知識が……」
「あ、アイニス!マルスさんが壊れてしまいました」
(いつものことです。エリス姫様。落ち着いて下さい。こいつは最初からぶっ飛んで壊れています)
◇
隔離クラスの皆がずっと立っていて辛いと言い始めたので、50人分の木の椅子と勉強机を作ってあげた。
皆大喜び。
私は即興のレベルが低い木の椅子と勉強机をプレゼントしてしまい謝った。
「すまない。ふぅ~、落ち着いたらもう少し良いのを作って渡すから」
「な、なぜ謝るんですか?マルスさん。こ、こんな素晴らしい物を下さいましたのに」
(多分、こいつは職人気質なのです、エリス姫様。本人は無自覚でしょうけど。無意識の状態で極限の物を作り出したいのでしょう)
エリスとアイニスは放っておいて、外に出る。
一息つくために大空を見上げて暫くボーッとし、シモン担任がお休みされている小屋を見る。
「おぉ、良かった。気持ち良さそうに眠っておられる。普段の疲れが蓄積されているんだろうか」
シモン担任は、この学園で私に自由をくれた恩人だ。恩人にはなるべく報いてあげたいが……ここには、おんぼろ小屋しかないな。
「なぜ、ガッツポーズをしながら片目から涙腺を?」
(こいつがやばい奴だからです。エリス姫様)
……エリス達が私を追って来たか。
まったく、私ばかりに構っていないで空でも眺めてボーッとしていればいいものを。
「……農耕をやるには最適解な草原なんだ。ただ重量がある建物を建てようとすれば、後に来る雨風で建物は沈むな」
思えば、この王都に来て以来考えることが少しずつ増えている。
田舎では得られなかった“刺激”というやつだろうか?
……まずは土壌改善からか。
とはいえ、この土地の良質な土を汚染したくはない。
セメントペーストに似た土系統の鉱物は精製することはできるが。この土地の土と混ぜるのは環境によくない。
鉄杭と石板で地盤強度を補強するしかないか?
「まずは草原の拓けている場所に……見渡す限り拓けているか」
無詠唱の風魔法で草原の草木を四方に刈っていく。
この刈った草木も無駄には使わずに、今日の午後にでも始める畑土壌作りの肥料にでも再利用しよう。
火、風、土魔法の3つを同時に使って、焼いて、風化させ、肥料に使う。
(き、貴様!何を始めようとしている?ちゃんとエリス姫様と我に説明して学ばせろ)
「……アイニス、静かにしていましょう。マルスさんは今、色々と考えてるみたいです」
(エリス姫様)
…………何も考えてはいない。
これまで生きて体験してきた記憶を元に最適解を作り出し、脳の負担にならないように無意識化で処理をする。
それが体に負担をあまりかけずボーッと青空を眺められることだと父上と母上は言っていた。
「鉄杭は酸化したら土壌活性する物を地下に埋めるか。まぁ、突貫工事の建物だ。数十年持たせれば新校舎が立つほどの時間は作れるな」
刈って剥げた土地に縦10メートル横3メートルほどの鉄杭を地下に作り出して土壌基盤強度をあげていく。
あえてびっちりは埋めない、突発的な大災害や地震で揺れた時に揺れるエネルギーを均一に地面へと逃がす設計で埋めていく。
頭の片隅には、ちゃんと造った木造の新校舎の図面はできている。
午後には、暇潰しの畑土壌も待っているので、即興でできる木造建築で手を打つ。
まぁ、学園に居る時の食事をするための食材確保が安定したら金属も用いた頑丈な建物に建て替えるが。
「……うん。さっきよりも地盤が硬くなった」
剥げた土地を隅から隅まで歩き回り、建物を建てても耐えうるか検証する。
これも第二の人生の時の現場監督時代の癖というもの。
次に更地にした土地に土魔法で強硬な建物の土台を作る。
建物から伝わる衝撃を支えるための強硬な土台を。
「土地の土と面するから、特別な鉱物精製はできないな。化学反応が起きたら土、土台ともに腐敗の原因になる」
魔法で精製と同時に凝固を行う。
作業時間は極力減らしたいからな。
次に木造の建物の骨組みとなる柱や梁となる頑丈な鉱物を精製、均等に立てていき、壊れにくい素材を精製して使う。
更に、建物の冷暖房のための断熱材を精製、外装、内装の作業を本格的にやっていく。
断熱材、外壁、クロス貼り、設備設置などなど。自分の知っている知識を、魔法で応用して建物を建てていく。
なぜか周囲の生徒も外に出てきて私の作業をボーッと見ているのが気になるが、別に気にしない、なんせもうすぐ建物が完成するのだから。
「集中すれば、魔法別に操作し、同時並列で50工程位は同時にできるか。後は木魔法で外壁を一気に覆って、屋根で囲めば完成」
終わった。
「「「おおおおおおっ!!」」」
騒ぎ出す学友達。
なにをそんなに驚いているやら。
今度は中の細かい内装の作業に移らなければならない。
木造校舎の一部屋は天井に窓ガラスを設置して外の出入りが簡単にできる内装にしたい。
そのために建設作業を1時間半ほどで終わらせたのだから。
この世界の魔法は素晴らしいほど万能だ。
化学反応や物理法則の知識を応用すれば色々なことができる。
まぁ、流石に過去や未来に飛ぶなんて、規格外のことはできないが。
生活を豊かにするくらいの力が、この世界の魔法にはある。
さて、ここからは私好みに内装するかな。私はこの木造建築を建てた張本人。それぐらいの権利はある。
できたばかりの新校舎へと入り、細かい内装を行っていく。
内装のモデルは私の実家の別邸を参照にして造っていく。
「フフフ、好き放題自由にできる。虚無りながら、真っ白なキャンバスに青空を描く如く……」
「マルスさん。一連の魔法はどうやっているのか。明日から講義して頂いてもよろしいですか?勿論、引き受けてくれた場合は。わたくしが王座に付いた時に報いますので」
(…………良くやった。素晴らしかった。妙技だ。牢屋に帰ったら、頭を撫でてやろう……感謝するぞ、マルス)
なぜ、追って来たのだろうか?
さっきまで静かにしていたエリスとアイニスが興奮気味に私の元へとやって来た。
「はぁ、さいで」
「え?あの?マルスさ、ん?」
(は?なんだ、その乾いた反応は?)
あっけらかんと返す私、それよりも今は、土魔法と木魔法で窓ガラスと縁の部分を精製、「ぬたあんの部屋」を爆速で作る。
「フフフ、ここで虚無って、青空を眺めながらの何も考えずの棒振り。考えただけでボーッとできる。フフフ」
「あ、あの、マルスさん!わたくしの話を聞いて下さい!マルスさ~ん」
「貴様!我が褒めてやっているのに、無視か?そして何が楽しくて不気味に笑っている?反応しろ!人の受け答えには明白な感情表現を試みろ!!」
2人に軽くお説教された。
なぜだ?
私はただ自由な学園生活を送るために新校舎を建てただけなのに、なぜ?
「おや?小屋の外が騒がしいですね?あぁ、この時間は例年通り、隔離クラスの生徒同士で喧嘩が始まる時間……てっ!何ですか?あの立派な建物は!?いつの間に?誰が何のために?」
それから、外ではシモン担任が大騒ぎをしていたが、いったい何があったのだろうか?