『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく   作:冰藍雷夏

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第12話 昼飯は自給自足にかぎる

 とりあえず、満足いく木造校舎は建てられた。

 

 満足したので、後は外の草原で木の棒を振るか、青空を見上げてボーッとして今日の昼休みは過ごそう。

 

 フフフ、なんて贅沢な時間の過ごしかただろう。田舎の実家にいた時には考えられない贅沢な仕方だ。

 

「お、おい!冗談だろう?飯が無い?俺達、人質で一文無しなんだぞ」

「嘘でしょう?私、スーラの姫なのに?嘘?自分で王都で自力で生きろっての?」

 

「皆さんは隔離クラスなので、当然でーす。学園内と王都で自由を与えられているだけマシと思って下さい」

 

 おぉ、なるほど。

 自分の餌は自分で取れと? 

 

 それならば冬季の実家の山修行とだいたい同じだな。

 あっちでは、服まで剥がされてすっ裸で過ごしていたからありがたい。

 

 なんて素晴らしい環境なんだ。

 

 青空の下、大草原が広がる過酷ではない環境。

 

 草もある。

 

 虫も生きている。

 

 探せばそこら中に小動物の魔獣も潜んでいるだろう。

 

 どれもこれも至れり尽くせりの最高の環境だな。

 

「おっと!そろそろ午前中の授業は終了ですね~、僕は夕方まで職員会議があるので行ってきます。その後は多分戻って来ないのでよろしくです~!」

 

 生徒の自主性を重んじてくれるシモン担任は、楽し気に手を振りながら木造校舎から出て行った。

 

「ふざけんなーっ!何が担任だ!無責任過ぎんだろう!持ち込んだ金まで没収しやがって!ざけんなっ!」

「学ばせない!授業も教えない!学内で自給自足しろだと!?馬鹿にしているのか!?」

「いくら私達が人質だっていっても、待遇悪すぎじゃない!ふざけないでよぉ!!」

 

 シモン担任が居なくなると同時に、学友達は騒ぎ始めた。

 

 どうしたのだろうか?

 

 ……いや、分からないでもない。

 

 彼等はお腹が減っているのだ。

 

「…………」

 

(エリス姫様。これは)

 

「えぇ、わたくし達は挑発されていますね。このままこの中の誰かが問題行動を起こせば、その問題を起こした子供の出身地である領地か国へ攻め込む口実ができますから」

 

(宰相の第一王子が考えそうな手ですね)

 

「えぇ」

 

 エリスとアイニスも皆にバレないように、お腹が減ったと言い合っているんだろう。

 

 まぁ、私は私で、お昼ご飯の調達に行くとしよう。

 

 さっき、地中から出た時に野生で生えていた野草と香草を見つけたので、それをサラダにし、近くに潜んでいる小動物でも仕留めて美味しく頂こう。

 

「フフフ、じゃあ、私はこれで。昼後にまた会いま……ぬぉ」

 

 ビタンッ!と誰かに服を引っ張られた。

 

 誰だ?

 

(我だ。アホマルス)

 

 ……アイニスだった。

 

 エリスの影から身体を半分出し、私の制服を思いっきり掴んで、制服が破れた。

 

 勘弁してほしい。制服はこれ一着しかないというのに。

 

「離してほしい。私のことはもうそっとしておいてほしい。私はなにもできない虫のような存在なのだから。もう自由にさせてほしい」

 

(貴様レベルの天災を放っておいたら、この学園が滅ぶわ。それよりも、貴様に相談したいことがある)

 

「相談?」

 

 もう勘弁してほしい。私は自由が欲しい。

 

 地下の秘密部屋は抑えられ。

 木造の新校舎は造ったというのに。

 

 これ以上私から空を見てボーッとする権利を奪わないでほしい。

 

(何をそんな死んだ魚のような目で我を見ている?目潰しで失明したいのか?)

 

 ……アイニスは、私に恨みでもあるのだろうか?

 なぜ、私の身体のどこかしらの部位を痛めつけたいと思うのか。

 

(マルス、貴様が保有者である赤竜の亡骸を売って得た金で、クラスのメンバーに昼食を取らせたいのだが、いいか?頼む)

 

「は、い?どういうこと?」

 

(だから、お願いしているのだ。ここに居る連中は、蛮族な貴様以外は皆が貴族や王族の類いの人質だ。昼食を自給自足で補うなど不可能に近いだろう。だから頼む。エリス姫様が王位に就いたあかつきには、貴様にこれから借りる金を数倍にして返すと約束する。ですよね?エリス姫様)

 

「え?あ、そ、そうですね。よ、よろしくお願いいたします。マルスさん!」

 

 よく分からないが、2人に頼まれてしまった。腹が減ったのならば、そこら辺の草でもサラダ代わりに食べれば飢えなど凌げるだろうに。

 

「腹が減ったのならば、そこら辺の草でもサラダ代わりに食べれば飢えなど凌げるだろうに」

 

(は?馬鹿か貴様は!?)

「ま、マルスさん!?」

 

 おっと、思ったことを素直に口に出してしまった。二人共ドン引きしている。

 

 私の田舎の雪山での山籠りではいつもそうだったんだが、都会では違うらしい。

 

 そしてだ。どうやら失言だったようだ。

 2人の私の見る表情は野蛮人を見るそれだった……これは、2人のご機嫌取りをしないと今後の関係性に影響するパターンか。

 

「えっと、お金なら好きに使っていい。その代わり私を自由にしてほしい」

 

「それは勿論です。マルスさんには、こんな素敵な校舎を建ててもらいましたから。後はわたくしの護衛に専念を……」

 

(いえ、エリス姫様お待ちを。こいつの行動原理はアホの極みなので、何を仕出かすか分かりません。マルス、貴様には感謝している。だが、これから何をする気だ?危険なことをする気ではないよな?貴様は2日前に王宮の調理場を水浸しにしていたから1人では行動させたくないのだ)

 

「そ、そうなのですか?マルスさん!」

 

 ……アイニスめ。余計なことを言ってくれたな。

 

 あれは地下トンネルを開通させようとした時に、調理場の水用配管を壊してしまっただけじゃないか。

 

(後、それから王宮内の庭園に穴を開けていたな)

 

「ま、まだあるんですか?マルスさん!!王宮内で何をする気なんですか?」

 

 ま、まずい。エリスが怒り始めた。

 ここから退散しなくては。 

 

 そうだ。

 逃げよう、私はこの学園では自由の身なんだ。

 

「わ、私のお金はクラスの皆のために好きに使っていい、私はそれよりも食料を調達しに行く。さらば」

 

「あっ!待って下さいマルス!話はまだ終わっていませんよ!」

(……食料の調達?こんなあたり一帯草原しかない場所で食料などあるものなのか?……エリス姫様。暫くの間、マルスを自由にさせておきましょう)

「え?よろしいのですか?アイニス」

(はい、あいつはゼロから1を作る凄い奴ですから)

「?」

 

 私を追いかけようとするエリス。

 

 私の言葉に引っ掛かりを感じたのだろうアイニスは、なぜかほくそ笑んでいた。

 

 

◇

 

 

 外へとやって来た。

 

「あ~、疲れた」

 

 暫くの間。

 

 太陽を浴びながら青空を見てボーッとする。

 

 少し減った魔力と精神を完全回復させる。

 

「……ん、補充完了。全て元気になったぞ。(グゥ~!)」

 

 お腹は空いているけれども。

 

「クラスという集団はやっぱりあれだ。画面越し(あるいは遠目)ならともかく、少し疲れる」

 

 魔法教師の時代もあったが、それは第二の転生の時の話。

 

 今は腹ごしらえが最優先事項なので、食料を集めていく。

 

「一見するとただの大草原にしか見えない場所でも、目を凝らすと色々と居るもので……そこ」

 

 無詠唱の土魔法で石ころを作り出し、勢い良くターゲットに射出した。

 

「ピィギュッ!?」

「ピィ!?ピィ!?」

「キュッ!?」

 

「丸々と太った空鳥に、痩せこけた草栗鼠、育ち盛りそうな若い野兎か」

 

 この時、射出した石ころで獲物を殺さないように手加減しなくては駄目。

 

 あまりにも勢い良く射出すると獲物の身体を木っ端微塵にしてしまう恐れがあるため、微細な魔法コントロールで気絶だけさせる。

 

 これをこれまでの人生の中で、呼吸と同義で行えば、ボーッとしていても自然にできるようになる。

 

 自然に、何も考えず、身体にそれを刻ませてきて今がある。

 

 ……と、今は獲れたメインディッシュの選定をしなければ。

 

「痩せこけた子栗鼠は死にかけで病気を持っていそうだから逃がす」

 

「ピィ!……」

 

「まだまだ若い野兎は……雌か。子育て時期に入り肥え始めたら食べるので、今は逃がす」

 

「キュッ!」

 

「ピィギュ、ピィィ!ピィィ!」

 

「そして残った空鳥は、腹の周りに贅肉たっぷりか。近くに生えている香草のチグリス草と一緒に焼いて食べよう」

 

 土魔法と草魔法で簡易的な調理器具を作っていく。それと皿やらテーブルと椅子も。

 

 ちなみに、この道具一式は終わったら分解して自然に返せばいいので楽でいい。即興のマルスクッキングの始まりだ。

 

「ピピイィッ!ピピイィ!!」

 

「……元気いっぱいだな。鳥料理か。卵があれば親子丼もできただろうか。いや、調味料や米は流石に魔法では精製できない。無理だ。成長促進はできるけど……ね」

 

「ピィキッ!?……」

 

 鳥の頸動脈を切り、締める。

 

 その後は頭を下にして血抜き。この血も勿体ないので土魔法で造った小瓶に入れて保存しておこう。王都郊外で夜に行う予定の魔獣狩りの誘い罠の材料に使えるだろう。

 

 それから、羽根も風魔法で丁寧に一枚一枚抜いていく。書くためのペンすら持っていないクラスメイトのために、即席の羽根ペンとして再利用する。

 

 後は、腹を開いて食べられない部位は取り除き焼く。そして、さっき逃がした痩せこけた草栗鼠と育ち盛りの野兎の方へと投げてやる。

 

 食べるかは知らないが、捨てて無駄にするよりはいくらかマシだ。それに他の野生の獣が食べに来るかもしれない。

 

 自然の命を頂くというのはそういうことだろう。

 

「水魔法で捌いた部位を洗って、鍋の中に入れる。後は、臭い消しと薬湯の効果があるチグリス草に入れて20分ほど火で煮込めば完成」

 

 出来上がっても香辛料をほとんど使っていないため薄味だろう。

 

 まぁ、それも仕方ない。

 

 ここには素晴らしい学ぶ環境は用意されているが、他の学年クラスのように何かがあらかじめ用意されているわけではない。隔離クラスの皆が文句を言うのも分からなくはないが。

 

 ないなら作る。

 

 ないなら自分達で何かを学び取る。

 

 それができる環境を与えられたことに感謝すべきか、人質だとしても最低限の物は用意しろと騒ぐべきか。まぁ、騒いだところで現状は良くならないから皆苛立っているんだろう。

 

「少し協力すべきだな。そうしなければ、エリスはともかくアイニスに私がお仕置きされてしまうか……薄い」

 

 

 即席で作った「空鳥の薄味スープ」を堪能しながら、私は午後からやる農耕について少し考えを巡らせ始めた。

 

 

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