『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく   作:冰藍雷夏

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第13話 即席の穀物畑を作ろう

 わたくしの名前はエリス

 

 冒険者のただのエリスです。

 

 そう、この学園…いえ、この王都内に居る時はただのエリス。

 

 

「……マルスさんは、外で青空を眺めていますね」

 

(マルスのことは、もう放って置きましょう。あいつは大丈夫です。エリス姫様には無害な存在ですから)

 

「あらあら、アイニスったら、いつの間にかマルスさんを信用するようになっていたなんて、いつ頃仲良しさんになったんですか?」

 

(は?な?ち、違います。エリス姫様!あいつと我は宿敵!そう、宿敵同士なのです!)

 

「フフフ、はいはい」

 

「え、エリス姫様!」

 

 わたくしの影の中に潜んでいるアイニスをからかいながら、クラス内を見渡す。

 

「……もう駄目だ。食事も自分で用意しろ?全ての荷物は奪われ、この国にまで付いてきてくれた使用人まで追放された。僕独りじゃなにもできない」

「あたしは国賓として招かれてたのに、なんて扱いよ。何で?何で何でよ!?」

 

 皆さん、憤っていらっしゃいますね。

 

 いえ、それも当然です。

 

 草原というなにもない外へと連れて来られたと思えば、食事も用意されないなんて、ここに居る方々の大半は貴族や他国の位の高い人質の皆さん。そんな高貴な立場の人達には耐えきれない屈辱でしょう。

 

「皆さん、わたくしは冒険者のエリスと申します!先ほど、わたくしの荷物持ちのマルスさんから隠していたお金を受け取りましたので、このお金を使って今から食堂へと向かいましょう」

 

「誰?」

「あぁ、入学式の時に貴族同士の戦いに巻き込まれてた女の子か」

「お金を持ってる?嘘?ご飯が食べられるの?」

 

 皆さんがわたくしへと注目してくれましたが、やはり警戒されていますね。

 

 今日会ったばかりですし、当たり前といえば当たり前ですね。

 

 この王族の関係者だと正直な素性を明かしても、シモン先生に向けられている怒りの矛先がわたくしに向いてクラスが崩壊するだけですし。

 

 今は冒険者エリスの肩書きを名乗りクラス内では行動していくしかないのがベストなのですけど、人質としてこの国に連れて来られ、疑心暗鬼になっているクラスの皆さんにわたくしを信用してもらうにはどうしたらいいんでしょうか?

 

「皆さん、初めまして。我はシルヴィア王国第一王女エリス様に仕える暗殺…専属メイドのアイと申します。このお金は皆様と同じクラスメイトであるエリス姫様が、自身で保管していたお金を皆様にお貸しするのです。現在、皆様はお金をお持ちでないと知ったエリス姫様が、皆様のために捻出し、我に渡して皆様にお配りするようにこちらへと我を派遣なされました」

 

「え?その声はアイニス……なのですか?」

 

(エリス様。ここは我にお任せ下さい。上手く彼らを説得して、食堂へと導きます)

 

 いつの間にかわたくしの前には、メイド服を着た謎の人物が……と思いましたが。素顔を別人に変えたアイニスが立っていました。

 

「第一王女エリスって、行方不明になったって王女だよな?え?冒険者のエリスと名前同じ?それじゃあ、あの娘は王女エリス様なの?」

「い、いや、エリスなんて、シルヴィア王国じゃ、三聖女神エリスは有名で、この国で産まれた女の子に付けられることが多い名前なんだぞ。それに俺はエリス姫を間近で見たことあるけど、あの娘は別人だぞ」

「そ、そうなの……」

 

 良かった。

 クラス内に紛れさせているアイニスの部下の方が、王女エリスと冒険者エリスは別人であると嘘をついてくれました。

 

 流石は、わたくしのアイニス。

 何かがあればすぐに対応してくれますね。

 

「それでは、皆様。食堂へと向かいましょう。我が案内致します」

 

 ……そして、凛としてますね。

 

 流石は本物。貴女はなにもかもわたくしとは違いますね。

 

 アイニス。

 

 

◇

 

 

 皆さんを先導し、食堂へとやって来ました。

 

「ほう。入学式初日で食堂に来られるとは、今年の隔離クラスは優秀ですな。お金はお持ちで?」

 

 スーツを着た給仕係りの方が、わたくしに話しかけてきました。

 この学園でまさか人として普通の扱いを受けられるなんて思いもしませんでしたね。 

 

「……え、えぇ、全員持っています」

 

「そうですか。ならば、次は誰の紹介で食堂へと来られたのか教えて頂きますか?もしくは食堂会員証を誰かお持ちでしたら、食堂の中へとご案内致します」

 

「え?食堂会員証?そんなような物が必要なのですか?」

 

「えぇ、最近、食堂内でとある事件が起こりましてね。それにより、王国側が食堂への出入りを厳しくしたのです」

 

 そんなこと聞いたことがありません。

 これも、わたくし達隔離クラスを食堂へと近付けさせたくない国の意思を感じてなりませんね。

 

「おや?おんやぁ?これはこれは落ちこぼれで冒険者のエリス様じゃないかぁ!そんな人質連中をぞろぞろと引き連れてなにしてるんだ?まさか、ここの食堂で食事でも取る気なのかな?ん~?」

 

「……貴方は、まさか?」

 

 小太りの男の子がニヤニヤと笑いながらわたくしの元へとやって来ましたね。

 

 シルヴィア王国第三王子派閥にいたザボン・リストラさん。

 

 そして、今は……

 

「ぶひふぅ~!しかし、いつ見てもエリス貴様は……」

 

「あぁ、第三王子派閥から第一王女派閥へと寝返ったと噂のザボン様とご一緒でしたか。それならば、最初にそう言っていただえれば、食堂へとご案内いたしましたのに。ザボン様、食堂会員証はお持ちですか?」

 

 ガタイの良いサービスマンがザボンさんへと近付くと、ザボンさんは怯え始めました。

 

「しょ、食堂会員証?こ、これのこと……ぶほぉ!?」

 

「おぉ、そうですか。ありがとうございます。これは我が預かりエリス姫様へと渡しておきましょう。感謝致します。第三王子派閥から第一王女派閥へと寝返ったザボン・リストラさん」

 

 ザボンさんが懐から取り出した食堂会員証を、速攻で奪い取るアイニス。

 

 まさに電光石火の早業です。

 

「これをどうぞ」

 

「はい、確認致しました。それでは皆様はこちらへ、大食堂へとご案内致します」

 

「ま、待て、ぶきぃ!寝返ったとはどういうことだ?それに僕の食堂会員証を返せ!それはパパが僕にくれたものだ!僕のだぞ!それになんだ?僕がエリス姫の派閥に寝返ったってどういうことだ?僕はなにも知らされていないぞ!教えろ~!」

 

 大騒ぎし始めるザボンさんを置いて、わたくし達は食堂へ向かいます。

 

 そして、アイニスがわたくしの隣に立ちボソッと耳打ちを……

 

(エリス姫様。やはりマルスの奴はこの学園では放逐しておきましょう。その方が我々の有利に働きます。その証拠に、我々は仮初めではありますがリストラ家の後ろ楯を手に入れました。食堂会員証をどうぞ)

 

「あ、ありがとうございます、アイニス……そうですね。こ(・)の(・)学(・)園(・)内(・)では、マルスさんに自由に動いてもらいましょうか。それから、アイニス……」

 

 わたくしはアイニスと今後のことを手短に話し合ったのでした。

 

 

 

◇

 

 〈マルス視点〉

 

 

 食事を終えて

 腹は多少は膨れた。

 

 膨れたが……

 

「こんな手間もかかって、味気ない食事ばかり取っていたら、栄養バランスがおかしくなって病気になるな」

 

 クラスの皆はまだ戻って来ていない。

 

 食堂でゆっくりしているんだろうか?

 

「まぁ、授業もなく好きにしていいと言われているならそうするか」

 

 私も青空を見てボーッとしながら、アイデアが出るのを2時間くらい待っている。

 

 楽しい。

 

 ただただボーッとなにも考えずに青空を見ているのは楽しい。

 

「このまま田舎に帰って、母上が作ってくれる芋ゴロのアイスクリームが食べたいな」

 

 ふと思い出すのは母上の手作り氷菓。

 

 氷の魔王と呼ばれた母上イヴの母の味。

 

「……母上の芋ゴロか……芋ゴロ。たしか王都内でも自生していた。なら、ここら一帯の草原にも生えてるかな?」

 

 母上を思い出してからの芋掘り敢行。

 

 近くの草木に入って、目を凝らす。

 

「ん~、そう簡単には見つからないか。私は眼に対する能力は低いんだ……『千里眼』」

 

 人間なんでも得手不得手がある。

 

 私は父上のような『妖精眼』や母上のような『未来眼』も持っていない。

 

 一時的に使えるとしたら、辺り数十キロ先の周辺を隈無く見ることができるようになる『千里眼』くらいか。

 

「お、埋まってる埋まってる……私の後ろに埋まってた」

 

 灯台下暗し。

 自分のすぐ近くに生えていた。

 

 ボーッとし過ぎて、見落としていたな。ハハハ。

 

「魔法で掘り出すと傷が付く……手作業でと。フフフ、手を汚しながら大地と戯れるのも良いじゃないか、良いじゃないか」

 

 実家の庭園では家族や使用人達と楽しく菜園をやっていたな。

 外に出れば蔑まれるし、田舎なのでやることがないため暇潰しの家庭菜園。

 

「そういう素朴なのが良かったな。心は磨り減ってはいたが、皆に囲まれての暖かい田舎暮らしは良かった」

 

 まぁ、今は今でシモン担任のお陰で自由な学園生活を謳歌して良いんだ。

 私は昔から、環境には恵まれている。

 

「おぉ、掘れた掘れた、芋ゴロだ。小さいが芋ゴロだ。フフフ、土まみれだ。制服も汚してしまったが、“生きて行動している”と実感できるのは嬉しいな」

 

 満足そうに微笑む。

 

 フフフ、楽しい、楽しい。

 

 芋掘り作業が楽しいな。

 

 その後も機嫌良く、時間をかけて芋掘りをしていく。

 

 いつの間にかクラスの皆も戻って来たが、その中にエリスとアイニスの姿はなかった。

 

「なに、してるの君?」

「うわぁ、泥だらけじゃん!」

 

 私の芋掘りがおかしかったのか、興味を持った数人のクラスメイトが話しかけてきた。

 

「ん?芋掘りを、自給自足のために農耕を……畑を作ろうと思って」

 

「畑を?」

「自給自足って、ここは農耕地帯じゃないよ?」

 

「あぁ、それは大丈夫、ここの土は良質なので」

 

 「畑」「自給自足」という単語を聞いた他のクラスメイトが、だんだんと集まってくる。

 

「土魔法で耕していく。木造校舎の陽当たりの良い場所が良いかな」

 

「え、詠唱無しで土魔法を?」

「どうやってるの?それ?」

「正確に四方を区分して耕しているのか?凄い」

 

 皆暇なんだろうか?私の行動1つ1つに大きなリアクションで返してくる。

 

 まぁ、見ていても魔法原理は分からないと思うので、明日にでも、魔法詠唱を使っての土魔法原理を教えてあげてもいいかもしれない。

 

 こういう何かに興味を持つ生徒が近くにいると前世の魔帝時代の血が騒いでしまう。フフフ、暇な時は授業でもしてあげるかな。

 

「集めた芋ゴロを木魔法で成長促進させて、ある程度発芽させたら、小さいものはそのまま植えて、大きい奴は何等分かに切り分けて植えていく。素手でやると危ないから、私が土魔法で精製した包丁や鍬を使って作業して。怪我には気をつけて」

 

「……なんか授業みたいだ」

「土魔法で精製?土魔法でそんなことができるの?」

「は~い!マルス先生」

 

 畑を耕して、掘って集めた芋ゴロの発芽した物を均一に植えて、土を被せていく。

 気がつくとエリスとアイニスを除くクラスメイト皆が、私の芋ゴロ作業を積極的に手伝ってくれていた。

 

「……よし、『洗浄』」

 

「汚れていた制服が綺麗になった?」

「それだけじゃないよ。体の疲れも汚れもなくなっていく」

「……せ、洗浄?そんな魔法聞いたことないんだけど!」

 

 畑仕事で汚れた皆の体と制服を綺麗にし、これから芋ゴロ生長促進のための儀式を始めていく。

 

 魔法で生物を急成長させることはできないが、自然のマナに祈りを捧げて「奇跡」を起こせば、作物の急成長ができるというもの。

 

 そう。今から耕したばかりのこの畑を芋ゴロの緑色の新芽色に変えていこうと思う。

 

 

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