『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
雨乞い、祈祷、儀式
お祈りの仕方は数あれど。
この世界《ハクロギア》では、それらの行為を「奇跡」の祈りと呼ぶらしい。
今回行うのはジ○リの映画に出てくるトト○式で良いだろう。
たかだか、大気のマナを使っての芋ゴロの生長促進で命まで削る必要はない。
「ハスの葉っぱが一番絵になるけども、ここはジブ○の世界ではないので、代用に茂みに落ちていた木の棒を使おう。両手に持って上下に上げ下げすれば、三聖女神デメルに願いが多分届いて芋ゴロが育つ」
「……木の棒で?そんなことで「奇跡」が起こせるの?」
「まぁ、暇だし、ここまで来たら最後まで付き合うけど」
疑心暗鬼なクラスメイト達。
だが、午後の授業もなく、夜の食料もないこの状態。
芋ゴロが育って収穫できなければ飢え死にする。多分、学園側もそれを狙って食料は自分達でどうにかしろと無茶難題を言っているんだろう。
「ん~ば~!ん~ば~!……声を出すのが恥ずかしい人は、身体を上下させるだけでいいから」
「良いんだ!?マルス先生って、こっちのこともちゃんと考えてくれるんだね」
「マルス先生って……俺達と同じ制服だし同級生だよね?」
「まぁ、呼び名はなんでもいい。私は青空を見てボーッとできればなんでも良いさ。ん~ば~!ん~ば~!」
この祈りも楽しい。
自然と自分が一体になっていると錯覚し、頭の中がリフレッシュできる。
周りからはどう見られていても、これをやることに意味がある。
田舎ではこれをやると、育ちにくかった作物が育ちやすくなるんだ。
「「「ん~ば~!ん~ば~!」」」
そして、いつの間にか食堂から戻って来たクラスメイト達皆が私と同じように祈りを捧げ始めた。
芋ゴロの生長促進のため、無詠唱の水、風、雷魔法を同時平行で発動、雲を生み出して、魔法の晴れているのに小雨も降っている状態。通称「狐の嫁入り」状態の環境を作り出す。
これなら土の中に植えた芋ゴロが芽を出して葉っぱを付け始めたタイミングで日光と水やりを同時にできるので楽ができる。
「ん~ば~!ん~ば~!お、芽が出てきた。フフフ、本当にト○ロのどんぐり栽培のようになってきたぞ。ん~ば~!ん~ば~!」
「三、三重の魔法?それも詠唱なし?」
「いや、それよりもなんで植えたばかりの苗から新芽が出始めてるんだ?」
それも大気のマナを「奇跡」の祈りで吸わせて生長促進させているからというのは、もうちょっと詳しく説明しないと理解が追いつかないと思うので後で講義しよう。
「……肥料がないと育ちがいまいちか。やはり、貝の死骸が欲しい。炭酸カルシウムで土壌を良くしたい。それからそれから、別の種も欲しい。これほどの大草原、一部の地下を空洞化して、水魔法で出した水で貯水環境を確立させて、田んぼ、田んぼもやりたいなぁ。稲がいるが田んぼをやって怪我する人がいたら困るな。農耕では穀物か麦が無難か。でも、米も捨てがたい。ん~ば~!ん~ば~!」
「ブツブツ何かを言いながら、祈りを捧げているけど。あれも魔法か?」
「い、いや、でもちゃんと葉っぱも大きくなってきてるわ」
新緑の葉っぱだ。
それにだんだん紫色の芋ゴロの花も咲き始めた。
どうやら、私達の祈りが三聖女神デメル様に通じて祝福されたのだろう。ありがたい、「奇跡」を起こして頂き感謝します。
魔法で人工的に行っていた狐の嫁入りを止め、しばらくの間皆で「ん~ば~!ん~ば~!」と祈りを捧げる。
すると葉っぱは枯れ始めた。この枯れたタイミングが収穫の時期のため、皆で行っていた「奇跡」の祈りを止めた。
「うん。芋ゴロが食べられるくらいに生長したので収穫しよう。これで夜食は自分達で補えると思う」
「ほ、本当に!?夜もご飯を食べられるのか?」
「こんな短時間で育つなんて、聞いたことないけど。今は食べ物が手に入れられた嬉しさで頭がいっぱいだよぉ」
「芋ゴロのお料理楽しみ」
無事に芋ゴロを育て切ったことをクラスメイト皆で喜び合う。
……こういう皆で何かを行いやり遂げる達成感、良いな。
心がほっこりするなぁ。
その後は、皆で手作業で協力し合い、芋ゴロを収穫し始めた。
◇
我の名前はアイニス。
エリス姫様の護衛兼暗殺者家業をしている者。
現在はエリス様の代理としてここに居る。
「で?どう責任を取るつもりなんだ?不出来な弟のオルカス。お前は私の派閥の者を1人減らし、シルヴィア魔剣学園の入学式をメチャクチャにした責任が生じたんだが?」
「せ、責任って!兄上!俺はそんなもの関係していないんだ!全てはエリスのせいだ!そ、そう!全部あいつが仕組んだことなんだ。リード兄上」
「………………」
先ほど、我が通された部屋。
学園会議室。
現在、ここには3人の王族関係者が集まっている。
第三王子リード・シルヴィア。
国の軍事参謀長を担っていた男だが、少し前に起きた隣国リゼルト国との戦争に負けた原因として、学園に再入学した男。
現在は、高学年の生徒達と学園の覇権を争っていると噂に聞いたが。本当かどうかは分からない。
第五王子オルカス・シルヴィア。
エリス姫様と腹違いの異母兄妹で、幼少の頃からエリス姫様の命を狙い続ける小物。
朝の入学式では大問題を起こしたくせに、平然とここに居るのが不自然で不気味だ。
第一王女エリス・シルヴィア様。
現在、我の影の中で息を潜めさせている。
「エリスのせいにするな。だいたいエリスはお前の策略で城から追い出され、この国では存在しない状態なのだろう?全てはお前が現国王陛下に泣きつき懇願したこと……それを知っていいのも王族と貴族関係者に限定などと馬鹿げた制約を設けたうえでな」
「そ、それは!そうですけど!エリスはこの学園に居るのです!隔離クラスで堂々とリーダー気取りで!」
「黙れ、ガキが!」
「ひいぃぃ!ごめんなさい」
オルカスは子供ながらも浅知恵が働く悪童で、現国王からも可愛がられている。それをリードも深く理解しているのだろう。
「エリスの専属メイドよ」
「はい、リード様」
「エリスにもしも会えたら伝えろ。馬鹿な弟が迷惑をかけたとな。それと私の派閥からお前の派閥へと移動した馬鹿なリストラ家のことはよろしく頼む。まぁ、数日後には消えているだろうがな」
「畏まりました」
「あぁ……それとオルカス、国王……いや、お爺様からの伝言だ」
「ぎひぃ!お、お爺様からですか?もしかしてエリスをぶっ殺してくれるんですか?リード兄上!ありがとうございますぅ」
泣きじゃくっている、だらしない顔だ。冷徹な表情のリードにそんなすがった顔をすれば、ボロ雑巾になるまで利用され尽くすというのに。
「違う。お前が脅して派閥に入れていた、騎士団長のシュマルト・ブルトワを、お前の派閥からエリスに移すそうだ」
「へぁ!?シュマルトを僕から取り上げるのですか?それでは僕の派閥の騎士貴族が離れて行ってしまいます!リード兄上!!」
「知るか!全てはお前が下らない私情で動き、周りに迷惑をかけたのが原因だろう。おかげで、味方の貴族が誰一人居なかったエリスにリストラ家とブルトワ家が組することになったんだぞ」
「え?なんでブルトワ家が?シュマルトが、僕の元からエリスの元になんて行くんですか?兄上!?」
「シュマルトがじきじきに国王陛下にお願いしたことだ。私は詳しいことなど知らん、興味もないからな……それよりもだ。国王陛下はお前にこれを渡せと言っていたぞ。受け取って飲め、オルカス」
リードが小箱を取り出し、さらにその中から小さい鳥の死骸?に包まれた玉を取り出した。
何だあれは? 琥珀? いや、魔獣の魔石か?
「あ、あの?リード兄上、こ、これはいったい、何なのでしょう?」
「さぁ、知らん。いいから飲め」
「い、え、あの、これはいったい?」
「……そうだな。飲めば分かる。だから飲め」
「ひいぃぃ!い、嫌ですぅ!」
リードの圧は強い。
幼少の頃から武芸を磨き、12歳の頃には、北方の戦場で活躍していたという話をエリス姫様から聞いたことがある。
「……あぁ、そうだ。お爺様……国王陛下はこう仰っていたな。それを飲めば人知を超越した力が手に入り、王家の権力闘争にも勝てるかもしれないと」
「へ!?お、お爺様がそのようなことを?」
「あぁ、それに、それを飲めばお前の今回の失態の一部にも目を瞑るともな」
「力……失態に目を瞑る……力……失態に目を瞑……るっ!!……ゴクッ!」
「はっ!飲んだか。さぁ?どうなる?」
「…………馬鹿だ」
「ごげぇぁ!?兄、上、僕に……いや、俺に何を飲ませやがったぁ!?……ぎええええええええええええっ!!!!!」
「この私に向かって俺だと?いよいよ本性も隠せなくなったか?化物な弟よ!」
この日、王族の一部が集まる学園会議室に化物が現れたと、後の学園事件記録に記録された。
「ハハハハハハッ!!馬鹿め!本当に飲む奴があるか?国王陛下のご命令だと?違うは馬鹿が、それは私の派閥の研究者が作ったとある薬だよ。馬鹿な弟オルカスよ!ハハハハハハッ!!なんだこの化物は?素晴らしい!なんて迫力だ!」
【ギョエエエエエエエエエエエエッ!!】
「……これは!?」
(どうしましたか?アイニス)
(エリス姫様。オルカスが変質しました)
(?)
◇
〈マルス視点〉
フフフ、大豊作だ。
流石は皆で祈りを……「ん~ば~!ん~ば~!」しただけはあるな。
それとありがとうございます。
三聖女神デメル様。
私達の祈りに答えてくれて。フフフ。
にこにことほくそえむ私。
木魔法で編み出した籠の中に収穫したての芋ゴロを入れていく。
「マルス先生、手際良いね。慣れてるの?」
私の隣で、ずっと作業を共にしていたクラスメイトのニアが聞いてきた。
「まぁ、田舎に居てずっと農作業してたから」
「ふ~ん。凄いじゃん」
なぜか褒められた。
「マルス~!収穫した芋ゴロだっけ?これを食料、栽培用、保存用の三つに分けたけど。保存用は暗所に置いておかないとすぐに発芽するんだよな?どうするんだ?」
私よりも歳が上のガリウスが、保存用の芋ゴロの籠を持って聞いてきた。
「ん、今から小屋を作る。3秒でできる。待ってて」
私は、木魔法で木造校舎近くに二個ほどの小屋を即興で建てた。
「3秒って、そんな早くできるわけ……てっ!できてる?はやっ!」
「うん。その中に保存をしておいて。食料が足りなくなったらそこから足すから」
「りょ、了解した」
「フフフ、よろしく頼むよ」
うん、人が手伝ってくれるのはありがたい。
1人で作業するよりも効率良く、青空……いや、もう夕陽か、を見てボーッとでき……
「む?」
「?どうしたの?マルス先生」
ニアが心配そうに私の顔を覗き込む。
「い、や、空から人面鳥……ぉ?」
そう、夕陽の空から何かが飛んできて……
【「ギョエエエエエエエエエエエエッ!!」】
「え?口から火?」
「なんだよ!あの怪物!止めろ!火を撒き散らすな!」
「……!」
私達が今日一日かけて造り上げた木造校舎を、火の草原に変えた。
「それに……加護が見えない化物とは、これいかに?」
このマルスの眼をもってしても、この謎の化物の詳細は皆目検討つかなかった。
【「グエエエエエッ!!」】
人面鳥・加護「不■」