『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく   作:冰藍雷夏

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第15話 夕陽の中の炎草原 静かに怒る無表情

 夕暮れ時のことだった。

 

 皆で一致団結し、芋ゴロの大豊作に喜び、和やかなムードの時にそれは現れた。

 

 まるでその時を狙ったように現れ、顔面には鳥の顔、首元には人の顔。二つの口元から紅蓮の火を放ち、私達の今日の成果の全てを焼き払い始めた。

 

 

【「グエエエエエエエッ!!」】

 

「巨大な人面鳥?」

 

 夕陽の空から飛来した化物鳥をボーッと観察する。

 

「そんな!マルス先生が建ててくれた新校舎がっ!」

「畑を燃やすな!止めろよ!」

「木造小屋も燃やされてる!止めて!止めてぇ!」

 

 逃げ惑うクラスメイト達。

 

 

【「ゲラゲラゲラゲラ!!」】

 

 

 そして、その逃げ惑うクラスメイト達を見ながら、人面鳥は楽しそうに笑っていた。

 

 先ほどまでの楽しい雰囲気は終わった。

 

 今日の夜は、大鍋で芋ゴロの煮っころがしを作って振る舞うと皆に言っていた。

 

 明日の朝食で、皆が腹を空かせないために芋ゴロの団子でも作って持たせて帰ろうとも思案していた。

 

 それが突然現れた理不尽と怪奇的な化物に、跡形もなく破壊されるとは思ってもみなかった。

 

「くそぉ!戦えない奴は遠くに逃げろ!森だ!遠くに見える森に逃げろ!戦える奴らはこいつを取り囲め!」

「「オウッ!」」

 

 ガリウスが戦闘の指揮を取り始め、鍬を持って人面鳥を取り囲み始める。

 

「皆、こっちに来て!あたしの土魔法で防壁を作るからその中に避難して!アースホールッ!」

「は、はい!」

「いやー!誰か助けて!」

 

 ニアはニアで、草原の地中に巨大な穴を掘り、戦闘ができないクラスメイト達を避難させ始めた。

 

 このクラス。

 他国や国内の貴族が人質で集められているが、その中でもちゃんとした戦闘経験がある者もいるとはな。

 

「ふぅ~、観察は終わり。解決させよう」

 

 無詠唱で水、雷、風魔法を使い、雨雲を発生させて大炎上している草原へと雨を降らし始めた。

 

 続いて、風魔法で人面鳥の体を細切れにして切り刻む。

 

「詠唱した方が魔法威力は上がるけども、それはめんどくさい」

 

 スパンッ!

 

【「ギャエエ!?」】

 

 人面鳥は細(・)か(・)く(・)刻(・)ん(・)で(・)も(・)意(・)識(・)を(・)保(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 そして、空中から人面鳥の切り刻まれた肉塊が草原へと降って来る……が。

 

「!……これは血肉が猛毒?燃やすか」

 

 人面鳥の切れた細胞から溢れる血の臭い。臭いで分かった。この人面鳥の体全てが、あらゆる環境を侵す何かだと。

 

 大規模な無詠唱の火魔法で人面鳥の全身を焼き払い、炭にして滅ぼした……

 

【「ギョ、ギョ、ギョエエエエエエエエエエエエ!!」】

 

 はずが、なんと復活した。

 

「……これは、凄い。とんでも生物だな」

 

 そんな復活した面白鳥をボーッと眺めながら、再び観察し始める私。

 

「お、おい!何なんだよこいつ?なんで身体が全焼してんのに甦ってんだ?マルス!」

 

 戦闘慣れしてそうなガリウスが戸惑うほどの光景か。

 

 不死性か?

 

 はたまた何かのトリックか。

 

「フェニックス……バジリスク?……いや、そもそも生物体系が違う?」

 

 ボーッと観察しながら、過去に覚えた記憶を遡りこの得体の知れない化物の正体を探る。

 

【「ケラケラケラケラ……きええぇええろろろろ!!」】

 

「は?喋っただと?」

「いや、それだけじゃない。また口から火を吐いて執拗に私達の今日の成果物を燃やそうとしている」

 

 せっかく作った芋ゴロ畑はもう駄目だな。

 そして、この人面鳥は私達など眼中にない。

 

 ここにある物を壊そうとするのが最優先事項みたいだ。

 

「……ガリウス、皆を連れて避難してほしい」

 

「は?何言ってんだ!お前だけ置いて逃げられるか、俺はお前に……」

 

 なぜ、頬を染めている。ガリウス……いや、草原が炎で燃えているからそう見えるだけか。

 

 ……多分そうだ。こんな男前のガリウスがあっちなわけがない。絶対にない。

 

 私は少し離れた場所に、土魔法で強大なドーム状の避難場所を作った。

 

「皆がいると私も上手く動けない。ここは私に任せて避難してほしい。頼むよ、ガリウス」

 

「うほぉ……お、おう。分かった。わ、分かったぜ、マルス。行こう皆、他のクラスメイト達を先導して避難するぞ」

 

 なぜ、頬を染めて言う?

 

「「おうっ!」」

 

「死ぬなよ、マルス!今度、王都で一緒に露店巡りするって約束したんだからな!」

 

 私とガリウスの間にそんな約束はされていない。

 

「……男の好色感か。いや、今は人面鳥の相手を優先優先」

 

 一度濁った頭を空っぽにしてボーッとする。

 

 先ほどのガリウスとのやり取りを綺麗さっぱり頭から忘れる。

 

【「ギエエエエエエ!!」】

 

 相変わらずの眼中無しとは。私は先ほどからそちらに対して、イライラが募ってるんだが。

 

 思い出すのは、クラスメイトの悲壮な顔、逃げ惑う時の恐怖の顔だった。

 それが私の摩り切れた脳裏に焼き付いて離れない。

 

「草原を燃やして草木灰《そうもくばい》の肥料化をしてくれるのは嬉しいが、少々やり過ぎてるとは思わないか?」

 

 風魔法を纏わせた右手を十字に切り、人面鳥の頸動脈らしき部分に深傷を負わせる。

 

【「かはぁ!?ギェエエエ!?」】

 

 人面鳥の首にあった顔から大量の赤い血が空中へと散布する。

 赤い血を地上へ落とさないため、火魔法で燃やして蒸発させていく。

 

 謎の顔面はどこかで見たことがある気がするが、今は気にしない。

 

 私は怒っている。

 

 私のことではないが、

 今日作り上げた皆の成果物を楽しげに燃やすなど言語道断。

 

「急所の即死が駄目なら、圧死はどうだろうか。潰れろ」

 

 冷たい声と共に人面鳥の上下に巨大な岩盤を土魔法で作り、風魔法で浮かせておもいっきりぶつけ合わせ、擦り潰し合わせる。

 

 バゴオオンンンッ!!

 

【「ギエェェ………」】

 

 途中まで騒いでいた人面鳥の叫び声は消え、静まり返る草原。

 

「仕留められれば良いけども……」

 

 3分ほど岩盤同士を擦り合わせて胡麻すりのように磨っていく。

 

 今頃は、岩盤の中ですり身以下の塵になっていることを願うのだけど。

 

 閉じていた岩盤を解放。

 潰れて死んでいるかを確認すると――

 

【「クエエエエエエエエッ!!」】

 

 甦った。

 

 それも完全復活とは。

 

「焼死も即死も圧死も駄目とは、どんな不死性魔物だ」

 

 正直、尋常じゃない回復性には興味が湧く。

 

 あれを生きたまま無力化して、部位ごとに保存研究したいが、こんな炎溢れる草原に研究施設などないので今回は却下。

 

【「どけええええええ!!!」】

 

「人語も片言で話せるとは、鈍い?……ゴルゴンの類い?いや、それにしては私やクラスメイトが石化していないな。逃げるな、卑怯者」

 

 私が思案中に逃げようとしたので、岩盤を使って檻を形成し鳥籠を造る。

 

 人面鳥専用の鳥籠を。

 

【「ギエェェ……ジャマをするな!化物!!」】

 

「いやいや、どちらが化物か。私はまだ育ち盛りの10歳であって」

 

【「だまれえええ!!毒楽鳥《ドクラクチョウ》」】

 

 人面鳥の口から紫色の液体が放たれる。

 

「うん。それは貰っておこう。高く売れそうだ。「風化」「土瓶」」

 

 風魔法で紫色の液体を回収、大きめの土瓶を作ってその中へと保存。

 

 空間魔法を使えればいいのだが、今は使ってはいけない。

 

 15歳まで空間系統の魔法の使用を禁止されている。

 

 これさえ解禁されれば瞬間移動や道具の空間保管などの技が使えるようになるけれど、家族がそれを許さない。

 

 10歳という未発達&未熟な身体で楽をさせたくないという親心らしい。

 使った瞬間、お仕置きの落雷が降ってくるとか。

 

「怖い怖い、この世で最も家族が怖い」

 

【「ギエェェ!!ダセダセここからダセ!!」】

 

 人面鳥は、相も変わらず私には目もくれずに草原を見ている。

 

 こちらへの敵対心がないなら見逃しても良かったが……

 

 ふと、再び思い出すのは、今日出会ったばかりのクラスメイト達との楽しい思い出。

 

(ん〜ば〜〜!ん〜ば〜!マルス、お祈りは楽しいぜぇ、ふぅ〜!マルスは最高だぜ)

 

 私を慈しんだ表情で見つめるガリウスの恋顔……いや、濃い顔。

 

(凄いね〜!こんなに収穫できるなんて思いもしなかったよ。ありがとうね、マルス先生)

 

 芋ゴロの大量収穫を大喜びするニアの笑顔。

 

(マルスさん。校舎を建てて頂きありがとうございます)

(マルス、今日の働きには感謝している。なので夜のお仕置きは……楽しみにしておけ。フフフ)

 

 私に感謝するエリスと、何かが嬉しいのか楽しそうに笑うアイニス。

 

 

「今日一日で、色々と人と出会ってしまったな」

 

 普段は青空を見ながらボーッとするのが好きな私も、仲(・)間(・)のためなら立ち上がる時もある。

 

【「グエエエエ!!ダセェ!ここからおれをダセェ!」】

 

「どこのどなたか知らないが、君は神木の枝木を知ってるか?」

 

 加護・「棒振り」

 

 今回発動するのは、ユグドラシルの虹の橋《ビフレスト》で良いだろうか?

 

 この得体の知れない怪物を、知らない場所へと渡らせよう。

 

 これからクラスメイト達が平和に暮らせるように。

 

「世界樹《ユグドラシル》の枝葉をここに」

 

 両手を夕空へと構える。

 

 その両手の中に虹色の枝木を精製する。

 

「普段はあまり怒らないんだが。私の大切な存在となった仲間達に、これ以上被害を与えるなら仕方ない。君をここから無に消そう。どうか虹の世界で幸せに……」

 

 ゆっくりと、静かに振り上げるは無双の太刀筋。

 

「〖世界樹《ユグドラシル》・虹《レグンボーギ》』」

 

 次元が裂け、

 虹色の一太刀が現れる。

 

【「ギエェェ!?これは?どこかに攫われる?止め、止めろおおお!!俺はこの国のだいごおおおおお……」】

 

 巨大な人面鳥の身体が虹色の一太刀へと吸い込まれていく。

 

 そして、私も知らないどこか遠くへと旅立っていくのだろう。

 

「天国か地獄かは知らないが、やり過ぎだ。殺しても死なないなら、別のどこかに行っておくれ。これからの私達の安全な学園生活のためにもね」

 

 人面鳥がいなくなり、

 周りは静かになっていく。

 

 発動させていた魔法も解除し、私は夕暮れから夜空へと変わった空を静かにボーッと眺めていた。

 

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