『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
「何ですかこれは?辺り一面焼け野原、校舎も丸焦げです。それにあれは……畑ですか?その中でクラスメイトの皆さんが楽しくお食事をしていますよ。アイニス」
(……雄叫びを上げながら怪鳥がこちらへと向かったと聞いて急いで戻って来てみれば、マルスはいったい何をしているのでしょうか?)
「マルスさんは……踊っています」
(……踊?は、い?)
驚いた。
この世界の人々は、焚き火を囲んで騒ぎまくる行為、「キャンプファイアー」を知らなかった。
「大木を重ねて中心に薪をくべる。そしたらこの周りでフォークダンスでぐるぐると回っていく感じ」
「いや、いくら説明されても分からないんだけど」
「俺は分かったぜ。マルスの手をずっと握っていて良いってことだよな?」
乙女のような顔でガリウスが私の手を強く握ろうと襲いかからんばかりに構える。
「……違う。男同士では手は繋ぎあわない。男女で仲良く手を繋いで踊っていく」
「そ、そんな!……ま、マルスの馬鹿野郎!なんでそんなことを言うんだよ!馬鹿野郎~!うわあああんん!」
ガリウスが、フラれた乙女のように両目から涙を流して、森の方へと走って行った。怖い。
「ちょっと!ガリウス!どこ行くの~!ちょっと~!」
それを追いかけるガリウスと同郷の幼馴染みのニアが心配そうに追いかけて行った。
「………………そういえば、ガリウスは今年で14歳と言っていたな。青春してるな二人共」
午後。
皆で農作業をやりながらクラスメイトの皆と挨拶を交わしながら自己紹介をし合っていた。
そして隔離クラスの皆は10代ではあるが、年齢がかなりバラバラだと分かった。
「これも他国や国内貴族の人質達を一ヶ所にまとめたせいか。まぁ、私には関係ないことなのだが……」
暗い夜空を見上げてボーッとする。
幸せだぁ。
「フフフ、これで後は無事だった山ゴロのホクホクの「焼芋ゴロ」を皆で仲良く食べるだけ…」
「マルスさん!お疲れ様です。何ですか?この騒ぎは?」
(やらかしたか?)
……トラブルメーカー達が戻って来てしまった。
なんて事だ。
何かが始まる。
この2人がここに戻って来たということは、トラブルイベントが始まってしまう予感しかしない。
「……いや、何もなかった」
「本当ですか?怪鳥は?変な奇声を上げる怪鳥はこちらへ来ませんでしたか?」
「怪鳥?変な奇声?」
あぁ、あの不死性の人面鳥か。
(そうだ。あれは第三王子リードの策にハマった第5王子オルカスが怪物化した姿なんだが。学園会議室から飛び立って行ってしまって、行方不明中なのだ)
「そう、知らないなぁ」
クラスメイト達に被害をもたらしたので、私でもよく分からない場所へと送り届けたなどと口が裂けても言えない。
言えるわけもない。
そして、どうやらクラスメイトの皆は口裏を合わせてくれたようで、皆が皆、そんな怪鳥を見たこともないし、この場ではなにもなかったとエリスには嘘の報告をしてくれた。
「そう、なんですね~!それにしては、新校舎や広範囲が焼け野原になっていますが……まぁ、皆さんが知らないなら仕方ありませんね」
「そ、そうそう」
(……まぁ、その方がエリス姫様にこれ以上の被害は及ばないか。王族側の勢力は荒れるだろうが。そこにエリス姫様の活路が見出だせそうなら、これは僥倖か)
ふぅ、なんとか乗り切った。
その後も縄で縛られたシモン担任が、第5王子の派閥所属の兵士に連れられて来たりして、燃えた焦げた草原を探し回っていたが、手がかりは一切無し。
第五王子殺害の容疑とやらで、シモン担任は兵士達に王都のどこかへと連れられて拷問にかけられると騒いでいた。
「ぼ、僕はやっていません!そんな王族殺しなんて、そもそも僕は数代前の王族の末裔で……ごぎゃぁ!?」
シモン担任が顔面を殴られた。
た、助けた方がいいだろうか?
「黙れ、ゴミカス。リード様から話は聞いているぞ。出世を餌に我らが担いでいた馬鹿《オルカス》を殺しやがって。責任取れや」
「おう。口を割るまでは止めねえからな。どうせ自分の担当しているクラスに誘拐して、殺したんだろう?死体はどこだ?あん?おい?全部吐くまで逃がさねえからな。裏切られたシモン先生よ」
「そ、そんな!僕はやってない!僕…ぐわぁ!?…」
……助けようとしたら、消えてしまった。
どうやら、簡易的な場所の瞬移動が可能な魔法を兵士の誰かが使ったんだろう。
「……なんて政治的理不尽なのでしょうか」
(王族の闇を垣間見ましたね。エリス姫様)
その一部始終を見ていたエリスの表情は青ざめ、アイニスは……エリスの影の中に潜んでいるのでよく分からなかった。
その後、皆でキャンプファイアーを囲みながら、私が布教したフォークダンスを踊りだし。
あの戦いの中でも無事だった芋ゴロの「焼芋ゴロ」を皆で夜食として食べ始めた。
「しかし、あれですね」
「ん?」
エリスが辺りを見渡し、焦った顔をし始めた。
「せっかく朝にマルスさんが建てて下さった新校舎も全て焼けてしまいました。これでは明日からの学園生活の拠点が」
「あぁ、それなら数十秒で建てられる。ほいほい、ほほい」
今日、あまり使っていない魔力を総動員して、新しい木造校舎を建てていく。
木魔法の蔓を巧みに操り、燃えた木材を退けて更地にし、土魔法を併用して建てる。
下の土台は作ったばかりなので、午前中よりも簡単にできる。やはり基礎工事を最初にちゃんとやるのは大事。
「燃えカスになった木材は炭火にして、半分は売って、半分は冬用の暖炉の薪の元に活用する。それから保存小屋もちゃっちゃっと造る」
まだまだ余っている魔力で、幾つもの簡易的な木造小屋を作っていく。
これで芋ゴロの貯蔵もしやすくなる。
「おぉ!帰る場所もない俺達のために家を建ててくれたのか?」
「は?家?え?こんなボロ小屋が家?」
「すごいわ!ありがとう!マルス先生」
「(マルス…先生?)」
なにか色々と勘違いされ始めている。
が、皆が喜んでいるのに水を差すのも気が引けたので、地面に座りながら美味しそうな芋ゴロを一噛みして夜空を見上げる。
この世界も綺麗な星空がよく見えるなぁ。
「えっと、マルスさん」
ジト目で私の隣に座るエリス。
……気まずい。
「ん?な、に?」
「マルスさんには色々と聞きたいことがありますが。それはもっと貴方と仲を深めてから聞けばいいですね……そう、そうしないとビックリし過ぎて頭が混乱しそうですからね」
「?そ、う」
エリスの前では言葉を選んで発言しなければならない。そうじゃないとエリスの影に潜むアイニスが目を光らせているのでね。
「……行方不明になってしまった第五王子派閥に所属していましたシュマルト・ブルトワ騎士団長が、正式にわたくしの派閥になって下さいました」
「ほ、ほう?」
シュマルト・ブルトワ騎士団長?
いったいそれは誰だ?
「そして、シュマルトさんからマルスさんにこれを渡すように頼まれました。どうぞ、これは元々はマルスさんの物。闇市経由で王都に密注した際に盗まれたはぐれ赤竜の鱗から作られた鎧と赤剣です」
エリスの影から何かが飛び出して来た。
朝、一騎討ちで闘った男性の赤い鎧と赤剣か。
「おお、お?」
これを私に?
駄目だ。大きさが全然合わない。
「威力を確かめるために王都の名工「ハルメルネ・リタ」様が作った逸品だそうです。マルスさんにはこれで装備を固めて頂き、これから起こるであろう権力闘争に備えてほしい…」
「売ろう」
「と願っております……はい?」
「サイズが合わない。だから売ろう。売って、そのお金で色々な種類の野菜や穀物の種子を買う。それと調味料とクラスメイト達のお小遣いも欲しい。皆無一文なのはまずいので」
「い、いえ、マルスさん。これはとても貴重で、王都の名工「ハルメルネ・リタ」様が作った名品でし…」
「うん。売る、私には不要の長物なので」
そもそも、私は青空と棒振り用の木の枝があれば事足りるのでいらない。
「ちょっと露店の悪徳業者の所に行ってくる」
「へ?あ、あの!ですからマルスさん。これを持っていれば、ハルメルネ・リタ様と良い関係が作れ、きゃあああああ!!」
(う、うまぁ~!エリス姫様!?どうされましたかエリス姫様!)
「あ、アイニス。好物の焼き芋ゴロに夢中になっているのは別にいいですが……い、いえ、それよりもマルスさんが空を飛んで行ってしまいました。アイニス」
(……はい?)
◇
貰った赤い鎧と赤剣を担いで夜空へと飛び出した。
無詠唱の風魔法を連続で放屁のように出せば私は空も上っていける。
後は落ちて、両足を骨折し回復魔法で両足を完全回復させれば大丈夫。
向かうは市場の悪徳業者亭主の元。
赤竜の血を高値で買ってくれた店に落ちる。
ドガアアアンンンッ!!
「うおぉ!?なんだい?何なんだい?いったい?」
「いたたた、10歳の身体では、身体中の骨が砕けるんだな。初めて知った」
意識を朦朧とさせつつ、完全回復できる無詠唱の回復魔法を自分の体にかける。
「よっこらせ。こんばんは、亭主さん。赤い鎧と赤剣を買い取ってほしい」
「あ、あんた?いつぞやの赤竜の血の子供?なんで空から落ちて来るんだい?」
「まぁまぁ、私の事なんてどうでもいい。これとこれを売りたい。買い取ってほしい」
店じまい寸前だったのだろうか?
亭主は両手に小さい看板を持っていた。
「買い取ってほしいって、いったい何……を?は?あんたそれ?」
「そう。赤い鎧と赤剣」
「いや、そうじゃなくて、その鎧と剣についた彫りのエンブレムはハルメルネ・リタの刀匠印じゃないかい?」
「む?それは知らなかった。これが良い物なら買い取ってほしい。なるべく高値で」
クラスメイト達になるべくお小遣いをあげたいので。
「買い取るっていってもね。ハルメルネ・リタの刀匠印付きの装備なんて……高過ぎてうちじゃ買い取れないよ」
「む?ならどうすればいい?」
「どうすればって……そりゃあ、あんた。それだけの高価な物だ。普通の市場に流せば税も多く取られるしねぇ。オークションか闇市かに流すしかないけど……う~ん。仕方ないね。あんたには赤竜の血を売って貰った恩もあるし。王都の裏の顔、バン・リフィネに連絡して買い取ってもらうよ」
亭主はそう言うと、露店の地面にあった隠し扉を開きどこかに消えて行った。
「バン・リフィネ?何かの果物の種子のことだろうか?」
数十分後、私は赤い鎧と赤剣を売りさばき、莫大な富……とはいかない額の大金を手に入れることに成功した。