『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
「……なぜ縛らずに手を繋いでいる」
「うるさい……貴様らは信用できると今日確信したからだ。だから黙ていろ。まったく。馬鹿者め、フフフ」
「……なんなんだいったい?」
アイニスと共に右手を繋ぎながら、牢屋《マイホーム》へと帰宅した。
ガチャッ!
勿論、いつも通り自然に牢屋の中へと……
「今日は感謝する。エリス姫様の手前、お仕置きなどと言ってはいたが、それも今日は無しだ。明日からはやるが」
結局明日あるらしい。
「さいで」
「ではな。また明日、我はこれから王宮の警備なのでな。ゆっくり休めよ、マルス」
牢屋の鉄格子から差し込む月光に照らされながら笑うアイニス、不気味。
「あぁ、アイニスもお疲れ様」
「フフフ、ではな」
朝とは打って変わって、ご機嫌のアイニス、凄く不気味だ。
「…………ふ、まあ良い。監視役の宿敵《アイニス》は居なくなった。ここから夜は私の時間だ」
私の夜は忙しい。
鉄格子の外の夜空を見ながらボーッとするか。
夜空を見ながら無意識にずっと棒振りをするか。
趣味の地下に潜って地下帝国擬きの建築を行うか。
王宮の牢屋から脱走して、王都の屋台の美味しい物を食べ歩きに行くか。
色々できる。
私には、時間もお金は……使える分はあまり残ってないなぁ。
「フフフ、今日は何をしようかな。地下迷宮に新しい部屋作りも捨てがたい」
この牢屋の監視役がアホの子アイニスで助かった。
あの程度の監視レベルなら、私はこの王都で好き勝手できるというもの。
「今日は……地下に行こう。地下迷宮造りだ」
床下に隠してある秘密の扉を開けて、いざ、地下へと降りていく。
「いざ、物造りの地中世界へ、フフフ」
地下へと降りて秘密のトンネルを少し進むと魔獣の群れが居た。
地中の中にも生物が居る。
「ピピィッ!」
「「「ピピィッ!」」」
兎型の小さい魔獣が群れをなして穴掘りに夢中になっていた。
「あぁ、お疲れ様。これは差し入れの露店で買った芋ゴロ焼。皆で分けて食べてほしい」
「ピキュッ!」
「「「ピピキュッ!」」」
人に害がない小型魔獣「マシュマラビット」。
人懐っこく、毛並みも良く、知能も高いし芸も多様に覚える。
エリスいわく、王都の高貴な身分な富裕層がペットにするのだとか。
「おぉ、今日も毛並みがもむもむだな。皆の衆」
「「「キュ、キュゥ♡」」」
私の周りに集まるマシュマラビット達。
彼等との出会いはまさに運命的だった。
数日前に私が穴を掘っている間に出くわし、いきなり数千匹で襲いかかってきたので、水魔法で水攻めにし、雷魔法で電気ショックを浴びせて、瀕死になっていたところを私の回復魔法で甦らせた。
その後は私に怯えるような態度を取り、私の手となり足となりで働いてくれる有能な魔獣達に早変わりしたんだ。
どうやら私は小動物に好かれる才能があるらしい。
出会った頃のキツイ目つきはどこにもなく、皆、私のお願いを訓練されたエリート軍人兵士のように細かい指示まで聞いてくれる。
「そういえば、皆はもともと王都に住まう金持ち商人や貴族達に飼われていて捨てられたとか言っていたな」
「ギュギュッ!」
「「「ギュギュッ!」」」
「ほうほう、ぶち殺したいと?ん~?それは止めておいた方が無難では?国と対峙すると滅ぼされるのでね」
「キュゥッ!?」
「「「キュゥッ!?」」」
なるほど、なるほど。
王都の地下や草原で暮らしながら、復讐の機会を伺っていたところボスの私に敗れたと。
アグレッシブな捨て兎達だ。
しかし獣人語が話せると、知性の高い魔獣とも話せるから便利だな。
「キュキュットゥッ!!」
「「「キュキュットゥッ!!」」」
マシュマラビット達は休憩中だったらしく、二本足で立ち上がり、私が教えたパンチの練習方法の1つ、シャドーボクシングを列をなして練習している。
「相変わらず勤勉だな。これで魔法やら現代知識など教えたらとんでもないことになりそうだ。おまけに繁殖力も高く、ネズミのようにどこでも暮らせる小魔獣。学習能力も高い……教えない方が良さそうだな」
そう、今は軽い戦闘訓練しか教えていない。
なにせ、あんなお願いされたら、断れない。
(キュキュウウッ!!)
(((キュキュウウッ!!)))
(え?「弟子にしてくれ?高貴な人間達をぶち殺したいんです!」だって?……いや、まぁ……夜の暇な時間なら良いか)
……それが経った数日で遊びで教えたボクシング技術を身に付け始めるとは。
「シュッ!シュッ!シュッシュッ!」
「「「シュッ!シュッ!シュッシュッ!」」」
今度は、チームに分かれてスパーリングをし始めた。休憩時間ではないのか?
「末恐ろしい。王都の地下で今、恐ろしい新戦力の軍隊ができつつあるのが恐ろしい」
私は私で棒振りでもして、彼等の休憩時間が終わるのを待とう。
「ぬたあん……ぬたあん……」
「キュ……」
「「「キュ……」」」
そして、私の棒振りが始まると同時に、マシュマラビット達は真剣な眼差しで私を観察し始めた。
そう、その目はまさに貪欲。
私から何か学び取れないかを必死に研究する格闘家の目をしていた。
「……ぬたあん」
数十分後。
「キュキュッ!」
マシュマラビット達の群れのリーダーであるマシュ(私命名)が安全ヘルメット(私精製)をかぶりながら、地下工事の進行報告の説明をしていく。
「は?もう、第一プレートの工事の第一段階が終わると?」
「キュウッ!」
いや、自慢げに胸を張れても困る。
それによく見ればマシュの目元に大きなクマができている。
さては何日も徹夜残業したな。
「早いな。だが、マシュや、他のマシュマラビット達も頑張り過ぎている。これからは週休三日制度で働くように。それと遊びで作っている地下帝国は後回しでいいので、王都郊外に続く地下トンネルの開通を急いでくれ」
「キュ、キュウッ!?」
なぜ、驚かれるのか。
「く、首なの?だって?いや、地下帝国は私単なる趣味造り。それよりも、マシュ達が住むための新しい場所へと通じるトンネル掘りの方が急務だろう?」
私は、ただアイニスにここの存在がいつ気づかれるかのチキンレース的なことをやっているだけの暇潰し。
一方、マシュ達、マシュマラビットの群れは、今は王都やその近郊に隠れて住んではいるが、都市開発が進むにつれて住む場所を追われていく。
早くマシュマラビット達のための新天地を見つけて移住させてやらなければならない。
「キュ、キュ~!」
「ま、マルス親方~!って、止めてくれ。暑苦しい」
モッチリとした肉感、モサッとした毛並みに癒やされるな。フフフ……フ?
「キュ?」
「いや……さっきまで王都で感じていたアイニスの反応が消えた」
そう。
いきなり消えた。
まるで最初から居なかったように、アイニスという存在がこの王都から居なくなった。
「隠れ鬼でも始めたか?アイニスは……まぁ、いい……のか?」
◇
〈エリス視点〉
ここは王都・冒険者宿リース。
呪い、迫害、制約。
そのどれかを受けて冒険者やはぐれ者になるしかなかった人達が集まり泊まる宿です。
今は隔離クラスでクラスメイトになったリース国の姫、ニアさんと同じ部屋に居ます。
「でも、よかったのかな?マルス先生から生活費借りちゃってさ。マルス先生もお金には余裕はないんだよね?エリスちゃん」
「え、えぇ、そのはずですが、マルスさんはその……無一文でも生きていける方なので大丈夫ですよ。たぶん」
そう。
今日でだいぶ思い知らされました。
マルスさんの規格外と、尋常ではない環境適応力の高さには。
「そうなんだ。それにしてもマルス先生、どうやってあんな大金をいきなり手に入れたのかな?犯罪でもしてきた?」
「さ、さぁ?それは謎ですね」
言えません。
まさか刀匠「ハルメルネ・リタ」様の渾身の一作を市場に売って手に入れた大金だなんて話して隣国にでも伝われば、赤い鎧と赤剣を欲しがる方々がこの王都に押し寄せて来ますもの。
(な、何ですか?その大きな箱は?)
(む?入り切らないので木魔法で木箱を作って持ってきた。他は私のマイホームの地下に隠してな。フフフ)
(フフフじゃありません。その大金はどうするのですか?)
(ん?クラスメイトにお小遣いとして配る予定だが?)
(そ、それは駄目です。ただであんな大金を渡して、国際問題にでもなったらどうするのですか?相手にもメンツがあるんです!貸してあげるのです。貸し借りならば、相手国のメンツも立ちます)
(え~!)
(貸し借りの誓約書はこちらで作りますから少々お待ち下さい。マルスさん)
なんてやり取りの後に、クラスメイト四十五人に今日泊まるための宿費やお食事代を渡すなんて、マルスさんは政治に無関心過ぎます。
人質とはいえ、貸す相手は国や貴族の関係者、何の誓約書も無しに話を進めるなんて駄目です。逆恨みされたらどうする気なんでしょうか。
「中にはプライドが高い高貴な身分者もいます。ただで貸したなんて知ったら、それをきっかけに戦争を吹っ掛けて来る蛮族のリディシアも……ふわぁ」
おっと、いけません。わたくしとしたことが人前で欠伸などと。
「あはは、お眠さんだね。エリスちゃん。もう遅いし、そろそろ寝よっか」
「す、すみません。失礼致しました。ニア姫様」
「うん。お休みね~!」
昔のわたくしを知る隣国の王族ニアさん。
彼女が同じクラスメイトで良かったです。
「……心が知れた人じゃないと、わたくし眠れませんからね。おやすみなさい」
それとこの時間はアイニスが王都警備の真っ最中ですか。
あの娘も今日は疲れたでしょうから、早く休んでほしいですね。
……この日を境に、アイニスは姿を消してしまうことを、この時のわたくしは知りもしませんでした。