『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
しかし、あれだ。
魔力を維持し続ければ24時間稼働可能なバグ技のようなもので、属性分身を使っていると魔力消費が激しい。
まぁ、私の魔力は無尽蔵近くにあるので、なんの問題もなし。
問題があるとすれば、現在一緒に市場の露店で夜食を食べているエリスの情緒だろうか。
「ふぅ~!今日で学園2日目が終わったとは言え、疲れた。ニアいわく、他のクラスはレクリエーションをしてるんだとか……」
珍しく私の方から話しかけるが……
「アイニスアイニスアイニス……わたくしのアイニス」
「……聞いてもいない。ふぅ~」
頭を上に向け、青みと夕暮れが混じり合う空を見る。
あの生真面目なアイニスのことだ。
仕える主のエリスを置いて里帰りなどとは考えづらく。
「アイニスアイニスアイニス、わたくしのアイニスはどこに行ってしまったのでしょうか」
若干壊れたエリスの反応からしても、彼女がアイニスを大切にしているのはよく分かる。
「……情報屋でもいれば、多少なりとも手がかりは掴めそうだけど」
「……情報屋さん、ですか?」
「うん」
テーブルに突っ伏して、ワカクの実をリスのように頬張っていたエリスが反応した。
「情報屋さん、情報屋さん……『メルザスの酒場』のメルザスさんなら何かを知っているかもしれません」
「メルザスさん?」
「えぇ、元王家に仕えていた諜報部員で、今は引退して酒場の亭主をしている方です」
そんな怪しさ全開の人と、なぜエリスは知り合いなのかとは聞きたかったが、めんどくさくなりそうなのでやめた。
なにごとも、自分に不利益なことには関わらない方が良い。
「王都のご意見番的な方で、裏路地にある闇市の入り方も知っているんですよ。昔、わたくしも沢山お世話になったので顔見知りなんです。よかったらマルスさんにも紹介して差し上げます!」
笑顔で言われてしまった。
この満面の笑み、はなっからメルザスという人に私を接触させる気満々の顔だ。
「一夜で消えた暗殺集団の行方ね」
「はい、そうなんです!メルザスさん」
「……幾つか情報は来てるんだけどね」
「本当ですか!?」
「あぁ……その前に、その影が薄そうな子は誰だい?」
馴染みの露店市を後にし、エリスに案内されながら、王都の複雑な路地裏を何回か迷ったり引き返したりしていると、一軒の酒場へと辿り着いた。
店の看板に鷹のような絵が描かれた店、『メルザスの酒場』に。
「マルス、ただのマルス、です」
「タダノ・マルス君ね。よろしく」
「い、いえ、マルスです」
「そう、イイエ・マルスね。よろしく」
「違います」
だ、駄目だ。
自己紹介に失敗した。
間違って名前を覚えられてしまった。
「まぁ、冗談はさておきね……直近の金になりそうな情報だと、王都の城壁の被害。ハルメルネ・リタの奴の新作が市場に出回って争奪戦。王都に住み着いてたマシュマラビットの群れが忽然と消えたことかね?」
そんなことがこの王都内で起きていたとは、全然知らなかった。
コップを片手にカウンターへ立つ、白髪を三つ編みにした長身の美女。
メルザス。
侮れない人物かもしれない。
「ほ、他に情報はありませんか?アイニス!アイニスに関しての情報は?」
「ちょっと。あたしがあんたの母親に大恩あるからって調子に乗ってバンバン聞かれても困るよ。うちだって商売だ。情報が欲しいならお金を払いな。それがこの世界の常識だろう?」
「お、お金……い、今はありません。没収されておりますので」
「そんじゃあ、さっきオプションで教えた情報だけ持って帰りな。うちは善意活動で動いちゃいないんだよ。商売商売っと」
「そ、そんな」
まぁ、普通はそうなる。
どんな世界でも、タダで手を貸すなんてほとんどないし。
この世界には、遠くにいる相手への情報伝達機能がほとんど発展しておらず、いち早く価値がある色々な情報を手に入れるのが大切なんだろう。
情報という物がいかに貴重な物かが理解できる。
まぁ、田舎で育てられた野生児の私には関係のない話ではあるのだけど……
「お金なら、ある。これでどう?」
私が金貨1枚を取り出し、メルザスが立つカウンターへと置いた。
「金貨?なんで、子供のあんたがこんな大金持ち歩いてんだい?」
訝しんだ表情で私の顔を覗き込む情報屋(メルザス)。
「……マルスさん。いいんですか?」
「うん、いい。それと企業秘密」
「企業秘密だぁ?……いや、まぁ、本物みたいだし。あたしは金が貰えれば情報は話すけどさぁ。いいのかい?この国の王族なんかの問題に首を突っ込んでも、ろくな人生の最後を迎えないよ」
「別に気にしてない。私には関係がないから」
王都内レベルの問題なら、障害にすらならないさ……たぶん。
「へ~!肝が据わってるね~!あんた。良いでしょう。このタダノマルスの顔を立てて、あの粗暴な暗殺集団の情報を話してやるよ、エリス」
「え?……あ、の?良いんですか?それって、メルザスさんも危険なんじゃあ」
「それでこのお子ちゃまと友好的な関係になれるなら安い問題よ。……それよりもね。王都の城壁に行ってみな。多分、外が暗くなったら彷徨いてると思うよ。あんた達が知りたいアイニスの手がかりを持つ荒くれ者共がさ。後はそいつらを尋問するなり、金で吐かせるなりするのはあんた達でやりなよ。その相手が闇市の帝王の部下達でも良いんならね」
カラカラと笑いながら、メルザスは不吉なことを言って情報をくれた。
◇
メルザスに言われた通り城壁へとやって来た。
王都の城壁まで来た、が。
「……不自然な修理痕がありますね」
「うん……それに空も完全に暗い」
辺りは真っ暗だった。
エリスが冒険者で、夜出歩くことも国から許されているとはいえ、小学生位の年齢にしか見えない私達がこんな人通りが少なくなり始めた城壁の側にいたら警備兵達に……
「王都警備の兵士がいない?」
「マルスさん?どうされましたか?」
「エリス。これは罠に違いない。おそらく、あの情報屋もグル」
「情報屋って、メルザスのことですか?そんなわけありません。メルザスはわたくしが生まれた時の乳母ですよ。小さい頃からわたくしのお世話をしながら、王都の情報屋として活躍してくれた人です」
そんな深い仲を説明されても今は困る。だんだんと取り囲まれている。
「じゃあ、本物はどこかに捕まっているとして仮説を立てる。今は私達が捕まらないように戦わなくてはいけない」
「戦うですか?一体誰とです?」
「私達をここへと誘い込んだ
こんな時間になんの用事もなく出歩く王都民なんているはずがない。
まして黒ずくめでフードをかぶって襲いかかって来るなんてあるわけない。
「やっちまえ!バンの頭いわく、こいつ等は大金を隠し持ってやがるってよ!捕まえて有り金のある場所を吐かせるぞ!」
「「「ウオオオオッ!!オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!」」」
ゴリラや山猿の大合唱じゃないのだから騒がないでほしい。
耳が痛くなる。
それにこんな時、警備の人間はすぐにやって来るもんじゃないのだろうか?
「マルスさん。どうしましょう……」
「エリス?」
が、青ざめた顔で周囲を見渡している。
「高位の認識阻害と結界魔法がこの城壁には張られていたみたいです。誰かが触れた瞬間に発動するような魔法が」
「そう、か」
「うそ、ですよね?権力闘争に一般人を勢力として入れてはいけないと決められています。なのに目の前にいるのは闇市の荒くれ者の人たちばかりなんです。わたくし達、捕まったら殺されるのでしょうか」
この光景があり得ない、という顔で焦り始めたエリスは、私の服を握り、立ち尽くしてしまった。
「そんな口約束程度のこと、大の大人は守らないと思う」
「そう、ですか……ごめんなさい、マルスさん。貴方をこんなことに巻き込んでしまって。所詮わたくしはアイニスやシノ、リリアン……暗殺者の方々がいなければ、孤立無援のただの姫…いえ、冒険者ですね。ごめんなさい、ごめんなさい」
「エリス」
いつもの元気がない。
まるでヤンデレのように「ごめんなさい」という言葉を繰り返す。
「捕まえるぞ!囲め!!」
「「「オッ!オッ!オッ!オッ!オッ!ウオオオオッ!!」」」
そして、100人?いや、1000人ほどが集まったのだろう。
その全員が、金蔓である私達へとやって来る。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いや、まぁ~、エリスの味方ならいるとも。人外だが」
「………え?」
わあああああっ!と押し寄せてくるゴロツキ達。
そして、その後から現れた私の友達達。
「キュゥッキュッ!!」
「「「キュッキュットォ!!」」」
王都の巣穴という巣穴からマシュマラビットの大群が、ゴロツキ達に押し寄せて来る。
「うわああああっ!何だ?なんで、マシュマラビットがこんな時間に……ブヘェ!?」
「キュオラララッ!!」
ゴロツキのリーダーらしき男が、群れのリーダー、マシュの右ストレートの餌食になり、城壁へと吹き飛ばされた。
……マシュの右手、「闘気」を纏ってないか?
それに適当に教えたシャドーボクシングを、格闘技に……ボクシングとして戦いに利用している?
闘気の概念なんて、一言二言しか説明していないのに、この短時間で使いこなせるようになった?
「キュッ!キュッ!」
「ごがぁ!ばぎゃぁ!すみません!ごめんなさい!」
ガタイの良さそうなゴロツキリーダーは歯をへし折られ、マシュに一方的にボコボコにされ始めた。
いや、それだけじゃない。
「シャオラッ!」「ごぎゃぁ!?」
「キュッキュッキュッ!」「ぎゃばんぁ!?」
「キュッ!」「ぎがぁ!?」
マシュの弟分達も無双していた。
「あ、あの、マルスさん。あの可愛らしくて凶暴なマシュマラビットさん達はいったい?」
「え、えっと……エリスの新しい味方…かも」
「え、えぇ……」
ゴロツキ達をサンドバッグにしてのマシュマラビットの暴力劇は、最後のゴロツキが意識を完全に失うまで続いていた。