『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
真っ二つにした赤竜の体内から血飛沫が空中に飛散する。
「血の雨が空から降ってくる……なんちゃって」
ニヒッと、口角を少しだけ上げた。
「「いや、お前が真っ二つにした赤竜の血だよ!」」
「……さいですか」
いちいち騒がしい人たちだ。
たかだか蜥蜴が暴れただけだろうに。
「反応薄っ!」
「お、お前、あの赤竜を真っ二つにして倒したんだぞ! もっと威張ったり、自慢したりしないのか?」
「いや、あれはただの赤い蜥蜴です」
「「チゲえよ!」」
父上がそう図鑑で説明していたから、この世界ではそうなのだろう。
「……ふぅ~、もともとあった感受性が薄くなった結果だろうか? どうしても人と話す時に、反応が薄くなる」
これはただの私の持論だが。
人間には誰しも肉体や精神にキャパシティというものが絶対に存在すると思う。
越えてはいけない、そこを越えれば私のように摩《す》りきれて、心が常に平常心……フラットになっているのだと思う。
今回で3度目の転生だ。
今の肉体年齢は10歳でも、心は軽く90歳くらいあるんじゃないだろうか?
「今思えば、この世界に転生してからだな。こんな摩《す》れた性格になったのは」
父上、母上、実の息子にトラウマ植え付け過ぎですよ。
マルスの心は擦り切れて、憔悴した虚無に至っております。
どこまでも広がる青空を見ながら、ボーッとする私。
「お、おい! 赤竜の胃袋の中に何か居るぞ! 生きてる!」
「は? ば、馬鹿言え、赤竜だぞ? 口から丸呑みにされて生きてるわけあるか」
私と馬車に同乗していた冒険者の人達が騒ぎ始めている。
赤竜の内部を短剣で裂いている?
「それよりも私は汚れた服を綺麗にしないと……『浄化』」
この世界の魔法は万能だ。
魔法原理を紐解き、深く理解すれば、大概の基本的な魔法が扱えるようになる。
そのため母上は、私の加護が貧弱と思い、私が赤ちゃんの頃から魔法の基本ばかり教えてくれていたため、無詠唱魔法で基本的な魔法を自由自在に扱えるように訓練されている。
今回使ったのは、水魔法の『浄化』。
肌や服に付着した赤竜の血を指先に集め、土魔法で作った小瓶の中にしまった。
「父上いわく、赤い蜥蜴の血は貴重だから、捨てずに街で売ると良いだったな」
魔物の血が本当に売れるのだろうか?
……なんてことも考えるのも面倒臭いか。
「飛び出して来るぞ! 一応武器は構えとけ! あの大きさ、ゴブリンかもしれん!」
「ゴブリンって、赤竜に丸呑みにされて生きてられるものなのか?」
先ほどから赤竜の死骸に悪戦苦闘していた冒険者達が騒ぎ始めた。
宝玉でも体内から発見したのだろうか?
「おや? あれは……粘液まみれのお姫様?」
私と同じくらいの年齢だろうか? 女の子が赤竜の胃袋から飛び出して地面にゆっくりと落ちた。
「ごほっ!……ごほっ!ごほっ!」
おっとこれはいけない、赤竜に呑み込まれて長い時間が経っていたのかは分からないが、喉に何かを詰まらせている。
私は土魔法で土器のコップを精製、その中に水魔法で作り出した水を入れて、苦しそうな彼女の前に差し出した。
「どうぞ……それと『浄化』と」
「ごほっ!ごほっ!……ん……ごはぁ!?」
私が渡したコップを奪い取ると、どこぞの国のお姫様のような服を着た少女は口から何かを吐き出した。
「これは……魔法石?汚いので『浄化』」
私は近くに落ちていた木の棒を2本拾うと、ヒョイっと拾い上げた。
眩しく金色の輝く魔法石だった。
何カラットにも加工されているということは、誰かの装飾品だったのだろうか。
「ゲホッ!ゲホッ!……オエェ、あ、あの、助けて頂きありがとうございま……オエェ」
「『浄化』」
吐いて挨拶をしてきたので、浄化した。
「ゲップ、あ、あの……この度は命をお救い頂きありがとうございま……あ、あの! この水色の光を止めて下さい!」
連続の浄化で、彼女の服、身体、体内が綺麗になったみたいだ。
見た目も麗しい。
青銀のロングヘアを腰まで伸ばし、翡翠色の猫目で可愛らしい顔立ちの、高貴な雰囲気がある少女。
それに対して私は父上譲りの金髪を首元までボサボサにして、母上譲りの良い顔らしい。
まぁ、私自身は見た目に無頓着なので、王都まで一緒に旅をしてきた冒険者いわく、辺境の戦争孤児にしか見えないと馬鹿にされてしまった。
「あ、あの! すみません! あの、わたくしはエリス・シルヴィアと申します。この度は助けて頂きありがとうございました」
「はぁ、ただのマルス、よろしく」
「ただの……マルス様ですか?」
私の適当な自己紹介に驚いた顔をするエリス。初対面の相手にフルネームを明かすのも面倒臭いと感じたので、そう名乗る。
「はい、ただのマルスです。よろしく」
「よ、よろしくお願い、します」
しまった。愛想悪く接してしまった。
この世界に来て、初めての年の近い女の子にどう反応すればいいか考えられない。
頭が虚無になる。
「お、おい、兄ちゃん大丈夫か?って、誰だ!? この女の子?」
「さっき血塗れで出てきたゴブリンか?」
武器を構えたまま、どこかに逃げていた冒険者達が戻って来た。
たしかこの2人、さっきも乗客を守らず真っ先に岩影に逃げていたな。
この2人は本当に冒険者なのだろうか?
「あ……あの、わたくしはエリス・シルヴィアと申します。この度は助けて頂きありがとうございました」
「エリス…?」
「シルヴィアだと? シルヴィアと言えばこの国の姫様じゃねえか。依頼主のターゲットだ」
シルヴィアという名前を聞いた冒険者たちの表情が一変した。
ニタリと笑い始めたので、彼らを拘束することに私は決めた。
土の無詠唱魔法で最初に両足を拘束、転んだところを背中めがけて大岩を作り出し、彼らの上に乗せて身動きを止めた。
「グェ!?」
「オェ!?」
蛙を潰した時のような声をあげる、冒険者もとい危険人物達。
「へ? ターゲットですか? いえ、わたくしはエリス・シルヴィアと言って……な、何をしているんです! ただのマルスさん!」
「いや、悪そうな顔をしていたから拘束をした。この人達、絶対に怪しいって、勘っ字かな」
「か、勘でわたくしの命の恩人さん達に危害を加えようとしないで下さい!」
「いやいや、危害を加えられそうになっていたのは、エリスさんなんだけど」
私は心が擦り切れて、常にボーッとしてしまうが、この子は天然なのだろうか?
明らかに自分に向けられていた殺意を感じ取れないとは、王宮で蝶よ花よと育てられた口……おや?
「動くな。少しでも動けば貴様の首を吹き飛ばす」
「アイニス!」
いつの間にか私の後ろに誰かいた。
そして今は私の首元に短剣を突きつけているのは……誰だろうか?
それによく見ればいつの間にか、四方八方人に囲まれていた。
皆が皆、黒ずくめの格好で統一されていて、暗殺者のように見える。
「ま、待って下さい! この方はわたくしを赤竜のお腹の中から助けて下さった恩人さんなんです!」
「こんなボーッとした子供があの赤竜を? そんなはずはありません。エリス姫様。それよりもご無事でなによりでした。王都へと帰りましょう」
エリス姫に優しい笑みを浮かべるアイニス。
「貴様も来い、何故エリス姫様を攫ったのか拷問で聞き出してやる」
そして、とてつもなく低い声で私に敵意剥き出しで告げるアイニス。
「……了解した」
「ふんっ!」
「あ、アイニス! その方はわたくしの命の恩人さんです! 丁重に扱って下さい」
「はい、了解しました姫様……小僧。どうやって我らが大切なエリス姫様に取り入ったのかも吐いてもらうからな。きつい拷問を覚悟しとけ」
「アイニス! 駄目です!」
一難去ってまた一難。
赤竜の腹から出てきた姫を助けたら、罪人として王都へと向かう羽目になったが、馬車で向かうよりも暗殺者達に担がれて移動した方が早く着けるので得をした気分に少しなれた。
「王都に着いたら、住む家を探さないと」
「独房暮らしが待っているから覚悟しておけ」
どうやら、マイホームまで手配済みらしい。
やるじゃないか、エリス姫の護衛暗殺者達。
あぁ、そういえばエリスが口出した金色の宝石は私が貰っておくよ。
人はなんの見返りもなく働く分けないのだからね。