『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
〈アイニス視点〉
一方的に追い込まれ
蹂躙された
悔しい悔しい
「見ろ見ろ、俺様のコレクション~!あれがハルメルネ・リタが作った「リグランの槍」。あっちは剥製家ビルトレイン・カルロの「初代シルヴィア家の乙女」。あっちはあっちはクルヴァルドの指輪だ。どうだ?どうだ?凄いコレクションだと思わねえか?」
戦いに負けても、体への辱しめはなかった。価値無しとまでこの馬鹿に言われた。
悔しい悔しい悔しい悔しい。
何が優先される至高の血筋だ。
ふざけるなふざけるな。
椅子に座らされ、縛り上げられたあげく永遠に近い時間をこの男と過ごしてコレクション自慢をされる。
「……馬鹿にしているのか?我はそんなもの興味がな……」
「うざぁ!」
「がはぁ!?な?我に手を上げたのか?貴様!」
ここに来てから、初めて殴られた。
痛い痛い痛い、右頬がじんじんする。
「……ちゃんと褒めた方が良いですよ、姫様。バン・リフィネにとって自分で汗水垂らして集めた大切なものなんですから」
隣で同じく椅子に座らされ、縛り上げられているかつての乳母。
「メルザス……」
「そうそう、情報屋はちゃんとこの宝の山に意味を見出だしてるんだよ。クソガキ……だからよう。ハルメルネ・リタの新作が欲しいんだよ。どこにあるんだ?教えてくれよ。金ならちゃんと払ってやるぜ。等価交換は大切な取引だからな」
「し、知らない」
「ボケがぁ」
「かはっ!?」
今度は左頬
ムカつくムカつく
こいつだけは絶対に許さない。
「なんだその目は?……俺様は人に興味がねえんだよ。あるのは価値ある奴が作った価値ある物。最初から傷物のてめえに価値なんてねえくせに、その目はなんだ!クソガキ様よう!」
「があああああぁぁ!」
「止めろ!バン・リフィネ!この王都内で王族の方を殺す気か?」
「あん?別に片割れなら壊してもいいだろう?それが忌み子で、希少な稀血をもって産まれた双子の妹様でもよう」
◇
〈マルス視点〉
「姉妹?」
「はい、アイニスはわたくしの義理の姉妹になります。ですから早く助け出したいんです!マルスさん!」
……話の展開が急すぎる。
「それは、そうだけど。話が……急過ぎる。それに」
「キュッキュッ!」
ドゴンンンンッ!
「がはっ!ヒイイィィッ!!話す!バンの頭《かしら》がいる隠しアジトの場所を話すから、もう止めてくれ~!」
ゴロツキ達をサンドバッグにして、お仕置きしているマシュ達の暴走を止めなくてはいけない。
マシュマラビットは人に悪意があるのか見極める能力(嗅覚)を持っているんだとか。
それで普段から王都で暗躍しているゴロツキ達をボコボコにしているのだろうか。
「シュッ!シュッ!」
「「「シュッ!シュッ!」」」
しかしあれだ。
自分達で張っていた認識阻害や結界の魔法で人を遠ざけていたくせに、それが裏目に出て誰も助けに来てくれないとは、ゴロツキ達も可哀想に。
そして、前世で戦場を舞台とした映画でよく見た人間ピラミッドをゴロツキ達で作らせ始めたぞ。
私をあの頂点に乗せようとしてくれているらしい。
「それは流石に遠慮しておく。王都の郊外に1人1人バラバラに縛り上げて放置してくれば良いと思う」
「キュッ!」
「キュッ!」
マシュマラビットの皆、天啓を得たりという顔をしないでほしい。
「お、おい!何をしやがる!?なんで俺達を木の蔓で縛り上げてんだ?どこに連れて行く気だ!助けやがれ!クソガキ共!」
最初に騙し打ちしておいてそれはないだろう。
千人いたはずのゴロツキ達は、マシュ達に1人また1人と蔓でキツく巻かれて、夜の王都から郊外へと輸送されていく。
ドナドナでも歌ってやりたい気分だが。
泣きそうなエリスが隣に立っているので止めておく。
まぁ、王都のゴロツキが減れば治安も良くなるので良いか……良いのか?
マシュの部下達がゴロツキを運んでいる方角、たしか赤竜が住み着く山脈だ。
1度行ったら帰って来れないことで有名な場所だが、まぁ、良いか。
「キュッルル!」
「ん?あの歯をへし折られた男がアイニスの居場所を吐いたと?」
「そ、それは本当ですか?マシュマラビットさん!アイニスの!アイニスの居場所を教えて頂けませんか?お願い致します!」
「ギュギュ!?」
自慢げに仁王立ちしていたマシュを勢い良く抱き上げるエリス。
止めてあげてほしい。
マシュはゴロツキならボコボコにできるが、女の子に抱き上げられると昔のトラウマが甦るとか。
「キュッ……キュッ」
「え?」
「案内すると言っている。皆で攻め込もう、だと」
「攻め?え?」
おそらくだが
マシュ達、マシュマラビットの群れは、普段王都内で生活し、餌を漁っていると思われる。
そして、それを見つけたゴロツキがマシュ達に嫌がらせやちょっかいをかけているんだとしたら、さっきの殺戮劇にも納得がいくもので。
「マシュ達は、そのボスたる「バン・リフィネ」に殴り込みに行きたいらしい」
「そうなんですね」
それを聞いて、若干引き気味のエリス。
マシュ達は可愛い見た目とはいえ、小
好戦的なのは仕方ない。
「キュッキュッ!」
「「「キュッキュッ!」」」
「おお!運んでくれるのか。助かる助かる」
これなら道中に夜空を見ながらボーッとできる。
「どんどんどんどん増えて来ますけど!この子達とマルスさんはどういう関係なんですか!!」
「ん?お友達」
私とエリスは、マシュ達のふわふわ毛並みな背中に乗り、バン・リフィネとかいう人物の元へと向かい始めた。
◇
「さっさと、さっさと、言ってくんねえか?俺様はハルメルネ・リタの作品の大ファンなんだよ。金は惜しまねえ。さぁ、さぁ、さぁ、教えてくれ、ある場所を吐け。ガキ~!」
「だから、知らない」
「あ、そう、かよっ!」
「がはっ!」
「お、おい!止めろバン・リフィネ。最初と話が違うぞ!アイニスには手を出さない約束だっただろう!」
「おうおう、本当になぁ。王都じゃ王族の権限は絶対だよなぁ。従わないと暗部に消されるものなぁ。だからよう、だからよう。そんなことがどうでも良いくらいに、欲しいって感情はどうしようもなく処理できねえと思わねえか?情報屋ぁ~!」
「……バン・リフィネ。貴様、正気を失って……」
「あああぁぁ、欲しい欲しい。良い作品は欲しいぃ。欲しくなっちまうよなぁ……言え、じゃないと今の
「ごほっ!」
「バン・リフィネ!何をしている!姫様を殴るなど!殺されたいのか?」
「別に良いぜ。それで俺様が求める物、欲しい物がこの手に入るのならな」
「……く、狂ってる」
ドゴンンッ!
「バン様!敵です!数千の敵が、このアジトに侵入してきました!」
「あん?拷問中に何で入って来てんだ。リフネ、変装の顔が崩れ……」
あぁ、なんだ。
声がすると思えば地下に隠れていたのか。
「地脈竜斬り」
這い出て来てくれ、闇市のボス。
「……上から、魔法反応だぁ!?ダリオスの野郎!しくじりやがったか!?」
「ば、バン様!お逃げ下さい!バン様!」
声だけは下から聴こえていた。
ただ、どこに居るかまでは把握できなかったので、地層を切って、地上へと一時的に押し上げた。
「やあやあ、アイニス。助けに来た」
「アイニス!それにメルザスまで捕まって……メルザスが2人!?」
「……つっ!貴様にこんな格好を晒すなんて」
「エリス姫様がなぜここに?」
「キュッキュッ!」
「「「キュッキュッ!」」」
マシュマラビットの軍隊達と共に敵アジトに到着。
……今からアイニスを痛めつけた輩《やから》を叩き潰そう。
「ハハハハハハ!!見たこともねえ技だな、おい!おかげでアジトが地上にこんばんはか?……何してくれてんだ?ガキ」
「仲間を助けに兎で来た。ただ、それだけさ。ボスとやら」
月光が光る夜空の下。
私とバンなんとかの戦いが静かに始まろうとしていた。