『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
これ、小さい頃の、赤子の時の記憶です。
そう、これは我等の……義理の姉妹の記憶。
(貴女はこの方と共に)
(貴女もこの人と共に)
((両国の架け橋のための義理の姉妹に致しましょう))
隣国王族同士で勝手に決めた。
同盟関係になるためにわたくし達は利用されました。
相手もお互いに大切な片割れ同士になったのです。
お互いに大切な片割れ同士になったのだ。
「アイニス!しっかりしてください!……こんなにボロボロにされて」
「……エ、エリス姫様」
「心配かけないでくださいよ。わたくしのアイニス」
「……ご、ごめんなさい。我がエリス……姫……様」
「何なのだ!貴様等はここがバン様の根城と知っての狼藉…」
「キュッキュッイッ!」
「がはぁ!?」
◇
〈マルス視点〉
エリスが傷だらけのアイニスに寄り添っている。2人の世界に浸っているなぁ。
マシュはマシュで、勝手に組織のNo.2らしき女性に殴りかかっている。
好戦的かつアグレッシブな子兎だこと。
「おいおい、こりゃあなんだ?おい、やり過ぎだろう、ガキ共。よくも俺様のアジトを変形させてくれたな。おい」
「……それにしてはあまり怒っていないように見える」
「アハッ!そりゃあ、そうだろうよ。なんせ、オメェからハルメルネ・リタの刀匠印の臭いが駄々漏れてんだからようぉ!どこで付けた?教えろや、オメェッ!!シャドーアンクル」
闇魔法?
バンなんたらの影が手の形に変わって、私に襲いかかって来る。
「私に勝てたら教える」
無詠唱の光魔法で辺りを照らして、影の手が消えるか確かめる。
「あ?魔法の詠唱無しか?どんな魔法だそりゃあ?……まぁ、いい。それよりも俺様が欲しい物の場所をテメェは知ってんのか?教えろや、ガキ」
影の手が消えず、私へと未だに伸びてくる。
私の光魔法が全然効いていない。
「魔法じゃない?個人の能力……「加護」の力か」
「そうそう、そうだよ。気が付くのがおせえな。まぁ、地下でくたばってる暗殺者のガキは俺様の能力自体に全然気がついてなかったけどなぁ!シャドーパルス」
「……あまり人を蔑むようなことは言わない方が良い。聞いていて不愉快になる。ふんっと」
近くに落ちていた小枝を拾って軽く一振。
カウンターではないが、バンが放った分裂した全ての影を彼の元へと押し返した。
「ぐおおおおおぉっ!!……効くじゃねえか、テメェの一撃」
「……いやいや、普通真っ正直には受けないだろうに、何してる?」
体中に傷を負っている。
なるほど、なるほど。
今回の戦いの相手は頭がアレな感じらしい。
「おい、ガキ。俺様が勝ったら、ハルメルネ・リタの新作のある場所をマジで教えろや」
「別に良いけど。なぜ、そこまでの拘りを?」
「拘りだぁ!?なにを言ってやがる!名匠達が手掛けた逸品を収集し、飾り見る。これ以上に至高の楽しみ方がどこにあんだ?」
……こいつ変態か?
「いや、気持ちは分からないでもないけども。それに人を巻き込むのもどうかと」
「なぁ?ガキ。お前も地下の俺様のコレクションを一瞬見て、名品達に影響が出ないように配慮してたんだろう?さっきから俺様のアジトを蹂躙している獣共にも、宝の山には触れないように命令してたよなぁ」
「……考え過ぎでは?」
……こいつ変態だが、周囲への洞察力が侮れないな。
「おいおい、おい、俺様は馬鹿だぞ。直感で動くタイプの大馬鹿だ!シャドースラッシュ」
「大馬鹿が1000人を越える集団のリーダーなんてやれるわけがないんだが。ぬたあん」
再び軽く振るう。
それとは正反対にバンの影の剣による一振は力強かった。
他愛の無い一振の技は私の方が勝っていたが、
力強い一撃の一振はバンが勝っており、私は遠くへと吹き飛ばされた。
「スゥー、コフゥ」
ドガアアアンンッ!!
激突するはどこかの演説会館。
「こほ、こほと……10歳の子供をおもいっきり吹き飛ばし過ぎでは?」
「おん?なに言ってんだ、ガキ。テメェみてえな怪物相手に手加減なんてしていられるかよ。さっきからの枝からの一撃、手加減し過ぎだろう!ゴラッ!」
「む、バレてた」
本気を出せば殺しかねない。
手加減は大事。
「バレバレだつうの。まぁ、俺様はそうしてくれてた方が楽ができて良いけどな。ハハハハハハ!!」
「?男として悔しくならない、だと?」
「男として恥ずかしいだぁ?馬鹿かオメェ、このテメェとの戦いは俺様にとっての
「……さいで」
馬鹿と2回も言われてしまった。
だが、この馬鹿《バン》という人物。
人間味が変な方向に成長した奇人だな。
「しかしよう。あのアイニスとか言うガキも難儀だな。こんなクソみてえな国のために、俺様が欲しい物の有りかを割ろうともしねえんだからな」
「クソみたいな?国?この美味しいものが沢山食べられる国がクソとな?」
「たりめえだろう。国民のことなんて一切考えずに同族同士の殺し合いだぜぇ。下らね、下らね。それよか、俺様のように好きな物を収集して眺めてた方がよっぽど健全だろう?……あのアイニスってガキは異常だ。洗脳され過ぎてんだよ」
その眼は、アイニスに向ける哀れみか心配か。
バンの眼は少し離れた場所にいるアイニスへと向けられている。
「……さいで。いや、私だってなんの柵《しがらみ》もなければボーッと青空を眺めていたい」
「……テメェも大概変わってんな。おい!……いや、それよりもよう。戦いの続きすっか!ちゃんと手加減しろよ!化物ガキ、オラアアアアアアッ!!」
「うぉ、さっきよりも重い一撃?」
「たりめえだ!おい!戦いは全て気合い!名品集めも気合いと根性だろうが!オメェ!!ハハハハハハッ!!」
振り下ろされたのは、さっきよりも重い一撃。
しまった。
体格差をフルに使われてしまった。
さっきから会話をしていたのは、継続している戦闘から私の意識をずらすためだったか。
ドゴオオンンンンッ!!
重い一撃を受けて、再び遠くへと吹き飛ばされる私。
「ハハハハハハッ!!油断大敵だろう、オメェよう……力の差があるなら工夫して乗り切る。それが戦いの醍醐味だろうが。馬鹿野郎!!」
たしかにそう。
それを頭に入れていなかった私が悪い。
そのせいで体が傷だらけになってしまった。
「体が成長するまでは「闘気」を制限して戦えとは、母上も酷なことを私に言うな」
回復魔法で、自身の体の回復に専念する。
「おいおいおいおい、隙だらけじゃねえか、ガキさんよう!シャドーアンクル」
「それがそっちの狙いだろうに」
「たりめえだ!ボケッ!!ハハハッ!!」
鋭い影の剣を使っての剣劇。
それを冷静に枝技でいなしていく。
「さっきよりも速度が上がってる?」
「テメェとの闘いにも慣れて来たからな。戦闘の耐性が付いてきたぜ!」
「さいで」
戦闘しながらダラダラと私と会話。
そうやって戦闘時間を伸ばして私という存在を分析してるのか。
随分と面白い戦い方をするな。
「一つ聞いてもいい?」
「おうおう、何だ?遂にハルメルネ・リタの新作がどこにあるか教える気になったか?おい?」
「いや、全然。私が貴方に勝ってもやり返しては来ないか?」
「あん?そんなのするわけねえだろう。俺様はただ、ハルメルネ・リタの新作さえ手に入ればどうでも良いんだよ」
「そう。それを聞いて安心した。私が売った赤い鎧と赤剣なら、あの大きな建物の中にある」
少し離れた金色の建物へと指を差し、有りかをすんなり教えた。
「あん?ありゃあ、リグール商会のオークション会場?なんだよ、なんだよ。案外近くに有ったんじゃねえか」
「それじゃあ、教えたし、さようなら。バン、またどこかで手合わせを」
加護・「棒振り」
『無刀ノ太刀』
「あん?なに言ってんだ?まだまだ勝負はこれか……らぁ……」
右手による軽い脱力の太刀筋。
闇市のボス「バン・リフィネ」の体はその軽い一振りだけで、数キロ先の王都城壁まで吹き飛んだ。
「があああああああっ!!テメェエエエエエッ!!やるじゃねえ……があああああああ!!」
ドゴオオンンンンッ!!
勝者、私。
そして、今回の相手はなかなか面白い相手だったと、夜空を見上げながら思ったんだった。