『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
世界《ハクロギア》一の学園――その名もシルヴィア魔剣学園。
「一応聞くけど、なんで私の正体を? エリス姫さ……」
一瞬で口を塞がれた。
無意識に接近されない間合いを取っていたのに、この王女かなり速い。
「今のわたくしは冒険者のただのエリスですよ。ただのマルスさん。いいですね?」
「……ん」
「よろしい」
コクりと頷き返した。
最初に会った時とだいぶ印象が違うな、このゲロ王女。
「それで? ゲロリスさんはなぜ、魔剣学園の入学試験に?」
「……あの、そのゲロリスさんっていうのは、もしかしてわたくしのことですか?」
また手が飛んできた。動作が速い。
まぁ、今回は避けたので、今度からこの間合いで彼女と接しよう。
「おやおや? これはこれは冒険者のエリス様じゃないですか?」
おや?
金切り声のような声を上げて誰かがやって来た。
取り巻きもいる。皆、高そうな服を着てニヤニヤとエリスを見ている。
大貴族のボンボン達だろうか?
「ザボン……なんでこんな所に貴方が」
「入学試験を受けに来ているのだから当たり前だろう。それよりも『真なる王族の試練』だったか? 弱小の王選派閥も大変だな。守られる立場の奴がこんな所に居るんだからな。ギャハハハッ!!」
「「「ギャハハハッ!!」」」
「ザボン、貴方! くっ!」
エリスを取り囲み、貴族の子供であろう奴らが大笑いか。
これはあれか、王族と高級貴族の派閥のやり取りか。
どうせ、ザボンとか言う奴の家系が王子派閥のどれかに所属していて、エリスは王族の中でも弱い立場にあるんだろう。
今、目の前で起きている光景を見ればだいたいの予想はつく。
あー、巻き込まれたくない。
下手に関わり挑発すると反感を買い、裏路地でグサリが定番だろう。
なので、存在を、自身の影を薄く。私はここには最初から居なか……
「それで? 貴様は誰だ?」
「……はい?」
小太りのザボンに絡まれた。
嫌だ。
外に行き、青空をボーッと見ながら虚無りたい。
こういう時はあれだ。
ゴマをすって、無害アピールをすればいいか。
「え、あ……冒険者エリス様の下っ端みたいなものです。光栄なことに荷物持ちをさせて頂いております。多分」
「え? マルスさん!?」
「荷物? ボーダーか。ふむ、見たところ……小汚い冒険者見習いか。そうか、そうか。お前達、そろそろ試験が始まるな。行くぞ」
「え? もう行くんですか?」
「エリスをイビって緊張させるんじゃなかったんですか? ザボンさん!」
「よいよい、こんな虫けらの荷物持ちや弱小姫…ではなくひ弱な冒険者など捨て置く。興味が失せたからな。ハハハハ!!」
無害アピール成功。
ザボンは高笑いを浮かべながら行ってしまった。
「え? ザボンが行っちゃいました」
「そう、ですね」
人間、わざわざ魔法に頼らずとも、どうにかできる場面がある。
こちらを何もできない小物と思わせて、相手側の承認欲求を満タンにしてやればいい。
高級貴族の息子なんかと深い関係になってもろくなことにならないのは明白。
アウト・オブ・眼中にさせて、私への興味を失わせるのだ。
そして、このタイミングで、もう一人の関わってはいけない人物とお別れする。
「それでは、私もこれで……失礼、エリス姫様」
クールに無表情に、虚無に去る。
これで、エリス姫様という触れてはいけない方との関係性は終わり。
明日から王都の郊外の草原で大空をボーッと見つめる日々が……
「待ってください! わたくしの荷物持ちのボーダーさん!」
服をいきなり強く引っ張られたせいで、床にビタンッ!と倒れる私。私がいったい何をした?
「……痛い」
「貴方はわたくしの新しい荷物持ち、つまり従者になったということですよね? よろしくお願いいたします」
「はい?」
◇
「はい、入学希望の冒険者エリスさんと、その従者のマルスさんですね。受付終了しました」
「ありがとうございます。良かったですね、マルスさん。これで貴方はただのマルスさんではなく、『冒険者エリス専属の荷物持ち』という肩書きを手に入れましたよ。おめでとうございます」
「……なぜ、こんなことに?」
光の消えた両目のハイライトを天井へと向け、虚無る私。
対照的に明るい顔で、両手をパチパチと鳴らすエリス。
ガッツリと関わらされてしまった。
ただのマルスが、王族の荷物持ちにランクアップしたのだ。
「それでは、最初の試験会場に行きましょうか。魔力測定器です」
「いや、あの……行ってしまった。まさかゲロリス様の荷物持ちをされるとは、これは予想外すぎる」
関わってしまった。
いや、無理やり関わらされてしまったと言うべきか。
「それでは、入学試験にお越しいただいた人質…ではなく、留学生の方々と冒険者達はこちらに来てください。魔力測定を行います〜!」
試験会場へと向かうため、一列に並びボロ小屋に案内される私とエリス姫。
それとは対極的に、ザボン達が並ぶ列の先にある大屋敷は、幾重にも魔法障壁が施され警備が行き届いた試験会場となっており、なんとも差別的に見えてしまう。
「まぁ、私は合格できれば家に面目が保てるからいいか」
頭では色々と目にしたことの感想を抱きつつ、身体はボーッとさせている。
フフフ、こういう身体と思考を切り離した時間、嫌いじゃない。
パリンッ!
「ま、また魔力測定水晶が割れた!? これで何回目の不具合よ?」
どこかの受験者に不具合が出ているらしい。困った奴もいるものだ。
パリンッ!
そんな私の隣では、エリスが凄い光を放っていた。
「銀色の光!? あ、あの、これはどれだけの魔力値なのでしょうか?」
「魔力値、A判定!? す、凄い! 隔離クラスなのに、貴女みたいな冒険者がどうしてこっちの組にいるの?」
「あ、それは……なぜでしょうね。アハハ」
「魔力測定試験は文句なく合格よ。それで、そこの隣の破壊者くん!」
破壊者くん? 誰のことだろうか?
「……?」
「貴方よ! まったくもう、魔力測定用の水晶を何個も破壊して……もういいから、貴方の魔力値は測定不能ってことにするから次に進みなさい! まったく!」
どうやら私のことだったらしい。困った奴とは私だった。
次の試験は筆記試験。
隣で問題用紙とにらめっこするエリスは両目をグルグルさせて泡を吹いていたが、正直テストは簡単だった。
・常識的な一般問題テスト
・10歳位で分かる範囲の魔法理論
・剣術や加護に関するA~Dから選ぶ穴埋め
結果、私は全問合わせて30点。
エリスは全問満点だった。
……これ、すり替えられていないか? 明らかに。
「やりました! 雑学は苦手ですけど、なぜか満点でしたよ、マルスさん!」
「さいで……」
頭がクラクラするのを通り越してボーッとする。
いや、ボーッとしているのはいつものことなのだが。
まずい、これは非常にまずい。
魔力値は測定不能。
雑学のテストは合格ラインギリギリ。
そして、次の剣術試験で良い成果が出せなければ……
「父上と母上にぶちのめされる」
地元で蔑まされていた私を、両親はスパルタ教育だったとはいえ、とてもとても深く愛してくれている。
その愛情は一緒にいればすごく伝わってくるもので、私も転生者ながら父上と母上を尊敬し、怒らせないように自然と気を遣っていた。
あの二人は、元とはいえ勇者と魔王。
怒らせてはいけない類いの、天災のような人達なのだ。
「それでは、剣術試験開始!」
隔離クラスと呼ばれる私達の試験は、バトルロイヤル形式のチャンバラ劇だった。
長剣に見立てたスポンジ状の長物を使って、対戦相手である受験者を倒す。
なんでも長剣の先端には、何かに触れると先端から赤色の液体が飛び出して勝ち負けを判定するとかなんとか。
「は、よ、です!」
「え? 速――」
「頭に、え?血?」
「冒険者エリス! 合格! 試合会場から速やかに退出してください!」
バトルロイヤル開始と同時に、エリスが動いた。
速攻で近くにいた受験者の肩に優しくスポンジ長剣で当て身をして、試験に合格。
そんな電光石火の動きに圧倒された会場内は、静まり返っていた。
「はっ!? し、試験を再開してください! もう試験は始まってますよ!」
「あ、そうだった」
「つい、速くて見惚れてたわ……あ、あいつ! あの身窄らしい格好の奴、ボーッとしてるから狙いやすいぞ!」
「あいつ……魔力測定の水晶を壊しまくった奴か。ボーッとしているところ悪いがな、弱いのがいけないんだからな!」
珍しく、頭を使う。
それもほんの一瞬だけだ。
そうだ、決めた。これから放つは赤色の光。
「この一振で試験に合格する。試験官に認めさせる一撃――」
スポンジ長剣の柄を両手で握り、頭上に掲げる。
「何じっとしてんだ? くたばって俺のポイントになれ!」
「そんな貧相な身体で何ができんだよ? なめてんの?」
「ぷーくすくす。1ポイントゲット〜!」
この場で大人気の私は十数人に取り囲まれていたが、だ。
「赤霄剣《せきしょうけん》───赤燐躍動」
スポンジ長剣の先端から赤色の液体が噴き出し、蛇の形を成して這いずり回る。
「ふ、前前世の知識は宝なり、か。劉邦の火徳《シンボルカラー》の剣の一撃」
これが加護『棒振り』の真髄。知っている知識の一振を体現できる。
赤き剣は蛇腹となって、私を襲おうとしていた受験者達に向かい、脳天に赤色の液体を吐いていく。
そして、この一振の最後は決まっている。
「……あ、忘れてた。爆発するんだった」
ドガアアアアアアンンンッ!
「「「ぎゃあああ!!」」」
ボロ小屋の会場が爆発し、赤い液体が鮮血のように飛び散る。
そして、これにより私は入学試験に見事合格した。