『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
数百?
いや、500人以上は居るだろうか?
……多すぎてよく分からん。
数えるのを止めた。
とにかく人、人、人と……人間以外の他種族も多数居る。
謎の白線エリア内に並べられ、種族ごとに分けて立たされているのか。
おそらくこれが人間と別種族との
だが、高貴そうな身分の他種族は一般生徒と同じ列に並んでいるのか。
そして、私とエリスは……赤線エリア。
これは恐らく、適当な扱いをしてもいいと思われている組。
私のように国に差し出された人質。
エリスのように王族の血筋ではあるが、立場や権力がない者。
有能な新人冒険者や、何かしらの癖はあるが才能を見込まれて学園に入れられた者達くらいだろうか?
つまり、入学試験で隔離クラスだったメンバー達。
どんな世界、どんな場所でも差をつける。あ〜、入学式から抜け出して棒振りだけしたい。
「……ぬたあん……ぬた…」
「な、なんだ。あいつ、さっきからブツブツと、1人で何か言ってるぞ」
「隔離クラスか、そりゃあんなのも入学するさ」
コロシアムのような広い場所に集められ、生徒の組分けだけで相当時間がかかっている。
暇、暇すぎるのだ。
なので、暇を持て余した右手で小枝を小手先だけで振るう。
「……ブフッ!
無意識に出たギャグ。
時たま思いつく天才的なギャグで、自身の渾身のギャグに虚無っていた心に一瞬だけの微笑が走る。
なぜか体にまで反応し、腹が痛くなってきた。あー、自分の天然なギャグセンスが怖い。私は、もしかしてお笑いの天才なのかもしれないな。
「ブフゥッ……フフフ」
「な、何あれ、不気味に笑ってる」
「何で木の棒なんて持ってるの? 怖っ、それと髪もボサボサ、見た目も怖」
周りも私を見て騒いでいる。
なるほど、私の体を張ったこのギャグを見て笑いを堪えているんだな。
それは仕方ない、こんな公の場で、大笑いという恥ずかしい行為などできるわけがない。
しかし虚無に至った摩れた心に微笑か……これもあれか、あの赤竜鱗の香辛料効果だろうか?
珍しい香辛料や食材には、心に変動や癒しを与える効果が見込めるなら、学園在籍中に収集して研究するのもありかもしれないな。
「……夢が広がるな。フフフ」
「あのですね。何してるんですか? 恥ずかしいので小枝を振り回さず捨てて下さい、マルスさん」
「断る。これは私の日課であり、究極のギャグを体現したものだ。小枝と小手先を組み合わせた高度な…」
(今すぐに止めなければ、貴様を社会的に殺す。この王都で出歩けないくらいにな)
……エリスの影から声が零れ出た。
私を影から支配するアイニスだ。
「すみ、ません、でした」
「はい、あまり目立つと恥ずかしいので、そんな恥ずかし過ぎる行為は止めて下さいね、マルスさん」
「は、い」
アイニスに殺害予告され、エリスには注意されてしまった。
これでは小枝を振るのを止めるしかない。
『これより、第98回シルヴィア魔剣学園入学式を開催します』
風魔法の応用だろうか?
拡声魔道具も無しに、教師、生徒、保護者を含めた全員の耳元に聴こえる声が会場内に響き渡る。
「マルスさん、あちらを見て下さい」
「? は、い」
エリスの声が、先ほどの入学式開催の声同様に、私の耳元に聴こえてくる。ちなみにエリスは私の前に立ち、正面の入学式進行を眺めている。
「特別クラスの方を見て下さい。今年の入学生の中でも、別格とされる西のエルフの国から来たエルフの姫、オリヴィア皇太子殿下です」
退屈そうな表情で、扇子を片手に椅子に座っている。暇なのだろうな。
「それからあちらは、隣国にある魔法国の若き天才シリカ様ですね」
怪しいフードを被った集団の中に囲まれている仮面の……男の子? いや、体躯からして違うか。
「それと、今は不在とのことですが、今年はシルヴィア王国の聖女様も入学生の1人だそうで、わたくしはそういった大物さん達と仲良くなりたいと思っております」
……あぁ、なるほど。
今後は、さっき言っていた大物達とコンタクトを取り、仲を深めて後ろ楯になってもらうから顔を覚えておけということか。
現在、素顔が分かっているのは、大勢の前だというのに大あくびしているエルフ娘しかいないのだが大丈夫か?
「了解、しました」
「はい、よろしくお願いしますね」
これは本当に本格的に巻き込んできたな。
いったい、このエリス姫は私を駒にした権力闘争をどの段階から画策し始めていたのだろうか?
冒険者エリスとしてお互いに再会した時?
入学試験で「棒振り」を目の前でお披露目してしまった時か?
はたまた、赤竜がたまたま真っ二つに裂かれ、彼女が胃袋からの奇跡の生還を果たした最初の出会いの時か。
赤竜の時点から考えていたのなら、大層な玉だ。
それなら血生臭そうな王家の権力闘争にも、正面切って戦っていけるのかもしれない。
「……なんてことを一瞬で考えてみたが。まぁ、どうなることか、だな」
そんな面倒なことは止めて、皆が皆棒振りしてボーッとする人生の方が楽だろうに。
『今年度、新入生代表。オルカス・シルヴィア。壇上へどうぞ』
「はっ!!」
覇気のとても良い声だった。
私はうるさいとは思ったが、会場に居る新入生達はそうとは思わず、背筋を伸ばし凛とした姿で壇上に上がる少年と護衛の2人を羨望の眼差しで見上げている。
「あれはさっきの……赤色の甲冑の騎士?」
「……あのお方は、シルヴィア王家の第5王子・オルカス兄様です。わたくしと同い年で腹違いの……つっ! それにあれは赤竜の鱗で造られてます。まさか!? そんな?」
いや、そこまで詳しく言われても困る。
……そして、正面の壇上に立つ腹違いの兄の勇姿を、エリスが今どんな顔で見ているのかも後ろに立つ私には分からない。
数分経った。
ボーッと何とか王子が祝辞を述べているのを聞き流している。
あの類いは私とは無縁の存在。
私と将来は爽やかなイケメン王子へと成長するであろう少年とは、今後一切の関係性など生まれな……
『以上が、新入生代表オルカス・シルヴィアより………それと我が騎士シュマルトよ。あの場違いをこの場で仕留めよ。調子に乗った帳尻だ、盛大に恥をかかせる』
『は、オルカス様。赤刀《せきとう》抜刀………参る』
赤色の甲冑騎士が動き出した。
赤色の刀身を鞘から引き抜き、派手に跳躍。
こちらへと向かって来てないだろうか?
「エリス姫様。お久しぶりでございます。そして、さようなら」
「シュマルト騎士団長!? なぜ貴方がそちら側に?」
その赤色の刀身はエリスの首元まで到達し……
「……ぬたあん」
バキンンンンンッ!!
私の小枝の軽い一振りで弾き返された。
ちなみに私は両利きで、どちらでも棒を器用に扱える。
「つっ! 何奴?」
「マルスさん!?」
「田舎育ちのただの棒振りだ。エリス姫は殺させない、大問題に発展するんでね」
そんなことになれば、父上と母上がブチギレる。私は卒業までしないといけないんだ。
「小汚い子供が。そんな小枝で何をする気だ?」
「目の前で殺されそうな人を助けて守る。それが人の当たり前と思わないか? どこぞの騎士よ」
「ナメるなっ! ただの子供がぁ!」
「うるさい」
「くっ!なんだこの風圧は!?お、重い!?ぐわぁ!!」
軽い動作で風圧とは、これいかに。
それとただの子供の挑発に乗らないでほしいものだ。
こちらは入学式の暇潰しに相手してやろうと動いただけなのだからな。
「マルスさん……」
「少し振るって来る」
私はエリスにそう言うと、無詠唱の風魔法でエリス周辺に“風の籠”を纏わせ、ときどばしたよく分からない騎士の元へと跳躍した。