『ただの棒振り』の私は後に世界を震撼させていく 作:冰藍雷夏
「静かにしていただきたいですな。オルカス王子」
「は、放せ!俺は悪くない!何もしていない!悪いのは目の前に居るシュマルトだろうがぁ!ファイアボール!」
壇上では、暴れながら魔法を無差別に放つ狂人が一人。
「………職員殿。こちらの魔道具をどうぞ」
「これ?」
「俺が記録したオルカス王子のあらゆることが記録された手記です。これを学園長と国王陛下にお見せすれば、悪童王子も少しはおとなしくなるかと」
「!……了解した。必ずお渡しする」
「かたじけない。これで俺のお守りも終わるというもの」
入学式のデモンストレーションの主宰者であるオルカス王子が捕まりどこかへと連行されていく。
「………………ふ、さらばだ。極地の達人殿」
「………………ん」
その後、少し遅れて
シュマルトは、元の姿に戻っている私を一瞬だけ見ると、満ち足りた顔で荒れる会場内を後にした。
あぁ、今回のデモンストレーションと言う名の騒動を鎮圧した功労者のザボンは、シュマルトとの決着が着いたと同時に砂塵で視界が悪くなった場所を抜けて会場外で眠っていたところを回収。
エリス派閥の新たな筆頭貴族の子供として、壇上へと彼を移動し、今回の主役に仕立て上げた。
今は新入生に囲まれてちやほやされている。
当の本人は何が起きてどうなったかなど知るよしもないだろうに。
『入学式のデモンストレーションは終了しました。各クラスが設定されている新入生徒は速やかに移動をして下さい。あ、特別クラスは例外と致します。特別クラスの生徒は学園内で使える補助金の譲渡が……』
繰り返されるアナウンス。
心なしかだんだんと声量が大きくなっている気がするのは、速くここから居なくなれと言いたいのだろう。
「行く、か」
破壊し尽くされた地上など見ない。
どこまでも広がる青空を見ながら歩き出そう。
そう、良い戦いの後の余韻を残しながら、私はクールにここから……
「マルスさ~ん!お疲れ様でした!……ですが、何を勝手にザボンに成り代わってるんですか?わたくし、そのような事をお願いしましたか?」
(貴様、色々とやってくれたな。エリス姫様と我と貴様だけになったらどうなるか覚えておけよ)
久しぶりに灯っていた私のやる気の光が薄くなり、いつも通りのやる気のないハイライトになっていく。
ああ、そうか
そうだった
この王都に居る限り、私の自由は狭まっていくのだったな。
入学式が行われた場所から移動し、私はエリスに目隠しをされ、その後突然現れたアイニスにどこか暗い場所に連行され、ボコボコにされた。
◇
そして数分後
スッキリとした顔のアイニスは主人の影へと戻り、エリスは心配そうに私を引きずりながら配属された教室へと向かった。
「…………何ですか?ここは?」
「す、素晴らしい」
その教室を見たエリスは驚愕した表情を浮かべる。
私は無表情にほぼ近い微笑で、両手を掴み天に翳した。
ここには緑の草木が広がっているだけだった。私の眺めを邪魔する建物の一切は無く、青空がどこまでも、どこまでも広がっている。ここは学園内の隅っこの森近くの草原だった。
ここ、隔離クラスの教室の正体は、建物も勉強するための器材もない青空教室だったのだ。
素晴らしい。
「はいはい~!落ちこぼれの諸君。君達がこれから学ぶ教室はここだよ。僕は、この隔離クラスの監視…じゃなくて、担任のシモン・リチャードだよ。あまり仲良くしないでね~!よろしく~!」
シルクハットにタキシード、片眼鏡という風貌で、銀髪の胡散臭いイケメン教師が適当な挨拶をした。
「ま、待ってくれ…」
「くれ?」
「ぐっ!……つっ!なんでもありません」
呆然としていた新入生の1人がシモンに飛び掛かろうとしたが、その生徒は、シモンに一睨みされて縮み上がってしまった。
「そうそう。自分達の立場を良く分かってるじゃないですか。そうそう、そうなんですよ。君達、隔離クラスはこの国や隣国から集められた留学生と言う名の人質です。ですので、今後の発言や行動には、それなりの責任が出てくると思った方が良いですよ」
ニタリと笑うシモン。
それを見た隔離クラスの生徒達は舌打ちをしたり、シモンを睨み付けている。
「何なのですか?あの担任教師のシモンと言う方は」
(奴が単独行動をしていたら狩りましょう。エリス姫様)
「いえ、それは止めて下さい。アイニス」
エリスも、皆の例に漏れずに、シモン担任を訝しんでいる。
そんな中私は……シモンの発言は素晴らしいと思った。
あぁ、素晴らしい。
普通は、そんなちゃんとした説明を事細かに言ってくれないのが当たり前だ。
なのに、あのシモン担任は、この学園での私達が取るべき振る舞いを懇切丁寧に説明してくれたのだ。
「フフフ、困ってる困ってる。それでは、皆さんはこの学園を卒業するまでの間、ずっと自由時間としてあげますので、どうぞ、隔離クラス内で好き勝手に学園生活を謳歌して下さいな。そうですね~、どこまでも広がる青空をずっとボーッとしながら見ていると良いですよ」
「そんな変人いませんよ!」
「授業をまともに受けられないんじゃ、成長できません」
「だいたい、ここには何もないじゃないですか!」
それに、それにだ。
この学園を卒業するまでの間、ずっと青空をボーッと眺めていて良いらしい。
「なんて素敵な担任教師なのだろうか」
「なんて最低な担任教師なんですか!」
(本当です!暗殺しましょう。すぐに殺しましょう。姫様)
私、エリス、アイニスの声が重なる。
「え?」
(は?)
「え?」
三者三様の思いがそれぞれ異なる声が重なった。
ちなみに私の今の表情は無表情だが、額には珍しく大量の汗をかき始めている。
「マルスさん。もしかして、もしかしても何も、現在わたくし達が抱えている問題を良いものだと捉えていませんか?」
「い、いや、そんなことはない」
(貴様、正直に答えた方が身のためだぞ。素直に答えなかった場合は貴様が先ほど仕出かしたことを事細かに報告する)
「………………」
くそ、アイニスめ。
エリスの影の中に隠れているからか、好き放題に私を手玉に取ってくるな。
だが、素直に答えれば、多分先ほどのように怒られる。
答えなければ、王都での私の行動が父上と母上に露見する。
いったいどうすればいい?
「ん~、それにしても、毎年のことですが、ここは本当に草原しかありませんね。まだまだ朝は寒いとはいえ、春の陽射しを全身に浴びていると気分が悪くなりますね」
「任せてほしい、今はシモン担任用の小屋を作る」
私はエリス達から逃げた。
そして、シモン担任の前に両手を手揉みしながら移動した。
「ん?おや?君……迷子ですか?君みたいな生徒いましたっけ?」
「あ、ちょっと!マル…わたくしの荷物持ちさん」
(逃げるな、卑怯者。後で覚えていろよ)
……何も聞こえない。
聞きたくもない、この青空教室では私は自由の身なんだ。
何もしたくない、これからは青空を見上げてボーッとしていたいんだ。
「ん~? あぁ、エリス姫の荷物持ちさんですか。なるほど、なるほど。みすぼらしい格好をしていますね。これはこれは、影姫にお似合いな荷物持ちさんです」
なんだか知らないが褒められたぞ。
そうだ。
私にせっかくの自由をくれたシモン担任に報いなければ。
「シモン先生、それはこの方に対する侮辱ですか?それを聞いて、わたくしが怒らないとでも?」
「ん~?なんですか?なんですか?王族の落ちこぼれが、先代の王族の血筋たる僕に口答えですか?王族の中でも最弱派閥のお姫様」
「つっ!貴方という人は、全く!」
(エリス姫様。それ以上の言葉は失言になります!抑えて下さい)
無詠唱木魔法で、樹木を地面に生やしていく。そして、シモン担任専用の寛ぎ小屋を造りプレゼントしよう。
これ程までに素晴らしい学業生活を確立してくれた大恩人に!
「………くっ」
「全く……何なのですかな?エリス姫。貴女に何かを言いたいことがあるならハッキリと…」
「シモン担任。シモン担任用の寛ぎ小屋を用意した。ゆっくりしてほしい」
エリスには悪いが、私は速く彼にお礼が言いたいんだ。お礼を言って、出来立ての小屋をプレゼントしたい。
「は?は、い?」
「は?え?……草原に小屋ができてます。アイニス」
(姫様?……それは、どういう事でしょうか?)
エリスとシモン担任が私……ではなく、私が先ほど魔法で造り出した小屋に注目している。
「あ、え?あんな草原のど真ん中に小屋が?一瞬で?」
「あれはシモン担任が休めるように私が用意した。小屋の中には、柔らかい椅子や使える木製家具も備え付けた。シモン担任には、これからずっとゆっくり寛いでほしい」
「は!?」(な!?)
シモン担任の前で、すっとんきょうな声を上げないでほしい。彼にはあの中に寛いでもらい、外へは暫く出て来ないようにしたいんだ。
そうすれば、私は担任の目など気にせずに虚無れる。
「それは……ありがとう、ございます。ほほう、エリス姫様はなかなか良い荷物持ちさんをお持ちのようですね。これはこれはありがとうございます。エリス姫様。それでは失礼しますよ」
バタンッ!
計算通りだ。
シモン担任は機嫌良く小屋の中にある椅子に座り寛ぎ始めた。
これで私は彼に、少しはお礼ができただろう。
エリスが固まっている。
いつもの私のようにボーッとしているのだろうか?
まあいい、これはチャンスだ。
学園内でエリスの目から逃げるチャンス。
私は土魔法で草原に穴を開け、その中に入った。その後は木魔法と土魔法の応用で草原に開けた穴を進み、地中をモグラのように拡張し始め、工事をスタートさせた。
「マルスさん!あの突然作られた小屋は何なのですか?もしや、わたくし達にも作ってくれるので……マルスさんが消えてしまいました」
(いえ、エリス姫様。奴は地下です。奴は一人だけ快適な教室を手に入れるために地面の中に行ってしまいました)
「マルスさんが地面の中?」
そして、私の監視役のアイニスに私の居場所が簡単にバレてしまった。