使い続けると死ぬシステムを使って戦う女の子達の戦う理由を消しちゃったチート転生者の話 作:POTROT
ヴァルハラの料理は割と気合が入っている。
北欧料理、というのだろうか。魚介類とジャガイモをイイ感じに使った料理や、ボルシチといったロシア料理が主に出てくるが、これが意外といけるものなのである。
醤油が無いのは少々残念であるが、美味いことに変わりはない。
「そう言えば、シュールストレミングはどこの缶詰だったか」
「何で食事中にそんな嫌な話するんです?」
北欧料理と言えばそんなのもあったよなーと、ふと頭に思い浮かんだものをふと口に出したら、割とガチ目にキレられてビックリした。
シュールストレミング。発酵ニシンの缶詰。
またの名を、世界で一番臭い食べ物。
曰く、開けた瞬間に漏れ出る臭気で失神する人間が出る。
曰く、一度部屋で開けようものならその部屋は永遠に臭いまま。
曰く、口に入れて深呼吸すると死ぬ。
そんな伝説に事欠かない、世界最凶の食べ物の一つである。
「……そんなにダメなのか」
「ダメどころじゃないですね。あんなの喰う連中の気が知れません。いや本当に。無理です」
「そんなにか」
「そんなにです」
「……嫌な思い出が?」
「小さい頃、両親が興味で買って地獄を見ました」
つまりそういうことであるらしい。
小さい頃のトラウマは、かなり長く糸を引くものだ。
斯く言う俺も小さい頃、妙にしこたまトマトを食わせられたせいでトマトが嫌いに……いや、今はそんなことはどうでもいいな。
現在は例の取り調べの翌日。
場所はヴァルハラの食堂だ。
元々は昨日と同じように、部屋に食事が運ばれるのを待つつもりだったのだが、スコグルさんが監視に就くという条件の下、ヴァルハラ内の移動と施設の使用を許可する、とのことだったので、有り難く食堂を使わせてもらっている次第である。
ちなみにこの後、スコグルさんはヴァルキューレ達の方へ戻る予定なので、俺は部屋待機だ。
「しかし、誰もいないな」
「皆さま、ここのところ食事が喉を通らないそうで」
「……暢気に飯食ってる俺達が異常なだけか」
そう言われてみれば、そうかも知れない。
ここの施設の人間からしてみれば、現段階ではいつ世界がヘルズの脅威が消えていることに気付き、このヴァルハラへ乗り込んで来るのか、秒読みの段階だ。
しかもヘルズとは違い、自分たちの身柄を直接狙いに来る。
捕まったら最悪監禁され、拷問されるなんてことも、まぁ無くはないだろう。
「さっさと俺に実権を手渡してくれれば、丸く収めてやれるのだが」
「──────それ、本気で言ってるの?」
「む」
「あ」
俺の呟きに反応が返って来る。
声のした方向に視線を寄せれば、そこに居たのは昨日の取り調べの際、スコグルさんと一緒に居た、紫色の髪に空色の目の子だった。
顔立ちはスコグルさんと同じスラブ系……だが、少々幼い印象を受ける感じだ。
手には食事の乗ったトレーがあり、スコグルさんの隣の椅子を引くとドカリと乱暴に座る。
「信用できないのよ、アンタ。いきなり現れて全部俺に任せろ、なんて、受け入れられるわけないでしょ、そんなの」
「ミストちゃん、そんなこと言っちゃあ……」
「グル姉は絆されすぎ。逆にどこをどうやったら信用できるの、この人を?」
ミストと呼ばれた彼女が、発言を諫めようとしたスコグルさんを睨み付ける。
取り付く島もない、と言った具合だ。
「しかしまぁ、極めて真っ当な言い分だな」
「……あっさり認めるのね?」
「貴方がたに信用されようとか微塵も思っていないからな」
実際のところ、俺はまだ信用されるようなことをやったつもりは無いし、するつもりも無い。
取り調べの時のパフォーマンスも、信用を得たかったわけでなく、俺に任せてくれさえすれば穏便に事を終わらせられると、脅しに近いプレゼンをかけただけだ。
そもそも元の条件的に、信用を勝ち取るとか無理な話なのだ。
人の心情はチート転生者でもどうにもならん。
催眠すれば話は別だが、あれだと変な所で話がこじれまくる気がするから却下。
だから俺は、信用できるできないという問題ではなく、信頼せざるを得ない状況を作ったのだ。
そっちの方が早いからだ。マイナスからの信用構築はあまりにも時間がかかりすぎる。
時間が限られている状態で、そんな悠長なことが出来るはずもない。
「最悪の合理主義者ね。死ねばいいと思うわ」
「ミストちゃん……!」
「俺は最悪の合理主義者で結構だぞ、スコグルさん」
「えぇ……?」
最悪の合理主義者。
感情的な人物からその言葉を引き出せたのなら、それはむしろ名誉なことだ。
徹底的なまでに合理的である、というお墨付きが貰えるわけだからな。
「……それで。俺達に何の用だ。聞きたい話があるなら応えられる限り答えるし、相談したいことがあるなら乗るが」
「何か用事がなきゃ来ちゃいけないわけ? 私がただ食事を取りに来ただけとか、思わないの?」
「別にそういうわけでも無いけども。俺の事を毛嫌いしているようだから、何か用でも無ければ会話さえしないのではないか、と。違ったなら、謝る」
「……いいわよ別に。合ってるもの」
実に不服そうに彼女は料理を口に運び、咀嚼して、飲み込む。
「フリスト姉さんが、直接会って話したいって。場所は問わないけど、時間は深夜帯がいいらしいわ」
「……ふむ?」
フリスト。名前から察するに、彼女もヴァルキューレの一員なのだろう。
確か意味は……『動揺させる者』とかだったか。
「フリスト姉さんが……ですか。でも今、あの子たちのお世話で忙しいんじゃ……」
「だから深夜帯を指定したし、私を言伝役にしたのよ。ついでに弁当とかも貰って来いって」
彼女がチラリと厨房を見るので、俺もそちらを見てみれば、厨房のスタッフが人数分の弁当を用意している最中であった。
「グル姉はそんなだし、あの子たち含めて他の子たちはもう使い物にならないし、仕事なんてもう無いし。私ぐらいしかもう自由に動けないってわけ」
「……スコグルさんから聞いたが、そんなに酷いのか」
「酷いなんてモンじゃないわよ。どいつもこいつもこの世の終わりみたいな顔してるし……こんなんじゃ、ヘルズの居た頃の方がまだマシだったわ」
「むしろ世界の終わりは遠ざかったはずなのだがなぁ……」
人の心とは複雑なものだ。
「本当に、余計なことをしてくれたものね」
ミストさんの敵対的な瞳が俺を刺す。
その声の節々からは怨嗟が滲み、今にも手に持ったフォークを俺に突き立てそうな雰囲気だ。
「私たちは世界の救済という大義名分と、戦いの果てにある死という名誉を理由に、この体と機械の翼を受け入れて来た。それを台無しにしたのが、アンタ」
「やめて、ミストちゃん。この人は、何も悪いことはしていないはずです。命を救ってくれた、恩人でさえあるんですよ。悪い事をしたみたいに言わないでください」
「余計なお世話よ。そう、全く以て余計だったわ。私たちは死にたかったのに」
「そんなことを言わないでください……!」
姉妹喧嘩、というやつか。
危険な感情を孕んだ二人の視線が交じり合い、口論が始まる。
論点は勿論、俺だ。
ミストさんが俺の言動や姉妹の惨状を引き合いに出して俺を貶し、スコグルさんが正義を語って俺を擁護する。
まぁ、うん。
彼女達も当事者だ。認識の違いは勿論あるだろう。
喧嘩するのも無理はない。
……が、これ以上は危険だな。
「申し訳ない。俺の配慮が足りなかった」
頭を下げる。
瞬間、ピタリと二人の言い争いが止まった。
「……何よ、それ」
「謝罪だ」
「ハルミチさん、そんな……」
俺が軽い頭を一つ下げるだけで無駄な争いが一つ減るなら、下げるに越したことはない。
V-システムばかり気にして装着者たるヴァルキューレに対して全く配慮しなかったのも、まぁ事実ではあるしな。
「ハルミチさんが謝る必要なんて、ないはずじゃないですか……だってこれは、私たちの感情の問題で……どうして、そんな」
「………………………本当に、なんでアンタが謝るのかしらね」
おかげで二人も頭が冷えたらしい。
ならば頭を下げた甲斐があったというものだ。
「はぁ……。変に嚙みついてしまってごめんなさい。よく考えれば確かに、貴方は力を持つ人間として、当然のことをしただけ、なのよね」
「まぁ、結果としてはそうなるかな」
「感情の整理がついて無いのよ、まだ。体はこんなのだし、あの子たちはあんなだし。貴方が作り出した巨大な功績の中で、悪影響の部分を間近で見過ぎた結果ね」
テーブルに肘をつき、顔を隠した彼女が、疲れを滲ませた声で語る。
「…………もっと考えれば、その悪影響をも取り除きに来てる、のかしら」
「ここに来た目的は、そうだ」
「その通りです。ハルミチさんは、体を元に戻すことまではできずとも、再び日常生活が送れるように全力を尽くしてくれると約束してくれました」
「……まだ子供ね、私も」
彼女はそう呟くと、残っていた料理を全て平らげ、立ち上がる。
「伝えるべきことは伝えたわ。それで、いつ頃なら問題ないかしら」
「深夜0時とかで良いのでは? 俺はここで待っていよう」
「じゃあ、そう伝えておくわね」
そう言って、彼女は我々に背を向け───
「一応これも言っておくけど。散々大口を叩いておいて失敗したら、赦さないから」
「それでいい」
だがまぁ、心配はしてくれなくて大丈夫だろう。
何せ俺はチート転生者だ。
やると決め、宣言したのなら、何をしてでも確実に成功させるとも。